第 3 章 高齢化対策及び社区に関わる先行研究
第 3 節 社会保障制度からみる高齢化問題
4 都市部における住民の所得格差
次の図3-1は2002~2012年の『中国統計年鑑』をもとに筆者が作成したものである。都 市部住民の所得は 6 階層(低所得、中等下位、中等、中等上位、比較高所得、最高所得)
で分けられる。中央の実線は平均年間総収入の数字を指し、この図からは都市部住民の所 得が毎年上がっていることが分かる。また、2012年の数字を見ると、低所得世帯は全体の
20%を占め、平均年収は11,467元である。最高所得世帯は全体の10%を占め、平均年収は
69,877元である。最高所得世帯と最低所得世帯の間には約6倍の差がある。2002年時点で
はあまり差がない平均収入も、2012年になると、その差がはっきり見えてきた。以上のこ とからも、都市部住民の所得の差が拡大してきていることは明らかである。
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図3-1 2002~2012年都市部住民平均年間所得(単位/元)
出典:2002~2012年『中国統計年鑑』より、筆者作成。
26,959.0
3,180.4
11,467.1 18,374.8 7,061.4
24,531.4 32,758.8 43,471.0
20,208.4
69,877.3
0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 平均総収入 低所得世帯(20%) 中等下位所得世帯(20%) 中等所得世帯(20%) 中等上位所得世帯(20%) 比較高所得世帯(10%) 最高所得世帯(10%)
66 第4節 高齢化問題の対策
中国は高齢化社会に突入し、高齢者の介護問題の解決が重要な課題となってきた。
仝利民(2006)は、人口の高齢化によって高齢者人口の男女比率の差、女性の高齢者の
「空の巣」・独居家庭の増加、後期高齢者の増加による介護負担の増加と計 3 つの現象が 生じ、介護ニーズの増加による家庭、社会、政府の負担も重くなると述べている。
包敏(2008)が、中国の江蘇省にある蘇州大学の大学生を対象として老親扶養意識調査 を実施したところ、高齢化の進展、一人っ子を始めとする若者の意識変化などにより、中 国では高齢者扶養の危機がすでに訪れていると結論づけている。近い将来、一人っ子世代 の親世代の一部もやがて高齢期に入り、寝たきりや認知症などの要介護状態になっていく。
それに備えるためには、政府は今から取り組みを始めていくことが必要である。特に施設 サービスと在宅サービスの整備が重要であると指摘している。
王文亮(2009)は、「中国都市部の高齢者福祉では、国の責任がほとんど要保護世帯に限 られており、家族が行えない部分は主に市場が補完する。1980年代以降に新たに登場した 民間老人ホームや家政婦はいずれも市場を通したケアサービスの提供であり、市場化の産 物である。また、それは前江沢民政権から胡錦濤政権に至る政府が唱導してきた『社会福 祉の社会化(実際多元化、民営化)』の必然的結果でもある」と述べている。
陳社英(2010)は、高齢化問題の解決にあたっては、すぐに一人っ子政策を廃止するこ とができないことを指摘している。そのうえで、「他の方法を探し、高齢化による問題を緩 和するしかない。公共政策の視点からみると、中国の高齢化問題にあたっては社会すべて でともに解決し、また予防サービスと高齢者の長期ケアのニーズを重視しなければならな い。都市部における高齢者の介護問題は特に一人っ子の家庭の介護ニーズを解決するため に国の政策の支持が必要であり、高齢者の間の互助を勧めること(若い高齢者は後期高齢 者にサービスを提供する)が必要であろう」と述べている。
崔恒展ら(2012)は、経済改革開放以降、経済が成長してきたことから、高齢者への経 済面の保障を提供するようになり、年金保険制度の確立と発展は法律による高齢者の基本 的な経済面の保障を可能にしてきたと述べている。また、日常生活上のケアは最も高齢者 の生活の質に影響を与えることから、その解決が急務である。さらに、高齢者の介護ニー ズを満たすためには、①健康な高齢化の理念の提唱、②人口生育政策の調整、③介護保険 制度の設立、④在宅養老の推進と改善、以上の4点を示した上で、1980年代から都市部に は社区建設が盛んになってきたが、その中でも高齢者向けの社区サービスを重視すべきだ と指摘している。
鄭功成(2013)は、年金保険制度の推進や発展と比べ、養老サービスの整備が遅れてい ることを指摘し、加えて、養老サービスの発展を促進するための要件を次のようにまとめ ている。すなわち、①政策上の重点は経済保障と養老施設の増設から在宅養老への移行、
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②養老サービス事業の公共投入の拡大と優遇政策の設定による社会資源と市場資源の参入 の増加、③家庭養老を基礎とすることを堅持し、社区と機構(施設)で補充するという養 老サービス政策の仕組みの確立に加え、今後はそのバランスを考慮すること、特に在宅養 老と社区養老サービスの重視、多様なニーズを満たすための養老施設の多様化、④「公弁
+公助民弁+民弁」77という3つが並行した養老サービスの仕組みを実施すること、⑤家庭 養老を支持する政策の確立、⑥養老サービスを提供する人材の育成、⑦養老サービス事業 の発展を促進する支援施策の重視、以上の7点である。
盧徳平(2014)は、中国の高齢者扶養の問題は経済的な要素以外に、中国の伝統文化と 社会構造面の特徴を考慮しながら、世代間の互助と共済による基礎的な条件も重視しなけ ればならないと述べている。
77 「公弁」とは、行政が運営主体であるサービスを指す。「公助民弁」は、行政が補助金を 出し、実際の運営は民間が行っているサービスを指す。「民弁」とは、民間が運営主体であ るサービスを指す。
68 第5節 在宅養老と社区養老の関係
2000年の全国社会福利社会化工作会議では「家庭養老を基礎とすることを堅持し、社区 と機構(施設)で補充する」という高齢者養老政策が提示された。2006年に国務院弁公庁 は全国老齢工作委員会等の 10 部門を聯合し、『関与加速発展養老服務業的意見』(『養老サ ービス業の発展の加速に関する意見』)を発表した。そこでも、扶養形式は家庭養老を基礎 とすることを堅持し、社区と機構(施設)で補充することを発展方向として、国家が財政 的支援をしながら、社会各方面の力を積極的に社会福祉事業に導く新たな道が提唱されて いた。そして、その後、国務院が発表した『中国老齢事業発展“十二五”規劃』(2011~2015 年)(『中国高齢者事業の発展の第12 次5カ年計画』)においても同じ発展の方向性が示さ れている。
国の政策だけではなく、多くの研究者が中国の高齢化問題の解決策は国内の政治、経済、
文化伝統及び高齢者とその家庭の経済負担能力などの具体的な状況に即した養老方式を選 ばなければならないと指摘し、在宅養老と社区養老の結合や、養老施設の補充を提言して きた(龔静怡 2004;翟徳華ら 2005;郭競成 2010)。
在宅養老サービスとは、社区に社会的な養老サービスの仕組みを作り、自宅で住む高齢 者にサービスを提供する。このサービスは家庭養老と施設養老の間にある新しい養老サー ビスであり、社区にある様々なサービスの資源を統合し、高齢者に家事援助・医療・余暇・
娯楽などのサービスを提供するものである。在宅養老サービスは、2006年のはじめ、北京・
上海・大連・江蘇、広東・湖南等の省市で民政部が推奨した「社区在宅養老」計画のモデ ル事業によって開始された。
一連の流れの中では、社区建設による社区サービスへの期待、在宅養老サービスの重要 性などが示されているが、一方で、以下のような問題点も指摘されている。
李兵ら(2008)は社区在宅養老サービスの定義に基づき、社区在宅養老政策を設定する 際には、以下の2点を考えなければならないと指摘している。
1.社区在宅養老サービス事業における、政府、企業、社会組織、家庭と個人等の役割の 明確化、参与の仕方、社区在宅養老問題の具体的な解決方法
2.政府の役割。政府は管理者とサービスの提供者として、社区在宅養老政策の市場行為 と福利行為をどのように区別するか。
また、在宅養老サービスは、サービスの単一性、資金不足、サービス提供を担う人材が 少なく、専門性が低いといった 4 つの課題を抱えている。さらに、在宅養老に係わる機関 の間の連携や、高齢者に関係する各部署の間の連携も不十分で、力が発揮できていないこ とも指摘している。
任炽越(2005)は、現在、在宅養老サービスはまだ発展の初期であり、政策の不整合、
発展規範の不在、専門化と社会化が遅れていることで、実践と探索はまだ沿海都市部と経
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孟宪东(2010)は、中国の都市部に存在する一人っ子の親の養老問題の解決には、社区 在宅養老が最も適していると述べている。
呉世民(2010)は、居民委員会はサービスの監督者であり、住民を代表して、サービス 提供者に監督権を実行し、行政に意見や提案をする役割を持っていることを示している。
社区福利サービスの供給の仕組みを引き上げるためには、参与主体それぞれの責任と役割 を明確化し、行政・市場・社会のメカニズムの強みを発揮しながら、三者の適切な組み合 わせを実現させることによって、社区サービスの質と効率を向上させることが重要なポイ ントであると指摘している。
沈潔(2014)によれば、「社区建設」の施策の主眼は、社区サービスの産業化、社区福祉 施設の体系化、社会サービス供給の多元化を通して、住民生活の基盤作りに力を注ぐこと にあったという。また、「社区建設」が経済発展の国家戦略の一環として取り組まれたこと から、住民の主体的参加による在宅ケアサービス、専門的なケアサービス、予防的なケア サービスを含めた「社区福祉」の構築が求められると指摘している。すなわち、次のステ ージである「社区福祉」においては、公益公共圏の中核として、住民の主体化や社区の組 織化、専門化、生活化等が展開されていくとしている。
図3-2 社区福祉サービスの責任関係図
出典:沈潔(2014)『中国の社会福祉改革は何を目指そうとしているのか』ミネルヴァ書房
(呉世民(2010)「城市社区福利服務的需要圧力与供給体系建設」 『民政論壇』)
沈潔(2014)によれば、近年、「社区福祉」という言葉が政策用語・生活用語として使わ