第 4 章 アプリケーションガイド
4.1 測定結果の解釈方法
4.1.1 質量スペクトルの定性的解釈
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第 4 章
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図 4-1 質量スペクトル
4.1.1.1 イオン化プロセス
十分なエネルギーを有する電子がガス分子と衝突する際に多くのプロセスが発生する可 能性がありますが、そのいくつかを表 4-1に示します。
下段のグラフは、質量と時間との関係を示したトレンドデータで す。上段のグラフは、mass 1 〜 50 をスキャンして得られたピー ク値です。大気における顕著なピークは、18(H2O)、28(N2)、
32(O2)、40(Ar) です。
表 4-1 電子衝撃によるイオン化のプロセス XYZ+ + e-
XYZ+ + 2e- (1) XYZ2+ + 3e- (2) XY + Z+ + 2e- (3) XY+ + Z + 2e- (4) X+ + YZ + 2e- (5) X + YZ+ + 2e- (6) XZ + Y+ + 2e- (7) XZ+ + Y + 2e- (8)
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いずれのケースにおいても、反応物は高エネルギーの電子 e-とガス分子 XYZ です。一 回目の反応の産物は、1 個の電子が取り除かれた分子(いわゆる親イオン)と 2 個の低 エネルギーの電子です。二回目の反応では、ガス分子から 2 個の電子が取り除かれ、二 価イオンになります。入射電子のエネルギーが十分に大きい条件下では、三価イオン(あ るいはそれより大きい電荷)になる場合もあります。
(3)から(8)の反応は、いずれも元の分子がフラグメントに分割される例を示したもの であり、少なくとも 1 つのフラグメントはプラスの電荷を帯びます(陰イオンも同じ方 法で生成可能です)。陽イオンのフラグメントのみが観察の対象となり、中性(電荷を帯 びていない)フラグメントは検出されません。電子衝撃の下で親分子が分割される時に得 られる質量スペクトルは、一般的にフラグメントパターンと呼ばれます(クラッキングパ ターンと呼ばれることもあります)。例えば、窒素のフラグメントパターンには、14N+
(14 AMU)、14N2+(28 AMU)、14N15N+(29 AMU)があります。
一般的に、多価のイオン種のピークは、同種の一価イオンのピークよりも強度が低くなり ます。例えば、アルゴンの二価イオンのピーク強度は通常、一価イオンのピークの 5 分 の 1 未満になります(ただし、この強度比は入射電子のエネルギーの影響を受けること に留意する必要があります)。
時折、イオンが一価であるか多価であるかの判断が困難である場合があります。分子が同 じ元素の 2 個の原子から成っている場合、Transpector MPS では、一価の単原子のフ ラグメントイオンと 2 個の原子から成る二価の分子イオンの判別が容易ではありません。
これは、両者の質量電荷比が同じになるためです。図 4-1をご参照ください。28 AMU のピークは、親イオンである N2+です。14 AMU のピークは、N+によるものか N22+
によるものかは、このスペクトルからは判別することができません。窒素のスペクトルに おける 14 AMU のピークが一価のフラグメントイオンによるものであることは、他の手 段によって示されています。
大部分のイオン(ただし、複雑な炭化水素は重要な例外)は、整数に非常に近い質量を有 しています。あるイオンの質量がそのイオンの電荷数で均等に割り切ることができない場 合、質量電荷比は整数にはなりません。これは、Ar3+ のようなイオンが 13.33 AMU の位置に現れたり、F2+が 9.5 AMU の位置に現れたりすることを意味します。
4.1.1.2 同位体比
純粋な物質の質量スペクトルで複数のピークが出現するもう 1 つの原因は、大部分の(た だし全てではない)元素に複数の同位体が存在するためです。例えば、窒素原子全体にお ける質量が 14 AMU の原子は 99.63% であり、質量が 15 AMU の原子は 0.37% に 過ぎません。4-2 ページの図 4-1で窒素のスペクトルを調べてみてください。最も大き
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同位体比は、フラグメンテーションパターンと同様、ある特定の物質を識別する上で非常 に便利な手段となります。通常のイオン化条件の下では、ある元素の様々な同位体のピー ク高の比は、それらの同位体の天然存在度の比と同じになります。これは、例えば塩素の 質量 35 の同位体(35Cl)がイオン化される確率と、質量 37 の同位体(37Cl)がイオ ン化される確率が同じであることを意味します。したがって、HCl に由来する質量 35 と 質量 37 のピーク高の比は、3.07 対 1(75.4% 対 24.6%)になります。
軽元素の同位体比については、表 4-2 をご参照ください。全ての元素の同位体の天然存 在度については、CRC プレス社のHandbook of Chemistry and Physics from CRC Press(化学と物理学の手引き)をご参照ください。
表 4-2 同位体比
同位体比
元素 質量数 相対存在度
H 1 99.985
2 0.015
He 3 0.00013
4 ~100.0
B 10 19.78
11 80.22
C 12 98.892
13 1.108
N 14 99.63
15 0.37
O 16 99.759
17 0.0374
18 0.2039
F 19 100.0
Ne 20 90.92
21 0.257
22 8.82
Na 23 100.0
Al 27 100.0
Si 28 92.27
29 4.68
30 3.05
P 31 100.0
S 32 95.06
33 0.74
34 4.18
36 0.016
Cl 35 75.4
37 24.6
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4.1.1.3 電子エネルギーの作用
観察されるフラグメンテーションの正確なパターンは、衝突する電子のエネルギーによっ て異なります。図 4-2は電子エネルギー関数として、ガス圧 Torr 当たりの、1 個の入射 電子によって生成される(異なる電荷の)アルゴンイオンの数をグラフで表したものです。
図 4-2 電子エネルギーの作用
Ar+の出現電圧(ある特定のイオンを生成するために必要な最小限の電子エネルギー)は、
Ar 36 0.337
38 0.063
40 99.600
表 4-2 同位体比 ( 続き ) 同位体比
元素 質量数 相対存在度
12 10 8 6 4 2
0
N
100 200 300 400 500
Electron Energy (eV)
Ar+Ar3+x10
Ar4+x100 Ar2+
From a paper by W. Bleakney, Physical Review, 36, p. 1303, published in 1930.
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4.1.1.4 定性的解釈のためのガイド
Transpector MPS を使用して未知の物質を特定するには、以下の 3 つの特性を理解す る必要があります。
フラグメンテーションパターン
多価イオン
同位体比
通常、単純なスペクトルは解釈が比較的容易であり、有用な識別情報を得ることができま す。複雑な混合物質を分析する場合はより困難です。
表 4-3 は、未知のスペクトルを最初に調べる際に役に立つ、スペクトルの解釈のための ガイドとして示したものです。この表には、ピークの質量、それぞれの質量の候補として 考えられるイオン、またこれらの個々のイオンの元になる物質を示しています。
注: この表に全ての候補が含まれるわけではありません。
表 4-3 スペクトルの解釈のためのガイド
スペクトルの解釈のためのガイド
AMU # 化学記号 イオンの元になる物質
1 H 水の F または水素の F
2 H2, D 水素、重水素(2H)
3 HD, 3H 水素−重水素、トリチウム(3H)
4 He ヘリウム
5 既知の元素なし
6 C 二価の12C イオン(稀)
7 N DI 14N(稀)
8 O DI 16O(稀)
9 既知の元素なし
10 Ne, 10B DI 20Ne(稀)、BF3、BCl3 11 Ne, 11B DI 22Ne(稀)、11BF3、BCl3
12 C 炭素、一酸化炭素の F、二酸化炭素の F
13 CH, 13C メタンの F、炭素同位体 14 N, CH2 窒素、メタンの F、または注 1 15 CH3 メタンの F または注 1
16 O, CH4, NH2 酸素または一酸化炭素の F、アンモニア 17 OH, NH3 水の F、アンモニアの F
18 H2O 水
19 F フッ素またはフロンの F
20 Ar2+, Ne, HF アルゴン DI、ネオン、フッ化水素酸
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22 22Ne, CO2 ネオン、DI CO2 23
24 C2 注 1 参照
25 C2H 注 1 参照
26 C2H2 CN 注 1 参照、シアン化水素の F
27 C2H3, Al, HCN 注 1 参照、アルミニウム、シアン化水素 28 N2, CO, C2H4, Si 窒素、一酸化炭素、エチレンの P、シリコン
29 CH3CH2 エタンの F またはエタノールの F またはイソプロピルアル コール
30 C2H6, NO エタンの P、酸化窒素 31 P, CH2OH, 酸素、メタノールの F 32 O2, S 酸素、硫黄、メタノールの P
33 HS 硫化水素の F
34 H2S, 34S, O2 硫化水素の P、硫黄の同位体、酸素の同位体
35 Cl 塩素の同位体、注 2 参照
36 HCl, 36Ar, C3 塩酸、アルゴンの同位体、炭化水素 37 37Cl, C3H 塩素の同位体、注 2 参照、炭化水素 38 37HCl, C3H2 塩酸または注 2 参照、炭化水素 39 C3H3 注 3 参照、炭化水素
40 Ar, C3H4 アルゴン、注 1 参照、炭化水素 41 C3H5 注 1 参照、炭化水素
表 4-3 スペクトルの解釈のためのガイド ( 続き )
スペクトルの解釈のためのガイド
AMU # 化学記号 イオンの元になる物質
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