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第4章 学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラム設計

第4節 学習過程

 本節では,前節で提案した「環境問題研究」の年間計画全35時間のうち,事実 分析(各小単元のパート1)および価値分析を扱う授業(各小単元のパート2)

からそれぞれひとつの授業を選び,具体的な学習過程を例示する。事実分析を扱 う授業としては,第20時「消えゆく湖,アラル海一ソ連なき後,大規模開発のツ ケはだれが払うのか?一」を,価値分析を扱う授業としては,第15時「だれのた めの自然保護か?一世界遺産になった白神山地一」を取り上げる。なお,それぞ れの学習指過程は,2時間で展開する場合を想定した。

1.事実分析を中心とする授業

  一第20時「消えゆく湖,アラル六一ソ連なき後,大規模開発のツケはだ  れが払うのか?一」一

(D授業設計の基本的な考え方

 本カリキュラムの各授業においては,概念的知識あるいは説明的知識の獲得を めざす。岩田は,問いの質と知識とを対応させて考え,問いと知識の両者の検討 によって学習内容,学習過程が成立するという立場から,「単元あるいは六時の中 核となる学習課題は,問いと知識の分類から なぜ疑問 である」ことを主張し ている1。「環境問題研究」でも,この考え方に基づいて授業を設計していく。

 前節で提案したように,「環境問題研究」の各小単元では,森林と水を学習テー マとしてとりあげている。それは,「可視的なものから,不可視な社会システムへ」

と生徒の認識を深めるためであった。この内容編成原理は,次のことをめざして いる。それは2つ以上の段階,あるいは異なる視点から事象を分析することで,

社会事象のより本質的な理解に到達することである。

 このことは,授業を組織する場合にもあてはまる。事実分析を中心とする授業 の探求過程は先に述べたように「なぜ疑問」を中核として組織していく。まず,

可視的な問題事象についての,直接的な因果関係の探求からはじめる。たとえば,

「第5時熱帯林減少の最大の原因は?」の場合,なぜ熱帯林が減少しているのか を探っていくと,地域ごとに焼畑,商業伐採,森林火災,牧場化などが直接的な

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第4章学校設定科目「環境問題研究」のカリキュラム設計

原因として特定できよう。しかし,ここで終われば表面的な事象の理解にとどま ってしまう。そこで,続いて構造的な因果関係の探求へと学習を深めていくこと になる。この段階での問いは,「なぜ,これまで自然とバランスをとりながら持続 してきた焼畑が,今,熱帯林の破壊につながるようになったのか?」,「なぜ,東 南アジアで商業伐採は拡大するのか?」,「なぜ,熱帯林を焼き払って,パーム・

プランテーションに転換するのか?」,「なぜ,アマゾン流域で牧場が必要なの か?」などになろう。この問いを追究していけば,やがて人口問題,貧困問題,

開発問題などを発見し,各国や各地域が抱える構造的な問題を解明することにな る。さらに,分析を進めていけば,それらの問題を規定している世界の政治や経 済などの構造,および自分たちとの関わりにも迫ることができよう。

 事実分析を中心とする授業は,カリキュラムの原因探求と解決策探求の各段階 に配置しており,実際の学習過程は次のような段階で組織する。

【1問題の提示】

 問題の存在に気づく。

【H事実の確認】

 どこで?何がおこっているのか?

 どんな解決策が?だれによって?

【皿直接的な因果関係の探求】

 なぜその問題はおきているのか?なぜそれは問題といえるのか?

 なぜその解決策は選択されたのか?なぜその解決策は選択されなかっ   たのか?

【IV構造的な因果関係の探求】

 その問題を誘発,促進している社会のしくみは何か?

 その解決策の評価は?別の解決策の可能性は?

【V構造化・一般化】

 これまでの知識を構造化,一般化する。

(2)教材化の視点

く教材選択と概念的知識の設定〉

 以上の考察をもとに,事実分析を中心とした授業の事例として,アラル海の縮 小問題を取り上げる2。

 中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンにまたがって広がるアラル海は,

かっては世界で4番目に大きい湖であった。しかし,1960年代にはじめて縮小が 確認されて以来,水位は年々低下し,この40年間に面積は38%に,水量は16%

にまで減少した3。縮小の主な原因は,アラル海に注ぐアム・ダリア川とシル・ダ リア川の水量が激減したことにある。それは,ウズベキスタン,カザフスタン,

トルクメニスタンの綿花栽培のために,大量の一概用水を使用したことと関係し ている。この大規模灌概農業に関連して,アラル海の周辺部では,塩類集積と大 量の農薬使用による,土壌の劣化や住民の健康被害という問題もおきている。

 さらに,生起している問題事象にのみ注目するのをやめて,アラル海縮小の原 因となっている灌概農業そのものについて目を転じればどうなるか。「なぜ中央ア ジアのような乾燥地において,このような大規模な綿花栽培が展開したのか」と いう問いを立てることができよう。すると,旧ソ連時代の中央政府主導による自 然改造計画と地域ごとに特化した計画経済の成果と弊害,そしてソ連解体後は,

アラル海再生にむけた環境政策に対する周辺国家の対応の違いなどが,関連問題 として浮かんでくる。このように,アラル海の縮小というきわめて可視的な問題 は,目に見えない構造的な問題をはらんでいるのである。

 そこで,第20時「消えゆく湖,アラル二一ソ連なき後,大規模開発のツケはだ れが払うのか?一」では,環境破壊の原因についての事実分析を,アラル海の縮 小を事例に,直接的な因果関係の探求と構造的な因果関係の探求の2段階の探求 過程で組織する。

 本授業で習得をめざす概念的知識は,次のように設定した。

◎国家全体の経済発展が優先されると,中核への周辺の従属がおこるので,

 周辺が外部不経済を負担する傾向がある。

〈直接的な因果関係〉

 中央アジアでは,1930年代から貯水ダムや運河が建設され,水路網を広げてき

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た。1937年にはシル・ダリア川の水を綿花畑に引き込むため,全長220キロメー トルの大フェルガナ運河が建設された。さらに,1960年代には,アム・ダリア川 から分岐し,砂漠を貫いてカスピ海に至るカラクム運河の建設がはじまった。そ の結果,河川からアラル海へ流入する水量は,1960年代はじめには年間58.4立 方キロメートルだったものが,今日ではわずかに2〜4コ口キロメートルと10 分の1以下にまで激減している4。その帰結として,アラル海の縮小が起こり,

漁業は壊滅的な被害を受けた。かつて年間3万トンあった水揚げは,現在は事実 上ゼロにまで落ち込んでしまっている5。これはアラル海の面積の減少によるだ けでなく,河川から流入する水量:の減少で塩分濃度が高くなり,魚類が生息でき なくなったせいもある。

 被害は漁民だけにはとどまらない。もともと乾燥地での灌概農業は,毛細管現 象によって塩類集積を招きやすい。また,旧ソ連時代に農薬を添加した塩類がト ン単位で用いられており,これらの塩類は排水溝を経て河川に流れ込み,アラル 海に蓄積されていた。それが,今,干上がった湖底から砂塵によって中央アジア ー体に飛散しているのである6。塩が白く析出した農地は放棄され,あるいは使 用するためには土地の洗浄が必要となるので,さらに大量の水を必要とする事態 がおこっている。また,塩害と残留農薬は地域住民の健康も損なっている7。

 以上のような,アラル海の縮小の直接的な原因とその影響を,「直接的な因果関 係の探求」として授業では組織する。

〈構造的な因果関係〉

 中央アジアでの綿花栽培は大きく4つの時期に分けることができる。

 まず,第1期はロシア進出以前である。中央アジアでは日照量は十分であるこ とから,水の豊富なオアシスでは古くから綿花の栽培はおこなわれてきた。.

 第2期は,19世紀に中央アジア地域がロシアの支配下にはいって以降である。

中央アジアにおける綿花モノカルチャーは,このロシアの進出に起源を遡ること ができる。当時,ヨーロッパの綿花の供給地はアメリカであったが,南北戦争に よって供給が著しく減少し,原綿の価格は暴騰した。そのためロシアは,支配下 に置いた中央アジアに綿花の供給地としての役割を求めるようになった。しかし,

この時代は,大規模な灌概や機械化がまだおこなわれなかったので,もっぱら米