第 6 章 教師への調査(調査 3)
6.6 考察
6.6.2 大学入試自由作文問題の高校教員への波及効果に関する教師要因
教師の持つ自由作文の採点基準観について、授業採点基準と入試採点基準像について質問 したが、2 つの採点基準からは同じ 4 つの因子「文章全体の整合性」、「文の意味の正確さ」、
「表現の多様性」、「機械的技能」が抽出された。また、クラスター分析と分散分析の結果、
それぞれの採点基準において、2 つの教師グループが形成された。授業採点基準については
「熟達度採点群」と「独自採点群」、入試採点基準像については「熟達度採点基準像群」と「独 自採点基準像群」の教師グループに分類された。
さらに、入試採点基準像(独立変数)から授業採点基準像(従属変数)を予測した重回帰分 析の結果、従属変数と同じ因子名である独立変数のみが有意な標準偏回帰係数を示した 。ま た、分析後の教師への質問の中で、4 名中 3 名が、大学入試の自由作文問題の採点基準が公 開された場合、授業での作文の採点基準として利用すると回答した。授業での採点基準に関
しては、分析後の質問の中で、4 名中2 名の教師は生徒の能力に応じて調整すると回答した。
このことから、現在は教師間でおおよそ共通した採点基準の考えがあり、それが使用されて いるが、大学入試で使用される採点基準が公開されれば、授業での作文評価に影響がでるこ とを示唆している。このことは、Wall and Horák (2006, 2008, 2011)の結果と一致しており、
日本の大学入試環境でも採点基準の波及効果に及ぼす影響の大きさが確認できた。
6.6.2.2 教師の自由作文採点基準に関する考えと指導の関係
教師の使用している授業採点基準と、教師が想定している入試採点基準像が、ライティン グの授業での大学入試自由作文問題対策活動の扱いに影響を与えている要因であるかを調べ るため、授業での自由作文問題対策活動の因子得点を対象として、授業採点基準グループ×
入試採点基準像グループ×自由作文問題対策活動種類の自由作文問題対策活動種類を参加者 内要因とする 3 要因混合計画分散分析を実施した。その結果、交互作用は有意でなく、教師 の授業採点基準と入試採点基準像の考えの組み合わせが異なる自由作文問題対策活動を引き 起こしている要因とはなっていなかった。
次に、入試採点基準像グループの差が要因になっているかを調べるため、同様の因子得点 を対象として、入試採点基準像グループ×自由作文問題対策活動種類の、自由作文問題対策 活動種類を参加者内要因とする 2 要因混合計画分散分析を実施したところ、入試採点基準像 グループの主効果が有意で、文章を書くための活動と一文を書くための活動の因子得点につ いて、独自採点群よりも熟達度採点群の方が高かった。ここから、既存の熟達度テストの採 点基準に含まれている作文の特徴が入試採点基準にも含まれていると考えている教師は、ラ イティングの授業でより多くの自由作文問題対策活動を行っていることが分かった。
また、授業採点基準グループの差が要因になっているかを調べるため、 授業採点基準グル ープ×自由作文問題対策活動種類の、自由作文問題対策活動種類を参加者内要因とする 2 要 因混合計画分散分析を実施したところ、授業採点基準グループの主効果が有意で、文章を書 くための活動と一文を書くための活動の因子得点について、独自採点基準像群よりも熟達度 採点基準像群の方が高かった。ここから、既存の熟達度テストの採点基準に含まれている作 文の特徴を授業の採点基準にも取り入れている教師は、ライティングの授業でより多くの自 由作文問題対策活動を行っていることが分かった。
以上のことから、入試で想定している採点基準と授業で使用している採点基準において、
既存の熟達度テスト採点基準に含まれている特徴をより強く意識している教師は、より多く 自由作文問題対策を取り入れていることが分かった。これは、一般的に扱われる自由作文能 力の構成概念により意識の高い教師がより自由作文問題対策活動に取り組むとも読み取れる。
一方の熟達度テストの採点基準に含まれる特徴に対して意識が低い教師に関しては、作文の 語数の多さなどを採点に含めるとの回答もあったことから、生徒にまとまった量の作文を書 かせることが大きな目標のひとつとなっている教師もいることが推測される。そのような状 況にある教師は、自由作文能力の細かな構成概念には意識があまりいかず、結果と して多く の作文活動を扱うことができないという可能性がある。
6.6.2.3 校種ごとの授業での大学入試自由作文問題対策傾向
ライティングの授業での大学入試自由作文問題対策傾向に関して、公立高校と私立高校の 校種ごとの授業での自由作文問題対策傾向グループの分布についてカイ 2 乗検定を実施した ところ、公立高校は「ミクロな視点重視群」が多く、私立高校は「様々な対策群」および「マ クロな視点重視群」の割合が多かった。つまり、公立高校の教師は、文法の解説や一文の作 文、語彙の指導など、より細かい部分の指導をより多く行って おり、私立高校の教師は、1 段落以上の作文や様々な文体の作文、文章構成の解説など、一文ではなく複数の文から構成 される文章を書くための指導を行っていた。
公立高校と私立高校のなんらかの特徴がこの違いをもたらしたと考えられるが、公立高校 と比べ、私立高校の方が、独自色の強いカリキュラムを設定しやすい環境にあり、調査に参 加した教師の所属高校で英語に関する特別な取組みを行っていた可能性もある。アンケート 調査でも、検定教科書は使用せず所属高校で作成したテキストを使用しているという回答が あった。また、本調査に参加した教師の所属する高校であるが、公立高校は様々な進学実績 を持ち比較的幅広い地域の高校だったことに対し、私立高校は難関大学に多くの進学実績を 持った首都圏の高校が多かったことが影響した可能性がある。生徒の能力が低く長い文章の 英語を書かせることができないと回答した教師もいたことから、生徒の能力が高い高校の教 師はより積極的にマクロな視点を重視した指導をしやすい傾向にあることも考えられる。
6.6.2.4 プレッシャーの度合いによる教師の指導の違い
教師は、生徒の大学進学実績に関して 5 段階での質問に対して、かなりプレッシャーを感 じていると回答した「5」の割合が約35%、「4」が約 30%、「3」が約25%、「2」と「1」は 10%未満と、少なからずプレッシャーを感じている人がほとんどだった。
このプレ ッシャ ーの度合 いによ っ て指導傾向 が異な るのかど うかにつ いて調べる ため、
度合いごとの授業での自由作文問題対策傾向グループの分布についてカイ 2 乗検定を実施し たところ、プレッシャーの度合いが「5」の教師は、「ミクロな視点重視群」の割合が高く、
「様々な対策群」の割合が低かった。また、プレッシャーの度合いが「4」の教師は、「マク ロな視点重視群」の割合が低く、プレッシャーの度合いが「3」の教師は、「ミクロな視点重 視群」の割合が低かった。以上から、プレッシャーをかなり感じている教師は文法や語彙の 学習、1 文の作文などで意味の伝わる文を書けるようにすることを、入試で少しでも得点を とる方法として選択していることがうかがえる。また、ミクロな視点を重視した活動は、セ ンター試験をはじめほとんどの大学入試問題で出題されている文法や語彙、表現を問う問題 の対策ともなるためによく指導を行っているのではないかと推測できる。 そして、極度のプ レッシャーを感じていない教師は、あまり文の正確さに偏りすぎない指導をしており、比較 的自身の信念に基づいて指導をしやすい状態にいる可能性がある。
一方、プレッシャーの度合いごとに個別の自由作文添削指導の傾向を見てみると、プレッ シャーの度合いによる偏りはなかった。これは、入試では採点基準が公開されておらず何が 重要視されているか分からないために、教師の指導信念に基づいて添削を行っていることが 推測できる。