3.1 語・接辞・接語
3.1.2 接語
拘束形態素でありながら語の内部要素とはみなせず、それにもかかわらずアクセント的には自立してい ない要素がある。これを語・接辞とは別に、接語と呼ぶ。語の内部要素(すなわち接辞)とは考えない理 由を、琉球諸語宮古語伊良部島方言で接語を認定している下地 (2018)を参考に、次の2つの基準を用い て述べる。
• 内部要素の結束性の有無
• 共起制限の度合い
3.1.2.1 内部要素の結束性の有無
服部 (1950) , Zwicky and Pullum (1983) , Dixon and Aikhenvald (2002)によれば、語内部の要素 と、語の外側の要素(句や節に後続している要素)の違いは、前者が決まった順序に従い要素が並んでお り、要素同士の入れ替えができないのに対し、後者は要素の入れ替え(移動や挿入)が可能である点だと いう。すなわち、ABCという要素の連続が観察される場合、BACおよびACBという入れ替えや別の独
1 下地 (2018)は、語内部に現れる複数の語幹を1つの語幹として「語幹核」と呼んでいる。
2 動詞と名詞類以外は屈折接辞を必要としないため、ほとんどの場合が語根単独が語幹であり語である。
立した語Xの挿入(AXBCおよびABXC)が可能であれば、その3つの要素は同一の語内部の要素では なく、それぞれ形態統語的に自立している要素だと言える。
この基準に沿って、本論文で接語と認定する格助詞(3.2.7, 8.7)のうち共格助詞=tuと、複数を表す接 辞-nziを代表として述べる。(3-6a)と(3-6b)は、共格助詞=tuを挟んで、語根の位置を入れ替えたもので ある。例文中の形態素bujaをA、tuをB、biduをC、ntamaをD、nziをEと仮に呼ぶ。
(3-6) a. [buja]=tu おじいさん=com AB
[bidu-ntama-nzi]
男-dim-pl CDE
「おじいさんと男の子達」
b. [bidu-ntama-nzi]=tu 男-dim-pl=com CDEB
[buja]
おじいさん A
「男の子達とおじいさん」
ここで=tu(B)と-nzi(E)に注目する。仮に、=tu(B)が語内部の要素であるならば、(3-6b)でもAB で用いられるはずである。逆に、複数接辞の-nzi(E)が句に後続しているのであれば、(3-6b)でも句末 に用いられるはずである。しかし、そのように実現しない。Eは常にCDEの順番で用いられ、Bは入れ 替えが可能である。従って=tu(B)は、形態統語的に自立しており、語の外側すなわち句に後続している 要素であり、一方-nzi(E)は語内部の要素であると言える。
さらに、-nziの代わりに奪格助詞=gara(E)を用いた例を挙げる(3-7a)。=garaは、先ほど見た-nzi と異なり、必ずCDEの順で用いられるとは言えない(3-7b)。AとCDを入れ替えたとしても、Eは必ず 句末の位置で用いられる(3-7c)。
(3-7) a. [buja]=tu おじいさん=com AB
[bidu-ntama]=gara 男-dim=abl
CDE
「おじいさんと男の子から」
b. *[bidu-ntama=gara]=tu 男-dim=abl=com CDEB
[buja]
おじいさん=abl A
c. [bidu-ntama]=tu 男-dim-pl=com CDB
[buja]=gara おじいさん=abl AX
「男の子達とおじいさんから」
この例から、奪格助詞=gara(E)は形態統語的に自立した要素であり、buja=tu bidu-ntama-nzi「お じいさんと男の子たち」3という名詞句(8.6)に後続していると言える。
3 あるいは内部構造を入れ替えたbidu-ntama-nzi=tu buja「男の子たちとおじいさん」
波照間方言の多くの格助詞、一部の接続助詞、焦点助詞、主題助詞、累加助詞は、この「XとY(助詞)」 の基準を用いて接語と認定できる4。
3.1.2.2 共起制限の度合い
接語は、3.1.2.1で見た通り、語の外側に位置している。接語のホストが語幹であれば語幹の品詞に制限
があるが、句や節がホストの場合、ある要素に先行する語、すなわち句末の品詞あるいは統語的役割にま で指定はない(下地2018) 。従って、先行する要素の品詞等に制限がなければ、句や節をホストとしてい ると言える。(3-8)に例を挙げる。焦点助詞は名詞(項)にも動詞(述語)にも後続しうる。一方、複数接 辞や過去接辞といった形式は、それぞれ名詞語幹あるいは動詞語幹にしか付加しない。なお焦点助詞は、
先行する語と共にアクセント単位を形成する。従って、(3-8a)ではba「私」と、(3-8b)ではjumi「読み」
とアクセント単位を形成する。
(3-8) a. 項 ba=ndu 1st.sg=foc
sinsin.
先生
「私が先生です。」
b. 述語 jum-i=ndu 読む-cvb=foc
s-oo.
する-npst.ind2
「読む。」
3.1.2.1と本節で挙げた2つの基準は、形態統語的自立性を認定する基準である。本基準を用いると、焦
点助詞の他に一部の接続助詞、主題助詞、累加助詞、一部の形式名詞が接語と認定できる5 。
以後、接語境界を=(イコール)、接辞境界を-(ハイフン)で示す6 。波照間方言の接語は、助詞の一部 として3.2.7に挙げた。
3.1.3 問題となる形式
3.1.1の冒頭で、波照間方言の語を1アクセント単位持つ形式であると認定した。しかし、内部要素の
結束性の有無や、共起制限の度合いといった形態統語的な基準(3.1.2.1, 3.1.2.2)に照らし合わせると語 と呼びたいものの、アクセント単位の観点からはそう呼べない形式がいくつか見つかっている。
このような分析の齟齬を解決する方法として、音韻語、文法語をそれぞれ別に認定する分析方法も考え られるが、波照間方言の場合は音韻語と文法語が重なる部分が大部分を占めるため、音韻語とは別に文法 語を認定する分析方法は取らなかった。従って、以下に挙げる形式は例外として扱う。
問題となる形式は、2アクセント単位からなるが例外的に1語と扱う語である。2種類あり、1つは一 部の複合名詞で、もう1つは、近接過去接辞を含む動詞形式である。
4 その他の一部の助詞はアクセントを持つため、語と認定する。
5 接語と認定できる助詞の内、格助詞を除くすべての助詞に本基準が適用できる。
6 助詞の多くは接語である。しかし、すべての助詞が接語ではない。
複合名詞に関しては、2.3.4.1の(2-121)から(2-123)に例を挙げた。これらの複合名詞の前部要素と後 部要素は、単独でも用いることができ、複合した際にもそれぞれのアクセント単位が実現する7 。一方で、
複合語幹として用いられる場合には、アクセント単位は前部要素と後部要素でそれぞれ実現するが、内部 要素の結束性が高く、要素の入れ替えや移動(3.1.2.1)は不可能である。(2-121)の一部を(3-9)として再 掲する。
(3-9) /misjuĹ£/「味噌」 + /turiĎ£/「鳥」 → /misjuĹ£+duriĎ£/「すずめ」
近接過去接辞を含む動詞形式は、多くの語に観察されるアクセント(2.3)では説明できないピッチパ ターンが観察される。しかし、先行する動詞語幹のアクセント型と別のアクセント型を持つ要素の組み合 わせと分析できるため、後者をアクセントを持つ接辞と考える。近接過去接辞を含む動詞形式は、面接調 査で数例確認できたのみで、機能をはじめ、後続する要素について十分な記述ができていない(6.4.3)8。 後続する要素のアクセント型は、平進型か上昇型のどちらかである。(3-10)に例を挙げる。後部要素のア クセント型が定まらないため、ピッチを示すにとどめる。Hは高ピッチ、Lは低ピッチ、D(evoicing)は 無声化を示す。
(3-10) /iriĎ£/「入れる」 + /-an/ → /ir+an(HLH)/「入れ終わった」
/sïsĂ
£/「切る」 + /-jan/ → /sis+jan(HHH)/「切り終わった」
/jumĹ£/「読む」 + /-jan/ → /jum+jan(LLH)/「読み終わった」
これらの形式を1語と分析する理由は、形態統語的自立性による(3.1.2.1, 3.1.2.2)。アクセントを一義 的な語の基準に用いているが、このように音韻と形態に齟齬が見られる形式は少数であるため、例外とし て扱った9。
3.2 品詞分類
本論文では波照間方言の語に、動詞、名詞、指示連体詞、副詞、感嘆詞、指示様態詞の品詞を認める。
表3.1に品詞分類の基準を提示する。まずは活用するかしないかで、活用するものを動詞と認定し、それ 以外と区別する10。次に、活用しないもののうち、項として現れる句の主要部として用いられるものを名 詞と認定する。動詞と名詞以外の形式のうち、項として現れる句の主要部のみを修飾するものを指示連体 詞として、述語のみを修飾するものを副詞としてそれぞれ認定する。上記のすべての品詞の特徴を併せ持 つ特殊な品詞を指示様態詞と認定する。表3.1の指示様態詞に示す△は、活用こそしないが動詞と同じ統 語機能を持つということを意味する。さらに、上記の基準に当てはまらない形式のうち、それだけで用い
7 2.3.4.1でも述べた通り、1語に2つのアクセント単位が現れる複合名詞の後部要素は常に下降型アクセントを持つ。なぜ後
部要素が下降型のアクセントに限りこのような例外が見られるかについては、さらに調査が必要である。
8 継続を表す動詞形式と音素配列が同じため、別の形式(補助動詞構文)で完了を示すことが多い。
9 似たような例として、属性動詞が挙げられる。属性動詞は、歴史的に句構造を持つが、現代ではそれぞれの要素が自由では ない。従って、本論文では複合的な動詞語幹と分析する(6.1)。完全に1語と分析しない理由は、複合名詞に見られる例外と は異なり、内部要素がパターンを成しているからである。近接過去接辞を含む動詞形式については、今後分析が進み様々な例 が観察されれば、継続の補助動詞構文(9.2.1)のように、2語と分析できる可能性もある。
10 活用とは、ムード接辞、時制接辞、中止接辞といった屈折接辞を付加し、統語環境によって語尾を変化させることを指す。
ることができる形式を感嘆詞として認定する。このうち指示連体詞に属する語は2つ、指示様態詞に属す る語は3つのみである。
この他、必ず他の語句と用いられ、句と句あるいは句と述語の関係や、話し手の態度を示す語や接語が ある。それらの形式を助詞と呼ぶ。
表3.1:品詞分類の基準
動詞 名詞 指示連体詞 副詞 指示様態詞 感嘆詞
活用する 〇 △
項として現れる句の主要部として現れる 〇 〇
項として現れる句の主要部を修飾する 〇 〇
述語を修飾する 〇 〇
上記以外 〇
品詞をまたぐ意味機能のカテゴリーとして、指示語および疑問語を認める。指示語には、指示代名詞、
指示連体詞、および指示様態詞の3つの品詞が含まれる。疑問語には、疑問代名詞と指示様態詞の2つの 品詞が含まれる。このうち、指示代名詞も疑問代名詞も、名詞類に属する語である。これら2つの機能語 については、まとめて7章で述べる。