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チーム制の導入と半自律型チーム制の展開

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 131-134)

第七章 自律性マネジメントの展開過程⑵ ケース・スタディ:米国自動車産業と GM

⒉ チーム制の導入と半自律型チーム制の展開

を引き起こした322

危機的状況の中で米国自動車産業に突きつけられていたのは,生産性,品質,コストに おける製品競争力の深刻な喪失であった。1981 年時点での小型車一台当たりにかかる米 国自動車メーカーの製造時間は日本メーカーのおよそ1.4倍,品質では米国産車の欠陥が 日本国産車に対し3〜5倍に昇るなど格段のひらきがあった323。加えて,1984年にカリフ ォルニア州で操業を開始したトヨタ−GM合弁工場NUMMIがGMの旧工場を引き継ぎな がら作業組織改革を実践し大幅な品質改善・生産性向上に成功した事実と324,マサチュー セッツ工科大学の研究チームが日本自動車メーカーの競争力を米国自動車産業に対して喧 伝したことの影響も325,日米間の生産能力の格差,ひいては伝統的大量生産・労使関係シ ステム変容の必要性に対する認識を強めさせた。

企業の存続と雇用が危ぶまれる状況では,UAW ナショナルも経営側との交渉において 譲歩せざるを得なかった。加えてUAWは1980〜1990年代に拡大した日産,ホンダなど の日系移植工場の組合組織化に相次いで失敗しており,産業内組織率の高さという基盤が 揺らぎ始めていた。また米国連邦議会では労働組合が米国企業の競争力を妨げているとい う認識が高まり,労働組合に対する法制的保護を緩和しようとする動きが現れだしたこと も,UAW に方針転換を迫っていた。この結果,ビッグ・スリーは生産性向上,品質改善,

コスト削減を課題とし,UAW もこれに協調・協力するというかたちで,伝統的労使関係 システムの転換に取り組むこととなった326。 

⒉ チーム制の導入と半自律型チーム制の展開  

この労使関係システムの転換における中心的な取り組みが,チーム制の導入であった。

このチーム制は,伝統的労働編成から作業チームへの移行,すなわち作業者を数人から十 数人のチームに編成し,細分化された職務の個人単位の割り当てからチーム単位の柔軟な 作業配分とメンバー間の協力を通じてチーム単位で課業責任を遂行する作業編成への移行 をコアとしている。これに対応して職務の大括り化,ジョブ・ローテーション,チーム・

ミーティングの運営,チームによる品質改善,多能工化,知識・技能給の実施,チーム・

リーダーの設置など,作業編成・労務管理の包括的転換が行われる327。これによって作業

322 Kats, H. C., op. cit., 1985, pp. 283-297; Piore, M. J., & Sabel, C F., The Second Industrial Divide:

Possibilities for Prosperity, Basic Books, 1984.

323 鈴木良始,前掲書,1994年,4-17頁.

324 Adler, P. S., R. E. Cole, “Designed for Learning: A Tale of Two Auto Plants,” Sloan Management Review, 1993, Spring, pp. 85-94.

325 Womack, J. P., Jones, D. E., & Roos, D., The Machine that Changed the World, Rawson Associates, 1990.

326 萩原,前掲書,1999年,96-107; 山崎,前掲書,2010年,38-63頁.

327 Kats, H. C., op. cit., 1985, pp. 88-96.

者の生産・品質問題への主体的関与,作業責任の統合による人的コストの圧縮,作業配置 の柔軟性による製造対応力といった製造現場の生産能力向上が期待された。

1980〜1990 年代,このチーム制が GM とクライスラーにおいて試行的に取り組まれ

た。GM は1983年までにミシガン州オライオン工場やルイジアナ州シュリーブポート工 場など 10 工場で実験的導入を行い,クライスラーもミシガン州ジェファーソン工場など

6 工場で MOAs(Modern Operating Agreements)と呼ばれる労使協約を結び,作業チ

ーム,職務統合,多能工化奨励加給と利潤分配ボーナス,品質責任の委譲,教育訓練,改 善技能育成などを行った。1993〜1994 年にはビッグ・スリーが米国で操業する 19 の組 立工場のうち 9 工場でチーム制が導入され,19 工場の総労働者のうちチーム制の下で働 く労働者は 23%に達した。また,シュリーブポート工場やジェファーソン・ノース工場 など比較的積極的にチーム制を導入してきた一部の工場では,品質面を中心に一定の成果 を上げた328

とはいえ,多くの工場において転換の内実は必ずしも順調ではなかった。クライスラー では上記の6工場以外ではローカル・ユニオンでの投票によってチーム制導入が繰り返し 否決された。また GM でも,カリフォルニア州ヴァンナイズ工場ではチーム制の運営を 巡ってローカル・ユニオンと工場経営側との対立が繰り返された結果工場が閉鎖された。

ミシガン州ポンティアック工場では1986年にチーム制を導入したものの組合員投票の結 果翌年放棄された。このように,チーム制導入による競争力向上を企図する GM−UAW ナショナルとは対照的に,ローカル・ユニオンと現場作業者は「上」が決めたチーム制の 導入方針を全面支持する状況にはなかった329

無論,ローカル・ユニオンにとっても,工場閉鎖による雇用喪失の危機の前にはチーム 制導入による生産能力向上が喫緊の課題であった。GM−UAWナショナルはチーム制導入 を積極的に推進しており,GM はチーム制を展開しない工場には閉鎖を迫り,UAWナシ ョナルもこの対応を支持するなど,チーム制導入は避けがたい状況にあった330。だが,ロ ーカル・ユニオンにとって伝統的作業組織からチーム制に移行することは,職務統合とジ ョブ・ローテーションによって伝統的「良い仕事」をなくし,先任権の適用範囲を狭め,

職務規制とそれによる苦情提出を通用しなくさせるなど,ジョブ・コントロール・ユニオ ニズムが築いた雇用の安定装置,恣意的現場管理への抵抗装置331というメリットを失いか ねないという,不信を克服できなかった。

チーム制に対するアンビバレンスは作業者も同様であった。作業者も工場閉鎖による雇 用不安を回避するためにチーム制を受容せざるを得ないという消極的立場であったが,同

328 Kats, H. C., op. cit., 1985, pp. 88-96; MacDuffie J. P., Pill, F. K., op. cit., 1997, pp. 27-29; Adler et al., op. cit., 1997, pp. 75-77.

329 Parker, M., Slaughter, J., op. cit., 1988; MacDuffie J. P., & Pill, F. K., pp. 27-29; 山崎,前掲 書,63-96頁.

330 Parker, M., Slaughter, J., op. cit., 1988; 山崎,前掲書,63-96頁.

331 Jacoby, S., op. cit., 2004.

時に労働疎外的な状況で働いてきた作業者は,チーム制の作業意欲を促進する側面(生産 効率や品質,安全に対する貢献,監視監督の低減,チームワークなど)に対しては積極的 態度を示した。しかしその一方でチーム制のすべての部面に対して肯定的なわけではなく,

生産問題に参加しようとする作業者をないがしろにする管理者側の対応への不満,作業の 統合・効率化によるレイオフへの疑心・不安,ジョブ・コントロール・ユニオニズムへの こだわりなど,作業者もまた伝統的パターンとの間でアンビバレントな立場にあった332。 だがこれと同時にいくつかのGM工場では,チーム制をそのまま受容するのではなく,

導入と引き換えにローカル・ユニオンと作業者の立場から部分的規制を行うという,

GM−UAWへの不信を主体的規制によって乗り越え,新しい作業組織を模索する動きが現

れた。具体的には,チーム・リーダーを経営側が決定するのではなくメンバーの公選で決 める,有給休暇のスケジューリングはチームが行う,ジョブ・ローテーションはチームの 自主性に基づいて行う,チーム会議への参加や品質問題への関与は任意とする,先任権に よる異動の優遇などである。これらはローカル労働協約によって定められ,シュリーブポ ート工場やミシガン州ランシング工場,またGM−スズキのカナダ合弁工場CAMIやミシ ガン州のマツダ・フラットロック工場など組合組織型の北米日系移植工場でも展開した333。  以上の取り組みでは,GM−UAWナショナルが推進したチーム制に対し,作業者とロー カル・ユニオンが権限,発言権,規制を求めたことで,作業割り当て,チーム・リーダー の選任など,伝統的パターンにはなかった課業遂行上の発言権や職制に対する作業者寄り の権限関係がローカル・ユニオンと作業者に獲得された。その結果,いわば部分的な自律 性を持った作業チームが米国自動車産業の一部で形成されたのである。

このような部分的自律性を持った作業チームは,先行議論ではしばしば半自律型,自己 統制型の新しい作業編成であると評価される334。確かに伝統的労働編成と対比すれば,作 業者の発言権・権限は拡大した。だが,そこで獲得された権限には,生産問題を主体的に 捉え,工夫する当事者意識の発揮や,現場の知識・経験に基づく効果的な判断を促進する,

といった積極的な意図はなかった。獲得された権限は,経営側によって選出されたチー ム・リーダーが直接統制を行う管理代表として振舞うことを防ぐ,ジョブ・ローテーショ ンやチーム会議への参加を任意とすることでチーム制に対する事実上の規制力を得るなど,

チーム制を受け入れつつも自分たちの権利を確保する,という自己防衛的な意図である。

それは,伝統的労使関係の延長で獲得された妥協的産物であった。事実,ランシング工場 やシュリーブポート工場のローカル労働協約では,生産部面への積極的参画を保証する類

332 Parker, M., & Slaughter, J., op. cit., 1988; Adler et al., op. cit., 1997, pp. 75-77.

333 Parker, M., & Slaughter, J., 1988; Fucini J. J., S. J. Fucini, Working for the Japanese, Collier Macmillan, 1990; inehart, J. W., C. V. Huxley & D. Robertson, “Team Concept at CAMI,” in S.

Babson (ed.) Lean Work, Wayne State University Press, 1995, pp. 220-234; Babson, S., “Whose Team? Lean Production at Mazda U.S.A.,” in S. Babson (ed.) Lean Work, Wayne State University Press, 1995, pp. 235-245; Adler et al, op. cit., 1997, 75-77; 篠原, 前掲書,2003年.

334 Kats, op. cit., 1985; Appelbaum & Batt, op. cit., 1994; Cappelli et al., op. cit., 1997.

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