第3章 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメ ントの無効化
第3節 諸外国におけるハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメ ントに係る取組状況ントに係る取組状況
第3節 諸外国におけるハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメ
のある事業体から得た所得が出資者側で課税される場合に、そのような事業 体を利用する出資者が、租税条約の特典の適用を受ける際の障害となる技術 的な問題を取り除くことにある。また、この規定は、出資者が、透明性のあ る事業体からの所得に対する課税を居住地国で受けない場合には、租税条約 の特典を享受するためにそのような事業体を利用することを阻止するもので ある。(下線筆者)」(20)
また、米国政府は2010年の予算案において「チェック・ザ・ボックス・
ルール」の縮小を提案したがこれは実現しておらず、その後続年度において は同様の提案はなされていない。
〔英国〕
英国では、「BEPS行動計画」で指摘されているハイブリッド・ミスマッチ の事例に対処できる法令が既に規定されている。
2005年には、「裁定取引防止規定(Anti-arbitrage rule)」の導入が行われ ている。この規定は、ハイブリッド金融商品又はハイブリッド事業体を伴う 取引を適用対象として、これらの取引を行う2つの事業者のどちらにおいて も課税が生じない(例えば、英国の支払者において損金算入された支払が、
受取者の国において課税されない)場合や、両当事者が同一の費用を税務上 損金算入する(つまり、グループ内の別々の事業者が同一の費用を各々損金 算入することで、当該グループとして費用を二重計上する)場合などには、
当該費用の英国での損金算入が否認される。
加えて、2009年の資本参加免税制度の導入の際には、同制度に関する租税 回避防止規定が導入されている。この規定は、外国の支払者が所得控除した 配当やその他の分配について、英国の受取者がこの配当の受取について益金 不算入としないことを確保するために、広範な適用がなされている。
さらに、2010年には、外国税額控除に対する制限が導入され、これは外国 税額控除を受けることを目的とした租税回避スキームに対して、広く適用さ
(20) United States Model Technical Explanation Accompanying the United States Income Tax Convention of November 15, 2006, Article 1, Paragraph 6.
れる可能性のあるものである。
〔ドイツ〕
ドイツでは、2013年にハイブリッド・アレンジメントに対する規定の強化 がなされており、外国の支払者が所得控除した配当の支払については、ドイ ツの受取者において配当免税が否認される規定が設けられた。
また、2013年に、連結納税グループにおける損失利用の制限制度が強化さ れ、一定の場合に損失の二重計上が否認されることとされた。この制度は、
ドイツの連結納税グループに属する法人に適用され、連結グループの親会社 又は子会社の単体ベースで算出される欠損金が国外で利用された場合には、
ドイツの税務上、ドイツ国内での利用が認められなくなるというものである。
〔フランス〕
2014年の財政法案で、一定のハイブリッド事業体からのローンに係る対処 として、「ハイブリッド及び人為的な金融取引への措置に関する条項」が制定 された。この条項では、関連者間ローンについて、貸手側の受取利子が、フ ランスの標準的な利子課税の税率25%以上で当期に課税されないときには、
そのローンに係る支払利子の損金算入を否認するというものである。
〔オランダ〕
オランダには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処する特 段の規定はない。
なお、オランダの国内法には、受取利子が、ハイブリッド・アレンジメン トに基づいて、低い実効税率で課税される場合(例えば、利子所得が受取者 の法的管轄で資本とみなされ、課税が免除される場合)には、ローンに係る 特定の取引について十分な事業目的があることの立証責任が、税務当局から 納税者に転換されるという税源浸食防止規定がある。
〔アイルランド〕
アイルランドは、2013年にアイルランド法人の居住地判定基準に関する国 内法の新たな改正を公表しており、これはアイルランドとの租税条約の締結 相手国との間のアイルランド国内法人の居住者判定基準のミスマッチに対処
するために制定されたものである。
今回の改正により、租税条約の締結相手国を経営や管理の支配地としてい るアイルランド法人が、その相手国の国内法により相手国の居住者として取 扱われない(つまり、税務上で「無国籍法人」となる)場合には、改正後の アイルランド国内法に基づき、アイルランドの税務上の居住者となることと された。
アイルランドには、一般的なハイブリッド防止規定は存在しない。
ただ、アイルランドでは、極めて限定的ではあるが、特定の金融取引を対 象とする特定租税回避防止規定(targeted anti-avoidance rule)があり、こ れに該当すれば、他国で損金算入された費用についてアイルランド国内での 損金算入が制限される。
〔EU〕
EUは、2012年に、二重非課税に関する実証を把握するため、EU加盟国 及びEU非加盟国の双方を対象として、その事実認定としての「パブリック・
コンサルテーション」を実施した(欧州委員会イニシアティブ)。その「コン サルテーション文書」には、網羅的とまでは言えないが、以下の二重非課税 に関する事例が示された。
事業体のミスマッチ- 同一の事業体が透明と非透明に認定されるミ スマッチ
金融商品のミスマッチ- 債券と株式のミスマッチ
二重非課税に帰結する租税条約の利用- 源泉地国はPE認定をせず、
居住地国はPE認定をする場合など
移転価格税制におけるユニラテラル APA- 企業が他国の関連企業の ユニラテラルAPAを認識していない場合など
租税が存在しない又は極めて低課税である国にある関連企業との取引
- 外国の支払者が所得控除した配当の支払に対して受取配当免税が適 用される場合、受益所有者が実質的に課税を受けておらず、その利子や 使用料の支払に源泉税が免除されている場合など
免税所得に係る負債金融- 課税を受けない所得に係る資金調達に関 する支払利子に損金算入が認められる場合
受動的所得と能動的所得との取扱いの違い- 利子や使用料等の受動 的所得に対して、優遇税制の結果として、あるいは、受取者の居住地国 が領土主義課税原則から国外所得を免除している場合
欧州委員会は、コンサルテーション文書において、ハイブリッド事業体及 びハイブリッド金融商品の税務上の取扱いの相違に起因する二重非課税につ いて「とうてい受け容れ難い(least acceptable)」ものであるとの認識を示 しており、これについて「さらに掘り下げた分析が必要」であるとの結論を 述べている。
この流れから、欧州委員会は、2013年11月25日に、以下の2点を主要 な改正ポイントとするEU親子会社指令(EU Parent-Subsidiary Directive)
の改正案の公表を行った。
ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処することができる
「リンキング・ルール(Linking Rule)」の策定
より詳細な一般的租税回避防止規定(GAAR)の策定
〔スイス〕
スイスは、その資本参加免税制度21の一部として、1998年に海外からの配 当を対象としてハイブリッド防止条項(anti-avoidance rule)を制定してい る。この条項により、源泉地国で損金算入が可能となる配当に対しては、ス イスでの配当免税は否認されることになる。
なお、スイスには、一般的租税回避防止規定(GAAR)があるが、これま でハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対して適用されてはいない。
〔シンガポール〕
シンガポールには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処す る特段の規定はない。
21 Article 70(2)(b) of Swiss Direct Federal Tax Act.
〔中国〕
2013年に中国当局が発遣した通達「国家税務総局[2013]41号公告」は、
中国でハイブリッド金融商品の組成が可能であることを示唆している。これ は、ハイブリッド金融商品の資本又は負債の分類は「実質主義」に基づくこ とが規定されているのみであり、その損金算入の取扱いについての定めが今 後追加されるかは不明である。
〔インド〕
インドには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処する特段 の規定はない。
ただし、2015年4月1日から施行される新しい一般的租税回避防止規定
(GAAR)が、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化に影響 を与える可能性はあるものと思われる。
〔ブラジル〕
ブラジルには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処する特 段の規定はなく、配当を利子とみなしてその損金算入を認めるブラジルの「株 式資本利子(Interest on Net Equity;INE)」の取扱いについて、変更をす る予定も無いようである。