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目標・予算計画プロセス

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 91-94)

第四章 自律性マネジメントの仕組みと機能⑵ ケース・スタディ:ABB Group…64

⑴ 目標・予算計画プロセス

現地事業会社の目標・予算計画はマトリクス構造を通じたプロセスのなかで決定される。

220 Ibid.

221 Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op. cit., 1997a, pp. 17-34.

まず,各ビジネス・エリア・マネジャーは,担当する製品事業のグローバル戦略計画を立 て,当該計画に対する CEO バーネビクの承認を直接取り付けなければならない。その後,

承認された各ビジネス・エリアの戦略計画を土台に,執行委員会が各ビジネス・セグメン トとビジネス・リージョンの達成目標に対する協議を行い,ビジネス・エリアおよび国別 法人がそれぞれ達成するべき成長目標,利益目標,投資収益目標などのマクロ目標を設定 する。執行委員会によって協議・設定されたマクロ目標はビジネス・エリア・マネジャー とカントリー・マネジャーにそれぞれ伝達される。このマクロ目標を細分化して配分する 形で,ビジネス・エリア・マネジャーとカントリー・マネジャーはそれぞれの立場から,

両者の結節点である現地事業会社が達成するべきミクロ目標(新規注文,売上,利益,従 業員数など)を現地事業会社の前線マネジャーに伝達する。この段階でビジネス・エリア と国別法人から矛盾する目標を受け取った場合には,現地事業会社の前線マネジャーが中 心になった協議を通じて調整し,三者間の合意に至らせなければならない222

現地事業会社の支出予算については,上記のミクロ目標に基づいて,現地事業会社の前 線マネジャーが予算計画を立て,ビジネス・エリア・マネジャーとカントリー・マネジャ ーにボトム・アップで提出する。その後,三者間で予算についての協議を行い,最終決定 に至る223

222 Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op. cit., 1993, pp. 35-38; Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op.

cit., 1997, pp. 183-209; Barham, K., and Heimer, C., op. cit., pp. 258-259; Simons, R. L., Asea Brown Boveri: The ABACUS System, Harvard Business School Case, No. 9-192-140, 1992(慶応義塾 大学ビジネス・スクール訳『ABBのABACUSシステム』5-9頁); 石倉洋子「ABB 統制と創造 のネットワーク・マネジメント」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』12-1月号,

1997年,46-53頁.

223 Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op. cit., 1993, pp. 35-38; Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op.

cit., 1997, pp. 183-209; Barham, K., and Heimer, C., op. cit., pp. 258-259; Simons, R. L., op. cit., 1992(邦訳5-9頁); 石倉洋子,前掲書,46-53頁.

図4-3 ABBの計画プロセス

出所:Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op. cit., 1993, pp. 35-38; Bartlett, C. A., and Ghoshal, S., op. cit., 1997, pp. 183-209; Barham, K., and Heimer, C., op. cit., pp. 258-259; Simons, R. L., op. cit., 1992(邦訳5-9頁); 倉洋子,前掲書,46-53頁を参考に筆者作成。

この目標設定プロセスは表層的には,執行委員会からのトップ・ダウンでビジネス・エ リアと国別法人のマクロ目標を設定し,それがさらに現地事業会社のミクロ目標として配 分される,トップ・ダウンの色彩が強いプロセスのように見えるが,そうではない。まず,

執行委員会による協議の土台にあるのはビジネス・エリアの戦略計画であり,各ビジネ ス・エリアの計画を反映したものである。加えて,このビジネス・エリアが立てる戦略計 画は,ビジネス・エリア・ボード(Business Area Board)と呼ばれる,ビジネス・エリ アのチームとビジネス・エリア内の主要な現地事業会社の前線マネジャーによって編成さ れる委員会が中心となって設定するものになっている。つまり,ABB の計画プロセスは,

全社トップである執行委員会による判断をビジネス・セグメント・マネジャーとビジネ ス・リージョン・マネジャーが行い,さらにその判断の土台となる計画をビジネス・エリ ア・マネジャーが立て,なおかつビジネス・エリアの計画は現地事業会社の前線マネジャ ーが参加する委員会によって作成されるという,前線レベルまで巻き込んだ高度に参加的

CEO

CEO

②’

④BA

③’

な仕組みになっているのである224

ABB のマトリクス系統を反映したこのプロセスでは,現地事業会社の前線マネジャー は,目標設定や予算設定の決定においてビジネス・エリア・マネジャーとカントリー・マ ネジャーというしばしば相矛盾する衝突的な立場にいる二者との調整を行う。これは,現 地事業会社の前線マネジャーは計画プロセスにおいて独断はできないが,マトリクス構造 で繋がる上位マネジャーから一方的に計画を付与されるのでなく,自分の事業予算を守る ために交渉するだけの発言権を持っているということである225

この協議プロセスでは,マトリクス構造に固着する不可避的な問題として,二人の上司 による衝突,矛盾する要求を受ける前線マネジャーという構造的コンフリクトの解消が要 求される226。マトリクスによって構造的に表出されるコンフリクトの解消を円滑にする 仕組みを持たなければ,ABB の計画プロセスは効果的に機能しないことになる。この点,

前述の ABB の組織文化は,異なる立場にいる三者が協力的・協調的な姿勢をとり,対立 を建設的な方向で解決するよう促すものになっている。また,前述の「ポリシー・バイブ ル」では,衝突の解消は前線マネジャーを中心とする当事者の明確な責任として定められ ており,階層上位レベル(事業グループのトップ・マネジャー)が強権的に衝突の解消を 行うことや,妥協的な決定を行わないよう求めている227

この三者間による協議プロセスを柔軟に進める上で,ビジネス・エリア・マネジャーは 特に重要な役割を果たす。ビジネス・エリア・マネジャーはグローバルな調整・連携役と いう立場を活用して,現地事業会社の予算をビジネス・エリア内の他の現地事業会社から 割り振ることや,技術的支援によって研究開発予算の不足分を補うなどし,現地事業会社 の計画に対するサポートを行うことで衝突の解消に柔軟性を与えている228

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