4 踏み切り時の股関節角度の大きさが初期飛行局面に及ぼす影響(実験3)
4.4 考察
4.4.2 初期飛行局面における姿勢制御の違いが飛行速度および経路に及ぼす影響
前述のように
4.4.1
では,Hip_Large
群とHip_Small
群との間で,初期飛行局面に おける姿勢制御の違いを示し,その空気力学的な影響を推測してきた。ここでは,作用した空気力(揚力および抗力)の総合的な結果であると考えられる,飛行速度 および経路の違いから,
Hip_Large
群およびHip_Small
群に作用した空気力を推定す ることによって,4.4.1
で議論された飛行姿勢の変化が空気力に与える影響について 再び議論する。まず,抗力の影響を受けると考えられる,合成重心の水平方向速度(Vx)につい て見てみると(Fig. 22a),
2
群とも5 m
の飛行中にわずかに減少していた。Hip_Large
群とHip_Small
群との間でVx
の比較を行った結果,4 m
地点においてHip_Large
群が
Hip_Small
群より有意に小さい値を示した。また,4 m
地点以外においても,有意ではないものの,Hip_Large群が
Hip_Small
群より小さいVx
を示した。また,Vx
の変化量(ΔVx)をHip_Large
群がHip_Small
群との間で比較した結果,有意では ないものの,1
~5 m
までの各地点において,Hip_Large
群がHip_Small
群よりも小 さな値を示した(Fig. 22b
)。これらの結果から,
Hip_Large
群が示した姿勢制御はHip_Small
群のそれと比して,わずかながら水平方向速度の減少が大きかったものと考えられる。したがって,
Hip_Large
群はHip_Small
群に比べて,より大きな抗力が作用したものと考えられる。この原因を,
4.4.1.b
で示した姿勢変化と空気力との関係で説明することを試みる。Hip_Large
群は飛行中の迎え角(α)がHip_Small
群に比べて常に小さく,また下肢とスキーとのなす角度(θ)を
0~1 m
地点まで小さくしていたことから,抗力を 受けにくい姿勢ではあった。しかしながら,それらの抗力減少作用よりも,Hip_Large
る抗力増大作用の方が大きく,この前半部分(0~2 m地点)においては
Hip_Large
群が
Hip_Small
群よりも大きな抗力を受けたものと推察される。その後εは2
群ともほぼ同じ値となり,θは
3
~5 m
地点までHip_Large
群の方がHip_Small
群よりも 大きい値を示したことから,θによる抗力増大の影響が現れたものと推察される。次に,揚力の影響を受けると考えられる,合成重心の鉛直方向速度(Vy)につい て見てみると(Fig. 22c),2群とも
5 m
の飛行中に落下速度が増大していた。2群 のVy
を比較した結果,0 m
地点においては,有意な差は見られなかったものの,1
,3
および4 m
の各地点でHip_Large
群がHip_Small
群よりも有意に大きい値を示した。さらに,その他の地点において有意ではないものの,
Hip_Large
群がHip_Small
群よ り大きなVy
を示した。しかしながら,Vy
の変化量(ΔVy)を2
群間で比較した結 果,有意な差が見られたのは3 m
地点のみであり,その後5m
地点までその差は小 さくなっていた(Fig. 22d
)。これらの結果から,
Hip_Large
群が示した姿勢制御はHip_Small
群のそれと比して,3m
地点までは落下速度の増大を防ぐことができたものと考えられる。したがって,Hip_Large
群にはHip_Small
群よりも大きな揚力が作用していたものと推察される。この原因を
4.4.1.b
で示した姿勢変化と空気力との関係で説明することを試みる。Hip_Large
群の迎え角(α)はHip_Small
群のそれに比べて常に小さく,揚力を受けにくい姿勢であったと考えられる。一方で,下肢とスキーとのなす角度(θ)につ いて,
0
~1m
地点までHip_Large
群がHip_Small
群よりもθを小さくしていた。すでに
4.4.1.b
で示したように,揚力が失速していなければ,θが小さいことは,揚力を小さくする要因となり,逆に失速していれば,揚力を大きくする要因になる。こ こで,Hip_Large 群は股関節角度(ε)を
0~2m
地点までHip_Small
群よりも大き くしていながらも,結果として揚力が大きかったことを考慮すると,この時点にお いてまだ揚力は失速していなかったものと推察される。したがって,Hip_Large
群はθが小さいために,揚力を得にくい姿勢ではあったが,εを大きくすることで揚 力の作用が
Hip_Small
群よりも総合的に大きかったものと推察される。その後3m
地点から5m
地点までの間でΔVy
に差が見られらなくなっていたことから,この区 間では逆にHip_Large
群に作用する揚力がHip_Small
群のそれよりも小さくなって いたものと推察される。この区間において,2 群のεはほぼ同じ値となり,θはHip_Large
群の方がHip_Small
群よりも大きい値を示したことから,失速していなければθによる揚力が大きくなる姿勢ではあった。一方で
Hip_Large
群がHip_Small
群よりもαを小さくしていたことを考慮すると,Hip_Large
群はθの大きさに由来 する揚力増大作用よりも,αの小さいことによる揚力減少作用の方が大きくなり,総合的に作用した揚力が小さくなったものと推察される。
次に,合成重心の進行方向(β)について見てみる。βは合成重心の鉛直方向速 度(
Vy
)と水平方向速度(Vx
)の逆正接として求めたので(③式),Vy
とVx
の 大きさの比率によって決定する。すなわち,仮に合成重心の鉛直方向速度(Vy)が 小さくとも,それを補うほど大きな水平方向速度(Vx)を得ていれば,βに変化は 生じない。本研究の結果から,βの値は1 m
,3 m
,4 m
の地点においてHip_Large
群が
Hip_Small
群よりも大きな値を示した(Fig. 23
)。また,その他の地点においても,有意ではないが
Hip_Large
群がHip_Small
群よりも大きなβを示した。すで に,Hip_Small群のVx
は,有意ではないものの常にHip_Large
群よりも大きいこと を示したが(Fig. 22a
),この結果を考慮すると,そのVx
の大きさはVy
の小ささ を補うほどではなく,飛行中の進行方向はHip_Large
群よりやや下向きになるもの と考えられる。最後に,飛行経路の指標として用いた
DCGy
を見てみる。DCGyはジャンプ台を 飛び出した時の選手の合成重心の高さを原点(0m
)とした飛行経路の高さの変化をDCGy
の値は減少していたことから,飛行中の選手全員の合成重心は常に落下して いた。Hip_Large
群は3 m, 4 m,5 m
地点においてHip_Small
群よりも大きなDCGy
を示したことから,Hip_Small
群よりも高い飛行経路であったことが分かる。この ようなDCGy
の差が生じた原因は,すでに述べたようにHip_Large
群の鉛直方向速 度(Vy)がHip_Small
群よりも常に大きかったことよるものであると考えられる。ただし,2群間の
DCGy
の差は3m
地点で約0.04 m,4m
地点で約0.06 m,5m
地点で約
0.06 m
であり,それほど大きくはなかった。以上の議論より,
Hip_Large
群とHip_Small
群との間の飛行姿勢制御の違いが,合 成重心の水平方向速度(Vx),鉛直方向速度(Vy)および飛行経路(βおよびDCG)
に及ぼす影響を以下のようにまとめる。
Hip_Large
群が示した飛行姿勢制御はHip_Small
群に比して,飛行中に作用する抗力が大きかったものと推察される。そのため,
Hip_Small
群に比してわずかではあ ったが,Vx
の減少量が大きくなっていたものと推察される。一方で,飛行中に作用 する揚力はHip_Small
群のそれよりも大きかったものと推察される。そのため,Hip_Small
群に比してわずかではあったがVy
の減少量(落下速度の増大)が抑制されたものと推察される。
このような
Hip_Large
群とHip_Small
群の飛行中の速度変化の特徴を反映して,飛行軌跡の方向を意味する合成重心の進行方向(β),および飛行経路の高さの変 化を意味する(