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第 3 章 高齢化対策及び社区に関わる先行研究

第 3 節 社会保障制度からみる高齢化問題

2 社会保障制度の問題点

また、劉暁梅(2005)によれば、中国の社会保障制度は、20 年あまりの改革を通して、

初歩的ではあるが、新しい枠組みを作り出し、ある程度の経験を積み重ねるに至った。だ が、さらにもう一歩進んで改革を行うためには、依然として障害が存在する。むしろ、改 革の進展にともない、解決が困難な問題がますます表面化し、深刻になると思われる。加

72 劉暁梅(2005)「中国における社会変動と社会保障制度改革」『特集/中国・アジアにお ける〈持続可能な福祉社会〉の構想 セッション1:福祉政策』千葉大学 公共研究 第2 巻第2号

61 えて、劉暁梅(2005)は中国の社会保障制度の主な問題点を次のように整理している73。 1)社会保障法体系の未整備

法体系としては、社会保険ごとに『中華人民共和国労働法』を根拠法とする行政機関(国 務院)の発する条例に基づいて制度を発足させたことにより、社会保障法体系が必ずしも 整理されていない。加えて、国民の権利関係を律する法規としては、全国人民代表大会な どの立法機関で、個々の制度ごとに法律を制定するのが至当であろうと考えられる。

制度の設計について、漸進主義的な実験手法を採用したため、制度化が相対的に遅れが ちとなった。それゆえ、制度改革では、暫定的な方法・条例が常に制定、修正され、全国 統一的な法律がなかなか制定されにくい状態にある。

年金改革から見れば、地方(県・市)での試行からスタートしたため、地方の色が濃く、

そのため政策の規範性が欠けることに加えて、地域での経済発展が不均衡となり、立法が 遅れ、マクロ的なコントロールも無力である。

2)社会保障システムの欠如と不十分な保障

中国の社会保障システムの不足について、まず、適用範囲が狭く、保障項目が足りない。

次に、社会保障制度への監督とサービスシステムについては、年金保険を除いて、他の社 会保険分野はまだ整備されていない。また、公的保障以外に、多層的な保障システムが形 成されていない。たとえば企業年金と個人貯蓄年金の進展が遅れているため、老後の保障 負担が基本養老年金に偏ってしまう。以上のシステム上の欠陥により、セーフティ・ネッ トでカバーできる国民の数は少ない。それゆえ、制度から排除された人たちは、基礎年金 保険と社会医療保険の保障がなく、さらに老後生活援助システムもほとんどが未整備で、

農民人口、高齢者と障害者向けの福祉制度の整備も遅れがちであることから、社会的弱者 の生存権が損なわれる。

3)役割分担が不明確

現行社会保障制度においては、政府の責任あるいは公私の役割分担が明確にされていな い。たとえば、政府(国家)と市場(企業、個人)、中央政府と地方政府、旧制度と新制度 間の責任の所在は曖昧で、制度の運用において、多大な困難に直面している。

4)制度の運営が不十分

理論的に国有企業の負担の削減、公平性と効率性のバランスをとるためスタートしてき た社会保障制度の改革は、必ずしも予定通りに進んでいるとは言えない。年金を例に挙げ ると、次のような課題が生じている。①基本年金保険制度の平均水準が高く、しかも、地 域により年金水準の格差が大きいため、平均水準が低い地方では経済発展水準に合わない 水準になってしまう。②定年退職年齢に対する規定が厳格でないため、早目に定年退職し

73 同上

62 て年金受給者となる者が増えてきた。③各県・市の方法が異なっており、基金の収支状況 によって地方の利益も顕在化した。それゆえ、保険レベルは省レベル、さらに広い範囲で 基金を調整することが困難に至った。政策が地方ごとに異なるため、制度統一への転換が 難航している。④制度管理の基礎は極めて薄く、管理手段も不完全なため、様々な情報や データを科学的に収集・管理することができない。⑤年金が財政上危機に直面している。

また、医療の視点から見れば、社会プール医療保険基金と個人の医療保険口座の結合に よって社会医療保険制度が確立されたが、個人口座と社会プール基金の有効性は必ずしも 高いとは言えない。まず、両者を合理的に使用できなければ、国民の医療ニーズに適合す ることができない。また、医療費の抑制システムは完全には機能していない。さらに医療 保険の加入率が低いため、医療を受ける権利が不平等で、一部の民間人は、病気になると 経済的に困窮することがしばしばある。とりわけ農村部において医療問題は未解決のまま である。社会福祉の分野においても、深刻化している問題の解決策はいまだに見えていな い。例えば、高齢者の介護とサービスシステムはほとんど白紙の状態にある。

要するに、上記からは、社会主義国である中国が本来、相容れない市場経済を導入して 行くために、さまざまな矛盾を抱えながら、対症療法を重ねつつ、中央の政策と地方の対 策の狭間で市場経済の構築を模索してきた様子が見て取れる。矛盾を整理・解決する際に、

どのくらい受益者つまり国民の視点から施策を打ち出していけるかが、現行社会保障制度 の命運を決することになるだろうと劉暁梅は指摘している。

王文亮(2009)は『格差大国中国』の中で中国都市部と農村部の「二重構造」、格差が大 きいことに触れている。戸籍制度、及び戸籍制度をベースにした食糧配給制度(計画経済 時代)、住宅、教育、雇用、医療、年金、人事、兵役、計画出産、最低生活保障制度など、

都市と農村では別立ての制度設計になっている。また王文亮(2004)は、社会保障制度の 改革と整備について、中央と各地方政府は社会保障制度の改革に関する一連の措置を打ち 出している。高齢者の扶養において、その目標は2010年までに社会主義市場経済体制の要 請に応えられるような高齢者社会保障システムをほぼ確立することと定めているが、その 目標設定は依然として都市部を中心とするものにすぎず、農村地域における社会保障制度 の整備は依然として都市部より大きく立ち遅れている状況にあると述べている。また、社 会構造が農村地域では都市部とまったく異なるため、都市部のような「社区」が農村地域 には存在せず、現在は完全に自給自足の生活を送る農家はそれほど多くないとはいえ、家 族としての自己完結度は依然として都市住民よりずっと高いと述べている74

以上のことから、中国で高齢化問題の対策を講じる場合、都市部と農村部を分けて考え ていく必要があると再認識される。特に、農村部は都市部より制度・政策の整備や経済的 な発展等が遅れており、人口流動などによって都市部よりも複雑な高齢化問題に直面する 恐れがある。一方、王文亮(2004)によれば、生活機能の遂行におけるこうした農村家族 の自己完結度も決して永遠不変のものではなく、家族規模の縮小や核家族化の進行は、や

74 王文亮(2004)『九億農民の福祉――現代中国の差別と貧困』中国書店 p.540

63 がて彼らにも高齢者の扶養として多大な影響を与えるようになると予測している。そして、

その日の到来に備えるべく、農村の末端に位置する地方公共団体としての村または郷・鎮 を都市部の「社区」になぞらえ、それらを基本単位として地域住民とりわけ高齢者の生活 にさまざまな便利や福祉サービスを提供するための制度やシステムを構築していく必要が あると述べている75