4. 転がり接触試験による水素侵入と防止
4.2 潤滑油添加剤
4.2.1 耐摩耗剤と極圧剤
耐摩耗剤と極圧剤を区別する場合,摩耗を低減するのが耐摩耗剤であり,焼付きを防止 するのが極圧剤である.耐摩耗剤はリン系添加剤,極圧剤は硫黄系添加剤が例に挙げられ るが,これらは金属表面と反応して潤滑膜を作り機能を発揮するという点では同じ範疇の 作用機構に入る.その程度に違いはあるものの両者とも摩耗を低減する効果(耐摩耗性)
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と焼付きを防止する効果(耐焼付き性)を有している.耐摩耗性や耐焼付き性を有する添 加剤を金属表面への作用機構ごとにFig. 4-13のa~eのように分類し,どのように耐摩耗 性や耐焼付き性を発揮するかを解説する[5-14].
Fig. 4-13 添加剤の作用機構 (出典:文献[5]より転載)
Figure 4-13 a,bの場合,吸着膜を形成する.分子の一端に金属と強く結合する極性基を
持ち,かつ長い炭素鎖が結合している極性化合物は,Fig. 4-13 a,b のように物理吸着,
化学吸着により金属表面に吸着膜を形成する.オレイン酸やステアリン酸などの高級脂肪 酸,オレイルアルコールなどの高級アルコール,脂肪族アミン,エステル等のいわゆる油 性剤と呼ばれるものが代表例であり,耐摩耗剤ではないが,比較的低温低荷重の場合に摩 耗低減効果を有する.
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Fig. 4-13 dの場合,金属原子との反応により潤滑膜を形成する.リン酸エステル,亜リ
ン酸エステル,酸性リン酸エステルアミン塩等のリン酸系添加剤,硫化油脂,モノ,ジ,
ポリサルファイド等の硫黄系添加剤,塩素化パラフィン,塩素化脂肪酸等の塩素系添加剤 等が代表例である.
これらの添加剤は金属表面に吸着し,さらに金属表面と反応して無機化合物の膜(潤滑 膜)を形成する.添加剤の金属表面との反応は,摩擦熱による温度上昇と摩耗により生成 される新生面の活性によって進む.この摩擦面に形成された潤滑膜が軟らかく,せん断さ れやすいため,金属同士の結合を防ぎ,摩耗を減少させ,焼付きを防止する.
硫黄系添加剤の作用機構は,Fig. 4-14に示したように金属表面に吸着した後,鉄メルカ プチドの生成を経て硫化鉄被膜を生成する.その反応性はS-S結合,C-S結合が切断され やすいほど大きくなる.
Fig. 4-14 硫黄化合物の作用機構(出典:文献[7]より転載)
硫黄系添加剤を用いた場合の摩擦面に生成する潤滑膜は,Table 4-5 に示したもの が知られている.
Table 4-5 硫黄系極圧剤による摩擦面生成被膜
測定者 極圧剤 摩擦面生成化合物
豊口ら DBDS FeSO4(低荷重);Fe3O4,α-Fe2O3,Fe3S4(高
荷重)
PIGGOTT
ら Diethyl trisulfide FeS2
COY ら DBDS,Di-t-butyl disulfide FeS,Fe3C,Fe3O4,α-Fe2O3
BIRD ら DBDS 硫化鉄,酸化鉄
坂本ら 硫化オレフィン(43%S) FeS,FeO,Fe2O3
境ら DBDS FeS,Fe3S,FeO,Fe3O4,α-Fe3O4
157 森ら Di-t-dodecyl poly sulfide(30%
S) 酸化鉄,硫酸鉄,硫化鉄
リン系添加剤の場合の作用機構は,
(1)有機リン酸エステルが鉄表面へ吸着
(2)加水分解により有機酸性リン酸エステルが生成
(3)有機酸性リン酸エステルと鉄表面との反応により有機リン酸鉄の生成
(4)無機リン酸鉄の生成
といった作用機構が提唱されている.
リン系添加剤の潤滑膜は,Table 4-6に示したものが知られている.
Table 4-6 リン系極圧剤による摩擦面生成被膜 測定者 極圧剤 摩擦面生成化合物
中村ら Tri-butyl phosphite
Fe2P,FeP2(通電なし)
Fe2P,FeP2,2Fe2O3・P2O5・2H2O,FePO4・2H2O(通 電条件)
GODFREY TCP FePO4,FePO4・2H2O
BARCROFT
ら Tri-phenyl phosphate Arylacid phosphate,リン酸鉄
YAMAMOTO
ら TCP Fe3P
MONTES TCP Fe3(PO4)2,FePO4,CxHy
山本ら TCP,Tri-octyl
phosphate FePO4,FeO-Fe3O4
GAUTHIER
ら TCP Fe3(PO4)2,(PO4CxHy)n
森ら Tri-oleyl phosphite リン酸鉄
塩素系添加剤の作用機構は,鉄表面で熱分解し,塩化鉄(FeCl2,FeCl3,FeOCl)の潤 滑膜を形成し,その層状構造により摩耗・焼付きを防止するとされている.耐摩耗性や耐 焼付き性に影響を与える因子として,潤滑膜の性質や添加剤による金属表面の平滑化等が ある.添加剤の反応性と摩耗の関係はFig. 4-15 の概念図で示される.
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Fig. 4-15 極圧剤の反応性と摩耗 (出典:文献[11]より転載)
反応性が増すと凝着摩耗は減少するが,高すぎると金属表面が腐食され,化学摩耗を増 加する.このため,その反応性が適切であることが必要である.一般に焼付き防止のため に,高い反応性が有効だが,摩耗防止のためには反応性が高すぎないことが必要であり,
耐摩耗性と耐焼付き性が相反する例が少なくない.
Figure 4-13cの場合,添加剤が分解し潤滑膜を形成する.Figure 4-13cのように添加剤
が分解重合して固体潤滑表面膜を形成し,この膜が下地金属に比べ,せん断されやすいた め,摩擦,摩耗を低減する.ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)が代表例である.ZDDP は耐摩耗性,耐焼付き性だけでなく,酸化防止性,腐食防止性等を有し,多機能添加剤と して使用される.その作用機構は,鉄表面へ吸着したのち,熱分解によりアルキル基から オレフィンを発生するとともに硫化水素,メルカプタン,あるいはアルキルサルファイド を発生し,次いで硫黄,リン,亜鉛を含む無機性のポリマーの潤滑膜を形成し摩耗防止作 用を示す.さらに過酷な条件ではポリマーが分解し,硫化鉄,リン酸鉄を形成し焼付き防 止作用を発揮する.一般に不安定なZDDPほど大きな耐荷重能を示すが,化学摩耗を促進 し,耐摩耗性は劣るとされている.
Figure 4-13eの場合,固体潤滑剤のへき開による摩擦低減が発生する.層状格子構造を
有する二硫化モリブデンやグラファイトは,金属表面に吸着して金属間の接触を妨げると
同時に,Fig. 4-13eのように滑り方向と平行し,容易にせん断され,摩擦,摩耗を低減する.
せん断力の小さい添加剤ほど摩擦も小さくなる.
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