4 踏み切り時の股関節角度の大きさが初期飛行局面に及ぼす影響(実験3)
4.2 方法
4.2.3 映像の解析
映像解析には映像解析ソフトウエア(ベルテックジャパン社製,WinAnalyze Ver.
1.4)を使用した。デジタイズによって得られた 2
次元座標値に対して,遮断周波数6 Hz
の特性を持つ2
次のバターワース型ローパスフィルタをデータの両端から用い選手の矢状面(右側面)における身体部位の
2
次元平面座標を求めた。試技終了 後に縦横2 m
の正方形の較正用フレームを助走路の中央に設置し,水平および鉛直 方向の較正を行った。較正点より手前500 mm
の遠近誤差は水平方向で33.42 mm
(
1.7%
),鉛直方向で23.59 mm
(1.2%
)であった。空中における座標系の設定に際し,身体-スキー系の合成重心の描く飛行経路は,
横風その他の影響がないとすれば,1つの鉛直面の中にある。この鉛直面を(X, Y)
平面とし,座標系を設定した(
Fig. 17
参照)。座標系の原点は助走路の終端とし,X
軸を水平に前向きに,Y
軸を鉛直上向きに設定した。次に肩関節中点,大転子,膝関節中点,足関節外踝,つま先およびスキーの前端,
スキーの後端の計
7
点のデジタイズを行った。デジタイズされた座標から5
セグメ ント剛体リングモデル(セグメント1
:頭部,上肢および体幹部,セグメント2
:大 腿,セグメント3
:下腿,セグメント4
:足部,セグメント5
:スキー)を作成した。この身体-スキー系の合成重心を算出するにあたり,身体の各セグメントの質量 中心点および質量比には
Winter
(1990)の資料を使用し,2本のスキーの質量(約10 kg
)は足部の質量に加えた。なお,合成重心算出には,デジタイズされていない左側面の座標を右側面と同じ座標であると仮定した。このモデルから下記の変数を 算出した。
1)
Vx
:身体-スキー系の合成重心の水平方向速度(m/s
) 2)Vy
:身体-スキー系の合成重心の鉛直方向速度(m/s
)3)β:身体-スキー系の合成重心の速度ベクトルと水平線とのなす角度(deg)
(以下の③式で算出し,常に負の値をとる)
) arctan( Vy Vx
③4)DCGy:身体-スキー系の合成重心の
Y
軸上の変位(m)5)ε:股関節角度(
deg
)6)θ:下肢とスキーとのなす角度(
deg
) 7)γ:スキーと水平線とのなす角度(deg)*8)α:迎え角,スキーとβとのなす角度(deg)*
9)κ:体幹と水平線とのなす角度(
deg
)*
10)τ:下肢と水平線とのなす角度(deg
)*
(*角度は反時計回りを正として算出)
また,上記の9)および10)の角度について,角速度をそれぞれ算出した(κ
’
およびτ’
)。さらに,5m
地点の角度と0 m
地点の角度との差をそれぞれΔκおよ びΔτとして算出した。すなわち,ΔκおよびΔτはジャンプ台を飛び出してから5 m
飛行するまでの角度変化量(増加量または減少量)を意味する。なお,本章で は先行研究による風洞実験の結果(谷ら1951;
谷ら1971
)を利用するため,これ らの先行研究に倣い股関節角度εを肩―腰―踝の3
点によって定義した。12
名の被検者による17
試行のデータを個人内で平均し,計12
試行のデータとし て解析を行った。変数の比較に際して,選手の右踝の水平方向の移動距離を基準点 とした。すなわち,選手の右踝が助走路の終端を通過した時点を基準点(0 m
)と して,その後5 m
まで,1 m
毎に変数を比較した。なお,映像解析から得られた座標を
2
回微分することによって得られる加速度を 算出することで,より直接的に揚力と抗力を求める方法がある(平井ら2007;
Murakami
ら2008
)。しかしながら,高解像度(1024
×512 pixels
)の高速度ビデオ高周波ノイズが増幅するため,実際には空気力推定が困難であることが報告されて いる(平井ら 2007; Murakamiら 2008)。本研究においても,2回微分による空気 力の推定を試みたが,高周波ノイズの影響が大きく,抗力が負の値をとるなど理論 的には考えられないような空気力の値が得られた。これは,本研究で用いた映像の 解像度が,前述の平井ら(2007)に比べ低かった(640×480 pixels)ことに起因す るものと推察される。そこで,本研究では直接的に抗力と揚力を求める代わりに,
速度の変化量を空気力の作用として捉えることとした。