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第3章 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメ ントの無効化

第4節 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化に 係る取組みへの考察係る取組みへの考察

〔中国〕

2013年に中国当局が発遣した通達「国家税務総局[2013]41号公告」は、

中国でハイブリッド金融商品の組成が可能であることを示唆している。これ は、ハイブリッド金融商品の資本又は負債の分類は「実質主義」に基づくこ とが規定されているのみであり、その損金算入の取扱いについての定めが今 後追加されるかは不明である。

〔インド〕

インドには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処する特段 の規定はない。

ただし、2015年4月1日から施行される新しい一般的租税回避防止規定

(GAAR)が、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化に影響 を与える可能性はあるものと思われる。

〔ブラジル〕

ブラジルには、ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントに対処する特 段の規定はなく、配当を利子とみなしてその損金算入を認めるブラジルの「株 式資本利子(Interest on Net Equity;INE)」の取扱いについて、変更をす る予定も無いようである。

第4節 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化に

これまで OECD で検討を行い開発されてきているが、ここ数年とは異なり最 近においては、これら技術的な解決策の導入に係る国際的に共有された政治的 な意志がある」との見解が示されていたところである。

このハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントについては、「複数国間の税 制等の相違」を利用することで意図しない国際的二重非課税を引き起こすもの であり、BEPSの大きな要因の一つとして認識されていることから、取組みの 期限を2014年9月と早い設定がなされたものではないかと思慮するところで ある。

ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントによる居住地国及び源泉地国の 双方から課税がなされない国際的二重非課税が生じた場合の対応策としては、

各国の国内法で「リンキング・ルール(linking rule)」を規定することにより、

そのような二重非課税所得に居住地国か源泉地国かが課税を行うことで、

BEPSを解消することが考えられる。

この場合、居住地国及び源泉地国の双方が、同一の二重非課税所得に課税を 行えば国際的二重課税を生じさせることになるので、居住地国及び源泉地国の どちらに優先的に国際的二重非課税所得に係る課税権を与えるかの問題があり、

その取扱いを「タイブレイク・ルール(tie-break rule)」という。タイブレイ ク・ルールの取扱いについては、アクションプランにおいて、今後、国際的な コンセンサスを得る場合には、以下の2つのことを留意すべきであり、その取 扱いによっては、今回のBEPSの取組みの有効性を大きく引き下げることにな るのではないかと思慮するところである。

 低課税国の数%の実効税率との差についても国際的二重非課税と認識す ること

 居住地国及び源泉地国への所得の帰属を経済実質的に判定して、源泉地 国への帰属が明確な所得については、タイブレイク・ルールにおいて「源 泉地国」に課税の優先権を与えること

前者については、低課税国における優遇税制の適用後の数%の実効税率との

差に対しても、国際的非二重課税としてBEPSの取扱いを適用するということ である。

後者については、所得の帰属についてその居住地国及び源泉地国が経済実質 的に判定することが困難なグローバル・トレーディングに係る金融所得などは 別にして、所得の源泉地国の判定が明確なものについては、国際的二重非課税 所得への課税について「源泉地国」に優先権を与えるべきであるということで ある。

仮に、低課税国での低率の実効税率による課税をBEPSの対象外として、か つ、タイブレイク・ルールにおいて、これまでと同様に「居住地国」の課税に 優先権を与えることとすれば、リンキング・ルールを適用しても、結果的に、

これまでと同様に、アイルランド、オランダ、シンガポール等の低課税国が課 税をすることで、BEPSの対応が終結したことになり、これまでの税源浸食が ほぼ温存されかねないわけである。

今回のハイブリッド・ミスマッチ・ドラフトにおける勧告案では、その対象 とするハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントを〔ハイブリッド金融商品 及び譲渡〕、〔ハイブリッド事業体支払〕並びに〔リバース・ハイブリッド及び インポーテッド・ミスマッチ〕と大きく3つのカテゴリーに分類して、それご とに「国内法の改正に係る勧告」と「リンキング・ルールに係る勧告」が示さ れたわけである。

これによると、リンキング・ルールにおいて、「〔ハイブリッド金融商品及び 譲渡〕+〔ハイブリッド事業体支払〕でタイプが D/NI(支払者所得控除+受 取者益金不算入)のもの」については源泉地国に優先権(第一義的対応)が与 えられ、「〔ハイブリッド事業体支払〕でタイプがD/D(異なる法的管轄での重 複所得控除)のもの及び〔リバース・ハイブリッド〕」については居住地国に優 先権(第一義的対応)が与えられた(ただし、〔ハイブリッド金融商品及び譲渡〕

には、「国内法の改正に係る勧告」として居住地国で「所得控除された支払に対 しては配当免除を否認」がなされるので、この場合には結果的に居住地国が優 先となる。)。

このように、居住地国がやや優位であるとは思われるが、居住地国と源泉地 国でリンキング・ルールの優先権を分け合うものとなっており、当初主張され ていた居住地国のみに優先権を与える取扱いは見送られたようである。これに は、中国やインド等の新興国が源泉地国に優先権を与えることを強固に主張し た結果であると聞き及ぶところである。

個人的には、この勧告案は一定の評価ができるものではないかと思慮すると ころであるが、課税権の配分以外で一つ疑問を感じるところがある。それは、

ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントを上記の3つのカテゴリーに分類 して、これら以外のハイブリッド・ミスマッチに対しては対応策が示されてい ないことである。

ハイブリッド・ミスマッチは、3 つのカテゴリーに含まれる金融取引や事業 体の取扱いだけでなく、それら以外にも税制の相違から国際的二重非課税は生 じることはあり得るのであり、例えば、加速度償却や均等償却の選択における 減価償却制度の相違からも国際的二重非課税が生じることはあり得るところで ある。

しかし、現状の勧告案は、上記の3つのカテゴリーに絞ってハイブリッド・

ミスマッチ・アレンジメントの無効化を取り扱うものであり、個人的には、こ れらに該当しないが国際的二重非課税が把握された場合の対応として、現在の 勧告案に「受け皿的な取扱い」が付加されることが望ましいのではないかと思 慮する。

そうであれば、そのようなハイブリッド・ミスマッチによる国際的二重非課 税が把握されたときには、その「受け皿的な取扱い」(これはGAARに近いも のと思われ、納税者からは予見可能性等の観点から非難を受けることが考えら れる。)により、個別制度等の法改正を待たずに税務当局として対処することか 可能になるものと思慮する。

あと、ドラフトの段階で、「ボトム・アップ・アプローチ」と「トップ・ダウ ン・アプローチ」が示されている適用範囲については、BEPSの趣旨から鑑み てすべての金融商品を対象とする必要性は薄くいものと思われ、かつ、執行可

能性の観点からも「ボトム・アップ・アプローチ」が望ましいと考えるところ である。

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