第 4 章 大学入試自由作文問題分析(調査 1)
4.7 調査 1 の成果
手として想定した作文を書く機会だけが多くなる負の波及効果が考えられる。
4.6.6 語数
語数に関しては、学習導要領に記述はないため、各大学が求める作文の分量を設定してい る語数が波及効果を与える可能性がある。語数設定として最も多かった語数が 100 語であっ たため、学習者の学習や授業で行われる自由作文の語数は 100語を目安に行われることが多 いと考えられる。
また、自由作文問題の語数設定は、半数近い約 45%の問題で 100 語未満だった。これは、
Hamp-Lyons (1991)の挙げるライティングの直接テストの特徴のひとつである「100語以上
書くことを求められる」条件を満たしていない。つまり、半数近い問題の作文は、一般的に ライティングとみなされる分量に達していない。語数が少ないため、書き手の意見が十分に 反映される作文にすることができない、または説明や具体例が不十分である作文になってし まうことが推測できる。この点は、松井(2006)も指摘している通り、設定語数が少ないため に、一般論から抜け出せない個性のないエッセイもどきの練習と指導を促すことになってし まうことが危惧される。
この点は、学習指導要領と大学入試問題の重なりの視点から考えると、正と負は判断でき ないが、100 語未満の作文を最終目標とした学習及び指導がされることは、学習者の英語能 力育成にとって良いことではない。
自由作文問題が出題されている大学入試は約 3割と一部に限られているが、配点割合も25
~50%の問題が確認され、自由作文問題が出題されている大学の受験者に強い影響を与える ことが予測された。このことから、全ての受験者ではなく、自由作文問題が出題されている 大学を受験する学習者にのみ、自由作文を書く学習を促進することが予測される。
続いて、予測された 6点の指導への負の波及効果を示す。
負の波及効果 1 高校の授業で自由作文指導をする機会を抑制する
自由作文問題が出題されている大学入試が約 3 割という数値から、教室の中には自由作文 問題を出題していない大学を受験する生徒の割合が高いと推測され、結果的に自由作文指導 に使用する時間が制限されることが予測される。
負の波及効果 2 日本語を英語で書くことを最終目標とした指導を促進する
書くことに関する問題として、和文英訳問題を出題している 大学入試が 28.87%と、自由 作文問題を出題している大学入試の 29.29%と同程度の数値を示していることから、与えら れた内容を英語で書くことを目標として学習・指導することを促進し、学習者が自分の考え を書いて表現する機会を奪ってしまうことが予測される。
負の波及効果 3 統合的な作文の指導を抑制する
文章や音声などの情報が与えられ、その内容について書く問題が出題されている大学入試 が 3 割を下回り、その中には日本語の文章を与えられる問題も含まれていた。ことから、英 語で読んだことについて書いたり、聞いたことについて書いたりするなどの統合的な作文を する機会が制限されると予測される。
負の波及効果 4 エッセイのジャンルに偏った作文の指導をもたらす
大学入試の自由作文問題で求められている作文のジャンルの割合は 、エッセイの 78.75%
に対し、手紙などの他のジャンルは 10%以下の数値を示し、エッセイの作文を求める問題に
偏っていた。このことから、エッセイを書く機会は促進されるが、手紙やポスターなど、そ れ以外のジャンルの作文を書く機会が制限されると予測される。
負の波及効果 5 意見型の文体に偏った作文の指導をもたらす
大学入試の自由作文問題で求められている作文の文体の割合は、意見型の82.25%に対し、
他の文体は 10%以下の数値を示し、意見型の作文を求める問題に偏っていた。意見型の作文 には説明型、描写型、語り型の特徴が含まれるものの、意見型の出題が突出している ことか ら、意見型の作文を書く機会は促進されるが、説明型、描写型、語り型の作文を書く機会が 制限されると予測される。
負の波及効果 6 特定の読み手を想定しない作文に偏った指導をもたらす
大学入試の自由作文問題では、読み手が設定されている問題が 6.25%に対し、読み手が設 定されていない問題が 93.75%と大きく偏っていた。このことから、一般の人々を読み手と した作文を書く機会は促進されるが、海外の友人や日本の友人、先生など、様々な読み手を 想定した作文を書く機会が制限されると予測される。
以上のことから、学習指導要領の視点から見ると、大学入試の自由作文問題は多くの負の 波及効果をもたらすことが予測される。これにより、まず学習者は英語を書く機会そのもの を制限されてしまい、英語を書く能力を向上させることができなくなってしまう。また、書 く機会があっても、特定の読み手を想定しない意見型のエッセイを書くことが多くなってし まい、多種のライティングに対応できる力を育成することができない。その結果、学習指導 要領で設定している目標の達成から遠ざけてしまうことが考えられる。