• 検索結果がありません。

先行研究

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 134-137)

第二部 本論

6.1. 先行研究

6.1.1 日本語の愛称に関する先行研究

牧田(1961)は、一般的に「愛称」と言われるものの特質として次の四つを挙げている。

一、愛称は人間、動物、自然物などの対象の非公式な名称である。

二、愛称には感情の移入が行なわれている場合が多い。

三、通俗性あるいは簡便性を持つ。

四、軽妙さ、ユーモア、ウイットを含む親近性を持つ。

牧田(

1961)は、夫婦や恋人間で用いられる「ダーリン」のような愛情の強い表現は、西洋の諸

言語には豊富であるが、日本語はこのような愛称には乏しく、「あなた」「お前」といった代名詞の 音声、イントネーションを変化させることによって愛情表出を行っていると述べている。なお、花 ちゃん、太郎ちゃん、ソーニャ、ジャッキー等、名前に一定形式の変化を加えたものを愛称とする のは一般的であるが、これらは通り名、通称といった機能を兼ねることもあることから、愛称との み言いにくい場合があると指摘している。通り名、通称には必ずしも情緒効果は期待されていない からであると述べている。

山口(1985)は、「相手から揶揄されたり軽んぜられたりしている感じの呼び名をあだ名、親愛の 気持のこめられた温かい感じのする呼び名を愛称(p.168)」と考え、その両者の弁別の目安として 以下の三つの基準を挙げている。

(4) 本人の前で、本人をさす二人称代名詞的用法が可能と考えられるものを愛称とし、不 可能と思われるものをあだ名とする。(中略)

(5) 名前以外の事物を連想させることの少ない呼び名を愛称、名前以外の他の事物をただ ちに連想させる呼び名をあだ名とする。(中略)

(6) 接辞のちがいによって、愛称とあだ名とをある程度区別する。(中略)

(pp.168f)

(1)の場合、例えば本人に向かって、「やっちゃんは、どう考える?」のように、本人を指示す ることのできる呼び名を愛称とし、「はなぺちゃは、どう考える?」のように、本人に向かって言い にくい呼び名をあだ名としている。

(2)の場合、例えば「のえみ→のんこ」「ゆかり→ゆっち」のように、呼び名以外の事物を思い 起こすことの少ない呼び名を愛称とし、「金親→かねちかん」「工藤麻里→くま」のように、「痴漢」

や「熊」を連想させるような揶揄の意味をこめることが可能な呼び名をあだ名と考えている。

(3)の場合、親しみやすさ、可愛らしさを強調するものを愛称とし、田舎くささや怪獣などを

124

感じさせるものをあだ名と考え、以下のように接辞の区別を行なっている。

愛称を形成する接辞:

お――― (おけい←恵子)

お―――さん

(おたこさん←多佳子)

―――(っ)/(ん)こ

(よっこ←好美)(のんこ←のえみ)

―――(ん)た

(のんた←のえみ)

―――(っ)ち

(ゆっち←ゆかり)

―――(っ)/(ん)ちょ

(おだっちょ←小田切)(もがんちょ

←最上)

―――(っ)ぺ

(かよっぺ←佳代)

―――や

(みいや←実千代)

―――吉つぁん

(とも吉つあん←朋子)

―――くん

(たっくん←隆)

―――公

(りえ公←理恵)

―――さん

(みいさん←みゆき)

―――すけ

(ちいすけ←千恵子)

―――たん

(みいたん←美和子)

―――ちゃ

(ひとちゃ←等)

―――ちゃん

(まあちゃん←昌江)

―――ちん

(よっちん←芳子)

―――つぁん

(よっつぁん←四元)

―――どん

(まさどん←雅美)

―――のん

(きえのん←貴恵子)

―――ぴん

(けいぴん←恵子)

―――ぺぺ

(さゆぺぺ←小百合)

―――坊

(ちい坊←千恵子)

―――やん

(さあやん←佐山)

―――りん

(きょこりん←京子)

あだ名を形成する接辞:

―――ゴン

(ヨネゴン←今米)

―――さく

(すぎさく←杉本)

―――じ

(きゃじ←恵子)

―――べえ

(むらべえ←村井)

―――ぺえ

(じゅんぺえ←純子)

―――マン

(タマルマン←田丸)

―――ラ

(ガモラ←岡本)

(pp.169-171によりまとめ)

安富(2005)は、親愛の気持を込めて呼ぶ言い方を愛称とし、不快な感じを与える言い方を愛称

125

とは認めないという立場を取っている。同論文では、ゼミに出席している学生の報告に基づいて、

日本語の人名に基づく愛称を形成する形式として次のようなものを挙げている。

① 敬称類接辞(「さん」「くん」「ちゃん」等)や愛称形成接辞(「たん」「ちん」「ぺ」「ぴー」等)

の添加によるもの。

② アクセントの変更(やまもり、山森→山盛り等)

③ 苗字や名前の短縮(山田→やま、滋通(しげみち)→しげ等)

④ 苗字や名前の反復(釣→つりつり、真帆→まほまほ等)

⑤ 苗字や名前の頭文字を取ったもの(鈴木→すー、雅子→まー等)

⑥ 苗字と名前との混合(小林有紀→こばゆき、佐藤憲作→さとけん等)

⑦ セグメンテーションの変更(手塚美奈子→てづかみ、倉田真由美→くらたま等)

⑧ 倒置(加藤→トーカ など)

⑨ 音訓の変更(康成(やすなり)→こうせい、詠子(えいこ)→うたこ等)

⑩ 音声変化(たくひと→たくっと、のりこ→にょりこ等)

さらに、それらを組み合わせたものとして以下のような例が多くみられると述べている。

短縮→接辞付加(「やまちゃん」(山田→やま(短縮)→山+ちゃん(接辞付加)))

短縮→接辞付加→音便(「やっさん」(安田→安(短縮)→安+さん(接辞付加)→やっさん(音便))) 短縮→反復(「うりうり」(瓜谷→瓜(短縮)→うりうり(反復)))

混合→短縮→倒置→接辞付加(「ゆばさん」(小林由紀→こばゆ(混合)→ばゆ(短縮)→ゆば(倒 置)→ゆば+さん(接辞付加)))

音訓の変更→短縮→接辞付加(うたちゃん(詠子→うたこ(音訓の変更)→うた(短縮)→うた+

ちゃん(接辞付加)))

p.58

により要約)

また、女子の愛称形成に用いられる「お+○○+ちゃん、さん、様」の組み合わせ(おせんちゃ ん、おたけさんなど)や苗字や名前から連想される事柄に因むもの(幹男→ミッキー、今富→トミ ーなど)もあると指摘している。

6.1.2 ウズベク語の愛称に関する先行研究

ウズベク語の愛称に関する先行研究として

Ma’ruf

(1941)、

Rahmatullayev

(2006)などが挙げ られる。

Ma’ruf

(1941)では、可愛がりや縮小(いわゆる指小辞のこと)、親愛、尊敬、軽蔑などの意味を

表わす愛称形成接辞を、次の

10

種類に分けている。

-ča

例:yigit(青年)→yigit-ča、uy(家)→uy-ča

-čak、-čɔq

例:kelin(嫁)→kelin-čak、qozi(子羊)→qozi-čɔq

-čiq、-čuq

例:tɔy(子馬)→tɔy-čiq、qɔp(袋)→qɔp-čiq

126

-lɔq

例:tɔy(子馬)→tɔy-lɔq、qiz(女の子)

→qiza-lɔq

-gina、-kina、-qina

例:bɔla(子)→bɔla-gina、tentak(馬鹿)→tentak-kina

-jɔn

例:Turġun(人名)→Turġun-jɔn、

ɔna(母)→ɔna-jɔn

-xɔn

例:Dilbar(人名)→Dilbar-xɔn、

Salima(人名)→Salima-xɔn

-ɔy

例:Yɔqut(人名)→Yɔqut-ɔy、

Halima(人名)→Halima-ɔy

-ay、-ey

例:bɔbɔ(祖父)→bɔbɔ-y、

ɔtasi

(父さん!(夫に対する呼びかけ))→ɔtasi-ey

-kay

例:bɔla(子)→bɔla-kay

(pp.117-122により要約)

Ma’ruf(1941)ではこれ以上何も述べていないが、筆者の了解では、⑥~⑧は個人名や親族名な

どの人を表す名詞に添加して愛称を形成する接辞である。一方、①~⑤と⑨~⑩は普通名詞に添加 できる接辞である。

なお、⑥~⑧を用いた語形が愛称としての意味を失い、普通の人名として用いられる場合がある。

例えば、筆者の個人名である「Ma’mur-jɔn」(Maamoorjon)の-jɔnは、本来愛称形成接辞であるが、

もはや名前の一部であり、愛称としての意味合いはない。そのほか、実例として

Ma’murjɔn Uzɔqov

(ウズベキスタン人民歌手、名誉歌手)、Kɔmiljɔn Ɔtaniyɔzov(ウズベキスタン人民芸術家、作曲 家)、

Anvar Ɔbidjɔn

(ウズベキスタン人民作家)、

Ma’rufjɔn Murɔdillayev

(スポーツ選手、金メダ ル保持者)などがある。

Rahmatullayev

(2006)は、人名に添加することができる接辞として-jɔn(buvi-jɔn、

Ɔlim-jɔn)

-xɔn

(Kɔmila-xɔn)、

-ɔy

(Tursun-ɔy)の他に、

-bɔy

(Ravšan-bɔy)という接辞についても指摘して いるが、それ以上のことは触れていない。

以上挙げた

Ma’ruf

(1941)も

Rahmatullayev

(2006)も接辞添加の指摘のみにとどまっており、

使用頻度や使い分けなど詳しい研究は行っていない。また、彼らの挙げた接辞の中には、

6.4.2

で指 摘する通り、男性名にだけ付けられるものと、女性名にだけ付けられるもの、また両方に付けられ るものが存在するが、その事実に関しても言及されていない。また、ウズベク語では、愛称形成の 手段に省略という方法もあるが(例えば、Baxtiyɔr→Baxti、Xɔlmurɔd→Murɔd など)、それに関 しても言及がない。

本稿では、従来の先行研究などにおいてほとんど指摘されていない省略と接辞添加による愛称形 成法に重点を置いて考察する。なお、今回は個人名から形成される愛称(以下、「人名愛称(安富

2005)

」と呼ぶ)を中心に分析を行う。ウズベク語には、個人名から作られる愛称の他に、普通名詞

に一定の接辞を付けることで「愛称」として用いられるものがある。例えば、親子や夫婦、恋人間 などで用いられる愛情の強い表現である

jɔn-im(私の魂)や tɔyčɔġ-im(私の子馬)などがそうで

ある。このような愛称表現については今後の課題とし、本稿では扱わない。

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 134-137)