第二部 本論
5.6. 調査結果(Ⅱ)- 姻族関係
5.6.1 「夫・妻」
(1) 呼びかけ表現
「夫・妻」への呼びかけ表現に関する調査結果は次の表の通りである。
表
37. 「夫・妻」に対する呼びかけ表現
配偶者 回答者
夫への呼びかけ表現
子供が生まれる前 子供が生まれた後 孫が生まれた後
女 性
F1(20代) 名前+aka 名前+aka -
F2(20代) hey、hɔy dadasi -
F3(30代) hey dadasi -
F4(30代) hey dadasi -
F5(40代) 名前+aka dadasi -
F6(40代) 名前+aka dadasi bɔbɔsi
F7(50代) hey dadasi bɔbɔsi
妻への呼びかけ表現
男 性
M1(20代) 名前 名前 - M2(30代) 名前 名前 - M3(40代) 名前 名前 - M4(40代) 名前 名前 -
配偶者への呼びかけは、夫と妻とではそれぞれ違う表現が使われる傾向がみられた。一般的な傾 向としては、夫は妻に名前や名前の愛称形を用いて呼びかけられるが、妻は夫に名前や名前の愛称 形だけで呼び捨てにすることができない。夫に対する呼称は子供の存在の有無に大きく左右される ことが見て取れる。子供が生まれる前は、相手の注意を引き付ける時に用いられる「
hey」
「hɔy」な どの感動詞の類を使う人もいれば、「名前+aka」という構文を使って呼びかける人もいる。子供が 生まれてくると、dada-si
(お父さん!)やbɔbɔ-si
(お爺さん!)のように呼びかけることが多い。このような表現は、家族の最年少者の立場に視点を移動して言うのであって、日本語で言うと妻が 夫に向かって「お父さん!」や「おじいさん!」と呼ぶのにほぼ相当する。しかし、日本語とは次 の点で異なる。つまり、
dada-si
とbɔbɔ-si
はそれぞれ、「dada(父)+si
(所有三人称接尾辞)」「bɔbɔ94
(祖父)+si(所有三人称接尾辞)」という構造であり、直訳すると
dada-si
は「(彼/彼女の)お父さん」、
bɔbɔ-si
は「(彼/彼女の)おじいさん」ほどの意味である。要するに、家族の最年少者にとっての「お父さん」であり、「おじいさん」であることが明示された語形なのであり、そのようなマ ークのない「お父さん」「おじいさん」という日本語の表現とは異なるのである。妻に呼びかける時
も
aya-si、 ɔna-si(
(彼/彼女の)お母さん)のような言い方ができると思われるが、今回の調査では用例がなかった。
(2) 言及表現
(2) - 1 話し相手が親族・姻族の場合
話し相手が親族・姻族の場合の「夫・妻」への言及表現に関する調査結果は次の表の通りである。
表
38. 「夫・妻」に対する言及表現(話し相手が親族・姻族の場合)
夫への言及 話し相手
回答者
話し相手が親族である場合 話し相手が姻族である場合
父・母 おじ・おば 兄・姉 弟・妹 子 義理の父・母 義理のおじ・おば 義理の兄・姉 義理の弟・妹
女性
F1(20代) kuyɔviz kuyɔviz - - dadaŋ oġliz jiyaniz ukaiz akaiz
F2(20代) 名前+aka 名前+aka 名前+aka 名前+aka dadaŋ oġliz 名前+aka ukaiz akaiz
F3(30代) kuyɔviz kuyɔviz kuyɔviz pɔččaŋ dadaŋ - jiyaniz ukaiz -
F4(30代) kuyɔviz 名前+aka kuyɔviz - dadaŋ oġliz 名前+aka ukaiz akaiz
F5(40代) 名前+aka dadasi 名前+aka 名前+aka dadaŋ oġliz dadasi ukaiz akaiz
F6(40代) kuyɔviz kuyɔviz kuyɔviz pɔččaŋ dadaŋ oġliz ukaiz ukaiz akaiz
F7(50代) kuyɔviz kuyɔviz dadasi pɔččaŋ dadaŋ oġliz dadasi ukaiz akaiz
妻への言及
男性
M1(20代) keliniz keliniz keliniz kennayiŋ ayaŋ qiziz 名前 siŋgliz -
M2(30代) 名前 名前 名前 名前, kennayiŋ ɔpaŋ 名前 名前 名前 名前
M3(40代) - keliniz 名前、keliniz - ayaŋ 名前 名前 siŋgliz -
M4(40代) 名前 名前 名前 名前 ayaŋ 名前 名前 名前 名前
配偶者に言及する際には、話し相手が親族・姻族である場合は、話し相手の立場に視点を移動し て言及する傾向がみられた。例えば、夫に言及する場合を見ると、父・母やおじ・おば、兄・姉等 の上位及び同世代の年上の親族を相手に
kuyɔv-iz
(あなたのお婿さん)、弟・妹を相手にpɔčča-ŋ
(あ なたの義理のお兄さん)、子供を相手にdada-ŋ
(あなたのお父さん)と言及する。話し相手が姻族 である場合は、義理の父と母を相手にoġl-iz
(あなたの息子さん)、義理のおじ・おばを相手にjiyan-iz(あなたの甥御さん)
、義理の兄・姉を相手にuka-iz(あなたの弟さん)
、義理の弟・妹を相手にaka-iz(あなたのお兄さん)と言及する。
kuyɔv-iz
は、標準語のkuyɔv-iŋgiz(kuyɔv(婿)+ (i) ŋgiz(所有二人称接尾辞敬称)
)に当たる 表現であり、「あなたのお婿さん」ほどの意味である。oġl-iz、jiyan-iz、uka-iz、 aka-iz
なども同じ95
く、「親族語+所有二人称接尾辞敬称」という構造である。
夫に言及する表現として、他に、呼びかけの時に用いる
dada-si
((彼/彼女の)お父さん)や「名前+
aka」という表現をそのまま言及に用いる例も若干みられた。
妻に言及する場合、(妻の)名前を用いるのが普通であるが、話し相手の立場に視点を移動して言 及することも可能である。例えば、話し相手が親族である場合は、父・母など上位世代の親族を相
手に
kelin-iz(あなたのお嫁さん)
、弟・妹など年下の同世代の親族を相手にkennayi-ŋ(あなたの
義理のお姉さん)、子供を相手に
aya-ŋ、 ɔpa-ŋ(あなたのお母さん)と言及する。話し相手が姻族
である場合は、義理の父・母を相手にqiz-iz
(あなたの娘さん)、義理の兄・姉を相手にsiŋgl-iz
(あ なたの妹さん)と言及する。(2) - 2 話し相手が親族・姻族以外の場合
話し相手が親族・姻族以外の場合の「夫・妻」への言及表現に関する調査結果は次の表の通りで ある。
表
39. 「夫・妻」に対する言及表現(話し相手が親族・姻族以外の場合)
夫への言及 話し相手
回答者 初対面の人 上司 友達・同僚 隣の子
女 性
F1(20代) xojayinim xojayinim dadasi dadasi
F2(20代) xojayinim xojayinim erim amakiz
F3(30代) xojayinim xojayinim dadamiz 名前+akaiz
F4(30代) 名前+aka 名前+aka dadasi 名前+akaiz
F5(40代) xojayinim xojayinim erim amakiz
F6(40代) xojayinim xojayinim dadasi dadasi
F7(50代) xojayinim xojayinim dadasi dadasi
妻への言及
男 性
M1(20代) ayɔlim ayɔlim xɔtinim 名前+kennayiŋ M2(30代) turmuš ortɔġim turmuš ortɔġim xɔtinim 名前+kennayiŋ M3(40代) ayɔlim ayɔlim xɔtinim 名前+kennayiŋ M4(40代) xɔtinim xɔtinim xɔtinim 名前+kennayiŋ
話し相手が上司や初対面の人である場合は、夫を
xojayin-im、妻を ayɔl-im、 turmuš ortɔġi-m
と 言う。xojayin
は多義語であり、Madvaliev ed.(2008)では、xojayinの表す意味の一つとして、「s.t.
Ayɔl kišiniŋ turmuš ortɔġiga murɔjaat šakli(X, 435)
」(話し言葉。妻の夫に対する呼びかけ語)という意味を挙げている。
ayɔl
とturmuš ortɔġi
に関するMadvaliev ed.(2008)の解釈は次の通りである。
96
AYƆL Xɔtin, rafiqa (erga nisbatan)
((夫に対する)妻) (Madvaliev ed. 2008:A, 43)
TURMUŠ ORTƆĠI Er-xɔtinlik hɔlatidagi šaxsniŋ har biri (er va xɔtin bir-biriga nisbatan)
(夫婦関係にある人) (Madvaliev ed. 2008:T, 200)
ayɔl
とturmuš ortɔġi
はどちらも改まった場面で用いられる固い言葉であるが、ayɔlのほうがより話し言葉的であると思われる。
話し相手が同僚や友人である場合は、夫を
er-im(私の夫)、妻を xɔtin-im(私の妻)と言う。
er
とxɔtin
に関するMa’rufov ed.(1981b)の解釈は次の通りである。
ER Xɔtin kiši bilan nikɔh ahdida bolgan erkak kiši; qalliq(oz xɔtiniga nisbatan).
(女性と婚姻関係にある男性(自分の妻に対して)) (Ma’rufov ed. 1981b:449)
XƆTIN Birɔr erkak nikɔhidagi ayɔl.
(男性と婚姻関係にある女性) (Ma’rufov ed. 1981b:334)
er
とxɔtin
は、標準ウズベク語では「夫」と「妻」を表す代表的な親族語であるが、チナズ方言では主に言及する時に用い、呼びかける時には用いない。
なお、夫に言及する際、呼びかけに用いる
dada-si((彼/彼女の)お父さん)や「名前+aka」
をそのまま用いる回答者もいる。
話し相手が初対面の人や上司、あるいは同僚、友人である場合は、話し手が配偶者との関係を自 分自身の視点から表現するが、話し相手が子供である場合は、子供の立場に視点を移動して表現す る。例えば、夫について話す時は
amaki-z(あなたのおじさん)
、「名前+aka-iz」(○○お兄さん)と言い、妻について話す時は「名前+
kennayi-ŋ」(○○お姉さん)と言う。
5.6.2 「義父母」
「義父母」への呼称に関する調査結果は次の表の通りである。なお、
F4
とF7
から回答はなかっ た。表
40. 「義父母」に対する呼称
姻族 回答者
義理の父 義理の母
呼びかけ 言及 呼びかけ 言及
女 性
F1(20代) dadajɔn qaynatam ɔyijɔn qaynanam
F2(20代) dada qaynatam ɔyi qaynanam
F3(30代) ɔta qaynatam ɔyi qaynanam
F4(30代) - - - -
F5(40代) ɔta qaynatam ena qaynanam
97
F6(40代) - - ɔyi qaynanam
F7(50代) - - - -
男 性
M1(20代) dada qaynatam ɔyi qaynanam
M2(30代) dada qaynatam ɔyi qaynanam
M3(40代) - - ɔyi qaynatam
M4(40代) ada qaynatam ɔyi qaynanam
「義理の父」への呼びかけは、dadajɔn を除けば
5.5.1(2)で述べた「実の父」に対する呼びかけ
表現と同じものを使用する。しかし、「義理の母」は、実の母の場合と違って、ɔyiという親族語を 用いることが多い。言及する際には、親族語に所有一人称接尾辞を付けて
qaynata-m(私の義理の父)
、qaynana-m(私の義理の母)と言う。
qaynata
とqaynana
に関するMa’rufov ed.(1981b)の解釈は次の通りである。
QAYNATA Qayin ɔta(erniŋ ɔtasi uniŋ xɔtiniga nisbatan va xɔtinniŋ ɔtasi uniŋ eriga nisbatan)
(義理の父(妻に対する夫の父または夫に対する妻の父))
(
Ma’rufov ed. 1981b:539)
QAYNANA Qayin ɔna(erniŋ ɔnasi uniŋ xɔtiniga nisbatan va xɔtinniŋ ɔnasi uniŋ eriga nisbatan)
(義理の母(妻に対する夫の母または夫に対する妻の母))
(
Ma’rufov ed. 1981b:539)
なお、qaynataと
qaynana
は言及用法のみであり、呼びかけ語として用いられない。「義父母」に呼びかける時、表
40
のF1
のように、親族語に接辞-jɔnを付けて、dada-jɔn、ɔyi-jɔn
と言うふうに呼ぶことがある。Ahmedova
(2008:131)によれば、親族関係を表す言葉は、接 辞-jɔnとともに用いられることが多く、特にタシケント方言では顕著である。子供が両親に呼びか ける時、ɔyi、 dada などの親族語をそのまま使えるが、嫁が義父母に対してこれらの親族語を接辞-jɔn
を付けずに使うと、配偶者やその家族(義父母)に対して失礼とみなされると述べている。このように、接辞-jɔnは尊敬や親愛の情などの意味を表す接辞であり、特に敬意を払うべき相手 に対して用いられることが多いと思われるが、今回の調査で得られた回答は
2
例のみである。5.6.3 「義理の兄弟姉妹とその配偶者」
(1) 呼びかけ表現
「義理の兄弟姉妹とその配偶者」への呼びかけ表現に関する調査結果は次の表の通りである。
98
表
41. 「義理の兄弟姉妹とその配偶者」に対する呼びかけ表現
姻族 回答者
義理の兄弟とその配偶者 義理の姉妹とその配偶者
義兄 義兄の妻 義弟 義弟の妻 義姉 義姉の夫 義妹 義妹の夫
女 性
F1(20代) (名前+) aka kennɔyi 名前 - (名前+) ɔpa pɔčča - -
F2(20代) (名前+) aka kennɔyi 名前 名前 - - 名前 (名前+) aka
F3(30代) (名前+) aka yaŋga 名前 名前 - - 名前 名前
F4(30代) - - - - (名前+) ɔpa pɔčča - -
F5(40代) (名前+) aka kennɔyi 名前 名前 (名前+) ɔpa pɔčča 名前 名前
F6(40代) - - 名前 名前 (名前+) ɔpa pɔčča - -
F7(50代) (名前+) aka yaŋga 名前 名前 (名前+) ɔpa pɔčča 名前 名前
男 性
M1(20代) (名前+) aka kennɔyi - - (名前+) ɔpa bɔja - -
M2(30代) 名前 名前 名前 名前 - - 名前 bɔja
M3(40代) - - - - - - - -
M4(40代) - - 名前 kelin 名前 bɔja 名前 bɔja
「義理の兄弟姉妹とその配偶者」に対する呼びかけは、
5.5.2
で紹介した実の兄弟姉妹の場合と同 様、年上の人には親族語で呼びかけ、年下の人には名前を使用する。義理の兄弟姉妹が自分より年 上である場合、男性を「(名前+)aka」と呼び、女性を「(名前+)ɔpa」と呼ぶ。その配偶者は、男性を
pɔčča
と呼び、女性をkennɔyi、yaŋga
と呼ぶ。なお、妻の姉妹の配偶者たちは互いにbɔja
と呼び合う。
bɔja
について、Ma’rufov ed.(1981a)では次にように解釈されている。BƆJA Ɔpa siŋgillarniŋ erlari(bir-biriga nisbatan)
(姉妹の夫たち(お互いに対して)) (Ma’rufov ed. 1981a:125)
bɔja
は年齢の上下による区別がない。(2) 言及表現
「義理の兄弟姉妹とその配偶者」への言及表現に関する調査結果は次の表の通りである。
表
42. 「義理の兄弟姉妹とその配偶者」に対する言及表現
姻族 回答者
義理の兄弟とその配偶者 義理の姉妹とその配偶者
義兄 義兄の妻 義弟 義弟の妻 義姉 義姉の夫 義妹 義妹の夫
女 性
F1(20代) qaynakam ɔvsinim qaynim - qaynɔpam qaynɔpamniŋ eri - -
F2(20代) qaynakam ɔvsinim qaynim ɔvsinim - - qaynisiŋglim kuyɔvimiz
F3(30代) qaynakam ɔvsinim qaynim ɔvsinim - - qaynisiŋglim qaynisiŋglimniŋ eri
F4(30代) - - - - qaynɔpam qaynɔpamniŋ eri - -