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スキージャンプ飛行中の股関節角度制御に着目した飛行シミュレーション

5 初期飛行姿勢を対象とした風洞実験および飛行シミュレーション(実験4)

5.2 方法

5.2.3 スキージャンプ飛行中の股関節角度制御に着目した飛行シミュレーション

ここでは,スキージャンプの初期飛行局面を対象とした飛行シミュレーションに ついて説明する。本研究においては,第

4

章で議論した股関節角度制御方法の違い が,空気力係数にもたらす影響に着目してシミュレーションを行った。まず,スキ ージャンプ飛行の運動方程式およびジャンプ台の数式モデルを定義し,次に対象と なる飛行動作を定義する。最後にシミュレーションによって飛行速度および飛行経 路の算出を行った。以下にその詳細を示す。

5.2.3. a スキージャンプ飛行の運動方程式

ここでは,前述した空気力係数を用いて飛行速度や飛行経路を算出する方法につ いて説明する。横風その他の影響がないとすれば,飛行中の身体-スキー系の合成 重心は,1 つの鉛直面内を移動する。この鉛直面を(X, Y)平面とし,ジャンプ台 の助走路の先端を原点として,X軸を水平に前向きに,Y軸を鉛直上向きに設定し た(

Fig. 32

)。

X Y

M

β

D

L

mg

V

Figure 32 The coordinate system and definition of the angles and aerodynamics forces.

The origin of the X - Y coordinate system is fixed on the edge of a jumping platform.

The X axis is parallel to the horizontal line.

βmeans the angle of the velocity vector

of center of gravity (C. G.) to the horizontal line. The aerodynamic forces lift, drag and pitching moment are depicted as L, D and M respectively. The gravitational force is depicted as mg. Velocity is depicted as V and divided into two velocity components Vx and Vy.

β

V

Vx

Vy (-)

C. G.

上記の(

X, Y

)座標系における身体-スキー系の並進運動は,下記⑩および⑪式 の並進運動を示す運動方程式によって記述できる。なお,本研究で用いたシミュレ ーション手法(Müllerら 1996; Schmölzerら 2002; Schmölzerら 2005)では回転運 動を無視しているため,ピッチングモーメント(M)を考慮していない。回転運動 を無視した理由は,ピッチングモーメントの作用によってスキーの前傾角に変化が 生じるため,スキーと合成重心の速度ベクトルとのなす角度で決定される迎え角

(α)の値が,規定された動作モデル(5.2.3.cに後述)と同じにできないからであ る。

m L x D

V   (  cos   sin  )

m g L y D

V   

 ( sin  cos  )

ここで,

Vx

および

Vy

は,合成重心速度(

V

)の

X

および

Y

軸方向成分をそれぞ れ示す。

m

は身体-スキー系の質量(

72.1 kg

),

g

は重力加速度(

9.81m/s

2),そし てβは身体-スキー系の合成重心の速度ベクトルと水平線のなす角度を示す(4.2.3 の③式で定義した)。Lおよび

D

は揚力および抗力をそれぞれ示す。これらの空気 力は前述の空気力係数回帰モデル(⑦式および⑧式)から算出された

S

Lおよび

S

D

を用いて以下⑫および⑬式で求めた。

S

L

V L  1 

2

2

S

D

V D  1 

2

2

ここで,ρは空気密度(

1.225 kg/m

3),

V

は合成重心速度を示す。シミュレーシ ョン時間は,ジャンプ台を飛び出した時(踝の

x

座標が

0 m

となる時点)から

1.0 s

後までの

1

秒間とした。身体-スキー系の合成重心の座標(x,y)は,以下⑭およ び⑮式を4次のルンゲ-クッタ法で

0.01

秒毎に解くことによって求めた。

Vx

x  

Vy

y  

なお,コンピュータシミュレーションに用いた身体-スキー系のモデルは,身長

1.75 m,装備 10.5 kg

を含む総身体質量

72.1 kg

とした(全日本スキー連盟の強化選

手の平均値を参考とした)。この身体-スキー系モデルは剛体リンクモデルとして 作成した。身体の各セグメント長はモデルの身長(

1.75m

)に対する相対比(

Winter

1990)を用いて算出し,スキーの長さは国際スキー連盟の規定により身長の 1.46

2.56 m

とした。また身体の各セグメントの質量配分および質量中心位置の算出に

は,先行研究による係数(

Winter 1990;

阿江ら

1992

)を用いた。上記の手法により 算出された各セグメントの諸元を

Table 6

に示した。上記の運動方程式をコンピュ ータで実行するためのプログラムは,数値解析ソフトウエア(The MathWorks inc.

製,Simulink Ver. 6.3および

Matlab Ver. 7.1)を用いて作成した。

Segment Length (m) Mass

a

(kg) Position of center of mass

b

(m)

Skis 2.56 6.1

(1.0: bindings)

1.08

Feet

(Lateral malleolus / Head metatarsal II)

0.23 4.0

(2.2: boots)

0.11

Lower legs

(Femoral condyles / Medial malleolus)

0.43 6.0

(0.3: suit)

0.19

Thighs

(Greater trochanter / Femoral condyles)

0.43 12.6

(0.3: suit)

0.19

Trunk

(Greater trochanter / Glenohumeral joint)

0.50 31.3

(0.6: suit)

0.25

Head and neck

(C7-T1 and 1st rib / Ear canal)

0.21 5.7

(0.7: helmet & goggle)

0.21

Arms

(Glenohumeral joint / Ulnar styloid)

0.58 6.4

(0.3: suit & gloves)

0.31

a

Mass of the segment was including the mass of equipment which is enclosed in parentheses.

b

Measured from the proximal end.

Note . These segment parameters except skis were basically calculated by using parameters from "Biomechanics and motor control of human movement," by D.A. Winter, 1990, pp.52-57.

Table 6 Anthropometric characteristics of the jumper - ski model which was used in the flight simulation.

5.2.3. b ジャンプ台形状の関数化

本研究では,国際スキー連盟の公認ジャンプ台である大倉山ジャンプ台(

K = 120m

)を用いた。大倉山ジャンプ台の形状を,前述の(

X, Y

)平面上で

x

座標の関 数として表すと,以下⑯式のようになる。

33.442) 180.058)

( 120 (

180.058 120.058

) 289 . 71 ) 909 . 201 (

163.702 (

120.058 103.391

47.413 87.418)

0.753554(

103.391 87.418

3.3 -53 0.10510423

-37 0.00629293

-63 0.00001970

418 . 87 0

2 2

2 2

2 3

x y

x

x y

x x y

x

x x

x y

x

... c スキージャンプ飛行動作モデルおよび初期条件

ここでは,飛行シミュレーションに用いる飛行動作モデルを定義する。前述のよ うに,本研究ではジャンプ台を飛び出してから

1

秒後までの飛行シミュレーション を行う。

飛行動作モデルには

4.3.1

で示した,

Hip_Large

群,

Hip_Small

群および

M. H.

選 手の股関節角度を模擬した,Hip_Largeモデル,

Hip_Small

モデルおよび

M. H.

モデ ルを用いた。第

4

章で示したとおり,M. H. 選手はジャンプ台を飛び出した時点の 股関節角度が

12

名の被検者の中で最も大きく,ジャンプ台を飛び出してから

0.1

え,ケーススタディとして,M. H. モデルを変形し,股関節屈曲動作を制限した動 作モデルを作成した(M. H. Case Studyモデル)。すなわち,股関節が最大伸展した

後(

0.09 s

)に一時的な屈曲を行わないように制限した。このモデルは,

M. H.

選手

のようにジャンプ台を飛び出した際の股関節角度が大きい選手が,その後一時的な 股関節の屈曲を行わない場合に,初期飛行局面にどのような影響を受けるのか検討 するものである。

これらの動作モデルの中でも,股関節角度の姿勢制御のみに着目するため,迎え 角(α),下肢とスキーとのなす角度(θ),スキーの開き角(λ)および上肢回 転角度(φ)は規定の動作モデル(M. H. 選手の姿勢)と同じとし(Fig. 33a),そ れぞれの飛行動作モデルに固有の姿勢変化は,股関節前屈角度(σ)のみとした(Fig.

33b

)。時刻

0.0 s

から約

0.2 s

までに示した

6

点のプロットは,第

4

章の

M. H.

選手 の分析結果(

0

1

2

3

4

および

5 m

)に対応している。

なお,

4.3.1

で定義していなかったλおよびφについて,λは

Schmölzer

ら(2002)

の角度データを用い,φは

170°の定数とした。また, 4.3.1

では飛行動作を

5m

(約

0.2 s

)までしか分析していないため,ジャンプ台を飛び出してから

0.7 s

および

1.0 s

後の姿勢についても,前述の

Schmölzer

ら(

2002

)の角度データを用いた。したが って,時刻

0.7 s

以降のσは,いずれの動作モデルにおいてもほぼ同じとなる(Fig.

33b)。

これらの飛行動作モデルの姿勢(角度)を,シミュレーションの入力値として用 いる際には,計算ステップ時間(

0.01 s

)に合わせ,

3

次スプライン関数を用いて

0.01

s

毎に角度データを内挿した。

Figure 33 Position control of four flight models (Hip_Large, Hip_Small, Subject M. H. and M. H. case study ) for computer simulation.

These flight models have the same movement pattern in the ski to leg angle (θ), the ski to ski angle (λ) and the attack angle (α) as depicted in figure 33(a).

The arm angle (φ) which is not shown here is set as a constant (170°) in each model. Figure 33(b) shows the difference in the hip bending angle ( σ ) between the models . These markers indicate experimental data, while the lines indicate interpolated data by using cubic spline function.

Angle (deg)

a)

b)

Angle (deg)

Unit Hip_Large Hip_Small Subject M.H.

Subject M.H._case study

CGx m 0.41 0.42 0.40 0.40

CGy m 0.72 0.68 0.74 0.74

Vx m/s 25.02 25.02 25.02 25.02

Vy m/s -2.32 -2.32 -2.32 -2.32

β deg -5.3 -5.3 -5.3 -5.3

Table 7 The initial conditions of simulation for each flight model (Hip_Large, Hip_Small, subject M.H. and Subject M.H. case study).

Note . CGx and CGy means the horizontal and vertical coordinates of center of gravity (CG) of the jumper - ski model respectively. Vx and Vy mean the horizontal and vertical components of CG velocities respectively. β means the angle of CG velocity vecor to horizontal line.

次に,シミュレーションの初期条件について述べる。各モデル(

Hip_Large

Hip_Small

M. H.

および

M. H. Case Study

)の合成重心位置(

CGx

CGy

),身体-

スキー系の合成重心速度(Vx,

Vy)および合成重心の速度ベクトルと水平線とのな

す角度(β)の初期条件を

Table 7

に示す。合成重心の算出には,ジャンプ台を基 準とした座標系(

X, Y

)において,足関節中心の

x

座標が

0 m

となる姿勢を用いた。

ジャンプ台を飛び出す際の速度について,助走路に対して平行成分は,ラージヒ ル競技で一般的な助走速度である

90 km/h(25m/s)に設定し,同じく垂直成分は先

行研究(Komiら 1974; Virmavirtaら 1993a; Schwamederら 1995)より,2.5 m/sに 設定した。

Table 7

に示した

Vx

および

Vy

は,これらの速度を本研究で使用した座 標系に変換した値である。なお,

CGx

および

CGy

以外の初期条件は,すべての動 作モデルで同じ値に設定した。

5.2.3. d スキージャンプ飛行シミュレーションによる算出項目

本研究で実施するシミュレーションによって算出した項目を以下に示す。

1)

S

L:揚力面積(

m

2) 2)

S

D:抗力面積(

m

2

3)QM:ピッチングモーメント容積(m3) 4)V:身体-スキー系の合成重心速度(m/s)

5)

Vx

:身体-スキー系の合成重心の水平方向速度(

m/s

) 6)

Vy

:身体-スキー系の合成重心の鉛直方向速度(

m/s

) 7)CGx:身体-スキー系の合成重心の

x

座標(m)

8)CGy:身体-スキー系の合成重心の

y

座標(m)

. 3 結果

初期飛行局面における空気力について,まず,人形模型を用いた風洞実験の結果 を示す。次に,飛行姿勢を独立変数として空気力係数を推定する回帰モデルの精度 について示す。次に,前述の飛行動作モデルに,この空気力係数の回帰モデルを適 用して空気力を推定した結果を示す。最後に,シミュレーション手法を用いて,飛 行中の股関節角度の制御方法の違いが,飛行速度および飛行軌跡にどのような影響 を及ぼすのか示す。