5 初期飛行姿勢を対象とした風洞実験および飛行シミュレーション(実験4)
5.4 考察
5.4.1 初期飛行局面における空気力係数
実験ではθの角度を
40°までしか用いていないため,θが 80°に至る初期飛行局面
において,その効果を実験的に明らかにする必要があった。そこで,上肢を体側に配置(φ
= 170
)した条件で,θを80
°まで増大させた場 合,揚力面積S
L の減少が抑制されるか否かについて風洞実験による検証を行った(Fig. 34)。ここでは本研究の結果と,谷ら(1951)による上肢を挙上(φ = 30°)
した姿勢から得られた結果(4.4.1.aの
Fig. 25a)を比較する。
Fig. 34
に示したように,上肢を体側に配置した場合,迎え角(α)が5
°以上であれば,
Fig. 25a
のε145
°および130
°の結果と同様に,ある程度までθの増大はS
Lを増大させ,さらにθを増大させるとかえってS
Lは減少していた。ただし,Fig.34
に示したとおり,αが5~15°の範囲では,θを 45°から 65°まで増大させても S
Lの減少は見られなかった。これに比して,4.4.1.a
のFig. 25a
に示したように,ε145
°および130
°の条件では,αが7.5
~15
°であれば,θを約50
°以上に増大さ せると,SLは減少し始めていた。さらに,
Fig. 34
においてαが0°以下であれば,θを 45°から 70°まで増大させ
ると
S
Lも増大しており,さらにθを80
°まで増大させても,S
Lはほとんど変化し なかった。一方で上肢を挙上させた風洞実験では(谷ら1951
),αが0
°の条件で も,θを約60°以上増大させると S
Lが減少し始めていた(4.4.1.aのFig. 25a
のε145°および 130°参照)。
これらの結果をまとめると,上肢を体側に配置した姿勢は,αが
5
~15
°の条件 において,θを増大していくと,上肢を挙上した姿勢よりも大きなθの値でS
Lが減 少を始めたことが分かる。さらに,上肢を体側に配置した姿勢は,αが0°以下の
条件であれば,θを80°程度まで増大させても揚力の減少には至らなかったことが
分かる。すなわち,上肢を体側に配置した姿勢は,上肢を挙上した姿勢に比して,次に第
2
点について,股関節が屈曲した(股関節前屈角度σ = 70°)初期飛行姿 勢において,下肢とスキーとのなす角度θの増大によってS
D,SLおよびQ
Mが増大 するか否か検討した(Fig. 35
)。その結果,θの増大に伴い,S
L,S
DおよびQ
Mは 増大していた。これらの結果は,谷ら(1971
)が示した,θが大きいほどS
L,S
Dおよび
Q
Mが増大するという関係が,初期飛行局面のような股関節を屈曲した姿勢 においても成立することを示すものである。さらに,Fig. 35b
に示したS
Lの変化を,この姿勢よりも股関節を伸展した姿勢(σ
= 40
°)のそれと比較してみると(Fig.
34
),Fig. 35b
ではFig. 34
と異なり,αが5
°以上の姿勢であっても,θの増大による
S
Lの減少が見られなかった。すなわち,股関節を屈曲することによって,θの 増大に起因するS
Lの減少(失速)が抑制されたものと推察される。最後に第
3
点について,θが大きい(θ= 80
°)初期飛行局面において,σの減 少(股関節角度の増大)によってS
L,S
DおよびQ
Mが増大するか否かについて検討 した(Fig. 36)。Fig. 36aに示したとおり,股関節前屈角度(σ)が小さいほど,SDは大きい値を示した。この結果は,股関節角度が大きいほど,SDが大きくなること を示している。次に,
S
L (Fig. 36b
)およびQ
M (Fig. 36c
)の変化を見てみる。α が0
°以上の条件ではσの値が約40
~60
°でS
LおよびQ
Mは最大に達し,それ以上 σを減少させると,却ってS
LおよびQ
Mは減少していた。特にS
Lの減少は,θの増 大でも生ずることをすでに示した(Fig. 34)。すなわち,過度にθを大きくするこ と,およびσを過度に減少する(股関節を伸展する)ことは,むしろS
Lの減少をも たらすものと考えられる。ただし,αが
0~5°の場合,σを 40°まで減少させても S
LおよびQ
Mの減少は 見られなかった。また,αが最も小さい条件であるα = -5°の条件では,前述のS
Dと同様に,σの減少に伴いS
LおよびQ
Mは単調に増大しており,減少は見られな かった。これらの結果から,αが5
°以下であれば,下肢とスキーとのなす角度(θ)が最大で
80°程度となる初期飛行局面においても,股関節前屈角度(σ)を 40°程
度(股関節角度ε = 140°相当)まで伸展することでS
D,SLおよびQ
Mを増大する ことができるものと考えられる。ここまでの議論から,
4
章で用いた3
つの仮定はいずれも成立するものと考えら れる。ただし,前述のように実際の飛行姿勢においては,複数の姿勢変化が同時に おこるため,空気力への影響を定量的に知るためには,これらの複数の姿勢変化を 考慮した空気力係数の回帰モデルが必要となる。次項では,複数の姿勢を用いた空 気力係数の回帰モデルの構築について述べる。
ドキュメント内
スキージャンプ踏み切り局面が初期飛行局面に及ぼす影響 : バイオメカニクス的観点から
(ページ 160-163)