第5章 移転価格-無形資産の取扱い
第1節 無形資産修正ドラフトの概要 (35)
無形資産修正ドラフトについては、下記のように大きく2分割される構成が とられており、冒頭部において「移転価格ガイドライン第1章から第3章に対 する修正の提案」が提示されており、これは無形資産に係る概念の明確化を図 ることを目的として、「ロケーション・セービング」、「集合労働力」並びに「グ ループシナジー」の移転価格上の取扱いについて解説を加えたものとなってい る。
これに続いて、現行の第6章をすべて置き換えるものとして「第6章 無形
(35) 無形資産に関する修正ドラフトの仮訳として、国税庁のホームページで公表され
ている「Public Consultation 無形資産の移転価格に関するディスカッションドラフ ト(改訂版)」を参考とした。
資産に対する特別の配慮」の改訂案文が示されており、これは、「A. 無形資産 の特定」、「B. 無形資産の所有及び無形資産の開発、改良、維持と保護に関する 取引」、「C. 無形資産の使用又は移転が関わる取引」及び「D. 無形資産が関わ る事例に係る独立企業間条件の決定における補足ガイダンス」の4項目と、付 属文書として 27 個の「無形資産に対する特別の配慮に関する指針を説明する 事例」で構成されている。
① 移転価格ガイドライン第1章から第3章に対する修正の提案
D.6. ロケーション・セービング及び市場固有の特徴
D.7. 集合労働力
D.8. 多国籍企業のグループシナジー(及び5事例)
② 第6章 無形資産に対する特別の配慮
A. 無形資産の特定
B. 無形資産の所有及び無形資産の開発、改良、維持と保護に関する取引
C. 無形資産の使用又は移転が関わる取引
D. 無形資産が関わる事例に係る独立企業間条件の決定における補足 ガイダンス
付属文書 無形資産に対する特別の配慮に関する指針を説明する事例
(27事例)
以下に、第6章のA、B及びDの内容と、付属文書の27事例についてみて みる。
1.A. 無形資産の特定
無形資産の特定については、「狭すぎるあるいは広すぎる無形資産という用 語の定義は、結果として移転価格分析において困難を生じさせる可能性があ る」として、定義規定は置かれないこととされた。
このため、本ドラフトにおいては、「『無形資産』という用語は、有形資産
や金融資産(36)ではなく、商業活動に使用するにあたり所有又は支配すること ができ、比較可能な状況で非関連者間による取引において発生した場合に、
その使用又は移転によって報酬が生ずるものを指すことを意図している。会 計又は法的な定義に焦点をあてるのでなく、無形資産が関わる問題に関して 移転価格分析を行う目的は、比較可能な取引に関して独立企業間で合意され る条件を決定することとすべきである」との概念(コンセプト)を示すに留 められた。
なお、「ユニークで価値のある無形資産」については、これは、「①比較対 象候補の取引当事者に使用されるか利用可能である比較可能な無形資産では なく、及び、②事業活動(製造、役務提供、マーケティング、販売又は管理 など)におけるその使用によって、その無形資産がない場合に見込まれる経 済的便益よりも大きな経済的便益を生み出すと見込まれる無形資産である」
との定義を置くことで、これに必要な明確化は図られている。
そのうえで、無形資産の実例として、「特許」、「ノウハウ及び企業秘密」、
「商標、商号及びブランド」、「契約上の権利及び政府の免許」、「ライセンス、
その他の制限された無形資産の権利」、「のれん及び継続企業の価値」、「グル ープシナジー」及び「市場固有の特徴」について、移転価格上の概念が示さ れた。
このうち、「グループシナジー」及び「市場固有の特徴」については、「本 ドラフトに定める意義の範囲内にある無形資産ではない」とされており、以 下の説明がなされている。
グループシナジー
グループシナジーが、多国籍企業グループが獲得する所得のレベルに 貢献することがある。このようなグループシナジーは、経営の合理化、
コストのかかる取組みの重複の排除、統合システム、購買力、借入力な
(36) 本ドラフトでは、「金融資産とは、現金、持分金融商品、現金もしくはその他の金
融資産を受け取るための又は金融資産もしくは負債と交換するための契約上の権利 もしくは義務、又はデリバティブである任意の資産を指す。例えば、債券、銀行預金、
株式、持分、先渡契約、先物契約、スワップなどがある」との脚注が付されている。
どの様々な形態をとり得る。
このような特徴は、関連取引に対する独立企業間条件の決定に影響を 及ぼしうるものであり、移転価格上、比較可能性の要素として取り扱う べきである。グループシナジーは、単一の企業により所有又は支配し得 ないものであり、本ドラフトに定める意義の範囲内にある無形資産では ない。
市場固有の特徴
ある市場固有の特徴が、当該市場における取引の独立企業間条件に影 響を及ぼすことがある。例えば、特定の市場における家計の高い購買力 が、一定の高級消費財に支払われる価格に影響を及ぼすかもしれな い。同様に、安い人件費や市場への近接性、有利な天候条件などが、特 定の市場において特定の商品及び役務に支払われる価格に影響を及ぼ すかもしれない。
しかしながら、このような市場固有の特徴は、企業によって所有又は 支配されるものではない。このような項目は、本ドラフトに定める意義 の範囲内にある無形資産ではなく、必要とされる比較可能性分析を通じ た移転価格分析において考慮されるべきである。
2.B. 無形資産の所有及び無形資産の開発、改良、維持と保護に関する取引 ここでの問題とされているのは、「無形資産に関連するリターン」を関連者 間でどのように配分するのかということである。
なお、「無形資産に関連するリターン」の配分に関して、無形資産に係る取 引を分析する枠組みとしては、以下のステップが必要になるとしている。
(ⅰ) 法的取決めの条件に基づく無形資産の法的所有者の特定。この取決 めには、関連する登録、ライセンス契約、その他の関連する契約及び 法的所有を示すその他のものが含まれる。
(ⅱ) 機能分析の手段による、無形資産の開発、改良、維持及び保護に関 連する機能を、遂行し、資産を使用し、リスクを負担する当事者の特
定。
(ⅲ) 詳細な機能分析を通じた、両当事者の行動と無形資産の法的所有に 関する法的取決めの条件が合致しているかの確認。
(ⅳ) 関連する登録・契約下における無形資産の法的所有の観点からの無 形資産の開発、改良、維持、保護及び活用に係る関連者間取引及び機 能、資産、リスク及び価値に貢献するその他の要因に係る貢献の特定。
(ⅴ) 可能な場合、遂行した機能、使用資産及び負担リスクに関する各当 事者の貢献とこれらの取引の独立企業間の価格が一致しているかの判 定。
(ⅵ) 例外的状況における、独立企業間の条件を反映するために必要な取 引の再構築。
(1)無形資産の法的所有と最終的なリターン配分の関係
無形資産の法的所有者が、最終的に維持するリターンについては、「法的 所有者がその遂行する機能、使用資産及び負担リスクを通じて行う無形資 産の予測価値に対する貢献及び多国籍企業グループのその他のメンバーが その遂行する機能、使用資産及び負担リスクを通じて行う無形資産の予測 価値に対する貢献による」としており、「例えば、法的所有者が無形資産の 価値を改良すると見込まれる貢献を行わない場合、法的所有者には無形資 産に帰属するリターンを最終的に維持する権利はない」と明言をしている。
無形資産の法的所有については、「無形資産の法定所有自体は、無形資産 を活用する法的又は契約上の権利の結果として法的所有者のものになるよ うな無形資産の活用から得られるリターンを最終的に維持する権利を与え ない」ということである。
(2)無形資産の開発、改良、維持及び保護と最終的なリターン配分の関係 一方で、無形資産の開発、改良、維持及び保護と最終的なリターン配分 の関係については、「法的所有者以外の多国籍企業グループの複数のメンバ ーが、無形資産の開発、改良、維持及び保護に関する機能を遂行し、資産 を使用するか提供している場合、リスクやコストを負担する限度において、
無形資産に帰属するリターンは、無形資産の価値に対して予測された貢献 を反映した独立企業間報酬を通じて他のメンバーのものにならなければな らない」としており、「これは、事実及び状況によっては、無形資産に帰属 するリターンの全て又は大部分になる」と明言している。
3.D. 無形資産が関わる事例に係る独立企業間条件の決定における補足ガイ ダンス
無形資産が関わる取引に係る独立企業間条件の決定については、「無形資産 には、比較対象の探索が複雑となるような特殊な特徴がある場合もあり、取 引時の価格の決定が困難なこともあるかもしれない」とし、「無形資産の使用 又は移転には、比較可能性、移転価格算定方法の選択、取引の独立企業間条 件の決定に関する困難な課題が生ずることもある」とした。
そのうえで、「信頼し得る比較可能な非関連者間取引に関する情報が特定で きない場合、独立企業原則上、比較可能な状況において非関連者であれば合 意したであろうと考えられる価格をその他の方法により算定することが求め られる」として、「この算定にあたっては、以下の点を考慮することが重要で ある」とした。
• 取引の各当事者の機能、資産及びリスク
• 取引を行う事業上の理由
• 取引の各当事者が現実に利用可能な選択肢の視点
• 無形資産によってもたらされる競争上の優位性、特に無形資産に関連 する商品・役務又は商品・役務候補の相対的な収益性
• 取引から得られると見込まれる将来の経済的便益
• ローカルマーケット、ロケーション・セービング、集合労働力、多国 籍企業のグループシナジーといった特徴などのその他の比較可能性の要 素
(1)無形資産に係る移転価格算定方法
本ドラフトは、「無形資産又は無形資産の権利の移転が関わる問題におい