本実験で得られた結果より等温化において発生した起電力について考察する。
PXRDによる測定では切り出された試料による結晶構造解析結果とシミュレー ションによって算出されたピーク位置が合致することより試料がType-Ⅰクラスレ ート構造を持つことが確認された。またEBSPによって試料の広範囲にわたって同 一の菊池パターンを持つことが観測され、これにより試料が広範囲にわたって同 一面を示していることが確認されたことから作製された試料は単結晶試料である と考えられる。これらの結果より特定の濃度比をもつ液相よりチョクラルスキー 法によって試料を作製した場合Ba8AuxSi46-xクラスレートの単結晶試料を得ること ができることが示された。
また層状試料に対して行ったWDXの組成分析結果より、作製された試料はその 内部において成長方向上部から下部にかけてAu濃度が上昇することが観測され た。これは組成分析で得られた組成がいずれも初期組成より低いことから、結晶 が成長するにつれて液相のAu濃度が上昇し、それにともない成長する結晶側もま たAu濃度が上昇したと考えられる。
加えて層状試料において測定されたゼーベック係数の結果では同一結晶内にお いてその内部でn型半導体からp型半導体へと特性が変化していることが示され た。これはWDXによる組成分析の結果を考慮すると結晶内部でAu組成が増加す ることで上部のAu濃度が低い部分ではn型半導体であったが、やがてドナー・ア クセプター比が釣り合い真性半導体となり、さらにAu濃度が濃くなったことでp 型半導体へと特性が変化したものと考えられる。またゼーベック係数の絶対値は 昇温とともに増加するが、No.3からNo.6はある温度においてゼーベック係数の絶 対値が減少に転じていた。これは試料が真性領域に達したため、価電子帯から伝 導帯への励起が発生しキャリア濃度が増加したために発生したものと考えられ る。さらにn型半導体において真性領域に転じる温度はより下部の試料、つまり Au組成が増加するほど低くなっていた。そしてp型半導体では真性領域に至らず、
昇温とともに増加し続ける挙動を示した。真性領域に達する温度の差は、電子が 励起するのに必要な熱エネルギーの多さを示しており、バンドギャップの大きさ を示す。この結果から本実験の試料ではAu組成が真性半導体に近づくほどバンド ギャップが小さくなり、p型半導体で再び拡大したと考えられる。
これらの結果からチョクラルスキー法によるBa8AuxSi46-xクラスレート試料の作 製は内部でAu組成の傾斜を生じる単結晶試料の作製に有効であることが示され
た。そして組成傾斜単結晶Ba8AuxSi46-xクラスレートのこれらの特性は我々の考案 した温度差を必要としない熱―電力変換効果の条件である、n型、真性、p型半導 体の順で接合された材料であること、真性半導体部がn型、p型半導体部よりバン ドギャップが狭くなっていることの2つの条件を満たしていると考えられる。図 2.14に予想される本実験で作製された試料のバンド構造の模式図を示す。
本実験では試料は複数の結晶によって構成された多結晶体ではなく、単一の結 晶で構成される単結晶体である。そのため結晶粒界において発生するエネルギー 障壁は生じていないと考えられる。また組成分析結果より単結晶内においてAu濃 度は徐々に増加しており、そのフェルミ準位も徐々にバンドギャップの中心側へ 変化すると考えられる。そしてゼーベック効果の測定結果よりAu組成が真性半導 体に近づくほどバンドギャップが狭まるという特性を考慮すると、本実験で作製 された試料のバンド構造は図 2.14に示すように緩やかに坂を描くバンド構造とな っていると予想される。
上記のように作製された試料が温度差を必要としない熱―電力変換効果の条件 を満たしていると考えられることから、成長方向に切り出した試料を両端が等温 となるよに加熱し、その起電力を観測したところ、確かな起電力を観測すること ができた。この結果が示す等温下で熱起電力が発生したメカニズムを図 2.15に示
図 2.14 バンド構造予想図
(Ⅰ)
(Ⅱ)
(Ⅲ)
図 2.15 本実験における温度差を必要としない熱―電力 変換メカニズムの模式図
本実験で作製された試料を試料内に温度差をつけることなく加熱した場合、バ ンドギャップが最も狭い真性半導体部で価電子帯の電子が伝導帯へ励起する (Ⅰ)。また同時に電子の励起によって価電子帯にホールが生じると考えられる。こ の励起した電子と発生したホールはそれぞれエネルギーの安定な部位へ滑らかな バンドに沿って拡散する(Ⅱ)。これらのそれぞれに拡散したキャリアによる電荷分 離によって両端が帯電し、起電力が生じる(Ⅲ)。2.3.6において生じた起電力はこ のようなメカニズムによるものと考えられる。また試料方向を反転して測定され た結果では挙動はそのままに、起電力の符号のみが変化した。これはこの温度差 を必要としない熱―電力変換効果では電極は部位に依存するためである。この結 果は仮にこの起電力が微少温度差によるゼーベック効果によるものと仮定した場 合、決して説明することのできない現象である。
これらの実験結果より、チョクラルスキー法による試料作製法が温度差を必要 としない熱―電力変換効果の条件を満たす試料の作製に有効であることが示され た。またこの条件を満たす試料が等温状況下において加熱することによって起電 力を発生させることが可能であると示された。