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プロジェクト組織

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 49-52)

第三章 自律性マネジメントの仕組みと機能⑴ ケース・スタディ:AES Corporation

⒊ プロジェクト組織

AES の自律性マネジメントの試みの中でも,もっとも極端にして他社に類例のない取 り組みは,同社の新規事業開発を担うプロジェクト組織に見て取ることができる。AES の自律化されたプロジェクト組織は同社の 1990 年代の急速な成長を支える仕組みであっ

などが臨機応変に対応する組織構造は,「アドホクラシー(adhocracy)」と名称される。アドホク ラシーについては以下を参照。Mintzberg, H., Organization Design: Fashion or Fit? Harvard Business Review, Vol. 51, No. 3, 1981, pp. 103-116.

120 以下の資料によれば,この「80対20ルール」における20%の業務時間は,タスク・フォース やコミッティーへの参加以外に,新規スキルの学習,また後述する「アドバイス・プロセス」に従 い同僚に仕事上の相談や助言を持ちかけるためにも活用されるという。Bakke, D., op. cit., p. 105.

121 Bakke, D., op. cit., pp. 85-108; O’Reilly, C., and Pfefffer, J., op. cit., pp. 151-174; Pfeffer, J., op.

cit., 1996, p. 77; Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 6-27; Wetlaufer, S., op. cit., pp. 110-123; Paine, L. S., op. cit., 1994a, pp. 1-13; Waterman, Jr., op. cit., 1994(邦訳150-192頁);Waterman, Jr., R. H., op. cit., 1990(邦訳169-209頁); Smith, K. A., and Sims, Jr., H. P., op. cit., pp. 171-195; Grant, R. H., op. cit., pp. 354-378; Smith, K. A., op. cit., pp. 206-213; AES Corporation 1996 Annual Report Form 10-K, op. cit., p. 3; AES Corporation 1997 Annual Report Form 10-K, op. cit., pp. 12-13; AES Corporation 1998 Annual Report Form K, op. cit., p. 10; AES Corporation 1999 Annual Report Form 10-K, op. cit., p. 10; AES Corporation 2000 Annual Report Form 10-10-K, op. cit., p. 6.

122 既存研究では,AESの「蜂の巣システム」のように階層構造や個人単位の職務責任を重視せ ず,水平的・ネットワーク的な相互作用や組織全体への柔軟な貢献を志向した組織は,「コミット メント型職場戦略(Commitment Work-Force Strategy)」や「有機的形態(organic form)」,「相 互影響的システム(interactive systems)」などとして類型化されている。詳しくは以下を参照。

Burns, T., and Stalker, G. M., The Management of Innovation 3rd Edition, Oxford University Press, 1994, pp. 119-122; Walton, R. E., “From Control to Commitment in the Workplace,” Harvard Business Review, Vol. 63, No. 2, pp. 77-84; Heckscher, C., “Defining the Post Bureaucratic Type,”

in Heckscher, C., and Donnellon, A., (eds.) The Post-Bureaucratic Organization: New Perspectives on Organizational Change, SAGE Publications, 1994, pp. 14-62.

たと言われており123,その組織的特徴を分析することは発電所組織と並んで重要である。

以下にその特徴を見ていこう。なお,同社では新規事業開発を担う事業ユニットは事業開 発プロジェクト子会社(business development project subsidiaries)と呼ばれるのが一 般的だが,本研究では簡略化のため,便宜的にこれをプロジェクト組織と呼ぶことにする。

新興国・発展途上国における電力自由化が中心的な成長機会となっている米国 IPPs 企 業にとっては,いかに海外市場における事業参入機会を確保し発電所の新規建設,既存施 設の買収,あるいは現地企業との合弁事業に漕ぎ着けるかが事業成長の要諦となる。よっ て,新規事業開発は IPPs 企業にとっては成長を支える起業家活動そのものであり,意思 決定上の重要度がもっとも高い事業活動に位置付けられる。また,新規事業開発は完遂ま でに長期間を要し,多様で複雑な業務をこなす必要のある活動でもある。競合入札の場合 には資本力のある石油・ガス企業が擁する IPPs子会社との入札競争に勝ち残る必要があ る。環境規制をはじめ数十に及ぶ各国法規制への対処,環境保護団体や地域社会への対応 など,現地市場に密着した柔軟な対応も要求される。さらには建設業者や燃料の供給元を はじめとする取引先の選定,建設プロセスの監督,旧式設備の改修,新規作業者の確保や 買収施設における作業者の選定,現地労働組合への対処など,こなさなければならない業 務は多様かつ複雑を極める。このような多岐にわたる課題を乗り越え発電所が稼働に至る までには数年を要すると言われる124

しかし,上記の複雑さもさることながら,新規事業開発で特に注目すべきは財務的なリ スクの高さである。発電所の新規建設や買収を行うには一件あたり数億ドル規模の投資を 要するため,通常,投資財源を自社のみで賄うことはできない。このため,新規事業開発 は複数の投資銀行から非遡求型融資と全面遡求型融資を組み合わせたプロジェクト・ファ イナンスを利用して行われる125。AES の新規事業開発における非遡求型融資の比率は高

くとも 70〜80%程度が限界であり,また,リスクの高いプロジェクトほど非遡求型融資

の割合は下がる。よってこの場合,不足分はプロジェクト組織にかわって AES 本社が融 資銀行から全面遡求型融資を借り受けて補填することになる。このため,新規事業開発は 子会社が財務的に独立してのプロジェクト・ファイナンスを基本的な財務方針とするもの の,実際には AES 本社と財務的に密着しており,プロジェクトが失敗した場合の影響は AES 本社にまで及ぶ。さらに,前述の通り,AES は開発した発電所に自ら運営責任を負 うため,投資を回収できるだけの安定的な発電所運営が可能な案件であるかが問われる。

この点,プロジェクトは発電所の稼働に漕ぎ着ければ成功というものではなく,プロジェ クト時点で操業後の状況に対する見通しに甘さがあれば,それは稼働後の発電所運営に跳

123 例えば以下の資料を参照。Pfeffer, J., op. cit., 1998, pp. 99-103.

124 AES Corporation Annual Report 1997, op. cit., pp. 12-13; Bakke, D., op. cit., pp. 82-83; O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., pp. 156-157; Smith, K. A., op. cit., pp. 206-213; Pfeffer, J., op. cit., 1998, p.

77, pp. 99-103;Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 1-6; Paine, L. S., op. cit., 1994a, pp. 3-4; Paine, L. S., op. cit., 2000, pp. 1-16.

125 非遡求型融資と全面遡求型融資の説明については,本章1を参照。

ね返り,ひいては全社業績にも影響する。プロジェクト組織と発電所組織,そして AES 本体は財務的に相互に密着した関係にあるのである。通常であれば,このような事業は本 社が集中的に管理を行いながら,数百人規模の従業員が関与する大規模プロジェクトとし て進行するのが普通であると言われる126

それにも拘わらず,このように多面的かつ高いリスクを抱える発電施設の新規開発事業 に対して,AES はトップ・ダウン型の管理監督や本社スタッフによる厳格なチェックを 通じた手法ではなく,その任務をグローバルに展開した少人数のチームが運営するプロジ ェクト組織に分散化させ,各組織を自律化することで対応する,という極めてラディカル な組織戦略を採用した。

AESのプロジェクト組織は発電所組織と同様にAESの事業子会社として設立され,展 開する国ごとにオフィスを構え,報告系統では各地域のグループに所属することになる。

国ごとに複数展開するプロジェクト組織にはまとめ役としてプロジェクト・ディレクター

(Project Director)がいるが,各プロジェクト組織の責任者はプロジェクト・リーダー が務める。報告によれば,1990年代後半の時点ではおよそ300 人のプロジェクト・リー ダーがいたという127

それぞれのプロジェクト組織はプロジェクト・リーダーのもと平均 10〜15 人ほどの非 常に小規模なチームで組織される。この小規模なチームはプロジェクト完遂に至るまでの 複雑で多様な業務全てに責任を負う典型的な多機能型チーム(multi-skilled team)であ り,メンバーは新規事業開発のための融資元の確保,資本支出,取引先の選定,政府機関 への対処,建設プロセスの監督など,事業開発の全プロセス,あらゆる判断に対する意思 決定権限と責任を持つことになる128

AES がまだ米国内事業に軸足を置いていた 1980〜1990 年代前半は主にシニア・マネ ジャーが中心人物になってプロジェクト組織を率いたが,積極的なグローバル展開を開始 して以降は,プロジェクトの提案・参加は原則的に発電所従業員を含む全ての従業員に解 放され,買収案件の提案や資本調達を行うなど,プロジェクトのメンバーとして参加する ようになった。この自律化された新規事業開発の仕組みはバッケを中心人物にして推進さ れたが,他の本社役員やグループ・マネジャーも海外成長を加速させるために,プロジェ

126 AES Corporation Annual Report 1997, op. cit., pp. 12-13; Bakke, D., op. cit., pp. 82-83; O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., pp. 156-157; Smith, K. A., op. cit., pp. 206-213; Pfeffer, J., op. cit., 1998, p.

77, pp. 99-103;Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 1-6; Paine, L. S., op. cit., 1994a, pp. 3-4; Paine, L. S., op. cit., 2000, pp. 1-16.

127 O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., p. 156.

128 AES Corporation 1997 Annual Report Form 10-K, op. cit., p. 13; Bakke, D., op. cit., pp. 82-83, pp.

205-226: Sant, R., “Epilogue,” in Grose, P., op. cit., pp. 149-155; Wetlaufer, S., op. cit., pp. 112-123;

O’Reilly, C., and Pfeffer, J., op. cit., pp. 151-174; Pfeffer, J., op. cit., 1997, pp. 1-6; Smith, K., op.

cit., pp. 206-213; Paine, L. S., op. cit., 2000, pp. 1-16; Paine, L. S., op. cit., 1999, pp. 1-13;

Dosunmu, A., AES in Nigeria, Stanford Graduate School of Business Case, No. IB-29, 2002, pp. 1-10; Heinsz, W. J., and Zelner, B. A., AES-Telasi: Power Trip or Power Play? (A), Wharton University of Pennsylvania, 2006, pp. 1-15.

クトへの参加を積極的に奨励する立場を取ったという129

実際,AES の発電所従業員がプロジェクトに参加しこれを取りまとめた例は既存研究 を通じて豊富に報告されている。例えば,AESが1990年代中頃より進出したハンガリー における新規事業開発では,3名の現地従業員がボーソド第二発電所(Borsod 2)の新規 建設を行うプロジェクトに自発的に参加し,設計および環境分析の役割を担った。1999 年に稼働を開始した米国メリーランド州のウォリアー・ラン発電所(Warrior Run Plant)

の建設プロジェクトは,発電所で働く化学エンジニアや機械エンジニアを中心とする 10 人のチームによって進められ,24の規制機関が設ける36の許可承認の取得,さらには10 の外部融資機関から4億ドルを超える融資を確保するという複雑な事業を成功させた。ま た,北アイルランドでの合弁事業では,必要資金である 3 億 5,000 万ドルの調達に対し て,発電所のコントロール室で働くオペレーター2名が指揮を執った130

以上から,AES における自律性マネジメントに向けた実践は,同社の企業家的な事業 活動の領域にまで踏む込むものであったことがわかる。

ドキュメント内 自律性マネジメントの研究 (ページ 49-52)