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先行研究

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 78-82)

第二部 本論

5.1. 先行研究

5.1.1 日本語の親族語に関する先行研究

日本語の親族呼称については、膨大な研究があり、運用の問題に限っても、鈴木(1973, 1979, 1982,

1998)

、谷(1974a, 1974b, 1978)、渡辺(1978)、セペフリバディ(2012)などが挙げられる。

鈴木(1973:

146~155)は、話し手が自分自身に言及する言葉の全てを総括して「自称詞」と呼

び、話し相手に言及する言葉を総称して対称詞と呼んでいる。また、親族間での呼び方を土台に、

「目上・目下」による呼称の原則を見出し、その用法の制約について次の五つの条件を挙げている。

① 目上の親族に対して人称代名詞を使って呼びかけたり、言及したりすることはできないが、

目下の親族に対してはできる。

② 目上の親族を通常、親族語を用いて呼ぶが、目下の親族に対してはそれができない。

③ 目上の親族を名前だけで直接呼ぶことはできないが、目下の親族に対してはできる。

④ 目上の親族に対して自分を名前で呼ぶことはできるが、目下の親族に対してはそれができない。

⑤ 目下の親族に対して自分を相手の立場から見た親族語で称することができるが、目上の親族に 対してはそれができない。

さらに、このような親族間の原則は、親族外の社会的場面にも当てはめられると指摘し、親族語 の非親族に対して使われる虚構的用法についても詳しく論じている。

谷氏の一連の研究では、日本語の親族語の使用にみられる対人関係の分析に重点が置かれ、他言 語との比較を通して詳細な考察が行われている。

渡辺(1978:32~38)は日本語の親族語の特徴として次のようなことを挙げている。

① 個人親族語25には単語の数が多いものと少ないものとがある。

単語の数が多いもの:父・母・祖父・祖母・夫・妻などを表す個人親族語。

単語の数が少ないもの:孫・おい・めい・いとこなどを表す個人親族語。

② 下の世代及び兄・姉を除く同一世代の個人親族語は、全て名称にしか使用できず、呼称には人 名を使用する。一方、兄・姉を含む上の世代の個人親族語は呼称にも名称にも使用できるが、

人名は呼称に使えない。

③ 兄・姉を含む上の世代の個人親族語は、呼称として使用できるものとできないものとがある。

父・母・祖父・祖母や兄・姉などは名称には使えるが、呼称には使えない。

________________

25 渡辺(1978)は日本語の親族語彙を6つに分類し、そのうち、個人と個人の親族関係のみを指し示す語を「個人親族語」と呼び、

祖父・祖母・父・母・おじ・おば・兄・姉・弟・妹・おい・めいなどを挙げている。

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④ 個人親族語は年少の子供の立場からも使用できる。例えば、親が自分の子供に向かって、自分 のことを(子供の立場からの)「お父さん」「お母さん」と言うことができる。

⑤ 年少期に、親族によって獲得した呼称や名称は生涯にわたって根強く残存する傾向がある。

⑥ 個人親族語の中には意味が多義語化して年齢階梯語として使用されるものがある。祖父・祖母・

おじ・おば・兄・姉・むすめを意味する個人親族語を、それぞれ老人の男・女、中年の男・女、

若い男・女として使用する。

⑦ 日本語の年齢階梯語化した兄・姉名称には、一種のもちあげことばとしての用法さえある。例 えば、泣いている子供に、たとえその子に弟や妹がいなくても、「痛くても泣かない!△△ちゃ んは、もうお兄ちゃん(・お姉ちゃん)なんだから。」というような場合である。

⑧ 個人親族語は、直系と傍系を区別するが、父系と母系を区別しない。例えば、親と親の兄弟姉 妹は区別するが、親の兄弟姉妹は、父系も母系も同じおじ・おばである。

セペフリバディ(2012)は、現代日本語の親族成員間の呼びかけ表現に限って、話し手と話し相 手の年齢や性差などに着目して考察したものである。同論文では、鈴木(

1973)の「目上・目下」

の原則について、現在では変わっている可能性があると指摘し、東京在住の日本人

250

名を対象に アンケート調査を実施し、部分的に鈴木説に反する点や指摘されていない新たな点について指摘し ている。同論文の主張をまとめると次のようになる。

① 父母・祖父母に対して「名前・あだな+さん/ちゃん」などの呼称も若干使われており、「さん」

は父母で、「ちゃん」は祖父母でそれぞれ優勢であると述べている。

② 兄・姉に対して、親族呼称以外に、名前やあだ名など非親族呼称で呼ぶことも多く、会話の中 では、「あなた」「あんた」「お前」などの人称代名詞を使うこともある。

③ 話し手の年代によって呼び方が変わり、成長とともに呼称の社会化が観察される。特に男子の ほうが女子よりも早く幼児語的な呼称を避け、社会的な呼称を使用しようとする傾向が強い。

5.1.2 ウズベク語の親族語に関する先行研究

ウズベク語の呼称表現に関する研究において、親族語に関する著書や論文は、大川・Aliqulov・

Kahramanog’li

(2000)(以下大川他(

2000)

)、

Isayeva

(2014)など、それほど多くないようであ る。

大川他(2000)は、日本語・ウズベク語・カザフ語・トルコ語の親族語について、標準的なモデ ルと考えられるものを、家系図を模した図で示したものである。大川他(

2000)には、親族語の意

味の取違いや、話し言葉と書き言葉の混同など問題が散見する。具体的には、以下のようなことが 指摘できる。

nevara(孫)の子に当たる親族語として čevara

を挙げ、čevara の子に当たる親族語として

evara

を挙げているが、Ma’rufov ed.(1981)の記述では、evaraと

čevara

の関係は大川他

(2000)が挙げているものと正反対である。この二つの親族語に関する

Ma’rufov ed.(1981)

の記述は次の通りである。

EVARA Nevaraniŋ bɔlasi(bɔbɔga, buviga nisbatan).

nevara(孫)の子(祖父と祖母に対して)

) (1981b:437)

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ČEVARA Evaraniŋ farzandi ― oġli yɔki qizi(katta bɔbɔga, buviga nisbatan).

(evaraの子、その息子或いは娘(曾祖父と曾祖母に対して)) (1981b:

361)

つまり、nevaraの子は

evara

であり、evaraの子は

čevara

であるということである。

② 配偶者の兄弟姉妹の子を表す親族語としてqayinboyinという語が充てられているが、

Ma’rufov ed.(1981)では、それが配偶者の近い親戚として解釈されている。

QAYINBOYIN Erniŋ yaqin qarindɔšlari(uniŋ xɔtiniga nisbatan)yɔki xɔtinniŋ yaqin qarindɔšlari(uniŋ eriga nisbatan).

(夫の近い親族(妻に対して)または妻の近い親族(夫に対して))

(1981b:

537)

これは、

qayinboyin

という親族語の表わす範囲がより広いことを意味している。しかし、どこ

まで

qayinboyin

と言えるのかははっきり示されていない。

③ 親族語の標準的なモデルに対応するものとして、次のようなバリアントを挙げているが、それ らの使い分けについては他に何も述べていない。

親族語の標準的なモデル

対応するバリアント

aka(兄)

birɔdar/ɔġa

amakivačča(おじの子(父方)

) amaki/amakiča

ammavačča(おばの子(父方)

) amma/ammača

buva(祖父)

bɔbɔ/katta dada/katta ɔta

buvi(祖母)

ača/bibi/katta ena/katta ɔna/katta ɔyi/mɔma er(夫) bɔy/kuyɔv/qayliq/qalliq/rafiq/turmuš ortɔġi/

umr yoldɔši/umrdɔš/yɔstiqdɔš/zavj/ortɔq katta amaki(伯父(父方)

aka/amaki

katta amma

(伯母(父方))

amma

katta qaynana(舅・姑の母) katta buvi/katta qaynɔna/qaynana katta qaynata(舅・姑の父) katta buva/katta qaynɔta/qaynata katta tɔġa(伯父(母方)

tɔġa

katta xɔla(伯母(母方)

xɔla

kičik amaki(叔父(父方)

aka/amaki/amakiča kičik amma(叔母(父方)

amma/ammača kičik tɔġa(叔父(母方)

tɔġa/tɔġača kičik xɔla(叔母(母方)

xɔla/xɔlača

nevara(孫) nabira/navara

nevara kelin(孫の妻) kelin/nabira kelin/navara kelin nevara kuyɔv(孫娘の夫) kuyɔv/nabira kuyɔv/navara kuyɔv ɔna(母) aya/ača/buvi/ena/ɔyi/ɔpa/vɔlida

ɔpa(姉) egači/ɔpača

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ɔta(父) ada/dada/padar

pɔčča(兄の妻) jezna/yazna/yezna qaynana(姑) ɔna/qayin ɔna/qaynɔna

qaynata(舅) ada/dada/ɔta/qayin ɔta/qaynɔta qaynaġa

(夫・妻の兄)

aka/ɔġa/pɔčča/qayin ɔġa/qaynɔġa qaynegači(夫・妻の姉) qayin egači/qayin ɔpa/qaynɔpa qayni

(夫・妻の弟)

qayin ini/qayn/qaynini

qaynsiŋgil(夫・妻の妹) bɔldiz/qayin siŋgil tɔġavačča(おじの子(母方)

tɔġa/tɔġača

uka(弟) birɔdar/ini

x ɔlavačča(おばの子(母方)

xɔla/xɔlača

x ɔtin(妻) ayɔl/ortɔq/ɔila/qayliq/qalliq/rafiqa/turmuš ortɔġi/

urm yoldɔši/umrdɔš/yɔstiqdɔš/zavja/zaifa/

yaŋga(兄やおじなどの妻)

kelinɔyi

pp.42-44

により要約)

それらのバリアントの中には、方言や話し言葉、古形などが混ざっていると思われ、例えば、

er

(夫)を意味する親族語のうち、

zavj

は古形であり、

turmuš ortɔġi

は改まった場面で用いら れ、yɔstiqdɔšは詩など硬い文体で用いられる言い方である。

Isayeva(2014)は、親族語を性による区別という観点から、次の三つに分けて検討している。

1) 男性に対して使われる親族語:

dada

(父)

, ɔta

(父)

, padari buzrukvɔr

(父:古形)

, hazrat ɔtajɔn(父:古形), aka(兄), ini(弟), uka(弟), kuyɔv(年下の女性親族(娘や妹、

姪など)の夫)

, ičkuyɔv

(妻の家族と一緒に住む夫)

, oġil

(息子)

, oġlɔn

(息子)

, er

(夫)

, čɔl(夫), bɔbɔ(祖父), amaki(父方のおじ)

2) 女性に対して使われる親族語:qiz(娘), ɔpa(姉), siŋgil(妹), qayinegači(夫あるい は妻の姉)

, qayinsiŋgil(夫あるいは妻の妹) , kelin(年下の男性親族(息子、弟、甥、従

弟など)の妻), kelinɔyi(年上の傍系男性親族(兄、叔父、従兄など)の妻), ɔvsin(夫 の兄弟の妻), ɔna(母), hazrat

ɔnajɔn(母:古形) , aya(母:方言) , ɔyi(母:方言),

qaynɔna(姑), amma(父方のおば), xɔla(母方のおば), buvi(祖母) , ena(祖母:方

言), mɔmɔ(祖母:方言)

3) 性の区別なく使われる親族語:

jigar(兄弟姉妹や子など近い親族) , jigarband

(兄弟姉妹 や子など近い親族), bɔla(子), farzand(子), nabira(孫), nevara(孫), begim(夫 婦間で使われる愛称表現)

他に、親族語の呼びかけの用法や接辞添加の問題、親族語の非親族に対する使用などについても 指摘している。

Isayeva(2014)にはいくつかの問題を指摘することができる。

① 親族語の性別に関する考察は、標準語や方言、古形などが混ざっていて、きちんと整理されて いない。

② 列挙している親族語の中に、親族関係を表わさないと思われる語が混じっている。例えば、年 配男性に対する見下した呼びかけ表現である

bɔbɔy、

「私の主」という意味の

begim(夫への愛

称として用いられることもある)、「年配男性」という意味の

čɔl

(老齢の夫に対する呼びかけに

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 78-82)