第 6 章 都市部における高齢者向けサービスの現状と課題
第 1 節 都市部における養老施設の現状と課題―大連市の養老施設ヒアリング調査を通
1 調査目的、概要と方法
中国では、1970年代から、速すぎる人口増加を抑え、これによってもたらされるさまざ まな社会負担を軽減するために、政府は計画出産を国策として実施してきている。30 年以 上の努力の結果として、人口の自然増加率についても、効果的に抑えられている。しかし、
社会・経済の発展に伴い、人々の生活条件が改善され、死亡率が下がる一方で、人口高齢 化の趨勢も示し始めた。これらを背景にして、第 2 章に述べたように、中国の高齢化の特 徴は人口高齢化のスピードが速いこと、高齢人口の規模が大きいこと、「未富先老」・「未備 先老」、高齢化の進行の地域間格差、「空の巣家庭」・「失独家庭」が挙げられる。
高齢化人口の増加によってもたらされた高齢者の介護問題は社会問題として注目される ようになった。前にも述べたように、2000年には国務院弁公庁は民政部の『加速実現社会 福祉社会化的意見』(『社会福祉の社会化の加速を実現する意見』)を許可し、「福祉の社会 化」を推し進めてきた。また、同意見では扶養形式は「居宅を基礎とすることを堅持し、
社区と機構(施設)で補充する」という発展方向を示した。2001年に民政部は全国福利宝 くじの収益と一部政府の資金を投入し、全国で社区養老福利サービスネットワークを作り 上げるための社区の高齢者福利サービス――「星光計画」97を実施した。この計画によって、
97 2001年民政部より発表し、翌年から実施された。正式名称:『社区老年福利服務星光計
画』。主な目標として、都市部では、各社区を重点に置き、社区高齢者福利サービスや活動 場所を新設また開設し、社区にはステーションがあり、街道にはサービスセンターがある 高齢者福利サービスネットワークを徐々に形成することである。
90 全国各地で高齢者の活動センターや社区高齢者サービス施設が建設され、高齢者の日常生 活サービスは明らかに改善された。
第12次5カ年計画(2011 年~2015年)『中国老齢事業“十二五”発展規劃』(『中国老 齢事業の発展に関する“十二五”計画』)にも、「居宅を基礎とすることを堅持し、社区と 機構(施設)で補充する」という養老サービス体系の構築を早期に実現しようとし、その バランスは「9073」で、90%は社会的なサービスを通して在宅養老、6%はバウチャー制度 を使って社区サービス、4%が機構(施設)養老のバランスで養老サービス体系である。そ のうち、社区にある居宅サービスは将来の中国式の重要な養老方式であると指摘されてい る98。中国では高齢化問題を解決するために、「9073」という養老政策が推進された。この 政策が高齢者のニーズをカバーできるかどうか、どんな課題があるかを検討しなければな らない。しかし、現在の社区での高齢者向けのサービス内容は決して高齢者の実際のニー ズに合うものではないことが指摘されている99。
裴暁梅(2009)養老介護ニーズを把握するのに用いられるデータには過去のデータや住 民の主観意志を基づくものが多いが、それは合理性と客観性が欠如し、また高齢者の年齢 や健康状態などの要因によって要介護ニーズが異なってくるため、サービスの継続性への 対応ができていないことを指摘している100。
一方、高暁路(2012)は、近年、老年社会学、環境心理学などの領域から高齢者の介護 ニーズや養老方式の問題についての理論の検討と実証する研究が多く見られるが、統計デ ータまた現地調査の結果より、高齢者の養老方式に対する選択及び影響要素に基づき、機 構(施設)養老、居宅養老、社区日間托老所の需要について分析、予測を行う研究が不足 していることを指摘している101。
さらに、顔秉秋(2013)は、現在、地域また高齢者の年齢層などによってそのニーズも 異なってくるが、高齢者向けのサービスは量的、質的また仕組みも似通っているし、供給 のずれも生じている。地域によって、高齢者は社区の高齢者向けサービスの情報を把握し ていない問題、社区の高齢者向けサービスは“ハコもの”(形だけ)となり、使えないまた は、使いにくい現象があると指摘している102。
したがって、本章では、フィールドとして取り上げた大連市西崗区C街道の60歳以上の 高齢者を対象とした自記式アンケート調査を通して、全体状況を把握しながら、現在介護・
介助の状況、家族構成、年金収入、また年齢の 4 つの視点から、都市部の高齢者の介護ニ
98 孟宪东(2010)「城市独生子女父母的養老照護方式研究」『西南財経大学』
99 李徳明、陳天勇、李海峰(2009)「中国社区為老服務及其対老年人生活満意度的影響」『中 国老年学雑誌』 第19期 pp.2513-2515
100 裴暁梅(2009)「構建需求构建需求导向型老年人城市生活社区」『上海城市管理职业技术 学院学报』
101 高暁路(2012)「中国城市居家老人養老行為調査分析――以北京市為例」『装飾』第9期
102 顔秉秋(2013)「城市老年人居家養老満意度的影響因子与社区差異」『地理研究』 第 32巻第7期 pp.1269-1279
養老施設:区域内には養老施設21 箇所あり、1,582床である。そのうち民営養老院 は養老施設の95%を占め、公営施設の15.2倍である。入所者人数は1400人以上で、
総入所人数の90%を占めている。
社区養老サービスセンターの建設:2010 年~2012 年の3 年間に社区養老サービス センターが23箇所立ち上がった。
補助金:「補欠型」から「適度普恵型」への転換。2014年から85歳以上の高齢者は身 体状況によって生活補助金制度の強化、失能高齢者は月 800 元で、半失能高齢者は月 500 元を給付する。また、80歳以上の高齢者が意外傷害保険の加入と年間一回無料健 康診断の実施を促す。
103 2013年5月大連市民政局老齢弁の「西崗区養老サービス状況調研報告」より。
C街道弁事処は調査主体とし、2011年11月~2012年1月に大連市西崗区C街道の6つ の社区で、60 歳以上の高齢者 6000 人を対象とし、自記式アンケート調査を実施した。ア ンケート調査表は、各社区の職員によって配布・回収を行った。
本調査表は2009年度武蔵野市で実施した一般高齢者の調査票を参考にしながら、調査に 協力した街道弁事処の意見を取り入れ、筆者が作成したものである。主な調査項目につい て、本人に関する基本属性、生活の状況、家族の構成、養老サービスに対するニーズ、日 本の「生活機能チェックリスト評価基準」などの項目を入れ、10 項目、97 問で構成した。
具体的な調査項目については論文巻末の添付資料として掲載した。
調査で収集された調査票は2,232票、回収率:37.2%であった。なお、本章の分析にあっ ては、「空の巣家庭」かどうかに着目した分析を実施するため、家族の形態及び同居の人数 の回答に欠損がない1,119件のデータを分析対象として作成した。
本調査の分析にあたって、IBM SPSS Statistics Base Authorized User V 21を使用し、
主に、クロス集計、カイ2乗検定を中心に、分析を行った。
本調査の分析については、
①現在、介護・介助の状況(「必要ない」、「必要だが、受けていない」、「受けている」)
②家族構成は、「独居」と「夫婦のみ」(「空の巣家庭」)と「家族と同居(「空の巣」以外)」
③年金収入は(1,000元以下、1,000~1,499元、1,500~1,999元、2,000元以上)4層
④年齢は(60~64歳、65~69歳、70~74歳、75歳以上)4層
に区分して、分析した。この 4 つのカテゴリーによって介護ニーズと、必要となるサービ スの内容、サービス利用料金などの関係性を考察するために、クロス集計を行い、検討を 行った。また、困っていることや介護ニーズのような複数回答の質問については、「はい」
だけの統計結果を出し、また、できるだけ正確な結果を出すため、調整残差の値(調整残 差 >±1.96)を求めた。
また、調査回収率を確保するために、質問項目にはなるべく応えやすい選択肢を設定し た。例えば、年齢、年金については、具体的な数字を聞かずに、選択肢を用意し、応えや すいように設定した。
93 第2節 前期高齢者層のまだ低い介護ニーズ
本節では現在介護・介助を受けているかどうかを軸に、「性別・年齢・年金収入・住まい の形態・家族構成の状況」、「介護・介助状況、養老サービス」、「サービスの利用料金」、「要 介護予防の対象」について、全体の状況を見てみよう。
現在、介護・介助が「必要ない」の高齢者が 78.0%を占めている。介護・介助は「必要 だが、現在は受けていない」の回答が11.3%であった。現在、介護・介助を「受けている」
高齢者は4.2%を占めている。
表5-2-1 介護・介助の状況について
1 性別・年齢・年金収入・住まいの形態・家族構成と介護・介助の状況
性別では、全体では男性より、女性の割合が高く、54.4%を占めている。「現在の介護・
介助の状況」別で見ると、男女の有意差は見られなかった。
年齢別で見ると、全体では、「60~64歳」が一番多く、27.8%を占め、その次は「65~69
歳」が25.5%、「70~74歳」が18.9%、「75歳以上」の高齢者は27.7%を占めている。「現
在の介護・介助の状況」別で見ると、69 歳以下では「必要ない」の回答者が最も多く見ら れた。75 歳以上では「必要だが、受けていない」と「受けている」の回答者が多く見られ た。
年金収入では、全体では「1,000~1,499元」の割合が最も高く42.1%占め、その次、「1,500
~1,999元」の割合が26.0%であり、その次は「2,000元以上」で21.5%を占めている。「現 在の介護・介助の状況」別で見ると、1,000元以下では「必要だが、受けていない」の回答 者が多く見られた。また「1000~1499元」では「必要ない」の回答者が多い結果であった。
他の年金収入層では介護・介助の状況別の有意差が見られなかった。
住まいの形態別では、全体では、「産権104を持つ」の回答は一番多く約6割占め、次には
「使用権のみ」が32.7%であった。「現在の介護・介助の状況」別で見ると、「借家」では、
「必要ない」の回答者が少なく、「必要だが、受けていない」の回答者が多く見られた。
104 産権とは、不動産に対する所有権とその不動産にある土地の使用権を指している。
n %
必要ない 873 78.0%
必要だが、受けていない 126 11.3%
現在受けている 47 4.2%
未回答 73 6.5%