第4章 学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラム設計
第3節 年間計画
目標と内容編成原理を設定したならば,次に具体的な教材を選択,排列することになる。
すでに,カリキュラムの骨格はできているので,それぞれの小単元のパートでのねらいを 探求するのに,最も適した教材を選択,排列する。と同時に,教材が特定の地域に偏って いないカ、さまざまな種類の社会集団を取り上げているかなど,カリキュラム全体のバラ ンスも考慮する。本節では,前述の目標,内容編成原理に基づき,学校設定科目「環境問 題研究」の年間計画を提案する。
1.年間計画の概要
学校設定科目「環境問題研究」は,2単位を想定しており,後述するように全35時間か らなる。1999(平成11)年版学習指導要領では,完全学校週5日制の実施にともない,
年間授業回数は35週おこなうことを標準としている。2単位の科目の場合,標準授業時数 は70単位時間となり,本カリキュラムの時間数との差はずいぶんと大きい。それは以下 の理由による。
第1に,標準授業時数は70単位時間であっても,実授業時数は実際にはこれを大きく 下まわること。第2には,ある学習事例を数時間かけて実施したり,ビデオの視聴や,校 外学習,外部講師による授業を実施したり,状況によってフレキシブルに単元を構成する
ことができるように,余裕を持った時間配当とした。第4節で示す2つの授業モデルも,
2時間で組織している。また,高校の多様化によって,2学期制の導入や1単位時間を何 分にするかも各校によって定めることができるため,その点においても利用しやすさを考
えた。
対象学年は特に設定していないが,学年によって授業内容は若干異なることになろう。
たとえば 1学年で設置した場合は,その後に学習するであろう地歴科,公民科の科目の 学習への発展を想定したものになるであろうし,2,3年の場合は,逆に既習事項との関連 を念頭に置いた展開になろう。
次回からの年間計画には,全35時間の単元展開,授業のタイトル,主な学習内容を示
す。
。167一
第4章学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラム設計
2.年間計画
【表4・3・1】「環境問題研究」の年間計画 単元展開 授業のタイトル 主な学習内容
1 ガイダンス 1 「持続可能な発展」とはなにか? 既習の知識の確認学習課題の提示
2 人工衛星から地球を見る之 森林の分布,植生,森林面積の減少が著しい地 3 森の不思議 生態系のしくみは複雑で,うまくできている
事実分析
4 病気?それとも… ?一赤ずき ちゃんの森の立ち枯れ一
科学による原因の特定
̲性雨被害のメカニズム
小単元①森林減少の本・
5 熱帯林減少の最大の原因は?
齠兼?Aジア,南米アフリカー
社会的背景による原因の違い ト畑,商業伐採,森林火災,牧場化 6 なぜ木材輸入国の日本は,森林が
Lかなのか?一日本の林業一
よその問題は,ここ(日本)とつながっている ゥ由貿易,山林の荒廃,過疎問題
』7 1森林減少の原因とその影響 : 事例分析で得られた鰯町的知識の構造化、÷一般
D・サ:1:.:
当・
フ・
摎R
8 古代文明と森林資源一ギリシャ,
<¥ポタミア,黄河流域一
価値分析
9 天然ヤシから生まれた「環境にや ウしい洗剤」は本当に環境にやさ オいか?一広がるパーム・プラン eーションー
〈対立する価値〉人間による土地利用の変更 ヘどこまで許されるか?
E人間社会の発展のためには,自然の改変は仕 福ェない。
E地球環境にとっては自然の改変は既に限 Eに達している。
10 山に木を植える漁師たち一市民参 チの森林保全一
市民参加による保全活動の広がり 剋tから市民へ,地域から全国へ
事実分析 11 選挙ポスターの掲示板はどこから
?ト,どこへいくのですか?一阪
̲間の自治体への公開質問状一
市民による行政への働き力滑 﨣 公開請求,
ュ策提言→政策変更(f瀞ll用)
12 森林エンクロージャーータイの A林プロジェクトー
国家による森林保護 ュ府間援助(ODA)
13 これは適正な木材か?一ラベリン O制度一
国際的な制度づくり
総ロ条約,国内法の整備,消費者教育
ユ4 森林保全のためのざまざまな手だ
Fで』.
価値分析
15 だれにとっての自然保護か?
齔「界遺産になった白神由地一
〈対立する価値〉自然保護のルールはだれが
?閧オ,そのベネフィットはだれが享受する フか?
E国際ルrルか?地域仕会の慣習によるのか?
E人類全体か?そこで生きる生活者か?
16 森林のCO2吸収能力をどう評価 キるか?一禰定書のゆくえ一
〈対立する価値〉地球環境保護のコストはだ
@ れが負担するのか?
E溜圏ヒは人類の緊急課題であるから,各国は
@そのコストを積極的に負担すべき。・コストの負担増は自国の経済成長を圧迫する
@ので,最小限に押さえたい。
17、 森秣の開発と保全に関する諸見解: 価値分析で得られた伺別的知識備昏一般 サ「
18 水の循環と分布 物質循環,フローとストック 19 ナイルの賜物はどこへいった? 大規模開発の自然《の影響
一アスワン・ハイ・ダムの功罪} 降雨量の変化,土壌の塩害,河口海域の漁業
小
薇
単 事 20 消えゆく湖,アラル六一ソ連なき 大規模開発の人間社会への影響
元 実 後,大規模開発のツケはだれが払 地域議会の外部不経済負担(農業・漁業の不
③ 分 うのか?一 振,住民の健康被害)
析 21 イザベルの魚は危険一公害輸出に ダブルスタンダード
水 よる水質汚染一 公害輸出
問 22 私の仕事は水汲み一安全な水への 安全な水の供給不足
題 アクセスー 水汲みを担う女性と子ども
とは
・・QS、 1水磁心φ本質はなにか?:i . 』』:沫癜ェ析で得ら和熟鶴噸蜘識φ擶畿=1般
な
.,化:1:・ 一』.1「
24 行き先のない強制移住一サルダ 〈対立する価値〉リスクとベネフィットのバ 3 にか 価
ル・サロバル・ダム計画一 ランス
値 ・食糧・水資源・エネルギーの確保
水 分
・24万人の移住
問 析 25 「水」商売一なぜ「その人」は水 〈対立する価値〉公正とはなにか?
を買うのか?一 ・お金があれば;wantsは満たされる。
題 ・お金がなければneedsは満たされない。
26 琵琶湖総合開発一琵琶湖をめぐる 水源開発と環境保全 施策とその評価一
事 27 病める父・ラインー越境型広域環 水質浄化国際条約 実 境汚染と国麟職一
小 分 28 淡水化プラントから天水タンクま 各種援助プロジェクトの比較 蛍 析 で州飲料水確保のための国際援助 政府間援助,NGOの援助
兀 一
④ 29 一滴の水を生かす一イスラエル 灌概の水利用効率の改善 水 で開発された点滴灌既一
問題
「β91.1丞資源の保全と確保:「; 工…事例分析で得られ抱個別駒知識φ講透熊鳶→設、:1噸i:,,. 「『『・・一・
へ 31 水不足が世界を脅かす?(1) 〈対立する価値〉大規模開発の是非 の 価 一「南水面調」計画一 ・大規模開発・近代化路線
対 値 ・熊大規摸開発(他の方法の模索)
応 分 32 水不足が世界を脅かす?(2) 〈対立する価値〉権利か?必要か?
析 一国荒川をめぐる紛争,上流竹下 ・上流国トルコ… 自国内の河川に対して絶対
海
〆I権利がある。・下流国シリア…水の分配量の増加を要求 33「 氷資源φ開発ξ分配に関する諸見 .価齢析で得られた個別的知識の諭封ヒ?…般
解』、 :化 …
まとめ 34 再考, アンケート,討論,作文
4 「持続可能性}とはなにか?
「発展」とはなにか?
35 「持続可能な発展」をめぐる議論 「持続可能な発展」概念の分類,測定指標 注)網榔ナ紛ま事実分析・価値膿北・「般化を図る授業
一169一
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3.小単元の概要
ここでは,年間計画の各小単元の概要について述べる。
(1)ガイダンスとまとめ(第1時,第34〜35時)
学習目標のひとつは,「持続可能な発展概念を批判的に吟味し,持続可能性とはなにカ、
あるいは,発展とはなにカ、それらを追求すべきが否かについて,価値の分析ができる」
であっ蔦そこで,第1単元(第1時)では,年間の学習課題の提示をおこなうとともに,
学習開始時点での生徒たちの「持続可能な発展」についての門門の知識を問うために,自 由に記述させる。
そして,最終単元の第34時では,1年間の学習を振り返り,再度,持続可能な発展につ いて記述させる。その後,第1時で各自が熱・た記述と比較させ,どのように認識が変化
したのか深まったのかを確認する。その結果を発表させ,討論する。
第35時では,これまでになされてきた持続可能な発展概念についての代表的な定義と 測定指標を紹介する。そして,前時の自分の記述と比較して,自分の考えはどこに位置つ
くことになるのかを考える。
(2)小単元①「森林減少の本当の理由」(第2時〜第9時)
「本当の」に傍点をふっているのは,森林が伐採される直接の原因を知るだけでなく,
その現象を引き起こしている社会的背景にまで迫ろうという意図を込めている。
まず,事実分析のパートでは,まず地球全体の森林の現況を知り(第2時),森林の生態 系について学習する(第3時)。ここまでは,第2単元「森林問題」全体の導入である。つ づく3時間は森林減少の原因について探求する。科学的な分析の結果,原因不明の森林枯 死は酸性雨が原因であると特定された例(第4時),各地域の社会的背景によって熱帯林の 減少の根本的な原因は異なること(第5時),世界各地の問題の関係性について,森林が豊 かな日本の木材輸入から考える(第6時)からなる。第7時ではこれらの事例分析で得ら れた知識の構造化,一般化をはかる。
後半の価値分析のパートでは,古代文明がいずれも自然改変の結果,森林の消滅を招い ていたこと1(第8時),熱帯林からパーム・プランテーションへの土地利用の変更の是非 と,気づかないけれど,パーム・オイルを原料とした製品を大量に使っている私たちのく