5 初期飛行姿勢を対象とした風洞実験および飛行シミュレーション(実験4)
5.2 方法
5.3.3 初期飛行局面の飛行シミュレーション
局面において,M. H.,Hip_Largeおよび
Hip_Small
のσの値は,ほぼ同じ値に収束 していた。また,M. H. Case Studyは,その他の飛行動作モデルよりも小さいσを示 した。その後,約0.20
~0.30 s
において,4
つの飛行動作モデルのS
Lは,再びほぼ 同じ値になった。0.30 s
におけるσの値を見てみると,M. H. Case Study
が最も小さ く(29.4°),M. H.が最も大きい値であった(36.2°)。その後,約0.30~0.70 s
において,M. H.は,M. H. Case Study,Hip_LargeおよびHip_Small
よりも小さな値 を示した。この局面において,M. H. Case Study
,Hip_Large
およびHip_Small
のσ はほぼ同じ値であり,M. H.
はそれらの動作モデルよりも大きなσを示した。最後に,すべての動作モデルのσがほぼ同じ値となる
0.70~1.00 s
において,4つの飛行動 作モデル間でS
Lの差は見られなかった(この傾向はS
DおよびQ
Mにおいても同様 に観察された)。次に
S
Dについて見てみる(Fig. 42b
)。ジャンプ台を飛び出してから約0.20 s
ま ではHip_Large
がHip_Small
よりも大きい値を示したものの,その後1.00 s
までは 両者のS
Dに差は見られなかった。M. H.およびM.H. Case Study
を見ると,ジャンプ 台を飛び出してから約0.10 s
までは両モデルのS
Dは同じ値で,かつHip_Large
より も大きかった。その後約0.10
~0.70 s
においてM. H.
はM.H. Case Study
よりも小さ いS
Dを示した。特に約0.20~0.70 s
においてM. H.が示した S
Dは,Hip_Largeおよび
Hip_Small
のそれよりも小さい値であった。また,前述の通り0.70~1.00 s
において,4つの飛行動作モデル間で
S
Dの大きさに差は見られなかった。最後に,
Q
Mについて見てみる(Fig. 42c
)。ジャンプ台を飛び出してから約0.20 s
まではHip_Large
がHip_Small
よりも大きなQ
Mを示した。特に0.00~0.10 s
の局面 にでは,Hip_SmallのQ
Mは負の値を示した。その後約0.20~0.40 s
では,わずかな がらHip_Small
がHip_Large
よりも大きなQ
Mを示した。その後約0.40
~1.00 s
にお いて,両者のQ
Mに差は見られなかった。M. H.
およびM.H. Case Study
を見ると,ジャンプ台を飛び出してから約
0.10 s
までは両モデルのQ
M は同じ値で,かつHip_Large
よりも大きかった。その後,M.H. Case Studyは約0.10~0.30 s
においてM. H.
,Hip_Large
およびHip_Small
のいずれの飛行動作モデルよりも大きなQ
Mを 示した。その後約0.30
~1.00 s
において,M.H. Case Study
のQ
MはHip_Large
とほぼ 同じ値を示した。一方でM. H.は,0.20~0.70 s
において4つの飛行動作モデルの中 で最も小さなQ
Mを示した。なお,0.70~1.00 sでは4つの飛行動作モデル間でQ
Mに差は認められなかった。
ここで,時間経過に伴う
Q
Mの変化の様子を見てみると,ジャンプ台を飛び出し てから一時的に増大し,約0.10~0.20 s
後に最大かつ正の値となり,それ以降1.00 s
まで減少し続け,負の値になっていた。すなわち,ピッチングモーメントは正(頭 上げ)から負(頭下げ)へとその極性が変化していた。この,Q
Mが正から負へ転ず る時刻を見てみると,Hip_Large
,Hip_Small
およびM.H. Case Study
のでは約0.40 s
であり,M. H.では0.26 s
であった。すなわち,M. H.には,4つの飛行動作モデル 中最も早いタイミングで,前回りのピッチングモーメントが作用していた。Figure 42 Calculated aerodynamic coefficients of four flight models (Hip_Large, Hip_Small, Subject M. H. and M. H. Case Study)
by using the regression models which were established in this study.
(a)
(b)
(c)
5.3.3. b 股関節角度制御の違いが飛行速度に及ぼす影響
ここでは,4つの飛行動作モデルにおける飛行速度を示す。まず身体-スキー系 の合成重心の水平方向速度(
Vx
)および鉛直方向速度(Vy
)について見てみると(Fig.
43
およびFig. 44
),いずれの飛行動作モデルにおいても,Vx
およびVy
は時間の経過とともに減少していた。Fig. 43 に示したように,約
0.20 s
においてVx
はHip_Small,Hip_Large
の順に大きな値を示し,M. H.とM. H. Case Study
がほぼ同じ 値でHip_Large
に続いた。その後1.00 s
までの間も同様に,Vx
はHip_Small
,Hip_Large
,M. H. Case Study
の順に大きい値を示したが,M. H.
のVx
はこの局面に おいて次第にM. H. Case Study
よりも大きくなり,1.00 s
の時点ではHip_Large
とほ ぼ同じ値になっていた。また,
Fig. 44
に示したように,各飛行動作モデル間のVy
の違いは飛行中の変化に比して小さいため,明瞭ではなかった。そこで,各飛行動作モデル間の速度の違 いを詳細に見るため,いくつかの局面を抽出して
Vx
およびVy
を各飛行動作モデル 間で比較した。すなわち,Hip_Large,Hip_Small およびM. H.の飛行動作モデルの
股関節前屈角度(σが)ほぼ同じ値に収束する0.2 s
時点,途中経過点の0.6 s
時点,そして最終局面である
1.0 s
時点において,各飛行動作モデル間の速度を比較した(Fig. 45)。
まず,
0.2 s
時点の速度を見ると(Fig. 45a),Hip_Large,Hip_Small,M. H.およびM.H. Case Study
のVx
はそれぞれ(24.62
,24.65
,24.59
および24.58 m/s
)であった。同様に,
Vy
はそれぞれ(-3.88
,-3.92
,-3.86
および-3.86 m/s
)であった。次に,0.6 s時点の速度を見ると(Fig. 45b),Hip_Large,Hip_Small,M. H.およ び
M.H. Case Study
のVx
はそれぞれ(23.80,23.82,23.79および23.75 m/s)であっ
た。同様に,Vy
はそれぞれ(-6.39
,-6.41
,-6.40
および-6.36 m/s
)であった。び
M.H. Case Study
のVx
はそれぞれ(22.96,22.99,22.95および22.91 m/s)であっ
た。同様に,Vyはそれぞれ(-8.45,-8.47,-8.46および-8.44 m/s)であった。Figure 43 The horizontal velocity of the center of gravity which was calculated by simulation for the four flight models (Hip_Large, Hip_Small, Subject M.H. and M.H. Case Study).
Figure 44 The vertical velocity of the center of gravity which was
Hip_Large Hip_Small Subject M.H.
M.H. Case Study
Vx (m/s) (a)
(b)
(c)
(0.2 second after take-off)
(1.0 second after take-off)
Figure 45 Velocity of the center of gravity during the early flight phase for the flight models (Hip_Large, Hip_Small, Subject M.H. and M.H. Case Study). These diagrams depict horizontal (Vx) and vertical (Vy) component of the velocity at 0.2 (a), 0.6 (b) and 1.0 (c) second after take-off respectively.
Vy (m/s)
Vy (m/s)
Vy (m/s)
Figure 46 The velocity of the center of gravity which was calculated by simulation for the four flight models (Hip_Large, Hip_Small, Subject M.H. and M.H. Case Study).
次に合成重心速度(V)の変化を見てみる(Fig. 46)。⑫および⑬式で示したよ うに,揚力面積(
S
L)および抗力面積(S
D)が同じ大きさであれば,V
の大きさの 二乗に比例して揚力(L
)および抗力(S
D)が大きくなる。すなわち,V
がこれら の空気力に与える影響は大きいと言えよう。Fig. 46に示したように,いずれの飛行 動作モデルにおいても,時間の経過とともにV
は減少していた。Fig. 46
に示したように,約0.20 s
において,V
はHip_Small
,Hip_Large
の順に大 きな値を示し,M. H.
とM. H. Case Study
がほぼ同じ値でHip_Large
に続いた。その 後 1.00 sまでの間も同様に,V
はHip_Small, Hip_Large, M. H. Case Study
の順に大 きい値を示した。一方で,この局面においてM. H.の V
は,次第にM. H. Case Study
よりも大きくなり,1.00 s
の時点ではHip_Large
とほぼ同じ値になっていた。5.3.3. c 股関節角度制御の違いが飛行軌跡に及ぼす影響
ここでは,4つの飛行動作モデル(Hip_Large,Hip_Small,
M. H.および M.H. Case
Study
)における飛行軌跡の違いを見る。飛行シミュレーションの結果をスティックピクチャーで示した(
Fig. 47
)。各飛行動作モデルにおいて,スティックピクチャーは
0.1 s
間隔で描画した。各飛行動作モデルに示した丸印は,合成重心位置を示す。またこれらの丸印を結ぶ点線は,合成重心の軌跡を意味する。本研究では,この合 成重心の軌跡を飛行軌跡として取り扱う。ただし,ジャンプ台を飛び出す際の合成 重心の位置(
CGx
,CGy
)は,それぞれの飛行動作モデルの股関節前屈角度(σ)によって異なる(Table 7)。すなわち,シミュレーションによって算出された飛行 軌跡にはこれらの初期条件の影響がある。そこで,これらの初期条件の影響を打ち 消すために,
CGx
およびCGy
の初期値を飛行軌跡から差し引き(4.2.3
のFig. 17
参 照),変位としてそれぞれDCGx
およびDCGy
を求めた(Fig. 48
)。すなわち,DCGx
の大きさは,ジャンプ台を飛び出した直後から合成重心がどの程度X
軸方向に進ん だのかを意味する。一方で,DCGy は常に負の値を示したことから,DCGy の絶対 値の大きさは,合成重心がどの程度Y
軸方向に落下したのかを意味する。ここでも
5.3.3.b
と同様に,各飛行動作モデルの0.2 s
,0.6 s
および1.0 s
時点にお けるDCGx
およびDCGy
を比較した(Fig. 48a,Fig. 48b およびFig. 48c)。
まず,0.2 s時点における
Hip_Large,Hip_Small,M. H.および M.H. Case Study
のDCGx
はそれぞれ,(4.96
,4.97
,4.96
および4.96 m
)であった(Fig. 48a
)。同様 に,DCGy
はそれぞれ,(-0.62
,-0.63
,-0.62
および-0.62 m
)であった。次に,0.6 s時点ににおける
Hip_Large,Hip_Small,M. H.および M.H. Case Study
のDCGx
はそれぞれ,(14.65,14.67, 14.64
および14.62 m)であった(Fig. 48b)。
同様に,
DCGy
はそれぞれ,(-2.70
,-2.72
,-2.69
および-2.69 m
)であった。最後に,
1.0 s
時点ににおけるHip_Large
,Hip_Small
,M. H.
およびM.H. Case Study
の
DCGx
はそれぞれ,(24.00,24.03, 23.98
および23.96 m)であった(Fig. 48c)。
同様に,DCGyはそれぞれ,(-5.68,-5.71,-5.68および-5.66 m)であった。
また,
1.00 s
以降は姿勢(α,θ,σ,λおよびφ)を変化させずに,着地までシミュレーションを継続した場合の最終的な飛距離を求めた。なお,着地点を求め る際には,先行研究(谷ら 1971; Seoら 1999; Seoら 2004b)を参考に,ジャンプ 台と身体-スキー系の合成重心との交点を用いた。その結果,各飛行動作モデルの 飛距離は,それぞれ
Hip_Large
(91.8 m
),Hip_Small
(91.8 m
),M. H.
(91.6 m
),および
M. H. Case Study
(91.1 m
)であった。これらの飛距離をスキージャンプ競技規則(飛距離は