• 検索結果がありません。

2 踏み切り局面における力学的諸変量が飛距離に及ぼす影響(実験1)

2.3 結果

2.4.3 上位選手間の比較

1本目および2本目の各試技について,

1

5

位のグループ(

top5

)と

6

10

位の グループ(next5)の

2

群間の飛距離には有意な差が認められたものの,2群間の平 均床反力,最大床反力,力積には有意な差が認められなかった(Table 3)。この結 果は,スキージャンプの踏み切り技術を評価する際の問題点を示している。すなわ ち,技術(飛距離)に差がある多数の被検者を対象とした場合には,床反力変数の 大きさは技術(飛距離)の優劣を推測する指標の

1

つとして捉えることができるが,

高い技術水準を持つ被検者を対象とした場合には,選手間の床反力変数の差が小さ くなるため,飛距離を推測することが困難になるものと考えられる。

したがって,高い技術水準を持つ選手の踏み切り技術を評価する際には,これま でに述べてきたような床反力変数と飛距離との関係をふまえた上で,選手が発揮し た床反力波形の特徴からその踏み切り技術を明確にしていくことが必要であると考 えられる。そこで,上位群の中からほぼ等しい力積を記録した2名(

M.H.

M.S.

) の床反力波形を取り上げて比較検討を行った(

Fig. 7

)。

M.H.

1

本目と

2

本目の総

合成績で

1

位,M.S.は同様に

2

位の成績を納めた選手であった。

実験室内で,スキージャンプ選手に実際のスキージャンプ動作をイメージさせて 踏み切り動作を行わせた場合,発揮された床反力波形は同一被検者内でよく類似す ることが報告されている(渡辺ら

1971; Schwameder

1997; Schwameder 2007

)。

本研究でも同様に,同一被検者の床反力波形は2回の試技において類似したパター ンを示した。この結果は,よく鍛錬されたスキージャンプ選手は個々の踏み切り動 作の型を持っており,実際のジャンプ競技場面においてもその型を再現する能力が あることを意味するものと考えられる。また,この2名はそれぞれ異なる床反力の 発揮パターンでありながら同等の力積を得ていた。床反力波形を見ると,M.H.は助 走路が曲線路から直線路に移行する地点,すなわち助走路の終端から約

6 m

手前の 地点(約-

300 msec

)から床反力を増大させ,その後床反力を持続的に発揮してい た。

M.S.

については,助走路の直線路の前半部分(約-

300

~-

150 msec

)では

M.H.

に比べて低いレベルであったが,徐々に床反力を増大させ,約-150 msec 以降は

M.H.よりも大きな床反力を示し,助走路の終端(0 m)まで次第に床反力を増大さ

せていた。

Komi

1974

)や

Baumann

1979

)はジャンプ動作の開始について,助走 路の終端に近いほどよいとしており,短い時間で大きな力を発揮させて身体重心に 上昇速度を与えるような踏み切り動作を良い技術として提唱しているが,M.H.が示 した床反力の発揮パターンは,そのような技術とは異なる踏み切り技術の可能性を 示唆するものと思われる。つまり,助走路の直線部分全体を使って十分な力積を得 るだけの床反力を持続的に発揮するという方法である。この方針に従えば,最大の 床反力を踏み切り動作の最終局面で瞬間的に発揮する必要はなく,さらに床反力を 発揮するタイミングに柔軟性(時間的な幅)が与えられることになる。これは,踏 み切り動作を選手に指導する際に離床地点を「線」として意識させるのではなく,

う渡部(1983)の指摘に符合するものである。

2.5 小括

本章では,スキージャンプ国際競技会(サマージャンプ)の参加選手を対象に,

踏み切り局面において発揮された床反力を測定し,平均床反力,最大床反力および 力積などの床反力の要素とスキージャンプのパフォーマンスすなわち,飛距離との 関係を明らかにすることを目的とした。以下にその結果をまとめる。

技術水準に差がある選手群を被検者とした場合,踏み切り動作によって発揮され た床反力の平均値,最大値,力積が大きい選手ほど,その飛距離が大きいという傾 向が見られた(Fig. 4 ~ Fig. 6)。すなわち,これらの床反力変数は飛距離を推測 する指標として捉えることができるものと考えられる。しかし,上位

10

名の選手に 被検者を限定した場合,これらの床反力変数は,

1

5

位(

top 5

)と

6

10

位(

next 5)とのグループ間で差が見られなかった(Table 3)。この結果から,上位の選手

は画一的な床反力発揮を行っているかと思われたが,上位選手間の床反力波形はむ しろ多様性を有することが示唆された(

Fig. 7

)。したがって,特に高い技術水準を 持つ選手の踏み切り技術を理解するためには,前述の力学量のみならず,選手が発 揮した床反力波形に現れる床反力発揮様式の特徴からその踏み切り技術を明らかに していく必要があるものと考えられる。

第3章では,上記の課題を解決するために,高い技術水準を有する選手を対象と して,選手の床反力発揮の特徴を検討していく。