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第5節 自然科学型環境学習カリキュラム

f.授業書「自然環境科学」の教育構想

(1)環境科学の体系化の必要性

  「自然環境科学」は本章第3節で分析した「環境政策科学」同様,丸山が開発した授業 書で,この「自然環境科学」のほうが先に開発されている1。「自然に対する人問の認識に は2っある」「環境科学」め教育構想は,ここからはじまる。自然に対する人間の2つの 認識とはすなわち,「対象としての自然認識1と「人間との関係における自然認識1である。

丸山は,前者を担当するのが物理学,化学,生物学,地球科学などの従来の自然科学であ り,後者を担当するのが環境科学であるとする。そして,環境科学が担当する教育内容に ついて次のように述べている2。

環境教育の基礎としては,従来の自然科学教育すなわち対象としての自然に関する科学的認識の形 成という枠組みではなく,自然を人間との関係において科学的に認識できるように再構成したもの が考えられる。

 このように丸山は,自然を人間との関係において科学的に認識できるように「再構成」

すること,すなわち独立した教科・科目としての環境科学体系化の必要性を指摘している。

(2)環境科学の体系化の視点一自然の階層論

 丸山は環境科学の体系化のためには,「人間という高い立場から全自然を位置づけなお す」ことが必要であるとする3。そのために氏が援用する理論が「自然の階層論」である。

自然の階層論によれば,自然はその運動形態の違いによって,無機的自然と生物的自然,

  ノ

および人間という3つの系列の階層構造として表される。これを図示したものが【図3・

5・1】である。

 この自然の階層論によって,全自然を次のように位置づけなおすことができるという4。

主系列から生成された2次系列の植物は,主系列に属する大気を好気的なものに変え,造山運動期 に大気中の二酸化炭素量が急増すると,海洋や岩石などの主系列より二酸化炭素量の変動の抑制に

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第3章これまでの環境学習カリキュラムの構成理論

  大きく寄与した。しかしながら,3次系列として人間が出現すると,3次系列の運動形態が主系列及   び2次系列の運動形態を規定するようになった。

 この「3次系列の運動形態が他の2系列を規定する」とは,具体的には次のことをさし

ている。

・農耕・・牧畜が気候よりも逸・速度で地表を改変し,生物の進化速度よりも速く野生  生物から家畜を作り出したこと。

・工業が主系列内の反応よりも逸・速度で新しい物質を作り出し,生物地球化学的循  環速度を大幅に上回る速度で,酸素を消費し,二酸1ヒ炭素を大気中に放出したこと。

 このように3次系列である人間と,主系列および2次系列との相互作用が,地球的規模 で質的・量的に新しい展開を示したものが,地球規模の環境破壊であるという認識に立っ

ている。

       主系列         2次系       3次系列

宇宙

銀河系

天体

マクロな物質

生物

個体 細胞

知性体・

原子分子

原子核

核子

 r願一一一一一一層一一一一噂鴨  昏      匪

 1       ■

       ■

 コの ロロサのロロ ロロコのの

【図3・5・1】自然の階層構造(出典:田中一r未来への仮調培風館,1g85,F103)

(3)目的

 以上のような自然の階層論に基づいて体系化される「自然環境科学」の目的を,丸山は 次のように説明している5。

人間と自然との相互作用を体系的に把握させ,人間と自然との新しい関係の構築すなわち環境政 策に対する科学的な基礎を形成することこそ,「環境科学」の目的である。

 つまり,「環境科学」の目的は,環境問題の「自然科学的な理解を第一義」とし6,環境 政策(=「人と自然との新しい関係の構築」)の基礎づくりの段階と位置づけている。

2.カリキュラム編成

(1)学習領域と基本概念

丸山は,高等学校における環境科学教育の学習領域とそれに対応した基本概念として,

次の3つを設定している。

【表3・5−1】環境科学教育の学習領域と基本概念 学習領域

① 自然における人間の位置 自然の階層構造

② 自然の社会化の過程 相互作用の社会化

③ 地球規模の自然変動 相互作用の地球化

 「環境科学」〜「環境科学j教育の体系化の試み,北海道大学教育学部教育方法教室編『教育学の探究』g,1991,p.1

 ①では,自然の階層構造における人間の位置づけ一自然は3次系列からなり,人間は3 次系列に位置づけられる一に関する科学的認識の形成をはかる。ここから導かれる基本概 念は,「自然の階層構造」である。

 ②では,地球規模の自然の社会化に関する科学的認識の形成をはかる。自然の社会化と は人間生活圏の形成のことである。3次系列(人間)の出現後,3次系列の運動形態は,

主系列および2次系列の運動形態を規定してきた。ここから導かれる基本概念が「相互作 用の社会化」である。

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第3章これまでの環境学習カリキュラムの構成理論

③では,人間の経済活動による,地球規模の自然変動に関する科学的認識の形成をはか る。地球規模の自然変動は,相互作用の社会化ではなく,主系列と2次系列との相互作用 が3次系列(人間)の介在によって地球的規模で質的・量的に新しい展開をしたものとし てとらえられる。ここから導かれる基本概念が「相互作用の地球化」である7。

(2)全体計画

 「自然環境科学」は全体が3部から構成されており,それぞれ2つないし4つの単元が 配当されている。【表3・5・2】には,各部(大単元)の学習領域,基本概念,中心となる 問い,単元名を示した。

【表3−5・2】「自然環境科学」の全体計画

学習領域 大単元名 中心となる問い 単元名

自然における l間の位置

自然の階層

¥造

1自然の構造 1部

ゥ然における l間の位置

・自然はどのようにしてでき

スのか

E人間は自然の中のどの位置 ノあるのか

2物質の起源 3生物の誕生 4人類の出現 自然の社会化 相互作用の

ミ会化

H部

l間生活圏の

̀成

・なぜ自然は変化したのか E生態系の単純化はどこまで

ィよんだのか

1地表の改変 2生物種の絶滅 地球規模の自

R変動

相互作用の n球化

皿部

n球規模の自 R変動

1熱帯林の破壊

・地球規模の自然変動とはど なものか。

Eなぜ地球規模の自然変動が ミきおこされたのか E人間の経済活動をどのよう

ノコントロールすればよい

2砂漠化・土壌流出 3オゾン層の破壊 4」繍温暖化 丸山博,「環境科学」〜「環境科学」教育の体系化の試み,北海道大学教育学部教育方法教窒編『教育学の探究』9,1991よ

り筆者作成、

 以上のように,「自然環魔科学」では大単元は,第1部から第皿部まで階層的に展開して おり,自然の階層論から導かれた3つの基本概念「自然の階層構造」「相互作用の社会化」

「相互作用の地球化」がそれぞれの大単元で獲得できるように,カリキュラムが編成され ている。

(3)単元構成一半三部「地球規模の自然変動」の場合

 単元構成の論理を明らかにするために,人間の経済活動による地球規模の自然変動を扱 う第虫部をとりあげる。第皿部を取り上げるのは,本稿の目的が,最初に述べたとおり,

高等学校の社会系科目における環境教育のカリキュラム開発への示唆を得るためである。

第皿部の目標

 第m部「地球規模の自然変動」の目標は,「人間の経済活動による地球規模の自然変動に 関する科学的認識をはかる」ことである8。つまり,この地球規模の変動を,授業書「環 境科学」の基本概念のひとつである「相互作用の地球化」として,とらえせることが目標

となっている。

第皿部の単元構成

第m部の単元名とそれぞれの小単元名の一覧が【表3−5・3】である。

【表3・5・3】第皿部「地球規模の自然変動の単元構成

単元名 小単元名

1熱帯林の破壊 1熱帯林の破壊

2熱帯林と大気・水との相互作用の地球化 3熱帯林破壊の原因

冒  一  ■  鱒  噂  ボ  胃  一  ロ  冒  一  一  一  甲  岬  ・  層  冒  ロ  一  曹  一  髄  脚  脚  冒  層  一

Q砂漠化と土壌流出

曹  曹  曹  凹  7  聯  胃  層  ,  一  一  一  一  冒  騨  嘘  ロ  冒  ロ  一  一  一  一  鱒  需  一  一  一  ■      騨  璽

P砂漠化と土壌流出の加速

2土と大気・水との相互作用の地球化 3人間社会への影響

3オゾン層の破壊 1オゾンホールの発見

2生物と大気との相互作用の地球化 3フロン全廃への過程

冒  一  ■  ■  糟  鱒  讐  冒  冒  一  冒  冒  曹  一  一  甲  冒

S地球温暖化

  一  噛  一  一  層  ロ  ■  一  一  卿  鳴  ,  需  ,  曹  曹  曹  曹  ,  一  胃  層  冒  曹  一  曹  一  騨  一  −  冒  ロ  一  曹  9  一  冒  一  冒  一  ■  一  一  r  曽  冒  一  一  鵯  冒  曽  一  一  一  一

P地上気温の上昇

2大気と海洋・植物との相互作用の地球化 3包酸化炭素量の削減

丸山博,「環境科学」〜「環境科学」教育の体系化の試み,北海道大学教育学部教育方法教室編『教育学の探究』

9,1991,pp.69・143より,筆者f乍成

 第m部は,「熱帯林の破壊」からはじまり,「砂漠化と土壌流出」「オゾン層の破壊」「地 球温暖化」の全部で4つの単元からなる。そして,すべての単元が3つの小単元から組織 されている。以下,これらの単元がどのような観点から選択され,どのような論理で排列

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