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6.1 結論

本研究の目的は,スキージャンプの

4

局面の中でも踏み切り局面に着目し,その 直後の飛行局面(初期飛行局面)に及ぼす空気力学的な影響を考慮しつつ,踏み切 り局面に固有の技術的要因と飛距離との関係を明らかにすることであった。

本研究の結果および考察から以下のように結論する。

1)踏み切り局面において発揮される床反力の力学的特徴と,飛距離との関係につ いて

2

章では,スキージャンプの国際大会において,踏み切り局面における床反力 の測定を行い,発揮された床反力が飛距離に及ぼす影響を検討した。その結果,参 加選手すべてを分析対象とした場合,踏み切り局面において発揮された床反力の最 大値,平均値,力積が大きい選手ほど,その飛距離が大きいという傾向が見られた。

しかし,被検者を上位

10

名に限定した場合,これらの床反力変数は

1

5

位(

top 5

6

10

位(

next 5

)とのグループ間で統計学上有意な差が見られなかった。

これらの結果から,スキージャンプ技術指導に関して以下の示唆が得られよう。

①踏み切り局面においては,大きな床反力を発揮し,大きな力積を獲得することが,

飛距離を獲得するために重要である。

②非常に熟練した選手群で踏み切り動作を評価する際には,前述の力学的諸変量の みを用いるのは不十分である。

2)一流スキージャンプ選手の踏み切り動作の床反力発揮様式およびその力学的特 性について

3

章では,一流スキージャンプ選手

12

名を対象に,スキージャンプ踏み切り局 面における床反力の測定と,踏み切り動作の

2

次元映像解析を行った。床反力から 得られた身体重心の上昇速度および変位,そして膝関節および股関節の角度変化を 検討した結果,以下のことが明らかとなった。

床反力発揮様式について,前半の曲線路および後半の直線路で発揮された床反力 の最大値を検討した結果,前半部分で大きな床反力を発揮した選手は後半部分にお ける床反力が小さく,前半部分で小さな床反力を発揮した選手は後半部分における 床反力が大きい,という傾向が見られた。

前述のように,床反力発揮様式は選手の間で異なっていたものの,前半の曲線路 および後半の直線路で発揮された床反力の最大値とその比では,選手の間の最大上 昇速度の変動を説明し得なかった。

身体重心変位について,床反力計の後半部分で大きな床反力を発揮した選手ほど,

主動作の前に起こる一時的な重心高の下降量が大きかったことから,反動動作をよ り積極的に利用したものと推察された。

また,踏み切り局面終了時の姿勢について,床反力計の後半部分で大きな床反力 を発揮した選手ほど,踏み切り局面終了時の股関節角度が大きくなる傾向が見られ た。

これらの結果から,スキージャンプ技術指導に関して,以下の示唆が得られよう。

①前半部分の曲線路から持続的に床反力を発揮する方法によっても,助走路の終端 付近で大きな床反力を瞬発的に発揮する方法と同等の上昇速度を得ることができ る。

身体能力,特に瞬発的な下肢伸展能力に応じて,踏み切り技術を指導する必要が あるものと考えられる。すなわち,瞬発的な下肢伸展能力に優れた選手であれば,

反動動作を利用し,助走路の後半で瞬発的に大きな力を発揮する方法が適してい ると考えられ,一方で,瞬発的な下肢伸展能力に劣る選手は,反動動作を用いず に,曲線路から持続的に床反力を発揮する方法が適しているものと考えられる。

3)踏み切り局面終了時の姿勢の違いが,その後の初期飛行局面の飛行姿勢制御に 与える影響について

3

章で示したとおり,助走路の終端付近で相対的に大きな床反力を発揮した選 手ほど,踏み切り局面終了時の股関節角度が大きいことが分かった。そこで,踏み 切り局面終了時の股関節角度の大きさの違いが,その後の初期飛行局面に及ぼす影 響を,

2

次元映像解析(第

4

章)およびコンピュータシミュレーション(第

5

章)

によって検討した結果,以下のことが明らかとなった。

踏み切り局面終了時の股関節角度が大きいほど,水平方向速度および合成速度が 小さいものの,飛行軌跡が高くなった。ただし,踏み切り局面終了時の股関節角度

113.7

126.0

°までであれば,最終的な飛距離は同じであった。

し か し な が ら , 踏 み 切 り 局 面 終 了 時 の 股 関 節 角 度 を さ ら に 大 き く し た 場 合

(133.0°),飛距離は小さくなることが明らかとなった。このように,踏み切り局 面終了時に過度に股関節を伸展させた場合には,ジャンプ台を飛び出してから

0.2

1.0 s

以内に一時的に股関節角度を減少させることにより,飛距離を増大できるこ

とが明らかとなった。

これらの結果から,スキージャンプ技術指導に関して,以下の示唆が得られよう。

①踏み切り局面終了時の股関節角度が

113.7

126.0

°の範囲であれば,初期飛行局 面における飛行速度および軌跡の高さに影響を及ぼすものの,最終的な飛距離に

は大きな影響を及ぼさない。

②しかしながら,踏み切り局面終了時の股関節角度が

133°を超えるような,非常

に大きな股関節伸展を用いる選手にとっては,飛距離を最大化するために,初期 飛行局面において一時的な股関節屈曲および飛行中の股関節伸展の抑制を行う必 要がある。

6.2 今後の研究課題

本研究において,踏み切り局面における床反力発揮様式は,優れた選手群におい ても画一的ではなく,それぞれの選手に固有のパターンがあることが明らかとなっ た。本研究ではこれらの床反力発揮様式と,股関節および膝関節の伸展パワーなど の体力要因との関係を検討していない。今後,これらの床反力発揮様式と,脚伸展 にかかわる体力要因との関係が明らかになれば,選手は自らの脚伸展能力に応じて,

最も適した踏み切り動作を選択することができるようになると考えられる。

本研究において,初期飛行局面の飛行シミュレーションに用いられた飛行動作モ デルは,主に

2

次元映像解析によって実際のジャンプから抽出された姿勢であった ため,

3

次元映像解析を要するスキーの開き角度を測定することができなかった。

今後,初期飛行局面のみならず,全飛行局面についての詳細な飛行姿勢が

3

次元的 に得られるようになれば,本研究で構築された空気係数の回帰モデルを用いて,飛 行中に作用する空気力の変化をより忠実に再現することができるものと考えられる。

優れた選手の空気力の利用方法が明らかになれば,これまで試行錯誤的に行われて いた技術指導を,空気力学的な理論に基づく指導へと導くことに貢献するものと期 待できる。

謝辞

本稿の執筆にあたり,広島大学大学院教育学研究科,黒川隆志 教授に終始ご指導 を賜りました。同じく,渡部和彦 教授(現名誉教授)には,私が大学院入学以来現 在に至るまでご指導を賜りました。

風洞実験に際し,東京大学先端科学技術研究センターには,多大なご協力を賜り ました。また同センターの渡部勲 元技官には,風洞実験および空気力学データの解 析についてご指導賜りました。国立スポーツ科学センターの平野裕一 主任研究員に は,長期にわたる風洞実験に対し常に理解と支援とを賜りました。

実際のジャンプ競技におけるデータ収集に際し,(財)全日本スキー連盟ジャン プチームには,被検者としてご協力を賜りました。また,同連盟ノルディック複合 チームの河野孝典氏には,指導者の立場から,スキージャンプ全般の技術指導につ いてご意見を賜りました。これにより,本研究に実際的な観点を取り込むことがで きました。

白馬村ジャンプ競技場における床反力の測定に際し,白馬村ジャンプ競技場スタ ッフのご協力を賜りました。床反力計の測定手法について,湯本電気の湯本進氏に ご指導賜りました。また,(株)林魏建築設計事務所の赤羽吉人氏には,白馬村ジ ャンプ競技場の形状について設計図などの資料提供を賜りました。

大倉山ジャンプ競技場の関数化にあたり,(株)札幌振興公社の高梨茂実氏およ び(財)全日本スキー連盟の島野敏幸氏には,設計図などの資料を賜りました。

そして,物心両面において支えてくれた私と妻の両親に感謝いたします。最後に,

日々私を励まし,支えてくれた妻の松子に感謝します。彼女の献身的な協力によっ て,本研究を遂行することができました。

ここに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。