各論 2 固形臓器移植におけるクリプトコックス症
III. 固形臓器移植におけるクリプトコックス症の治療 Executive summary
3) 維持治療(6〜12 ヵ⽉間)
レジメン 抗真菌薬 1 回あたりの⽤量 1 ⽇あたりの回数 投与経路
第⼀選択薬
FLCZ 単剤(A-II) FLCZ 200mg 1 回 経⼝
FLCZ が使⽤できない場合
VRCZ 単剤(B-III) VRCZ 初⽇ 300mg 40kg 未満は 150mg
2 回 経⼝(⾷間)
2 ⽇⽬以降 150〜200mg 40kg 未満は 100mg
2 回 経⼝(⾷間)
(注意)TDM による⽤量調整をすること.
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【肺クリプトコックス症】(6〜12 ヵ⽉間の治療を⾏う)
レジメン 抗真菌薬 1 回あたりの⽤量 1 ⽇あたりの回数 投与経路
呼吸不全を伴う重症例
クリプトコックス脳髄膜炎に準じた抗真菌薬治療を⾏う(クリプトコックス脳髄膜炎の治療の項を参照)
上記以外 第⼀選択薬
(F-)FLCZ 単剤(A-III) FLCZ は以下のいずれかを⽤いる
FLCZ 400mg 1 回 経⼝
FLCZ 400mg 1 回 点滴静注
F‒FLCZ 1 ⽇⽬,2 ⽇⽬ 800mg 3 ⽇⽬以降 400mg
1 回 静注
(F-)FLCZ が使⽤できない場合
VRCZ 単剤(B-III) VRCZ 初⽇ 300mg 40kg 未満は 150mg
2 回 経⼝(⾷間)
2 ⽇⽬以降 150〜200mg 40kg 未満は 100mg
2 回 経⼝(⾷間)
(注意)VRCZ は TDM による⽤量調整をすること.
ITCZ 内⽤液単剤(B-III) ITCZ 内⽤液 200mg(20mL) 2 回 経⼝(⾷間)
ITCZ カプセル単剤(C-III) ITCZ カプセル 200mg 2 回 経⼝(⾷直後)
Literature review
治療⽅針の概略
固形臓器移植後患者を対象にしたクリプトコックス症の治療に関するエビデンスレベルの⾼いランダム化⽐較試験は⾏われ ていない.クリプトコックス症の治療に関する臨床試験のほとんどが HIV 感染患者を対象としているため,臓器移植患者につ いても,これらの知⾒を参考に治療⽅針を決めていくこととなる.よって,治療⽅針の詳細は「各論 1. HIV 感染患者における クリプトコックス症」の項を参照いただきたい.
L-AMB の位置づけ
脳髄膜炎を含めて播種性病変を認める場合の導⼊治療にはポリエン系薬が⽤いられる.その際に 5-FC を併⽤することで予 後が改善することが HIV 感染患者を対象とした無作為化⽐較試験で確かめられている27).固形臓器移植患者は,免疫抑制薬 のタクロリムスをはじめとして腎機能障害を呈しやすい薬剤を使⽤していることが多いため,腎機能障害を軽減させた L-AMB の使⽤が望ましい.実際に,固形臓器移植後にクリプトコックス脳髄膜炎を発症した患者 75 ⼈を対象とした臨床研究で は,90 ⽇死亡率が L-AMB 群で AMPH-B 群よりも有意に低く(10.9% vs 40.0%,p=0.007),多変量解析では死亡率を低下 させる独⽴した因⼦(オッズ⽐:0.11,95%信頼区間 0.02〜0.57)であったと報告されている28).
脳髄膜炎,播種性および重症の肺クリプトコックス症の場合
脳髄膜炎および播種性クリプトコックス症では,L-AMB+5-FC を基本とした導⼊療法を少なくとも 2 週間以上実施した 後,⾼⽤量フルコナゾール(FLCZ)「(400mg/⽇)による地固め療法を 8 週間実施し,通常⽤量の FLCZ(200mg/⽇)によ る維持治療へ移⾏する(各論 1 参照).維持治療は 6 ヵ⽉から 12 ヵ⽉間が⽬安とされており,臓器移植患者のクリプトコック ス症に対する維持治療終了後の再燃率は 1.3%と低い29).ただし,⾮ HIV 感染患者では免疫抑制薬の使⽤により CD4 陽性リ
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ンパ球数の減少が持続する場合はクリプトコックス症の再燃が報告されているため,臨床的な改善具合や免疫抑制の程度を考 慮して,さらに維持治療期間を延⻑することはありうる30).⼀⽅,維持治療の期間が不⼗分な場合は再燃率が上昇することが 報告されている29).再燃は治療終了後 3.5 ヵ⽉後(中央値)に⾒られ,全症例が 1 年以内に再燃していた29).病変が肺に限局 している場合の導⼊療法には FLCZ を選択することもできるが(「各論 1 HIV 感染患者」参照),固形臓器移植後患者に急激な 呼吸不全を伴う肺クリプトコックス症が発症することが報告されており,その場合は脳髄膜炎と同様の治療⽅針とすべきであ る31).
治療効果の評価
治療中は各種検体中の GXM 抗原価は低下していくことが多いが,⾮ HIV 感染患者であっても,陰性化までは 1 年以上かか る場合もあり,治療期間を決める指標にはならない32-34).⼀⽅,固形臓器移植患者に発症した髄液培養陽性の脳髄膜炎の場 合,治療導⼊後 2 週間以内に髄液培養が陰性化しない場合の予後が不良と報告されているため,治療導⼊後 2 週間以内の髄液 培養再検査による評価が必要である29).そこで陰性化しない場合は L-AMB+5-FC による導⼊療法の治療期間を延⻑すること も検討する33).
アゾール系薬と免疫抑制薬の相互作⽤について
アゾール系薬は地固め療法および維持療法において主体となる抗真菌薬であるが,臓器移植後に必要な免疫抑制薬であるタ クロリムスやシクロスポリンといったカルシニューリン阻害薬と相互作⽤があり,それら免疫抑制薬の⾎中濃度を上昇させる ことが知られている.
FLCZ は,それだけでなく経⼝に切り替えた際のカルシニューリン阻害薬の⾎中濃度上昇が報告されている35).固形臓器移 植後に FLCZ を⻑期間使⽤することそのものの安全性には問題はないと考えられているが,FLCZ 開始時や経⼝にスイッチす る際は,カルシニューリン阻害薬の⾎中濃度測定による慎重なフォローが必要である36).なお,FLCZ 開始時のタクロリムス の⽤量は多くの場合 50%以下に減量する必要がある37, 38).FLCZ 開始時のシクロスポリンの⽤量は,シクロスポリンの⾎中濃 度が FLCZ 開始後より 2 週間以上をかけて徐々に上昇するため,⾎中濃度に応じてシクロスポリンの投与量を調整する39).
VRCZ を FLCZ 耐性株によるクリプトコックス脳髄膜炎の腎移植患者に使⽤した例では,タクロリムスの⾎中濃度が VRCZ 投与前の 9.9 ng/mL から 28.5 ng/mL まで急激に上昇し,消化器症状や低 Na ⾎症を認めたため,両薬剤とも⼀旦中⽌されて いる40).その後,タクロリムスを半分に減量し,VRCZ の投与量も減量することで,タクロリムスの⾎中濃度は安定し,8 ヵ
⽉間の治療が実施された.ITCZ も,タクロリムスおよびシクロスポリンの⾎中濃度を著しく上昇させることが確認されてお り,クリプトコックス症を発症した固形臓器移植患者に⻑期間投与された経験は乏しい41).
免疫抑制薬の減量
固形臓器移植後のクリプトコックス症の治療を考える上で,免疫抑制薬の減量も検討しなければならない事項である42).た だし免疫抑制薬の減量がクリプトコックス症の予後を改善するエビデンスはない.使⽤されている免疫抑制薬には種々の種類 があるが,中でもカルシニューリン阻害薬は前述の通りクリプトコックスに対する直接的な抑制効果を有しているため,ステ ロイド薬など他の免疫抑制薬から減量を考えたほうが良いかもしれない20, 33, 43, 44).
免疫再構築症候群(IRIS)
クリプトコックス症の治療を⽬的とした免疫抑制薬の減量により,HIV 感染患者に⾒られるような IRIS に類似した病態を 呈することがある45-47).IRIS とは,クリプトコックス症に対して有効な治療が⾏われ,培養の陰性化など微⽣物学的な有効性 が確認されているにも関わらず,病態の悪化が⾒られることをいう.近年は,元々免疫抑制状態ではない健常者においても,
クリプトコックス脳髄膜炎治療中に post-infectious inflammatory response syndrome と呼ばれる IRIS 類似の反応が⾒られ ることが明らかとなっている48, 49).その病態は,細胞内寄⽣真菌であるクリプトコックスの感染により,マクロファージと T 細胞の間で適切なシグナル伝達が⾏えなくなるため,抗真菌薬によりクリプトコックスの除去に成功すると,これらのシグナ ル伝達が改善し,⼀時的に炎症反応の増悪が起こると考えられている48-50).すなわち,クリプトコックス症の治療に関して は,免疫抑制薬を減量しない場合でも,抗微⽣物学的な効果のみで IRIS が起こる可能性があることを意味している.
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固形臓器移植後のクリプトコックス症の患者 89 ⼈を 12 ヵ⽉間追跡した研究では,IRIS が 13 ⼈(14%)に認められている
45).発症の独⽴した危険因⼦は,脳髄膜炎の患者がオッズ⽐ 6.2,カルシニューリン阻害薬の中⽌がオッズ⽐ 5.1 であった.
IRIS の発症タイミングは,クリプトコックス症の治療導⼊後,中央値 45 ⽇(IQR, 15〜76 ⽇)であった.また,IRIS 発症患者 では移植臓器の拒絶が起こりやすい傾向が⾒られた(15.4% vs 2.6%, p=0.07).しかし,IRIS の有無で予後に違いは認めて いない.これらの結果からは,臓器移植患者のクリプトコックス症では,可能な限りカルシニューリン阻害薬の継続が望まし いことが⽰唆される.⼀⽅で,ステロイド薬の減量は IRIS 発症とは関与が証明されなかったため,種々の免疫抑制薬なかで はステロイド薬減量の優先度が⾼いかもしれない.IRIS の治療については,ステロイド薬による治療で臨床所⾒の改善が得ら れた報告がある50-52). IRIS 発症時の治療に関しては,固形臓器移植患者を対象にした臨床研究は⾏われていないため,HIV 感染患者の IRIS 発症時の対応を参考にする(各論 1 HIV 感染患者).
予防投与
固形臓器移植患者に対するクリプトコックス症の予防を⽬的とした抗真菌薬の投与を⽀持するデータはない.少なくとも,
肝移植患者を対象とした FLCZ 予防内服の効果を検証した⼆重盲検無作為化プラセボ⽐較試験の結果では全⽣存率の改善効果 は得られていない53).
⽂献
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