第 3 章 関連研究
3.7 学習指導要領と大学入試の重なり
3.7.1 自由作文問題
テストを その特 徴ごとに 分類す る 観点のひと つとし て、直接 テストと 間接テスト がある (Hughes, 2003)。直接テストとは、問題作成者が測定したい技能を受験者が実際に運用する テストを指す。間接テストとは、問題作成者が測定したい技能の下位能力を測定することで、
測定したい能力を間接的に測定するテストを指す。例えば、手紙の返事を書く能力を測定し たい場合、実際に返事の手紙を書かせる問題は直接テストであり、手紙の返事として正しい 文章を選択させる問題は間接テストである。
ライティング技能における直接テストの代表例は自由作文問題である。加瀬(1994)は、自
由作文を「自分の思考感情をはじめ、表現したいことを自由に英文で書くこと」としている。
また、Hamp-Lyons (1991)は、ライティングの直接テストの特徴を 5つ挙げており、それは
(1)100語以上書くことを求められ、(2)指示や文章、絵などのプロンプトが与えられ、(3)受験
者が書いたものを、少なくとも 1人、通常 2人以上の訓練を受けた採点者が評価し、(4)評価 者の判断が共通の採点基準で統一され、(5)得点によってその評価が下されるもの、としてい る。この特徴のうち(1)の語数に関しては、日本の大学入試では自由作文問題例 1の様な 100 語を下回る語数が設定されている自由作文問題も出題されている。これらの特徴のうち、(3) と(4)に関しては、日本の大学入試環境において、確認はできないが、満たされていると仮定 する。それを踏まえ、本研究では、自由作文問題を、指示や文章、絵などが与えられ、受験 者が自分の思考感情をはじめ、表現したいことを自由に英文で書く問題と定義する。
自由作文問題例 1 2
(B) 今から 50 年の間に起こる交通手段の変化と、それが人々の生活に与える影響
を想像し、50~60語の英語で具体的に記せ。
(東京大学 前期日程 2008年2月 26日実施)
Weigle (2002)は、Purves
et al
. (1984)とHaleet al
. (1996)を参考に自由作文問題を分析 する際の観点として、「主題」、「与えられる情報」、「ジャンル」、「文体」、「展開パターン」、「認知的要求」、「読み手」、「役割」、「スタイル」、「長さ」、「時間制限」、「プロンプトの文言」、
「プロンプトの選択」、「筆者方式」、「採点基準」の 15観点を挙げている(表3.1)。
これらの特徴のうち、「ジャンル」とは、書かれた文章の形式と機能を示すものを指し、例 として手紙やエッセイ、研究報告書などが挙げられる(Weigle, 2002)。
表3.2 自由作文問題を分析する際の観点(Weigle, 2002参照)
観点 例
主題 自分自身、家族、学校、テクノロジー、など 与えられる情報 文章、複数の文章、グラフ、表
ジャンル エッセイ、手紙、メモ、広告 文体 物語文、描写文、説明文、主張文
展開パターン 手順、比較・対照、原因・結果、分類、定義
認知的要求 事実・意見の再現、情報の(再)構成、応用、分析、統合、評価 読み手 自分自身、教師、クラスメート、一般大衆
役割 自分自身、第三者、仮定の人物 スタイル 形式的、非形式的
長さ 1/2ページ、1/2~1ページ、2~5ページ 時間制限 30分以内、30分~1 時間、1~2 時間
プロンプトの文言 疑問文 vs. 平叙文、暗示 vs. 明示、提示される背景情報の量 プロンプトの選択 選択可能、選択不可能
筆写方式 手書き vs. ワードプロセシング
採点基準 内容・構成重視、言語的正確さ重視、明記なし
また、「文体」の分類方法は研究者によってしばしば異なる。Beck and Jeffery (2007)は、
文体を「説明(explanation)」、「物語(narrative)」、「報告(report)」、「意見(argument)」の 4 つに分類しており、その構成やレジスターの特徴を示している(付録1)。また、大井他(2008) は 、Bain (1890)の 分 類 を 踏 ま え 、「 語 り 文(narration)」、「 描 写 文(descriptive)」、「 説明 文
(exposition)」、「論証文・意見文(argumentation)」の 4 種類の文体についてその特徴を解説
している。この2者によるの分類のうち、「物語」と「語り文」、「意見」と「論証文・意見文」
は内容が一致している。また、Bain (1890)の「説明文」は Beck and Jeffery (2007)の「報告」
と「説明」を含む上位概念である。このことから、本研究では、Bain (1890)を踏まえた大井 他(2008)の分類を参考に、4 つの分類を「物語文」、「描写文」、「説明文」、「意見文」として 使用する。大井他(2008)とBeck and Jeffery (2007)を踏まえた文体の特徴は、表 3.3の通り である。
表3.3 文体の特徴(大井他, 2008; Beck & Jeffery, 2007参照)
文体 特徴
語り文
ある状 況にお ける特 定の 人物の 視点 から出 来事が 時系列 に書 かれ た 文章。過去形の動詞、人称名詞、時系列的な出来事の表現を助ける接 続詞や副詞が多く使用される。
描写文 人やもの、場所など知っているものを相手に伝える文章。様子を表現 する形容詞や場所を表す前置詞または前置詞句が多く使用される。
説明文 事実や物事を論理的に解説したり、情報を伝えたりする文章。
意見文
著者の 立場を 明らか にし てその 意見 を客観 的かつ 論理的 に書 かれ た 文章。現在形の動詞、抽象的な概念を示す名詞の他に引用などが使用 される。
採点基準は、測定されている構成概念を最も具体的に表しているため(Weigle, 2002)、その 自由作文問題が何を測定しているのかを知るための重要な情報である。
採 点 基 準 の 種 類 は 大 き く 3 種 類 に 分 け ら れ 、 そ れ ら を 用 い た 採 点 方 法 を 、 全 体 的 採 点 (holistic scoring)、分析的採点(analytic scoring)、特性に基づいた採点(trait-based scoring) という(Hyland, 2003)。全体的採点とは、ひとつの統合された尺度に基づく採点方法で、例 としてはTOEFL iBT Independent Writing Rubrics(付録2a)やCambridge ESOL のライ ティング採点表(付録2b)などが挙げられる。分析的採点とは、観点別に採点し、それらの 合計点を算出する方法で、例としては ESL Composition Profile(付録 2c)、IELTSライテ ィング・セクションの Band Descriptors(付録 2d)などが挙げられる。特性に基づいた採 点 と は 、 特 定 の ト ピ ッ ク や ジ ャ ン ル に 特 化 し た 採 点 基 準 を 用 い た 採 点 方 法(Hamp-Lyon, 1991)で、その採点基準尺度は、どの作文にも適用できるものではない。また、世界的な大規 模標準テストや学術書ではほとんど扱われないが、日本では減点法という採点方法も目にす る。これは、設定した誤りの数に応じて、予め設定された満点から点数を引き、残った点数 をその問題での獲得点数とする採点方法である。この方法については、単純にすべての誤り を減点の対象としてしまうと、書けば書くほど減点される可能性が高くなり、結果的 に点数 が低くなってしまう問題点もある(根岸, 東京都中学校英語教育研究会, 2007)。
ここで例として挙げた大規模標準テストの採点基準はいずれも採点基準を公開している。
それを見れば、それぞれのテストでどのような能力が測定されているのかが分かる。また、
全体的採点を採用しているテストの中には、どのような作文がどの得点として評価されるの か、実際の作文例を公開しているテストもあり、具体的に受験者が目指す作文像を知ること ができる。