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プロジェクト組織の機能

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 62-67)

第三章 自律性マネジメントの仕組みと機能⑴ ケース・スタディ:AES Corporation

5 プロジェクト組織の機能

ここからは,AES のグローバルに分散化しながら自律的に新規事業開発を遂行するプ

156 Bakke, D., op. cit., pp. 109-129; O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., p. 168.

157 Paine, L. S., op. cit., 1994a, p. 22; Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 8-9; Bakke, D., op. cit., pp. 109-129; O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., p. 168.

158 この運命共同体という捉え方は,以下の文献によるアイデアを借用したものである。Besser, T.

L., Team Toyota: Transplanting the Toyota Culture to the Camry Plant in Kentucky, State University of

New York Press, 1996(鈴木良始訳『トヨタの米国工場経営 チーム文化とアメリカ人』北海道大

学出版会,1999年).

159 Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 8-23; Paine, L. S., op. cit., 1994a, p. 22; Bakke, D., op. cit., pp. 109-129; O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., p. 168.

ロジェクト組織がどのように機能していたのかを検討する。

通常,AES の新規事業開発はボトム・アップの創発的なプロセスによって行われる。

前述のように,新規事業開発に対するアイデアの提案は発電所従業員を含む全ての従業員 に奨励され,「見込みあり」と判断されたものがプロジェクト組織として昇華される。こ のようにプロジェクトの発案・参加を促す意図は,全ての従業員に新しい仕事への挑戦機 会を与えることで能力的な成長を促すとともに,急速に拡大する市場に対する適応力を持 つことにあった。発案者による新規事業開発のアイデアは「アドバイス・プロセス」の対 象とすることが義務化されており,他のプロジェクト組織に所属するメンバー,発電所マ ネジャー,グループ・マネジャー,本社役員,取締役会などから助言を受ける。これはプ ロジェクトのアイデアに対する実質的な評価プロセスとなっており,「アドバイス・プロ セス」を通じた周囲の評価を通じてアイデアの選定が行われる。公式的な選定基準として

は 20%の投下資本利益率(ROE)を見込めることが求められる。リターンを期待できな

いプロジェクトは原則的に排除される160

プロジェクトの始動が決定されれば,現地の事業開発子会社=プロジェクト組織が新設 される。このプロジェクト組織の実行部隊として,プロジェクト・リーダーを中心に,設 計・調達・建設,財務分析,環境分析,資本調達などの諸機能からなる 10〜15人程度の 多機能型チームが編成される。プロジェクト・リーダーのような重要ポジションは本社か らのトップ・ダウンで任命されるか,もしくは発案者自らがチーム・リーダーに就く。分 析担当者や資本調達などのメンバーは発電所従業員の自発的参加によって募られる。また,

現地人材の採用,選定,人事制度の構築や環境分析などの専門分野では,本社や他の発電 所から人材面でサポート役が入ることもある161

前述の通り,プロジェクト組織は新規事業開発に関連するあらゆる判断に対する意思決 定権限・責任を有しており,融資元の確保,入札案件の落札,法規制の対処,発電施設の 設計・調達・建設などの一連の業務を多機能型チームによって自律的に遂行していく。ま た,プロジェクト組織のチームは月に二回開かれる「事業計画会議」に参加し,「アドバ イス・プロセス」を通じてプロジェクトの遂行過程で直面した問題・課題に対する助言を 会議参加者から受けることになる。加えて,進行するプロジェクトに関する情報は全社的 に公開・共有されているため,グループ外のプロジェクト組織メンバーから自発的な助言 がメールや電話などを通じて寄せられることもある162

プロジェクトに対する評価はプロジェクト完遂の成否,つまり,融資元の確保,入札案 件の落札,法規制の対処,発電施設の設計・調達・建設などの一連の業務をこなして,発 電施設を稼働まで漕ぎ着けることができたかどうかで判断される。プロジェクトが成功し

160 O’Reilly, C., and Pfeffer, L., op. cit., pp. 151-174; Bakke, D., op. cit., pp. 82-83.

161 Paine, L. S., op. cit., 2000, pp. 1-16.

162 Wetlaufer, S., op. cit., pp. 109-123; Bakke, D., op. cit., pp. 85-108; Paine, L. S., op. cit., 2000, pp. 1-16.

た場合にはメンバーにボーナスが支給される163

以上に見る AES のプロジェクト組織のコントロール・プロセスは,自律性に一致した ものにはなっているものの,多くを非公式的な部分に依存し,例えば ROE20%の根拠を アイデア段階でどのように示すのか,メンバーの選定基準は何かなど,外部から観察する 限りなかなか理解することの難しい部分が少なくない。

このように非公式的な部分に依存したコントロール・プロセスでは,一連のプロセスの 参加者が優れた判断力や実行力を発揮すること,換言すれば高度で実質のある能力が不可 欠である。「アドバイス・プロセス」を通じて成功期待の低いアイデアを確実に排除する ためには,発案者が財務モニタリングやリスク分析などを行えるだけの専門知識を持ち,

アイデアに対する説明責任を果たす必要がある。同時に,助言者側にも成功期待の低いア イデアを見極める分析能力や,衝突を恐れずアイデアに対する反証を行うなど,発案者に 対する厳格な姿勢が求められる。また,複雑な業務を幅広く担う必要のあるプロジェクト 組織のメンバーには,それをこなすだけの熟練した経験と知識が要求される。上記の AES のプロセスが有効に機能するには,複雑でリスクの高い新規事業開発を小規模で自 律的なチームに任せ,同時に周囲が緊密な水平的モニターを遂行できるだけの実質のある 能力が組織内に確保されていなければならない。

しかしながら,このような実質のある能力は,全ての従業員に対するプロジェクトの発 案・参加の奨励や多機能型チームに対する意思決定権限・責任の委譲といった仕組みのみ では涵養されない。そのための人材育成や評価制度,業績評価基準など,関連する諸条件 が有機的かつ複合的に構成されていなければならない。この点,AES の発電所組織では 非常に巧みに制度が構築されていたことは,すでに整理した通りである。

ではプロジェクト組織ではどうだったか。先取りして言えば,この視角から見た場合,

発電所組織とは対照的に,AES のプロジェクト組織は自律性に見合うだけの十分な制度 を確立できてはいなかった。この点を示す事実は複数ある。前述の通り,AES では従業 員に挑戦機会を与えて彼らの能力を育てるために,プロジェクトの発案・参加を従業員に 広く奨励した。それは AES の「共有された価値観」に一致した取り組みであるのと同時 に,広くプロジェクト経験を持つ人材を育てることができれば,より従業員の潜在能力を 開発させ,急速に拡大する市場に適応できるという期待もあった。しかし,このように未 経験の人材をプロジェクトに巻き込む場合,見習い期間やトレーニング期間を設ける,研 修を通じた能力開発を行うなどの保障的な仕組みが必要となるが,そのような公式的な人 材育成制度は構築されていなかった。中央本社が集中的に人材育成を行うよりも,実地に 経験を積ませ,各人に能力開発を任せた方が良いと考えたためである。このため,成長速 度が比較的緩やかだった 1990 年代中頃まではプロジェクトの経験や知識が豊富な人材を 中心としたチームを編成することができたが,加速度的な成長路線を辿るようになってか

163 Bakke, D., op. cit., pp. 109-129; Sant, D., op. cit., pp. 149-155.

らは事業開発に対する十分な経験や能力,知識を持ったメンバーに欠けたチームが編成さ れるようになったという164

評価・報酬制度も十分ではなかった。プロジェクトに対する評価はそのプロジェクトが 完遂し発電施設の稼働まで漕ぎ着けたか否かによって判断された。だが,プロジェクトが 成功裏であったかの判断は,実際に稼働を開始してから,安定的・効率的に運営されてい るかどうかを長期的にフォローしなくてはわからない。発電施設では実際に稼働を開始し てから設備不具合,現地顧客との取引上のトラブルなどの問題が発覚することは珍しくな いからである。しかし,AES はそのような長期的フォローとプロジェクト・チームに対 する評価を連動させる制度を構築せず,プロジェクトを完遂すればボーナスを支払うとい う報酬制度をとった。また報告によれば,プロジェクトが失敗に終わり会社に損失を与え た場合でも,解雇,降格,減俸などはほとんど行われず,失敗に対する結果責任を負わせ る明確な仕組みを持たなかった165。このように,積極的にプロジェクトへの提案・参加 が奨励される一方で,十分な人材育成制度によってメンバーの能力を保障せず,プロジェ クトをまとめればボーナスが支払われ,なおかつ明確な結果責任がない制度は,プロジェ クト組織の参加者の中に拙速に取引をまとめようとするメンバーが現れるなど,会社とし ては意図しない不文律(unwritten rules)を発生させるものであった166

また,このような拙速さを防ぐためにも「アドバイス・プロセス」があったが,プロジ ェクトの数が著増し,また会社が急成長という成功体験下にある中では,徐々に個々の案 件を十分な時間をかけてレビューできなくなり,成功期待の低いプロジェクトを阻止する ことが困難になるなど,新規事業開発については「アドバイス・プロセス」の機能不全が 現れていた167

このようなコントロール面での制度づくりの不十分さは,同時に,プロジェクトに対す る調整面の問題も孕んだ。前述のように,各プロジェクト組織は子会社として設立され,

プロジェクトの遂行において自律的な立場にあるが,財務面では AES 本体と密着してい る。この点は,表Ⅲ-3 にある通り,AES 本社の貸借対照表の非遡求型負債に対する遡求 型負債の割合が年々増えていたことからも伺うことができる。各プロジェクトと AES 本 体の財務的な密着関係を考慮すれば,本社は野放図に新規事業開発を現場レベル=各プロ ジェクト組織に任せるのではなく,現場組織レベルでは得られない俯瞰的視点,全社的で グローバルな視点に立った調整を行う必要がある。それは例えば,全社的な新規事業開発 の案件数に占めるハイ・リスクの事業や投資回収に時間を要する事業の比率を一定以下に 抑える,各国市場の特殊性や政治的・経済的リスクを考慮し,グローバルにリスクを分散

164 O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., pp. 151-174; Sant, D., op. cit., pp. 149-155; Pfeffer, J., op.

cit., 1997, pp. 1-16.

165 Bakke, D., op. cit., pp. 109-129; Sant, D., op. cit., pp. 149-155.

166不文律についての記述は,以下の資料を参考にしたものである。金井,前掲書,117-133頁.

167 Sant, D., op. cit., pp. 149-155.

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