第 3 章 関連研究
3.4 先行研究
3.4.1 指導と学習に及ぼす波及効果についての先行研究
現在まで、世界の各地で様々な言語テストの波及効果研究が行われてきている(表 3.1)。
先行研究では、TOEFLやIELTSなどの世界規模のテストや、大学入試などの国内規模のテ ストを扱っている。また、同じTOEFLであっても、アメリカ合衆国(Alderson & Hamp-Lyons, 1996)や中央・東ヨーロッパ(Wall & Horák, 2006, 2008, 2011)など、異なる環境での波及効 果について研究されている。
Alderson and Hamp-Lyons (1996)は、アメリカ国内の外国人向け TOEFL対策コースと一 般英語コースの指導を比較し、TOEFLの波及効果を調査した。その結果、TOEFL対策コー
スでは TOEFL の問題を解く活動が見られたり、一般英語コースの方がペア活動時間が多か
ったりするなど、指導内容と指導方法の両面で TOEFL の波及効果が見られた。しかし、そ れらの影響は教師によって異なっていた。この結果から、TOEFL だけが 2 つの授業の差を 産み出した理由ではないということが示唆された。
Wall and Horák (2006, 2008, 2011)は、2005年から 2006年にかけて行われた TOEFL iBT の導入に際して波及効果の縦断的研究を行った。彼らは、中央および東ヨーロッパの教師を 対象に、新しいテストの前後の指導を比較した。教師は、新テストで導入されたスピーキン グと統合的な技能の育成により重点を置くようになり、新テストで削除された文法問題に関 する指導は減ったが、他の側面ではあまり変化がなかった。そして、指導方法については、
教師によっ て変化 の程度が 異なっ て いた。また 、教師 は授業で 使用して いるテキス トから
TOEFL の求める能力を読み取り、授業に反映させていることから、テキストの指導に与え
る重要さも明らかになった。
Hayes and Read (2004)は、ニュージーランド国内の English for Academic Purpose (EAP) コースと International English Language Testing System (IELTS)対策コースの授業を比 較し、IELTSの波及効果を調査した。EAPコースでは、4 技能それぞれに同じくらいの時間 が割かれ、様々な種類の活動が扱われていた。一方の IELTS対策コースでは、リスニングに 授業のおよそ半分の時間が割かれ、対策本を使用した IELTSの問題を解く活動が重点的に扱 われており、IELTSの波及効果は明白だった。
Hawkey (2006)は、世界のIELTS対策コースの教師と受講者への波及効果を調査した。そ
の結果、教師は IELTS対策のテキストの他にも受講者と英語でコミュニケーションをとった
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表3.1 過去の波及効果研究のまとめ
研究者 国 対象テスト 対象者 方法
Alderson & Hamp-Lyons (1996)
アメリカ合衆国 TOEFL 教師、学習者 インタビュー、授業観察
Wall & Horák (2006, 2008, 2011)
中央・東ヨーロッパ TOEFL 教師 アンケート、インタビュー、
授業観察、教材分析
Hayes & Read (2004) ニュージーランド IELTS 教師、学習者 アンケート、インタビュー、
授業観察、テスト
Hawkey (2006) 世界各国 IELTS 教師、学習者 アンケート、インタビュー、
授業観察、教材分析
Green (2007) イギリス IELTS Academic Writing Module 教師、学習者 アンケート、インタビュー、
授業観察、テスト
Wall & Alderson (1993) スリランカ Sri Lankan O-Level Test 教師 アンケート、インタビュー、
授業観察、教材分析、テスト 分析
Shohamy et al. (1996) イスラエル Arabic Second Language test,
English Foreign Language test
教師、学習者 アンケート、インタビュー、
テスト実施者の報告書 Cheng (1997, 1998, 1999,
2004, 2005)
香港 HKCEE (Hong Kong Certificate
of Education Examination)
教師、学習者 アンケート、インタビュー、
授業観察
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Shih (2007) 台湾 General English Proficiency
Test (GEPT)
学習者 インタビュー、授業観察
Li (1990) 中国 NMET (National Matriculation
English Test)
教師、学習者 アンケート、ディスカッショ ン
Qi (2004, 2005, 2007) 中国 NMET 教師、学習者 アンケート、インタビュー、
授業観察、対象テスト得点分 析、教材分析
Watanabe (1996, 2004b) 日本 大学入試 教師 インタビュー、授業観察
Hirai, et al. (2013) 日本 大学入試センター試験 学習者 テスト
Green (2014) 日本 Test of English for Academic
Purposes (TEAP)
教師、学習者 アンケート
り、よりオーセンティックな内容を扱ったりするなど、幅広い内容と方法で指導することを 好んでいた。その一方で、受講者はよりIELTSの内容に即した指導を求める傾向にあった。
Wall and Alderson (1993)は、スリランカの新しいOレベル試験の波及効果について調査
した。1980年代、スリランカではそれまでのリーディング中心の英語教育から、リーディン グ、ライティング、リスニング、スピーキングの 4 技能の実践的な英語教育にするため、教 員養成や教科書などの改革を行った。その新しい教育体制での新しい卒業試験である Oレベ ル試験の波及効果が調査された。新しいテストは当初 4 技能を測定する予定だったが、実施 上と政治上の問題からリーディングとライティングの問題のみが出題された。調査の結果、
教室での指導内容は、リーディングとライティングが中心であり、リスニングとスピーキン グに割かれる時間は少なかった。指導方法と評価方法に関しては、教師用ガイドで推奨する 方法に変更した教師と、今まで通りの方法で指導・評価をしていた教師が混在した。多くの 教師は、教師用ガイドで示されている考え方を理解できなかったり、その内容を実行できな いと考えていたりした。また、その原因とひとつとして、教師用ガイドの内容やトレーニン グ時間が不十分だったことが挙げられた。
Shohamy,
et al
. (1996)は、ASLテスト(Arabic as a second language test)とイスラエル EFL口答テストの波及効果を調査した。その結果、ASLテストの波及効果は見られなかった。一方の EFL口頭テストには波及効果が見られ、授業内容にスピーキングの練習が多く割かれ、
多くのテスト対策テキストが制作されるなどの影響が見られた。しかし、学習者のテストに 対する不安が生まれるという負の波及効果も見られた。ASL テストは診断的な性質を持って おりその結果が受験者の将来に影響をほとんど及ぼすことはないが、EFL口頭テストは大学 入試の一部となっており、受験者の将来に大きな影響を及ぼすため、EFL口頭テストにのみ 波及効果が見られたと考えられる。
香港の新カリキュラムによる卒業試験Hong Kong Certificate of Education Examination (HKCEE)の導入による波及効果について、Cheng (1997, 1998, 1999, 2004, 2005)は長期的 な調査を行った。香港では、高等学校の英語の授業で行われている活動と、実生活で行われ ている言語活動の隔たりを小さくするため、1993 年に新しいカリキュラムが導入された。そ れに伴い、1996 年からそのカリキュラムに沿った新しい卒業試験(HKCEE)が導入された。
その変化により、指導内容に大きな変化が見られた。リスニングセクションが新しい試験で 3 技能(リスニング、リーディング、ライティング)の統合的な問題への変更されたことに より、授業ではその問題と同様の統合的な活動が増えた。また、音読と対話で構成されてい
たスピーキングセクションが、ロール・プレイとグループ・ディスカッションに内容が変更 されたことで、音読の指導がなくなり、ロール・プレイとグループ・ディスカッション活動 が授業で見られるようになった。しかし、新しい試験導入後も教師中心の授業形態は変わっ ておらず、調査が実施された 1994~1995 年の段階では指導方法への影響はなかった。また、
新しい試験の導入前と導入後の学習者では、試験に向けての学習方略や試験に対する態度に 変化はなかった。
Shih (2007)は、台湾のGeneral English Proficiency Test (GEPT)の学習への波及効果を調 査した。GEPT は5 つのレベルを持つ英語の資格試験で、各レベルの試験は点数ではなく合 否で判定される。調査の結果、多くの大学生は試験直前に少し勉強するだけであり、GEPT の波及効果は限定的であった。この原因として、GEPT が学生にとってすぐに必要な資格で ないという問題があった。また、準備方法が分からない、試験に合格するのに十分な能力を 持っていると考えている、準備をしたくないなど、学生によって試験準備をあまりしない理 由は様々だった。
中国の大学入試であるNational Matriculation English Test (NMET)は、1985年に言語知 識獲得中心の授業から言語使用中心の授業へと、英語教育を変える政策の一部として導入さ れた新しい試験である。Li (1990)による 1987年の高校の授業内容に関する調査では、新し いNMET導入前と比較して、リーディング、リスニング、ライティング、スピーキングの 4 技能の指導に割かれる時間が増え、文法指導や翻訳活動に割かれる時間が減ったとう結果が 見られた。つまり、言語知識中心の授業から言語使用中心の授業への変化の兆候が見られた ということである。
Li (1990)の調査から 12 年後の 1999 年に行われた Qi (2004, 2005)の調査では、新しい NMET 導入から 14 年が経過してもなお、言語知識獲得中心の授業が行われていると分かっ た。同時に 4 技能の指導も行われていたが、それは言語使用の練習ではなく、多肢選択問題 によるリーディング活動などの NMETの模擬問題が中心であり、テスト作成者の意図とは異 なる波及効果が見られた。NMETの選抜試験という特性や多肢選択問題中心という試験の形 式などが、教師の指導やテストに対する信念、教師の経験、教師の教育背景などと複雑に絡 み合ってこの結果となったと推測された。
また、NMET のライティング問題に焦点を当てた波及効果研究も行われた(Qi, 2007)。
NMET のライティング問題は実生活におけるコミュニケーション場面を意図して作成され ており、授業ではその問題と同じ形式である 100語程度の短い文章を書く活動が行われてい
た。しかし、文章を書く目的や読み手の存在を意識した指導はされていなかったり、文法的 正確さばかりが強調された指導になっていたりするなど、意図された通りの波及効果は得ら れなかった。
Qi (2005)は、新しい NMET の導入が、意図した波及効果をもたらさなかった影響を、教
師と受験者へのインタビューとアンケートにより調査した。その結果、試験の入学者選抜と いう役割が、言語使用中心の授業を阻んでいるということが大きな要因として挙げられた。
教師と受験者は、大学入学のためにより高い得点を獲得することが一番の目的となり、新し い問題の内容と形式を重視し、彼らは同様の練習問題を多く取り入れた授業がその目的を達 成するための最良の手段であると考えていた。
Watanabe (1996)は、大学入試の英文和訳問題が文法訳読式法の指導を促すという仮説を 検証した。国立大学の試験には英文和訳問題が多く、私立大学の試験には少ないことから、
予備校の国立大学リーディング対策コースと東京の有名私立大学 対策コースの両方を担当し ている教師 2 名の授業を比較した。その結果、ひとりの教師は仮説通り私立大学対策コース よりも国立大学対策コースの授業でより文法訳読による指導が見られたが、もうひとりの教 師はコースが変わっても文法訳読中心の授業は変わらなかった。この結果から、大学入試の 影響を受ける教師と受けない教師がいる可能性が示唆された。
Watanabe (2004b)は、大学入試の高校の授業への波及効果を調査するため、5人の教師の
通常授業と受験準備特別授業を比較した。授業観察とインタビューの結果、受験技術を重視 する、文法訳読法に頼る、英語の形式的側面の説明に重点を置く、英語の音声的側面を軽視 する、日本語の使用過多といった負の波及効果が見られた。しかし、これらの傾向は教師に よって異なるものだった。したがって、大学入試の影響は全ての教師の授業のすべての側面 に一様に及ぶわけではなく、教師の個人差が大きく、ある教師のある特定の部分にのみに関 係するようだ。
Hirai, Fujita, Ito, and O’ki (2013)は、日本の大学入試センター試験に2006 年から導入さ れたリスニングセクションの受験者への波及効果を調査した。リスニングセクションの導入 前後で大学新入生のリスニング能力を比較した結果、明確な能力の向上は見られなかった。
しかし、学部によってはリスニング学習動機が向上した可能性があることが示唆された。ま た、受験者の多くは、リスニング問題の導入を好意的に捉えていた。
Green (2014)は、Test of English for Academic Purposes (TEAP) がもたらす高校での英 語教育の変化について調査を行った。TEAPは、2014年度から日本で導入された4技能を測