第2章 学校教育における環境学習カリキュラムの位置づけ
第4節 クロス・カリキュラムにおける環境学習
第2章学校教育における環境学習カリキュラムの位置づけ
ての木材加工・林業に至るまで多くの文化が存在しており,これらの文化と環境の関係を 見直すことができる。③は,環境に関してはさまざまなステレオタイプな理解や解釈が多 く,それが真の環境保護や保全につながっているか,問い直さなければならないものが多 いからである2。
続いて水山は,小学校での「森林」の扱いを分析し,小学校では緑や森林に関する学習 内容は質量ともに豊富であることを指摘している。ところが,中学校になると森林はほと んど取り上げられなくなり,その扱いも教科や分野ごとに分散する傾向があるとする。そ の中で,比較的森林に関する内容を多く扱っているのが,理科,社会科,技術・家庭科で ある。各教科での扱い方には次のような特色があげられる3。
團
水や物質循環・相互依存・系といった学習が中心。環境をとらえる視点の中心は 「自然システム」にある。
地理的分野,歴史的分野,公民的分野のそれぞれで扱われてはいるものの,分野間 の関連や学年進行に対する配慮もはらわれていない。環境をとらえる視点として は,主に「時間」「有限」「有用」「問題性」が含まれている。
マスとしての「森林」ではなく,一本の木,一枚の板に着目し,道具を使って,
我々の生活を豊かに加工することが中心になる。環魔をとらえる視点の中心は「有 用」にある。
このように,各教科で森林が異なる視点からとらえられている。したがって,これら異 なる視点をもつ教科をクロスすることで,3つの教科がお互いを補うことができる。【表2
・4・1】は,構想された学習展開である。
学習は3つの事例から構成されている。教科の中でも社会科が中心科目として設定され ており,「マレーシアの熱帯林」は社会科と理科,「吉野杉」は,社会科と技術・家庭科,
「白神山地」は社会科と理科とでクロスさせ,一連の授業のまとめは社会科でなされてい
る。
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第2章学校教育における環境学習カリキュラムの位置づけ
【表2・4−1】学習の展開
学習の対象となる概念 時間
桝
学習問題 システム 時間 有限 有用 倫理騨
自 社 発 対
隔艦 然 会 生 応
1 理科 ・熱帯林とはどのような森林なのだろう。 ○ ○
1 社会科 ・マレーシアではなぜ勲帯林が減少した ○ ○ ○ ○ ○ のだろう。
2 社会科 ・熱帯林の開発をめぐってどのような対 ○ ○
立があるのだろう。
・イギリスの少年を支持するべきか,マ ハテイール首相を支持すべきか,話し
合おう。
1 技術・ ・吉野杉の杉材としての特徴はなんだろ ○ 家庭科 う。
1 社会科 ・吉野杉はどのように育てられているの ○ ○ ○ だろう。
1 社会科 ・吉野の林業が不振に喘いでいるといわ ○ ○ ○ れるのはなぜだろう。
1 理科・ ・白神山地はなぜ世界遺産に選ばれたの ○ ○ ○ ○ ○ 社会科 だろう。
・白神山地の入山規制をめぐってなぜ対 立がおこるのだろう。
1 社会科 ・青森県側の考え方を支持すべきか,秋 ○ ○
田側を支持すべきか,話しあおう。
1 社会科 ・マレーシアの事例と白神山地の事例に ○ おける対立の共通点と相違点を探そ
γ
つ。
・森林に関する3つの授業に共通するキ 一ワードをつくろう。
水山光春,軸教材「森林」についての考え方と授業の構想一中学社会科(地理的分野)を中心として,環境教育研究班
『環境カリキュラム開発に関する研究報告書(平成8年度)』国立教育研究所,1997,p.121を轍変し転載,
社会科と他の教科との関係を具体的に示すと,「マレーシアの熱帯林」では,社会科で 熱帯林の減少の原因や開発のあり方を考える基盤として,理科で熱帯林の生態系につい て学んでいる。「吉野杉」では,まず技術科で吉野杉の加工の実習をおこない,吉野の杉 材の二二を体験的に理解した上で,社会科で吉野の林業や林業不振の原因を探求するよ うに授業が構成されている。「白神山地」では,入山規制をめぐる対立の原因を探求させ
ている。ここでは,はじめのブナを中心とした原生的な自然の生態については,理科が 担当することになろう。
2.クロス・カリキュラムでおこなう環境学習の特色
複数の教科問における関連・連携の形態について,イギリスのウェールズカリキュラ ム審議会(CCW)が,次の4つを提案している4。
①単一教科アプローチ(s血gle−subje(元)
教師が,他教科との整合を念頭に置きながら,自分の専門科目で教える。
②多分野アプローチ(m撮tidiscip㎞y)
特定のトピックスについて,関係強化の教師が共同で計画をし,各教科で教える。
③学際的アプローチ(hlterdisciphnaly)
通常の時間割から外れて,一定期間,複数教科の教師が共同で指導する。
④クロス・カリキュラ・アプローチ(cross・cu㎡cular ooUrse)
別枠時間割のPSE(Personal and S㏄ial Education)コースにおいて教える。
日本では,①〜③のタイプが考えられる。轍オ「森林」による授業は,上記の分類で いうと多分野アプローチにあたる。水山はこの授業を構想するにあたり,クロス・カリキ ュラムの利点を次のように述べている5。
社会科では,知識・理解のみに終わらない体験的な学習の重要性が叫ばれて久しいが,現状ではそ のような時間を取ることはなかなか困難である。そこで,理科や技術と関連させ,直接森林を観察
し,木材を加工することによって,その経験不足を補うことができる。技術・家庭科や理科にとっ ても,不十分になりがちな森林や木材の社会的な意味を,社会科の学習を通じて獲得することがで
きる。
クロス・カリキュラムの特質は,各教科独自の内容や目標がそのまま保持され,しかも 学習の成果が総合的になる点にある6。したがって,環境学習のように複数の教科にまた がるテーマの場合,クロス・カリキュラムによるアプローチは,効果的な環境学習として
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期待できる。複雑化する環境問題の本質に多角的な視点から迫ることができるとともに,
教科の組み合わせ次第では体験的学習も組み込むことができるからである。
しかし,本当に有効な学習形態となるためには,各教科担当者が集まり,互いに関連の ある内容について,どの教科の,どの内容を,どの順番でとり扱うのかを十分に検討する ことが重要な手続きになる。この過程では,単に「学習テーマをそろえる」というレベル ではなく,学習過程で取り上げる概念や視点を整理,設定し,それを教師間で共脊するこ とが必要である。同時に,生徒に対しても説明をしておかなければ;教師は学習内容をク ロスしたつもりなのに,子どもたちがそれを理解していないという状態も起こりうる。
【註および参考文献】
1水山光春,軸教材「森林」についての考え方と授業の構想一中学社会科(地理的分野)
を中心として,環境教育研究上『環境カリキュラム開発に関する研究報告書(平成8年 度)』国立教育研究所,1997,pp.117・118を要約。
2たとえば割り箸問題,地球の肺問題,目本の熱帯林輸入問題などを例として,水山は あげている。
3京都教育大学教育学部附属桃山中学校での使用教科書(社会科:大阪書籍,技術・家庭 科:東京書籍,理科:大日本図書)の分析にもとつく。(水山,前掲論文1,pp.118・119 の要約)
4野上智行編箸『「クロスカリキュラム」理論と方法』明治図書,1996,pp.110・111 5水山,前掲論文1,p.119
6恩藤知典,クロス・カリキュラムの考え方,環境教育研究班『環境カリキュラム開発に関 する研究報告書(平成8年度)』国立教育研究所;1997,p.56
また,野上も「教科をクロスする授業」を成立させる基本的な態度として,「学習内容の 総合や融合を求めるのではなく,教科固有の知のネットワークをはかる」「教科固有の知 を活1生化させ,身近な複合的な課題を追求する」をあげている。(野上,前掲書4p.28)