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第 5 章 大都市高齢者の意識にみる生活実態と課題 ― 顕在化していない介護ニーズ

第 6 節 高齢者の生活実態にみる政策上の課題

1 全体で見る高齢化問題の課題

大連市の高齢者に対するアンケート調査の分析については、

①現在、介護・介助の状況(「必要ない」、「必要だが、受けていない」、「受けている」)

②家族構成は、独居と夫婦のみ(「空の巣家庭」)と「家族と同居(「空の巣」以外)」

③年金収入は(1,000元以下、1,000~1,499元、1,500~1,999元、2,000元以上)4層

④年齢は(60~64歳、65~69歳、70~74歳、75歳以上)4層

に区分して分析をし、この 4 つのカテゴリーによって介護ニーズと、必要となるサービ スの内容、サービス利用料金などの関係性について考察を行った。

①介護・介助の状況別では、「必要だが、受けていない」という高齢者は全体の1割を占 めている。この層の高齢者は日常生活の中で最も困っていることが多く、何らかの支援が 必要である。必要とされる社区養老サービスで、介護・介助が「必要であるが、受けてい ない」と回答した者が、「買い物」や「専門性がある介護員の派遣」、「通院介助」のニーズ が高かった。また、「受けている」の回答者では、75 歳以上の割合が高く、「通院介助」と

「精神的な慰め」が必要であるという回答者が多く見られた。

②家族構成別では、「空の巣」と呼ばれる「独居」と「夫婦のみ」世帯を合わせて45.1%

を占めている。多くの研究者が指摘するような「空の巣」の問題や高齢者の介護ニーズを 示すことはできなかった。また、本調査では、上海、浙江省、江蘇 3 つの地域の高齢者の 生活の質に対する満足度の調査報告105で指摘された独居高齢者の精神的な慰めについての ニーズは、「夫婦のみ」と「家族と同居」の高齢者より高く見られるが、有意差は見られな かった。介護ニーズには家族構成別で大きな差が見られなかったが、独居高齢者の中には 70歳以上が最も割合が高いこと、要介護予防対象者の割合が高いことから、今後、介護ニ ーズが増加してくることが予測できるし、日常生活の中には、見守りのような支援が必要 であるといえよう。

③先行研究での高齢者の実態調査の中には、低所得者のニーズについて言及するものが 多く見られた。そのうち、鄭小華(2008)は、2004年に北京市をフィールドとして70歳 以上の高齢者を対象として調査し、高齢者の養老介護サービス利用希望およびその関連要 因に関する研究を行った。鄭の結果によれば、現在の中国の養老サービスは要介護状態の 人に対して十分対応しきれていないとし、低所得高齢者(月 1,000 元以下)にとって特に 施設入居の費用負担が困難なことがその理由であると述べ、今後の中国都市部の養老サー ビスについて、要介護高齢者のニーズに応えるサービスを促進する必要があることと、低

105 上海市質協用戸評価センター(2009)「上海老年人生活質量満意度調査報告」

128 所得高齢者に配慮した介護政策を強化することが課題であると指摘している106

今回の大連市の調査の中で、年金収入を 4段階で分け、分析を行った結果では 1,000 元 以下の高齢者はサービスへのアクセスが控えめであり、家族と同居する高齢者が多く見ら れた。また年金収入が月1,000元~1,999元の高齢者に夫婦のみという家族構成がやや多く 見られたが、サービスへのアクセスを控えているように見られた。

年金収入別では、調査結果で示したように年金収入は 1,000~1,999 元の高齢者が多く、

合わせて65%を占めている。第3章に掲載していた図3-1の中国都市部住民の所得の差の

分け方でいうと、この「1,000~1,999 元」は中間所得層であることを考えられる。一方、

調査実施した時期には、大連市の平均年金収入は1,567元であったため、4層で分けて分析 を行ったが、分析結果、「2,000 元以上」の高齢者はサービスの質を重視する傾向があり、

また、入所施設の利用料金とのクロス集計した結果にも示したように、高い利用料金を選 択する回答者が多く見られた。

④年齢別では、大きな差異が見られなかったが、「60~64歳」の層の高齢者は托老所を利用 する志向性が見られ、必要とするサービスは家事援助や介護サービスより、文化・娯楽や 団体活動を利用する回答者が他の年齢層より、多い傾向が見られた。要介護予防対象には、

高い年齢層の高齢者が低下していることが明らかになった。

2 「9073」政策上の課題 1)養老施設へのニーズ

好きな養老サービスについては「養老施設」を回答したものが1割以上占めている。「9073」

の養老方式では、養老施設の整備の3%の目標は決して高い基準とは言えない。

また、施設に入ろうとする主な理由(表5-6-1)は「一人暮らしで、要介護状態になった 時」を選択する回答者は約6割で、その次は「子女による面倒を見られない時」で約 3割 であった。前にも述べたように、「60~64歳」の高齢者は一人っ子政策の対象者であったこ とから、これからは施設への需要も高くなることが推測できよう。

養老施設の条件については、「60~64歳」の高齢者だけを見ると、「介護職員の質が高い、

院内環境が良い」と「健康管理とリハビリサービスがある」への回答は他の年齢層より高 かったことから考えると、今後養老施設はサービスの質のアップと、医療面の強化が必要 だと言えよう。

106 鄭小華(2008)「北京市高齢者の養老介護サービス利用希望およびその関連要因に関す る研究」 『社会福祉学』第48巻第4号pp.131-145

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5-6-1 養老施設に入る理由とは

2)社区養老サービスへのニーズ

社区にある養老サービスを利用して、在宅養老を選ぶ高齢者は約 3 割を占めている。必 要とされる社区養老サービスへの項目で見られたように、洗濯、食事、掃除・片づけのよ うな家事援助のサービスへのニーズが高かったが、専門性がある介護員の派遣と医療・リ ハビリサービスへのニーズもそれぞれ 1 割弱を占めている。これらのニーズが専門性を必 要とするニーズなのか非専門的なものかを区別し、対応しなければならない。

3)要介護予防の高齢者

「生活機能チェックリスト評価基準」に基づく回答の分析結果からみると、その対象と なる高齢者がいる。例えば、本調査の中では、閉じこもりがちの高齢者の割合は7.9%を占 めている。閉じこもりは寝たきりとなる要因ともなり、今後この人たちへの予防対策を考 えなければならない。さらに、中国のマンションはエレベーターが付いていないものが多 く、本調査だけ見ると、閉じこもりで、2 階以上に住みかつエレベーターがない高齢者は 46人いる。この人たちへの外出支援などが必要となると言える。

4)アンケート調査の限界

本調査では、6,000人の高齢者を対象としてアンケート調査を実施し、2,232件を回収し た。未回収のアンケートは 3,768 件ある。この未回収の中には、入所また入院している高 齢者もいれば、寝たきりの高齢者もいると考えられる。

例えば、本調査を実施した翌年には、調査対象の一つの社区では、寝たきり高齢者40人 を対象として、介護ニーズのアンケート調査を実施したが、ニーズを十分に把握ができな かった。一方、このアンケート調査を実施する前の、聞き取りのほうが多くの情報収集を することができたと社区居民委員会の書記は述べている。この社区には40人の寝たきり高 齢者、さらに入院と入所の高齢者の存在を考えれば、要介護高齢者がもっと多く存在し、

ニーズが顕在化していないと言えよう。

現在、大連市の高齢化率から見ると、日本の90年代の前半とほぼ同じ割合である。当時 日本では、さまざまな議論や政策などが取り上げられたが、実際には高齢者の要介護ニー ズは今ほど現れていなかった。その後高齢化率の増加、また介護保険の実施などによって、

n %

一人暮らしで、要介護状態になった時 639 57.1%

子女による面倒を見れない時 311 27.8%

養老施設に人が多く、寂しくない 64 5.7%

医者や介護職員がいる 79 7.1%

その他 37 3.3%

130 サービスの利用条件が緩和され、高齢者の介護ニーズが顕在化してきた。

日本と同様、大連市の高齢化の特徴などから見て分かるように、今後高齢化率の増加を 伴い、要介護ニーズも増加してくることが予測できる。

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