第4章 租税条約濫用の防止
第2節 租税条約濫用の防止に係るパブリック・コメント
1.BIACの「BEPSへの欧米ビジネス・コメント」で提出された意見
「BEPSへの欧米ビジネス・コメント」によると、租税条約濫用の防止(行
動計画6)に関しては、以下の意見の提出がなされた(25)。
BEPS行動計画の〔行動6 租税条約濫用の防止〕については、〔行動2 ハ イブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの無効化〕と一部が重複してい るものである。
本行動のドラフトは、グループ企業の場合とそれ以外の一般企業の場合 とを区別していないが、第三者の場合には、本行動の提案の範囲に該当す る取引の税務上の取扱いに関する情報を入することは困難であるので、
BEPS に係るドラフトの案から第三者間の取引を明示的に除くことを
(25) 本庄・前掲注(17)、21~22頁。
OECDに促す。合法的な参加免税は、制裁を受けるべきではない。〔CBI〕
条約濫用に対処することには合意するが、「何が濫用になるのか」につい
て各国の合意は得ていないようにみえる。「濫用」には「合法的な事業目的 がなくその唯一の理由が節税であるアレンジメント」のみが含まれると考 える。濫用と戦うためには、GAARや経済的実質ルールではなく、客観的 なLOB条項のみを用いるべきである。GAARや経済的実質ルールは、租 税条約に規定するには余りにも複雑であり、税務当局が「原則にない理由」
で租税条約の特典を否認することを容認することにつながる。
また、多くの国々は、濫用への対処のためその国独自の「経済的実質の 法理」を有することから、1つの条約に「両国の類似又は同一でない否認 ルールに従うこと」を導入すれば、複雑性と不確実性が増えるだけであ る。〔TEI〕
条約濫用防止規定は、納税者にとって明瞭で予測可能性があり、税務当 局にとって執行可能なものでなければならない。簡潔で一般的な LOB条 項についても、正常かつ合法的な事業活動である資産保有並びに金融及び 投資に係る条約の特典を全体的に否認すべきでないことを認めることが重 要である。各国に一般的な濫用防止規定(主要目的テスト、GAAR)があ る場合には、LOB条項を優先適用することが重要である。したがって、以 下のことは、禁じられるべきである。〔USCIB〕
過剰な制限(動機テストで、トリーティ・ショッピングの動機がない とされたときに条約へのアクセスを奪うこと)
過剰な複雑性(過度の文書化や厄介な要件を付して正常な適用手続を 妨げること)
国内の政策的考慮によってトリーティ・ショッピングを超えた制限す ること
2.日本の経済団体からOECDに提出された意見
(1)経団連からの意見
経団連は、2014年4月9日にOECDに対して、以下の内容で「BEPS
行動6(条約の濫用防止)に係わる公開討議草案に対する意見」の提出を
行った。
〔総論〕
「 BEPS行動6では「不適切な状況で条約の特典を与えることを防ぐ ためのモデル条約の規定及び国内ルールの設計に関する勧告を策定す る」、「二重非課税を生み出すために租税条約が利用されることは意図 されないことを明確にする」とされているが、経団連としてはこれら の取り組みを支持する。具体化に際しては、他の行動計画と同様、新 たな租税回避防止策が通常の事業活動を阻害しないよう、また、事務 負担が過大とならないよう、十分な配慮が必要である。」
〔各論-特典資格条項〕
「 各国の租税条約においては、すでにLOB条項及びMPT条項の双方 を備えている場合もあれば、いずれか一方を備えている場合もあり、
特典資格条項を導入すること自体に異を唱えるものではない。ただし、
一部のTreaty Shopperを取り締まるために、LOB条項とMPT条項
の双方を標準装備すべきことをモデル条約で規定するのは、やや過剰 ではないかと思われる。」
〔各論-LOB条項〕
「 LOB条項については、一般的に簡素かつ明瞭な規定とすることが望 ましい。モデル条約X条3項(能動的事業活動基準)については適用 業種を絞ることなく、経済実態があれば認められるべきである。また、
その判定は、単体ベースではなくグループ全体で行うべきである。」
「 モデル条約X条4項(権限のある当局による認定)についても、そ の居住者の設立、取得又は維持及びその業務の遂行が事業上の目的を 伴うものであれば、条約の特典を付与すべきである。」
〔各論-MPT条項〕
「 MPT条項を導入する場合には、通常の事業を営む多数の企業に影響 が及ばないよう、適用の場面を限定的なものとする必要がある。また、
納税者の予見可能性を高めるため、運用方針を明確化し、各国で共有 することが不可欠である。特に、本来の目的を究明することは一般的 に非常に困難であることを十分に理解した上で、恣意性の入る余地の ない、明確な事実によって適用条件が定義されるべきである。」
「 MPT条項における「主たる目的の一つ」との定義は広すぎる。企業 が国際的に事業展開を行う際、租税条約の有無・内容を含め、各国の 税制度を考慮に入れることは自然なことであり、それ自体が租税条約 の濫用を構成するとは考えられない。少なくとも「の一つ」との文言 は不要と考える。」
〔各論-二重居住者の居住地国の決定〕
「 二重居住者に係わるタイブレーカー・ルールについては、モデル条 約4条3項の改正案において、締約国の権限のある当局が居住地国の 決定に向けて努力するとされているが、居住地国が必ず決まる仕組み が必要なのではないか。」
(2)日本貿易会からの意見
日本貿易会は、2014年4月9日にOECDに対して、以下の内容で「OECD
『租税条約の濫用防止に関する討議草案』に対するコメント」の提出を行っ た。
〔全般的なコメント〕
「 過度な租税回避防止規定を租税条約や国内法に設定することにより、
実態を有している取引や投資形態までが不当な取扱いを受けることは 避けるべきであり、加えて、租税回避防止規定に係る確認や解釈に伴 う納税者の事務負担と規定の有用性のバランスを考慮し、複数の租税 回避防止規定を導入することの必要性は十分検討されるべきである。」
「 “条約濫用”の定義を明らかにしない限り、条約の運用が不安定と
なり、企業の経済活動を阻害する懸念もある。企業が国際的に事業展 開を行う際、租税条約の有無・内容を含め、各国の税制を考慮に入れ ることは通常のビジネス行為であり、それ自体が租税条約の濫用を構 成するとは考えられない。」
〔LOB条項〕
「 LOB条項の導入により、各国の課税当局の事実認定が一定とならず、
税務執行に差が生じることで、租税条約の適用可能性を不確実なもの とし、二重課税の増加に繋がらないよう強く求める。(略)コメンタリ ーにおいて十分な指針や具体的な判断基準の事例が提供されるべきと 考える。例えば以下の項目は特に具体的な解説が求められる。
「能動的事業活動基準」における「事業」の定義
議決権及び持分割合の算出における「間接所有」の具体的な計算 方法(連結決算における支配の考え方か、単純な乗算か)
他の適格者の子会社判定(課税ベース浸食基準)における「間接 支払」の範囲
「権限ある当局による認定基準」の具体的な項目」
「 LOB条項においては、条約の適格性を、真の事業上の理由を考慮す ることなく形式的に判断される懸念がある。適格者か否かの判断を行 う際には、形式よりも実態を重視するアプローチがとられるべきであ る。特に、「能動的事業活動基準に投資を行い又は管理する活動は除く」
とあるが、元々、同活動基準が当該法人を居住地国に設立することの 経済合理性を問題としている点を考慮すると、納税者が所属している 産業区分にかかわらず、あくまで事業実態により判断されるべきであ り、源泉地国にて経済的実態を伴っている限り管理活動を行う者も適 格者として扱うべきである。」
「 条約締約国間の経済交流を促進するという租税条約の役割を踏まえ れば、包括的LOB条項ではなく、制限的LOB条項を原則とすべきで ある。特に、配当源泉税に対する恩典の制限を強化することは、BEPS
行動計画が本来意図している二重非課税の排除と無関係であり、寧ろ 二重課税をもたらすリスクがある。」
「 LOB条項における能動的事業活動基準については、個々の事業体ベ ースではなく、企業グループ単位で判断することが合理的である。多 国籍企業グループは、様々なタイプの事業リスクを遮断する目的で、
事業体を細分化し、取引や投資の活動を行うことがある為、各事業会 社単独でみると十分な経済実体を有していないとされる可能性があ る。」
〔主要目的テスト〕
「 正当な事業理由があるにも関らず、「主要目的の一つが条約の恩典濫 用である」として、(主に源泉地国の)課税当局により条約上の恩典適 用が不合理に否認される場合、納税者の予見可能性が著しく損なわれ、
二重課税の発生に繋がり得る。従って、斯かる包括的濫用防止規定は 厳格・限定的に適用されるべきであり、その適用要件の厳格化・明確 化を要望する。」
「 事業上の理由が第一にあり、併せて租税条約の有無や内容を検討事 項の一つとする場合まで、条約の恩典濫用と見做されることは不合理 である。寧ろ納税者側が「対象取引・取極めには正当な事業理由が存 在すること」を主張できる場合には、LOB条項に拘わらず、条約の恩 典は制限されるものでないことをコメンタリーに含めるべきである。」
「 『主要目的の一つが条約上の恩典濫用であること』の挙証・立証責 任は、課税当局に対して厳格に課されるべきである。仮に、挙証責任 が 実 質 的 に 納 税 者 側 に あ る と し て も 、 支 払 者 が 投 資 形 態 等 の
commercial reasonを説明することは困難にて、現実的には「源泉地
国の課税当局」に対し、「居住地国の所得受領者」が説明することとな る。これは国境を越えた質問検査権であり、当該所得が源泉地国にお けるPE帰属所得ではないことを前提にすれば、居住地国の国家主権 に対する侵害という観点からも問題である。」