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4. 転がり接触試験による水素侵入と防止

4.2 潤滑油添加剤

4.2.2 実験

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・WS2ナノパーティクル

固体潤滑剤であり,WS2 ナノ粒子は油中に分散して金属表面に保護膜を形成する作用が 期待され,水素侵入を抑制する効果が期待できる.二硫化モリブデンと類似している点が あり,以下に類似している点を挙げる.

結晶構造は六方晶系,層状格子であり,硫黄と硫黄の原子間引力が弱いため,底面に平 行な方向に滑りやすい.また,耐荷重性は黒鉛,軽質金属,プラスチックより優れている.

移着性は,金属表面に付着しやすく,良好な潤滑膜を形成するという点が二硫化モリブデ ンと類似している.

相違点としては,二硫化モリブデンがほとんど天然品であるのに対し,二硫化タングス テンはタングステンと硫黄を直接反応させて造る合成品であり,二硫化モリブデンより容 易に相手面に付着し,優れた潤滑性能を発揮する点が挙げられる.

WS2の特徴としては,乾燥摩擦(油,グリースなし)でも低い摩擦係数,摩耗量を示し,

低速から高速,低面圧から高面圧,極低温から高温まで,摩擦,摩耗が比較的変化しない 特徴を有している.また,真空中やAr,He,N2などの不活性ガス中では,特に低い摩擦 係数と高い耐摩耗性,耐熱性を示す.

・TOP

代表的な極圧剤であり,リン酸トリオクチル(trioctyl phosphate)の略である.TOPが極 圧添加剤として働く作用機構は化学的研磨によるものと考えられている.TOP は高温で金 属面と反応し,炭素による還元作用を受けてリン化合物を生成し,それが金属面共融体を つくり,皮膜の融点を下げる.その結果,金属面の凸部は溶けて凹部に流れ込み,接触面 積を増やし,なじみを出す.接触面の圧力が平均化され,発熱がとまるので化学的研磨と いわれている.

Fig. 4-16a TOPの構造式

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・DBDS

ジベンジルジサルファイドといい,TOPと同様に極圧添加剤であり,硫黄化合物である.

硫黄化合物は高温で金属と反応し,ラジカル機構によって硫化鉄被膜を生成する.

反応式は以下のとおりである.

R - S - S - R + Fe → Fe(SR)

2

Fe(SR)

2

→FeS + R - S - R

低いせん断強さの硫化鉄被膜は,摩擦係数が0.6〜1.0と高いが,800℃まで有効であり,

水や熱に対して安定性が大きい.

Fig. 4-16b DBDSの構造式

・ZDDP

ジアルキルジチオリン酸亜鉛 (zinc dialkyldithiophosphate) の略で,酸化防止能,腐食 防止能,耐荷重性能,摩耗防止能を有し,いわゆる多機能型添加剤として,エンジン油や 工業用潤滑油に広く使用されている.

ZDDPの構造はFig. 4-16cのように考えられており,ここでRは原料であるアルコール

またはアルキルフェノールの炭化水素基を表している.

Fig. 4-16c ZDDPの構造式

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ZDDPは,用いるアルコールの種類を変えることで,その性能が変わり,一級(プライマ リ)アルキル,二級(セカンダリ)アルキル,アリールの三種に分類される.これら三タ イプのZDDPの性能比較をTable 4-7に示す.

Table 4-7 ZDDPの性能比較

一級アルキル 二級アルキル アリール 熱安定性 良好 やや劣る 非常に良好 水安定性 非常に良好~良好 良好 やや劣る 酸化防止性 良好 良好 良好 摩耗防止性 良好 非常に良好 やや劣る 堆積物防止性非常に良好~良好 良好 非常に良好~良好

同じタイプに属するZDDPであっても,アルキル基の炭素数や構造の違いにより性能が 変わる.一級アルキルZDDPを例にあげると,炭素数が小さくなるほど,耐摩耗性は向上 するが,熱安定性は悪くなり耐摩耗性と逆の傾向を示す.これは,ZDDPの分解物が効果 の源になっていることと関係している.また,炭素鎖が短くなると,油に溶けにくくなり,

添加剤の基本性能である油溶性に不備をきたすことになる.同じ炭素数のアルキル基であ っても,直鎖か分枝かによって性能が変わる.このようにいろいろな性能が相反する傾向 にあるため,現実には,数種のアルコールを組み合わせたりして,性能のバランスをとる 工夫がされている.

次に,ZDDPの作用機構の酸化防止機構と摩耗防止機構について述べる.

・酸化防止機構

潤滑油の酸化は次のような機構で進行する.

開始反応 : RH → R ・

連鎖反応 : R ・+ O

2

→ ROO ・

ROO ・+ RH → ROOH + R ・

熱,光,金属等によりラジカル(R・)が生成し,このラジカルが酸素と反応してパーオ キシラジカル(ROO・)になる.パーオキシラジカルは他の分子と反応して過酸化物(ROOH)

とラジカル(R・)を生成する.また,過酸化物はさらに分解してラジカル(RO・やROO・)

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になり,これらも連鎖反応に組み込まれ酸化を促進し,最後にはケトン,アルデヒド,酸,

およびこれらの重縮合物になる.

酸化を防止するためには,

(1)ラジカル(R・)を捕捉し安定化する

(2)過酸化物(ROOH)を分解・安定化し,ラジカル源を減らすことが考えられる.

(1)の働きをするものをラジカル捕捉剤,(2)の働きをするものを過酸化物分解剤と呼 び,ZDDPは長い間,過酸化物分解剤として効くと考えられてきたが,現在ではラジカル 捕捉剤としても作用し(1),(2)の両機能を有していることが明らかにされている.ZDDP 中の何が有効であるかは明確になっていないが,ZDDPの分解生成物が機能すると考えら れている.

・摩耗防止機構

ZDDPの摩耗防止機構としては,

(1)ZDDP中の硫黄やリンが金属と反応して硫化鉄やリン酸塩の被膜を作り摩耗を防ぐ

(2)ZDDPが分解して金属表面にFig. 4-16d のようなポリフォスフェートの膜を生成し 摩耗を防ぐと考えられている.

保護被膜の構造については完全には解明されていないが,ポリフォスフェートが金属表 面に生成し,さらに(1)の被膜も生成されていると考えられる.

Fig. 4-16d ポリフォスフェート

164 4.2.2.3 実験条件

実験条件をTable 4-8に示す.

Table 4-8 実験条件

材質 SUJ2

最大ヘルツ圧 4.8GPa

回転数 1500rpm

回転速度 3.4m/s トラック直径 43mm

球直径 6.35mm

試験温度 120℃,90℃

試験雰囲気 水素

ZDDPのみ,90℃での実験も行った.

4.2.2.4 実験手順 (1)試験片

上述のように試験片は市販のスラスト軸受を使用した.軌道輪をそれぞれディスク試験 片と上部転動輪(ガイド輪)に使用した.

(2)取り付け

ディスク試験片とホルダーをチャンバ内に固定する.この時,ホルダーとチャンバ底の 間にシリコーンラバーを敷き,自動調心する.次に,転動輪を駆動軸にネジで固定し,チ ャンバを試験機下部軸に取り付ける.ディスク試験片にリテーナーとボール試験片を設置 し,試験機下部軸に梃子を連結し,チャンバを閉じる.梃子には重りを設置する.

(3)実験

水素ガスの純度を保つため,チャンバ内のパージを12時間行い,設定した温度に達した 後実験をスタートする.荷重負荷後,モータを駆動させ試験を開始する.試験終了後,試 験ガスが水素の場合,窒素でパージを行ってからチャンバを開ける.取り出した試験片は,

ヘプタンで洗浄する.洗浄後,試験片をカットし,分析・観察を行う.

ドキュメント内 水素誘起転がり疲れの発生条件と水素の起源 (ページ 165-170)