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転がり試験後の鋼の断面観察

3 転がり疲労寿命試験と水素侵入

3.1 転がり疲労寿命と水素侵入量の関係

3.1.3 転がり試験後の鋼の断面観察

転がり試験後の鋼の断面観察により,いくつかの重要な知見が得られた.Fig. 3-4-1 ,

Fig. 3-4-2により明らかなように,水素環境下で疲労損傷を見せた軸受(球)にはナイタール

エッチングにより現れる,いわゆる白色層が観察された.これが,一般的には水素脆化の 証拠とみなされる鋼の組織変化で,マルテンサイト相の微細化に伴う脱炭素により生じた 微細フェライト相と考えられている.また,微細フェライト組織の周辺には炭素が再析出 したセメンタイト相もしばしば観察される.このような組織変化は,主に高い温度におい て実施された試験でよく観察された.Fig. 3-5に,実験条件④水素中試験で生じたフレーキ ングき裂を示すが,き裂に沿った白色組織変化がみられる.

Fig. 3-4-1 エッチング前のボール試験片 Fig. 3-4-2 ナイタールエッチング後

0 0.1 0.2 0.3

100 1000 10000

Hydrogen conc., ppm

L

10

life, x10

4

Hydrogen

Argon

Air

Fig. 3-5

Fig.

Fig. 3

ディスク試

3-6(a) DEC

3-6(b) SEM i

69 試験片に生じ

C(Dark etch

image of da

じたフレーキ

hing constitu

ark etching

ング損傷

uent)

region Fiber like str

2μm ructure

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Fig. 3-7 実験②でディスク表面に生じたフレーキング

このような組織変化とともに,より一般的にはFig. 3-6に示すようなDEC(Dark etching

constituent,黒色組織)が応力範囲に見られ,さらにFig. 3-8以下に示すように,水素中,ア

ルゴン中においては,エッチピットも顕著に観察される.

エッチピットは,断面観察をする際に用いるナイタールの腐食作用により脱落する組織 のによって生じた小孔で,鋼の劣化に伴い粒界の密着力が低下していることが原因と考え られている.本研究で用いたJIS-SUJ2において,エッチピットの生成の原因を調べるため,

AES によるエッチピットの底面の成分分析を行った.分析した試料は断面をナイタール腐 食しているので,その腐食層を取除く目的でアルゴンイオンスパッタを行った.

分析した位置と分析結果をそれぞれFig. 3-8,Fig. 3-9に示す.また,AESマッピングの

結果をFig. 3-10に示す.エッチピット部においては130eV付近にピークが見られる.この

ピークは硫黄に対応するピークである.また,マトリクス素地に比べ酸素に対応する450eV

から500eV付近にみられるピークの強度が大きかった.よって,エッチピット部は硫黄と

酸素をマトリクス素地に比べ多く含んでいる組織,もしくは粒界を持つ組織であることが 分かった.

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Fig. 3-8 Etch pit in steel;

Square indicates analysis position for AES.

Fig. 3-9 Auger spectrum for etch pit

0 500 1000

Energy, eV

In ten sity

S

O

Fe

1μm

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Fig. 3-10 AES mapping for etch pit; (a) SEM image, (b) Fe, (c) O and (d) S

これらの組織変化現象は,転がり接触表面下100µm付近を中心に生じている.この位置 は,せん断応力が最大となる深さと一致する.点接触の場合,静止状態でせん断応力が最 大となる位置zは次のように表される[4].

a

z  0 . 47

(3-2)

ただし,

a

は接触半径であり,

3 2 3

E

aWR (3-3) である.

(3-2),(3-3)より,本実験条件においてせん断応力が最大になる位置は

z  101

µmである.

Fig. 3-5 に示すようにき裂はせん断応力が最大となる場において進展していることがわか

る.つまり,上述の組織変化やき裂進展はすべてLundberg – Palmgrenの応力範囲で生 じる現象であり,疲労寿命はLundberg – Palmgrenの基礎式と強く相関を持つと考え

(a) (b)

(c) (d) 1μm

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るのが自然である.一方で,本研究で見られる疲労剥離の起点が内部起点型であるかど うかは不明で,膜厚比からの推定,または,bi-directional crack が表面に観察される こと[5]などを考えると,損傷の発生プロセスの一部は,表面起点型であると判断して いる(Fig. 3-7参照).Fig. 3-11に表面直下に見つかったエッチピットを伴う白層き裂を 示す.

Fig. 3-11 White etching crack along with etch pit beneath the surface

1 章で紹介した ASME の推奨曲線,および関連研究によると,表面起点型フレーキ ングは<1 において観察されることが多いとされる.また,1<<3 では,表面起点型 フレーキングと内部起点型フレーキングが混在すると指摘する研究もある.また,>5 になるとほとんど内部起点型フレーキングしか生じない.本研究における設定値:≑2 は,ASME 推奨曲線から判断すると,内部起点型フレーキングが生じやすいが,表面 起点型フレーキングの可能性もあるという領域と考えられる.

また,最近の Evans らの見解によると,表面近傍から発生した白層き裂(White etching crack)も介在物起点であったという報告もある[6].粗さ起因にしても,表面近 傍の介在物起因にしても,応力集中源が極表面近傍にある場合,表面起点型疲労損傷の 可能性は排除せず,一方で,繰返し応力による疲れに関係する応力場としては,

Lundberg – Palmgrenが示した応力範囲において,き裂の進展や,他の組織変化・劣 化とともに疲労プロセスが進展するというモデルが,本研究において想定する疲労起点,

進展モードである.

Fig. 3-1-3,Fig. 3-1-4には,90℃,120℃の水素環境下での表面損傷がほとんどボール表

面から生じたことを指摘した.1章で示したように,表面起点型転がり疲れは圧倒的に従動 側表面から発生することがわかっており,本試験においてそれはディスク側を意味する.

ボール側損傷が顕著になった理由は今のところ分かっておらず,接線力が小さいため Way の説の状態が顕在化していないのだろうと解釈しているが,ボール側試験片にフレーキン グを生じる場合には決まってボール中の水素侵入量が顕著に増加しており,Fig. 3-4に見ら

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れる白色組織変化も観察されることから,水素誘起転がり疲れの可能性を強く示唆する.

この場合,き裂先端が必ずしも表面と連結する必要のないき裂進展形態,つまり内部起点 型フレーキングの可能性を指摘するのが妥当である.

以降の章,節では,上述のような応力場において,水素は拡散し,応力集中源やき裂 先端に濃化するとともに,鋼の組織変化を伴う強度低下に影響を及ぼすという前提にた って議論を進める.

Fig. 3-12実験条件②断面観察結果; (h) H2・試験番号7,(i) Ar・試験番号2,

(j) Ar・試験番号4,(k) Ar・試験番号7,(l) Air・試験番号2,(m) Air・試験番号5

(m) (l)

(k) (j)

(h) (i)

Fig. 3-13実 (c) H2・試

(c)

(e)

実験条件③断 試験番号2,

(a)

(b)

断面観察結果 (d) H2・試験 )

75 果;(a) H2

験番号7,(e (d)

(f)

試験番号3,

e) Ar・試験番

(b) H2・試 番号5,(f) A

試験番号5,

Air・試験番号7

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