第 8 章 総括
8.2 示唆
者が各大学の教育を受けるために必要な能力・適性等があるかどうかを判定するための選抜 である。しかし、大学入試はその結果が受験者の将来へ与える影響が非常に大きい高ステイ クステストであり、試験内容が高校での指導をはじめとした社会へ及ぼすの影響大きさから、
大学は有益な波及効果をもたらす問題を作成することも求められる(靜, 2006)。
そこで、有益な波及効果をもたらす問題作成のため、本研究の調査結果と Hughes (2003) の提示する有益な波及効果をもたらすための指針を踏まえ、大学の独自試験問題作成の改善 点を挙げる。有益な波及効果について確認すると、本研究での有益な波及効果とは、学習指 導要領の内容についての学習と指導を促進することである。
改善点 1:自由作文問題を出題する。
まずは、自由作文問題を入試で出題しなければならない。本研究では、大学独自入試での 自由作文問題の出題率の低さから高校の授業で自由作文があまり扱わ れないことが予測され、
全ての教師ではなかったが、実際に自由作文をあまり扱っていない教師が多く存在すること が教師へのアンケート調査から分かった。従って、自由作文問題が出題されなければ、現在 の自由作文指導の優先度が低いままである。この改善により、現在の自由作文問題が「ない」
ことによる負の波及効果を解消することができる。
改善点 2:自由作文問題のテスト細目を作成し、事前に公開する。
現在、大学入試の過去問題は公開されているが、それぞれの大学で必要としている能力を 教師や受験者がその問題から分析する必要がある。その際、分析者によって分析結果が異な る可能性もあり、大学の意図が正しく伝わらない可能性もある。また、渡部(2000)が指摘す るように、大学が必要とする能力とその基準がそもそも設定されていない可能性もある。そ れを解消するために、テスト細目を作成し、事前に公開することが必要である。
特に採点基準は、自由作文問題の測定している構成概念に大きく関係している。しかし、
それは過去問題から分析することはできず、教師個人がそれぞれ想定する採点基準に基づい た指導を促していると考えられる。その結果、大学の求める能力とは異なる作文指導を促す 可能性がある。そのため、 金谷(2009)や根岸他(2010)、松井(2006)も指摘するように、採点 基準と模範解答を事前に公開することが必要である。
また、受験者の自由作文問題対策は、授業や塾・予備校に頼る傾向にあったが、個人でも 対策方法を行っていた。その方法として過去問題集を解いて 教師に添削指導を受ける以外の 方法はほとんどとられていなかった。これは、受験者は自身で自由作文問題を分析すること は難しく、教師や問題集の解釈に頼る必要があるからとも考えられる。自由作文問題のテス ト細目を公表することにより、受験者は必要な能力を知ることができ、受験者個人での学習 を促進する可能性がある。
改善点 3:与える情報、ジャンル、読み手が異なる自由作文問題を複数出題する。
大学入試の自由作文問題は、英語の文章やグラフなどの情報を与えそれに関連した作文を 求める問題は少なく、エッセイのジャンルに偏っており、読み手が設定された問題は少なか った。そのため、教師の統合的な作文指導、エッセイ以外のジャンルの作文指導および読み 手を意識した作文指導を抑制している。これを解消するため、与える情報、ジャンル、読み 手の点で異なる自由作文問題を複数出題する必要がある。例えば 、ひとつ目の問題は、大学 在学中に取り組みたい活動について書く問題とする。ふたつ目の問題は、これからホームス テイをするオーストラリアのホストファミリーからのE メールを読み、その中に書いてある 食事の好みやホームステイ先でしたいことについての質問に答えながら、E メールの返信文 章を書く問題とする。このふたつの問題では、1問目では特に何も情報を与えられず、2 問目 では Eメールが情報として与えられる。また、1 問目はエッセイ、2 問目はE メールとジャ ンルが異なる。さらに、1問目は特定の読み手は想定されておらず、2問目では読み手をオー ストラリアのホストファミリーと設定されている。このように、複数の問題で異なる特徴を 持った作文を求めることで、統合的な作文、様々なジャンルの作文、様々な読み手を想定し た作文指導を促進することが可能である。なお、求める作文の文体については、意見文に偏 っている現在の出題傾向であっても、意見文の指導のみに偏らず、他の文体の作文指導もさ れていることから、意見文を求める問題が出題されていればよいと考える。
これら 3 つの改善点を踏まえて大学の独自試験問題を作成することで、有益な波及効果を もたらすことが考えられる。しかし、金谷(2006)が指摘する通り、多くの受験者の作文を採 点する負担が大きいという実用的な問題は存在し、複数の自由作文問題を出題することは難 しいことも理解できる。しかし、そんな中でも複数の自由作文を出題している大学もある。
以下は茨城大学前期日程教育学部(2008年2月25日実施)の問題である。
自由作文問題例 6 問題1
「テレビ依存症(TV addiction)」に関する次の英文を読んで、後の問いに答えなさい。
(英文は省略)
問 1 上記の英文で述べられている、テレビを見ることについての利点と問題点を
50語以内の英文で要約しなさい。
問2 次の意見に対し、賛成か反対かのどちらかの立場をとり、あなたの意見を 50
語以内の英文で述べなさい。
“You should not watch TV at all, because watching TV is addictive.”
問題2
次のトピックについて自分の経験や考えを 140~160 語の英文で述べなさい。
“The best moment in my life”
(茨城大学 前期日程 教育学部 2008 年2 月25日実施)
問題 1 は、英語の文章が与えられており、問 1 は文章の一部の要約問題(50 語以内)、問 2 は文章と関連したトピックについて意見文のエッセイを書く問題 (50 語以内)、問題 2 は意 見文のエッセイを書く問題(150 語程度)である。ジャンルと読み手に偏りはあるものの、
要約問題を含め、3 種類の作文問題を出題している。茨城大学教育学部の英語教科の試験は この作文問題のみの出題である。茨城大学は国立大学であるため、センター試験の結果も選 抜材料として含まれる。センター試験で他の基礎的な能力を測定しているため、独自試験で はセンター試験で測定されていないライティング能力を測定する問題のみを出題したと考え られる。このように、問題作成の負担を削減し、採点に労力を割くことは可能である。茨城 大学教育学部の受験者は毎年約 800 人と、私立大学と比較するとその数は少ないが、採点の 負担は十分大きい。しかし、負担の大きさを理由にやらないことよりもやることを選択した ことで、少なくとも茨城大学教育学部の前期日程受験者には 作文の学習・指導を促進すると いう波及効果があると考えられる。
大学側の自由作文問題の採点の負担を軽くする方法として、受験者の書く語数を少なく抑 える方法が考えられる。松井(2006)は、設定語数が多いことによる受験生の心理的負担の増 加から志願者が減るかもしれないという大学の心配に対して、文章の一部を書かせる問題を
提案しているが、この方法により採点の負担も軽くすることが可能である。文章の一部を書 かせる問題とは、序論と結論にあたる段落を予め与えておき本論にあたる部分を書かせる問 題や、本論と結論を与えておき、主題をと自分の主張を簡潔に述べる topic statement を書 かせる問題である。この問題の妥当性や弁別力、波及効果を検証する必要はあるが、この問 題と通常の自由作文問題組み合わせることで、自由作文問題採点の負担軽減が可能である。