第4章 学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラム設計
第2節 内容編成原理
目標が決まれば,カリキュラム設計ための次の毛頂は,設定した目標を達成するために,
どのような学習内容を選択し,それらをどのように排列するかの検討をおこなうことにな る。そこで,本節では学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラムの内容編成原理を説 明する。下の【図4・2−1】は「環境問題研究」の全体構造を示したものである。この図 の構造を示す形で以下,単元設定,小単元構成,学習過程,教材選定の順で説明する。
第1単元 ガイダンス
「持続可能な発展」とはなにか?(1次)
第2単元森林永眠 小単元①森淋減少の本当の理
パート1問題の原因についての事実分析 パート2原因についての諸見解の価値分析 小単元②森林の保全に向け
パート1解決策についての事実分析 パート2解決策の背景にある価値の分析
第3単元水問題
1・単元③水問題とは何力
パート1問題の原因についての事実分析 パート2原因についての諸見解の価値分析
」・単元④水問題への・ 己
パート1対応策についての事実分析 パート2対応策の背景にある価値の分析
第4単元まとめ
「持続可能性ヨと1寓 「発展」とはなにか?(2次)
【図4・2・1】「環境問題研究」の全体構造
1.森林間題と水問題に焦点をあてた単元設定←不可視な社会システムにせまる
「環境問題研究」では,はじめと終わりにガイダンスとまとめの単元をおくが,全体は 大きく2っの単元一「森林問題」と「水問題」一から構成する。環境問題を網羅的に取り 上げないのは,「環境問題研究」が,環境問題の事象を学ぶのではなく,環境問題を通して 社会の見方・考え方を学ぶためのカリキュラムをめざすからである。テーマを限定し,同 じテーマについて異なる複数の事例を探求することで,視点や立場を変えた,より科学的 な問題分析を学習課題として設定することができる。
それでは,なぜ,森林問題と水問題を学習テーマとして選択するのカ㌔まず,第1に,
森林と水は,持続可能性の概念を理解するのに適した素材であるからである。前節で取り 上げた持続可能な発展概念の定義では,自然条件を重視する観点として,「生物多様性の保 護」「環境容量の制約」「天然資源の保全」があげられていた。その点で,森林の生態系や 水の循環は比較的観察可能であるため,人間社会と自然システムとの関係を具体的事例に そって考察することができる。
第2の理由は,森林や水は,人間社会との間にこれまでの長い関係があるからである。
森林や海洋・河川は狩猟や三三の場であったし,人間は農耕の拡大のために森林を切り開き,
水を求めてきた。そして,資源やエネルギー源などとして活用してきた。したがって,森 林問題や水問題を考えるとき,それぞれの地域における歴史や文化,社会システムを抜き にしては考えられない。森や水は,生徒たちにとって可視的なものでありながら,不可視 な社会システムにまで視野を広げることができるテーマである。
第3に,森林破壊や水問題は,環境問題の中でも緊急の課題であるからである。特に,
水問題は深刻で,21世紀は水の世紀であるとさえいわれる。『2001年世界人口白書』に は,「人口と環境の変化」という副題がつけられている。白書では,「水は1人1日50リ ットル必要だが、それを満たせない入は2050年までに世界の45%、42億人にもなる」と 予測し,「水は持続可能な開発の限界を決める資源になり得る」として、水資源の適切な活 用と水質汚染の防止を求めている1。
以上の観点から,森林問題と水問題は,「社会問題研究としての環境学習」にふさわしい テーマといえる。
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第4章学校設定科目 「環境問題研究」のカリキュラム設計
2.問題の原因と解決策を探求する小単元構成【一環境問題の本質と自己とのかかわり を認識する
森林問題と水問題の各単元は,原因探求と解決策探求の2つの小単元で構成する。原因 探求の小単元は,小単元①「森林減少の本当の理由」と小単元④「水問題とは何か」であ
る。これらの原因探求の小単元では「なぜそれが問題なのか」「なぜその問題はおこるのか」
「どのような影響があるのか」「だれが関係しているのか」などについての分析をおこなう。
後半の解決策探求の小単元は,小単元②「森林の保全に向けて」,小単元④「水問題への 対応」である。これら,解決策探求の小単元では,「問題の改善策としてどのような選択が なされたのか」,あるいは「どのような選択肢があるのか」について分析をおこなう。
後に提示する年間計画でわかるように,本カリキュラムでは,1つの事例について,原 因の探求から解決策の探求まで一貫してとり扱うことをせず,原因の探求および解決策探 求のそれぞれの段階で,最もふさわしい問題事例を取り上げるようにしている。それは,
個々の事象を追うのではなく,原因・影響の視点と,解決策の視点という別々の視点から,
問題構造にみられる共通性を発見するためである。それによって,環境問題の本質にせま り,自己とのかかわりをより深く認識することができる。
ただし,原因探求と解決策探求の各段階で得られた知識の断絶をきたさないために,各 層単元の中に個別的知識の構造化・一般化を図る時間を設けている。
3.事実分析と価値分析を組み合わせた学習過程一開かれた価値観形成を保障ナる
「環境問題研究」の凡小単元では,事実分析(各小単元のパート1)と価値分析(各小 単元のパート2)の2っの異なる学習過程を組み合わせている。なぜなら,環境問題の原 因・影響,および解決策のいずれを探求する場合でも,事実そのものとその事実の背後に ある価値とを,意識的に区別して分析するためである。
事実分析のパートでは,問題の原因や影響,および解決の方途についての事象間の関係 性を探求する。たとえば森林減少の原因や影響について,「科学的な知見による原因の特 定(第4時)」や「同じ現象でも社会背景が異なると,原因も異なる(第5時)」「よその問 題はここ日本とつながっている(第6時)」というように多様な視点から分析する。また,
解決策探求の小単元についても,いかなる行為主体によって,どのような対応策がなされ
たのか,あるいは,どのような選択肢が存在するかについての事実分析をおこなう。
他方,価値分析のパートでは,「環境問題は究極的そして必然的に政治の問題であり,そ の「解決」には相矛盾する価値観の分析が必要なことがわかる」2という認識に立ち,問 題の事実認識や解決策の背後にある伍値の分析をおこなう。
ところで,解決策の背後に価値が存在するのは理解しやすいが,「事実認識の背後にある 価値」とはどういうことか。問題の原因やその影響は,事実分析をおこなえば解明できる かというと,そうともいえない。そもそも「問題が存在するかどうか」の認識でさえ,一 致を見ないことがあるからである。何を「社会問題」と認定するかは,立場や価値観など の違いによって一様でない3。たとえば,パーム・プランテーションの拡大を環境破壊と みるか,否かという認識の違いがある。環境破壊と認める立場は,熱帯林の消滅を問題と するし,環境破壊でないとする立場は,熱帯林を伐採した後パームを植栽しているので,
緑が減ったわけではないと主張する。そこで,このような事実認識の差が生じるのはなぜ かを明らかにするために,事実認識の背後にある価値についても分析をおこなうのである。
情報が氾濫している現代社会においては,情報の内容分析のみならず,その背後にある価 値の明確化をおこなうことが必要である。
「事実分析一佃値観分析」は,森林問題と水問題のそれぞれの原因探求と解決策探求の 各段階で設定するので,合計4回繰り返すことになる。このように,事実分析と価値観分 析を繰り返すことで,事実と伍植を区別して認識でき,価値的な側面をも対象化すること ができよう。このようにして,「環境問題研究」では,生徒たちが従来の環境学習のように
「持続可能な発展」を無批判に受け入れるのではなく,具体的な事例に即して「持続可能 性」とはなにか?「発展」とはなにか?と問いながら,社会のしくみについての概念探求 力や1副直分析力を高めることをめざす。
4.世界各地の問題状況を取り上げる教材選定一地球環境の全体像を提示する
日本は表面的には森も水も豊かであり,森林問題水問題のいずれも国内での危機意 識は薄い。しかし,どちらの問題も地球規模でみれば,現在そして未来の人問の生存を 脅かすような具体的な問題事例に事欠かない。教材を世界各地から選ぶことで,地球全 体における問題発生状況を概観させたい。一方,世界各地でおこっている問題の分析を 通して,その問題はその場所で独立しておきている現象ではなく,他の地域と一あるい
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