第 5 章 受験者への調査(調査 2)
5.6 調査 2 の成果
教師の添削による対策の次に、過去問題や問題集の模範解答を読んで自分の作文の参考と する対策が多く行われていた。受験者は、模範解答を読むことで、どの程度の文章構成や表 現の豊かさが求められているのかを知ることができる。しかし、これらの模範解答は採点基 準やそれに基づくサンプル解答をもとに作成されたものではなく、あくまで出版社や著者の 想定する模範解答である。模範解答は、大学の求める解答や学習指導要領の求めるライティ ング能力とは大きく異なる可能性もある。この部分で、過去問題や問題集の出版社や著者の 解釈が学習への波及効果に影響を与えている。また、自分で書いた後に模範解答を読んで確 認するとの回答が、添削をしてもらうとの回答に比べ約25%少なかったことは、模範解答を 全く利用していない参加者もいたことを意味する。
次に和文英訳問題に取り組むことによる対策が続いた。この対策方法は、文章構成面より も文の正確さや表現のレパートリーを増やすための練習だと考えられる。和文英訳は、学習 指導要領でその記述はないものの、練習問題として多くの教科書で使用されるなど、書く練 習として高校生にとってなじみのある方法である。また、過去問題集などに掲載されている 合格者のアドバイスとして和文英訳問題に取り組むことが挙げられており、受験者 の選択を 後押しする要因となっている。
英語の文章や音声などが与えられた統合的な自由作文問題の出題に対して、過去問・問題 集以外に「英語の新聞や雑誌を読む」や「英語のニュースや講座を聞いて意見を書く」など の方法で個人的に対策を講じた参加者は少なかった。また、インタビューから、高校の補習 や塾・予備校では、問題を解いて教師または講師が解説を行うというスタイルであった。こ のことから、大学入試の統合的な自由作文問題は過去問・問題集以外の学習を促進すること は少ないと言える。
以上の様な過去問題や問題集中心の対策方法を選択する傾向 は、よりテストに即した内容 の指導や練習問題を多く取り入れた授業を求める受験者の心理を報告した Hawkey (2006)お
よびQi (2005)の報告を支持している。先行研究では授業に求めることに関する調査であった
が、本研究では授業に求めることを個人の対策方法として実行していることがうかがえた。
への波及効果である正の波及効果 1「自由作文問題が出題されている大学を受験する学習者 に自由作文を書く学習を促進する」については、ほとんどの受験者が自由作文問題を書く対 策を行っていたことから支持された。その上で、より具体的な対策行動を検討した 結果、以 下の波及効果が確認された。
受験者への波及効果1 多くの受験者に 1年以内の自由作文問題対策学習をもたらす。
受験者への波及効果2 過去問題・問題集を用い た準備学習をもたらす。特に、書いた作文 を高校の教師などに添削してもらう対策を引き起こす。
これらの成果から、大学入試の自由作文問題は、多くの受験者の自由作文に関する学習を 促進するということが言え、学習指導要領と大学入試問題との重なりから予測された正の波 及効果を確認することができた。
同時に、高校の授業のみで対策を行う受験者は稀であり、そもそも高校の授業では自由作 文を書く機会が少ないため、多くの受験者は他の場所で対策をとらざるを得ないということ も示していた。この点では、大学入試に自由作文問題が出題されていることからの波及効果 というよりは、多くの大学入試に自由作文問題が出題されていないことからもたらされる学 習への波及効果ともとらえることができる。すべての大学入試に自由作文問題が出題されて いれば、高校の授業では自由作文を書く機会が増え、結果として受験者の個人学習はもたら さないかもしれない。
学習方法に関しては、大学入試の自由作文問題は、塾や予備校を含め、過去問題・問題集 を用いた方法を促進していた。個人で学習する方法は、多くの受験者が自由作文問題を解い て先生の添削指導を受ける方法にほぼ限定されていたが、高校生の段階では自由作文対策の ための学習方法を知らないこと、書いた作文の評価を自分で判断することが難しいことが挙 げられる。
これらの波及効果を引き起こした要因として、試験問題以外に、大学受験制度、受験者の 高校生活、塾や予備校の授業、受験に関する出版物など、様々な要因が挙げられた。Wall and Alderson (1993)や Watanabe (2004a)が指摘するように、日本の大学入試環境でも、様々な 要因が複雑に絡み合って波及効果を引き起こしているようだ。
調査 2 では、大学新入生が経験した高校の授業についてもインタビューを行い、研究設問
(3)に関する考察を行ったが、これらについては、前述したとおり調査3 の結果を踏まえて第
6 章で報告する。また、調査 1 で予測された 6 点の指導への負の波及効果についての確認も 同様に第6章で行う。