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まとめ

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 175-182)

第三部 結び

7.1. まとめ

以下、これまで述べてきたことを章ごとにまとめて再確認する。

<序論:第

1

章、第

2

章>

1

章(本論文の目的)

1

章では、本論文の目的および研究対象について述べた。そして、ウズベク語の先行研究や調 査データおよび資料を記述する際の表記や訳などについての説明を行った。

2

章(ウズベク語概観)

2

章では、ウズベク語の全般的な概説を行った。ウズベク語が話されている地域や方言差など について述べた後、本論文を理解するうえで必要となるウズベク語の音韻的特徴や文法を概説した。

まず、ウズベク語の諸方言については、今のところ有力な分類方法の一つである

Reshetov et al.

(1978)の

3

分類法:

1)

カルルク・チギル・ウイグル方言、

2)

キプチャク方言、3) オグズ方言と いう三つのグループを紹介し、それぞれの音韻的な特徴や下位分類などについて述べた。

次に、音韻体系や音節構造について述べた。

最後に、ウズベク語の文法を概観し、名詞の数や格、所有人称接尾や人称代名詞などについて簡 潔に述べた。

<本論:第

3

章~第

6

章>

3

章(本論文をめぐる基本概念と分類)

3

章では、本論文をめぐる基本概念と下位分類を整理した。本論文で扱っている人称代名詞、

親族語、愛称をそれぞれ次のように定義した。

165

人称代名詞

まず、「人称」という概念について、仁田(2014)にしたがって「名詞が話し手(に属するもの)

のことを指示しているのか、聞き手(に属するもの)のことを指示しているのか、それ以外のもの を指示しているのか、という違い、および、それに対応するかたちで述語などに形態変化等が起こ る現象(p.470)」と定義し、話し手自身を指す「一人称」、聞き手を指す「二人称」、話し手と聞き 手以外の第三者を指す「三人称」を表す語類を「人称代名詞」と呼ぶことにした。その下位分類と して、「私、俺」などの類を「一人称代名詞」、「あなた、君」などの類を「二人称代名詞」、「彼、彼 女」などの類を「三人称代名詞」として設けた。

親族語

渡辺(1978)は、血縁関係または婚姻関係という社会関係とこれらに伴う権利・義務や役割の相 互認知とその履行を条件とし、人間と人間の社会的組合せ一般を抽象したときに生ずる言語的意味 を「親族」と定義し、その言語的意味を何らかの意味で担っている単語を「親族語」と呼んでいる が、本論文では、渡辺(

1978)の定義に従い、

「親族語」という術語を用いることにする。その下位 分類として、例えば「お父さん」「お母さん」のように呼びかけにも言及にも用いられる親族語を「親 族呼称」とし、「父」「母」など言及する場合にのみ用いられる親族語を「親族名称」とした。

愛称

本論文では「愛称」を亀井・河野・千野編(1996)にしたがって「話し手が言及の対象に対する 親愛の情を表わす言い方に特有の語。人名を別の呼び方で用いたり、普通名詞も一定の接辞や短縮 による別の形で用いる。(

p.1)

」と定義し、ウズベク語の人名愛称を中心に考察を行った。

4

章(人称代名詞)

4

章では、人称代名詞に関する記述を行った。まず、両言語の人称代名詞をめぐる先行研究を 概観し、その問題点を指摘した。現代ウズベク語の二人称代名詞

siz

は、学校の教科書や文法書な どでは、複数の二人称代名詞として位置づけられ、単数の敬称二人称としての用法はその存在が指 摘されるにとどまることが多い。しかしそのような記述では、現代ウズベク語の

siz

の用法を正確 に把握しているとは言えないと思われる。なぜなら

siz

は、現代語では敬称の単数二人称代名詞へ の変化を遂げつつあると考えられるからである。本論文では、

siz

を敬称の二人称代名詞として解釈 したほうが矛盾なく説明できることを提案する。調査方法は、ウズベク語の文学作品

27

作品から 収集した会話文の資料に基づいて、主としてウズベク語の二人称代名詞の使用実態を調べ、その特 徴を検討した。また、二人称代名詞

sen・ siz

の使い分けと所有二人称接尾辞との関係および動詞人 称語尾との一致現象について実例に基づいて考察した。なお、日本語については、先行研究から得 た例の検討に留まった。

調査の結果、元来複数二人称代名詞として位置づけられてきた

siz

は現代語では複数用法として ほぼ用いられず、もっぱら敬称の単数二人称代名詞として機能していることが明らかになった。次 の表を見ていただきたい。

166

76. 現代ウズベク語の人称代名詞の体系(=表 13)

人称 単数 複数

1人称 men/man biz/bizlar

2人称

親称 sen/san

siz(稀)/sizlar

senlar/sanlar(粗野)

敬称 siz

3人称 u ular

まず、二人称単数形は、対話者との関係によって、自分より年下あるいは同年齢の相手に対して 親しみを込めて用いる

sen

(親称)と、自分より年上の相手に対して敬意を込めて用いる

siz

(敬称)

の区別がある。二人称単数の

sen

には、交替形として用いられる

san

という形式がある。両者の違 いは、

sen

は話し言葉でも使えるし、書き言葉でも使えるニュートラルな形式であるのに対し、

san

は話し言葉では使えるが、書き言葉としては普段使わない形式である。

二人称複数形は

sizlar、senlar

という形式を用いるのが普通である。両者の違いは、sizlarは、

親称で話し掛ける(複数の)相手に対しても敬称で話し掛ける(複数の)相手に対しても用いるこ とができる待遇的に中立的な代名詞であるのに対し、

senlar

は、同等以下の複数の相手に対して、

主としてマイナス評価を込めつつ見下して呼ぶ場合に用いられる代名詞である。

親称と敬称の使い分け方は、以下の諸点にまとめられる。

① 親族関係において、一般的な傾向として、両親やおじ・おば、兄・姉など自分より年上の親族

に対して

siz(敬称)を用い、弟・妹、甥・姪、子、孫など年下の親族に対して sen(親称)を

用いる。なお、嫁や婿あるいは兄弟姉妹の配偶者などに対して敬称を用いるのが普通であるが、

時間が経つにつれて仲良くなり親称に移ることも少なくない。

② 夫婦間では、一般に、夫が妻に対して親称を用い、妻が夫に対して敬称を用いるが、女性の社 会進出が進むにつれ、互いに敬称を用いる夫婦も増加してきている。

③ 非親族関係では、初対面やあまり知らない人、上司や先輩、年上の知り合いなどに対して敬称 を用い、友人や年下の知り合いなどに対して親称を用いるのが一般的である。なお、相手が子 供である場合は、たとえ初対面でも親称を用いるのが普通である。

ウズベク語では、主語の人称や数に応じて所有人称接尾辞や動詞の人称語尾が変化するが、二人 称単数の親称と敬称の場合も同じく、senを使うかそれとも

siz

を使うかによって、それぞれ違う 所有人称接尾辞と人称語尾が付く。筆者が調べた限りでは、親称は二人称単数の活用をし、敬称は 二人称複数の活用をする。以下の表に示した通りである。

77. 現代ウズベク語の所有人称接尾辞の体系(=表 14)

母音で終わる単語 子音で終わる単語

1人称 -m -im

2人称 親称 -ŋ -iŋ

敬称 -ŋgiz -iŋgiz

167

3人称 -si -i

1人称 -miz -imiz

2人称 親称 -ŋ -iŋ

親称・敬称 -ŋ/-ŋgiz/-ŋlar -iŋ/-iŋgiz/-iŋlar

3人称 -si -i

78. 現代ウズベク語の人称語尾系列(=表 22)

人称

1人称 -man -man -m -(a)y

2人称 親称 -san -san -ŋ -φ/-gin

敬称 -siz -siz -ŋgiz -(i)ŋ/-(i)ŋgiz

3人称 -φ -di -φ -sin

1人称 -miz -k -(a)ylik

2人称

親称 -san/-sanlar -san/-sanlar -ŋ/-ŋlar/-lariŋ -φ/-(i)ŋlar/-lariŋ

親称・敬称 -siz/-sizlar -siz/-sizlar -ŋgiz/-ŋgizlar/-ŋlar/-lariŋ/

-lariŋgiz

-(i)ŋ/-(i)ŋlar/-(i)ŋgiz/

-(i)ŋgizlar

3人称 -φ/-lar -di/-dilar -φ/-lar -sin/-sinlar

今回の調査で明らかになったウズベク語の人称代名詞と、4.1.1 で整理した日本語の人称代名詞

(及びそれに相当する語)を対照して、大きな違いとともにわずかではあるが類似性も見いだせた。

まず、相違点としては次の諸点が認められる。

① 日本語には、「あなた」「あんた」「君」「お前」「貴様」など二人称代名詞として用いられる語 の種類が多く、話し手と聞き手の人間関係によって適宜使い分けられているが、いずれも使 用対象及び使用範囲がかなり限定されている。一方、ウズベク語の二人称代名詞は、種類が 少ないが、使用範囲が日本語に比べて遥かに広い。例えば、ウズベク語の二人称代名詞

siz

(sizlarも)は、目上の人や見知らぬ人は勿論、友人や恋人、目下の人にまで使うことができ るのに対し、日本語の二人称代名詞(及びそれに相当する語)は、いずれも同等以下の人に 対してのみ用いることができるという使いにくさがある。家庭内においても、日本語では、

自分より年上の者に対して人称代名詞の使用を避ける傾向があるが、ウズベク語では問題な く使える。

② 日本語ではジェンダーによる言語使用の差が大きく、人称代名詞の使用においても、男女そ れぞれに専用の人称代名詞が存在するが、ウズベク語ではそのような現象はみられない。

③ 日本語では人称代名詞「あなた」や「君」などを呼びかけ語として用いることができるが、

ウズベク語ではそのような用法はみられない。

類似点としては、日本語では、人称代名詞が省略されることが多いと言われるが、これはウズベ ク語にも共通する性質である。しかし、人称代名詞が省略される要因は、日本語とウズベク語とで はそれぞれ異なる。日本語では、敬語表現や授受表現が多用され、これらの表現における人称暗示 機能や方向性の明確さが人称代名詞の使用頻度差に影響する主な要因となっている。

ドキュメント内 Halnazarov Maamoorjon (ページ 175-182)