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結論

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 139-163)

第七章 自律性マネジメントの展開過程⑵ ケース・スタディ:米国自動車産業と GM

5 結論

確立され,また全国協約への復帰を求める選挙の実施が行われた。また,1998 年までは 独自協約が 66%に支持され作業者のサターン経営に対するコミットの強さを実証したが,

1999 年にはついに労使共同経営をそれまで維持・推進してきた指導部が全国協約復帰派 である対立候補に役員投票選挙で敗北し,報酬制度の変更や先任権の拡大など,全国協約 への接近が決定された。そして 2003 年には新型車割り当てと増資を約束することを条件 に独自協約の放棄と全国協約への移行が締結され,組合員選挙の結果2,953対317の圧倒 的多数の支持で承認された。この時をもってサターンの労使共同経営は終わりを迎え,

2009年のGMの経営破綻後,サターン工場は閉鎖された349

どの変革取り組みを積極的に行っているようで,活発化はしない,という矛盾した外観を 見せたのである。

最後に,本章の検討によって明らかになった内容から,関連する諸論点に対する若干の 解釈を示す。

第一に,これまでの研究では,1970年代のQWL向上運動の展開は,1980年代からの 作業組織改革の地歩を固め,チーム制への道筋を拓いた,と解釈されている351。だが,

本章で検討したように,米国自動車産業において労使はQWL向上運動を通じた作業者疎 外と職場環境の改善にはほとんど具体的な取り組みを行っていなかった。また,1980 年 代の作業組織改革は,あくまで経営危機と雇用不安への対応を意図した競争力強化が原動 力であり,QWL 向上を意図したものではなかった。GMシュリーブポート工場やランシ ング工場では確かにQWL的色彩を帯びはした。だがその内実は,競争力強化のためのチ ーム制導入と引き換えに作業者とローカル・ユニオンが自己防衛的な規制を行うための権 限を獲得した,というものであった。つまり,“作業者が非人間的な作業環境で働き,大 量生産・労使関係システムの犠牲になっている状況を変えよう”というようなQWL向上 そのものを直視した積極的な動きが取られたことはほとんどなく,少なくとも米国自動車 産業に限っては,1980 年代の展開を QWL 向上運動の延長で捉えることは実態を誤認し ている。

第二に,半自律型チーム制とはなにか,という問題である。先行研究では,サターンの ような高度な自律性を持ったチームを自律型チーム制,監督者に対する公式権限を持たな いチームを非自律型チーム制,部分的な裁量権限を持ったチームを半自律型チーム制(あ るいは自己統制型チーム)として分類したが352,半自律型チーム制の具体的な権限移譲 の程度や領域は曖昧なままであった。米国自動車産業に見られる半自律型チーム制の権限 は,経営側に対する不信頼を前提にした,自分たちの権利を保持するためのものである。

そこには,サターンのような自ら経営の一端を担い,積極的に自律性を行使し潜在的能力 を発揮しようという意識はない。

加えて,NUMMI やトヨタ・ケンタッキー工場(TMMK)などは,現場の作業チーム に公式的権限がないことから非自律型チームに分類される。だが,TMMKやNUMMIな どの内実を見るに,作業者は生産問題に自発的な態度を持って参画し,仕事に対する満足 度も高く,改善提案数も非常に高い。チーム・リーダーやグループ・リーダーも作業者の 要望や改善提案,あるいは苦情を意思決定に積極的に反映させ,意識的に作業者の関与を 促進するなど,その役割は直接統制を行う管理者というよりは調整・援助者としての役割

351奥林康司『増補 労働の人間化 その世界的動向』有斐閣,1991年; 今村寛治『労働の人間化へ の視座』ミネルヴァ書房,2002年; 篠原,前掲書,2003年; 森田雅也『チーム作業方式の展開』

千倉書房,2010年.

352 Appelbaum & Batt, op. cit., 1994; Cappelli et al., op. cit., 1997; 森田,前掲書,2010年.

を担っている353。つまり,GM の半自律型チーム制が職場の公平性確保のための自律性を 持つ一方で生産部面に積極的に関与するための自律性を持たないのに対し,NUMMI な どの非自律型に分類されるチーム制は,公式的な権限はないものの,生産部面や職場の公 正性に間接的に関与する,いわば“擬似的な自律性”を持つのである。このような内実を 鑑みれば,外観としての公式的権限のみを判断基準に非自律型と作業チームを分類する議 論は,改めて組織プロセスの視角から再考の必要があるように思われる。

353 Adler & Cole, op. cit., 1993; Besser, T., Team Toyota, State University of New York Press, 1996;

Adler et al., op. cit., 1997.

—————————————— 終章 ——————————————

結論と残された課題

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本研究は,現場組織レベルが自律的に現場業務の遂行に関わる意思決定を行うことを方 向性とした組織マネジメント=自律性マネジメントは,今日の事業環境に適応した新しい 組織マネジメントのあり方の可能性の一つを示しているが,それを実践するには乗り越え るべき多くの挑戦課題がある,というところから議論をスタートさせた。今日の企業組織 にとっては,現場組織レベルが持つ経験と知識,意欲,協働といった潜在的能力を発揮さ せ,戦略を支える優れた実行力や創造的なアイデア,顧客への質の高いサービスといった 競争力に結びつけることが喫緊の経営課題である。そのような潜在的能力の発揮は命令統 制型の組織マネジメントの行使によっては実現されにくく,むしろ現場組織レベルが自ら 意思決定し,実行し,結果に応じて修正を行うことで促進されるものである。よって,企 業組織が現場組織レベルの自律性発揮による恩恵を得るには,組織マネジメントを通じて 自律性を意識的にマネジメントする必要がある。

しかしながら,自律性をマネジメントすることは容易ではない。ただ自由裁量を与える のみでは目的達成組織としての有効性・効率性は保障されない。かといって統制を強めれ ば自律性の恩恵も制限される。企業組織はどのように現場組織レベルの自律性をマネジメ ントするのか,どのような組織の仕組みが必要となるのか,またその導入定着過程ではど のような問題が発生するのか。自律性マネジメントに挑戦する米欧の代表的企業事例三社 に対するケース・スタディと文献研究を通じてこのような課題を探究することが,本研究 の主目的であった。

分析の第一歩として,第二章では,自律性マネジメントに関連する先行研究のレビュー を行い,本研究の分析視点を明らかにした。自律性マネジメントに対する研究者の注目は 始まったばかりであるが,関連する研究は少なくない。実践例の経験,自律型チームやオ ープンブック・マネジメント,奉仕型リーダーシップなどの個別の経営手法,人口統計学 的研究,現場組織レベルの自律性を高める取り組みとパフォーマンスとの関連などを振り 返りながら,自律性マネジメントに関連する研究は,これまでどのような焦点を当て,何 を明らかにしてきたのかを整理した。

関連する研究の整理から浮かび上がったのが,本研究の課題,すなわち自律性マネジメ ントの組織的な仕組みとその展開過程は,これまでほとんど検討されていない,というこ とである。

実践例の経験や経営手法の研究などは,自律性マネジメントが効果的に導入・定着され るには,現場組織レベルの組織構造やリーダーシップなどだけにとどまらず,組織の多様 な構成要素を自律性と整合させる,包括的な取り組みが必要であることを示す。だが,こ

れまでの研究は,特定の経営手法に焦点を当てた限定的な視点しか持たないか,あるいは 目立った組織的特徴だけを捉えたために,諸階層構造のマネジャーがどのような役割を果 たすのか,どのように調整や統合を行うのか,目標設定や予算配分,業績モニター,人事 評価など,直感的には現場組織レベルに任せることの難しそうな活動は誰がどう担うのか など,組織が安定的・効果的に機能する上で満たさなければならない諸構成要素に対し て,自律性マネジメントの実践例がどのように対処しているのかがほとんど説明できてい ない。これらをトータルかつ詳細に探っていく視点が必要になる。

この点は展開過程の分析も同様である。これまでの自律性マネジメントに関連する先行 研究の多くは,現場組織レベルを自律的に機能させ,その潜在的能力を促進させることを 意図した取り組みの実態や効果,あるいは成功条件や阻害要因などを明らかにしようとし てきた。そのような研究の多くは,多かれ少なかれ自律性マネジメントが成功裏に導入さ れ,自律性マネジメントの仕組みが構築された,言わば静的な状態に焦点を当てるもので ある。だが,そのような自律性マネジメントの仕組みは,どのようなプロセスを通じて構 築されるのだろうか。この問題に正面から取り組んだ研究はこれまでほとんど見られな い。この問題に取り組むためには,構築された自律性マネジメントの仕組みを静的に捉え るのではなく,導入し定着する過程を動的な視点で捉える必要があるのである。

第三章では,米国のグローバル電力会社AESを対象とした事例分析を行い,同社にお ける自律性マネジメントの仕組みと機能を検討した。現場組織レベルを高度に自律化しな がら安定した発電所組織のパフォーマンスと急速なグローバル成長を実現したAESの背 景には,発電所組織やプロジェクト組織の自律性を組織目的達成へと効果的に結びつける ことを意図した全社的な仕組みがあることを示した。前半部では組織構造と組織文化に注 目した。ここで明らかにされたのは,現場組織からトップまでの距離が近い相対的にフラ ットな階層構造,スタッフ機能を現場組織レベルへと大幅に委譲した小規模な本社組織,

広範な自由裁量を持ち現場組織のチームを中心にして運営される発電所組織,世界中に展 開しながら事業開発機会を機動的に捉えるプロジェクト組織,自律的な分析・判断や新し い仕事への挑戦などを奨励する組織文化などが,現場組織が広範な自由裁量を持って多様 な仕事に取り組み,その能力を伸ばす方向で体系的に構築されている,ということであ る。

後半では,発電所組織とプロジェクト組織に焦点を当て,計画策定プロセスや業績モニ ター,コミュニケーション,業績評価などを検討することで,AESの現場組織レベルが どのように機能していたのかを明らかにした。まず,高度な自由裁量がある現場のチーム や個々の発電所組織は放任された状態にあるわけではなく,諸組織単位が情報を共有して 相互に業績をモニターし合い,意見やアドバイスを行うこと,それをサポートする全社的 な情報システムやコミュニケーション・システムが存在することが明らかとなった。これ らによって,発電所組織は現場のチームを中心に高度に自律化しながらも,組織目的達成 に向け効果的なコントロールを機能させていたのである。

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 139-163)