3.2.1 SPS法を用いた組成傾斜材料作製
SPS法は粉末焼結法の一種であり、カーボン製の焼結型に粉末を充填し、加圧 しつつパルス電流を流すことによって焼結を行う方法である3。図 3.1に本実験で
使用した装置の模式図を示す。この図が示すように本実験では焼結型に上下から 機械的な圧力を印加つつ直流パルス電流・電圧を焼結型および試料に直接印加 し、自己発熱を起こすことによって焼結を行っている。
この手法による試料作製では比較的短時間で試料作製が行えるほか、得られる 試料の大きさは焼結型の大きさ、および充填した粉末の量で調節することができ る。さらにクラスレート材料の作製においては、過去の研究例より焼結中の高温 保持により試料内で固相拡散を促すことができることが報告されている4。これは 遷移元素を添加したクラスレートと遷移元素を多く含む不純物を混合させた状態 で焼結を行った際に、不純物側からより遷移元素の少ないクラスレート側へ遷移 元素が拡散したもので、クラスレート中の遷移元素濃度が上昇し不純物が減少し ていた。本実験ではこの固相拡散を促すアニーリング効果を利用して温度差を必 要としない熱―電力変換効果の条件を満たす組成傾斜Ba8AuxSi46-xクラスレート試 料の作製を試みた。
チャンバー
グラファイトパンチ
加圧+ON-OFFパルス直流電圧・電流
グラファイトダイ
図 3.1 SPS装置模式図
グラファイトスペーサー
試料粉末 通電・加圧軸
図 3.2に本実験で試みた試料作製法の模式図を示す。本実験の試料では焼結型 に2種類の粉末を充填するが、これらの粉末は混合させず2層になるように充填す る(Ⅰ)。下の層にはAuを多量に含むp型半導体Ba8AuxSi46-xクラスレートの粉末を 充填し、上の層にはより少ないAuを含んだBa8AuxSi46-xクラスレート粉末を充填 する。この2層状の試料をSPS法により焼結した場合、粉末が焼結されるとともに 前述したアニーリング効果により界面近傍ではAu量の多いp型半導体側からAu量 の少ないn型半導体側へとAuが固相拡散すると予想した(Ⅱ)。これによって2層試 料内で組成の傾斜が発生し、n型半導体とp型半導体を焼結するとともにその中で 組成の傾斜による真性半導体部を作製することができると考えた。
3.2.2 熱―電力変換効果素子用の等温起電力測定装置
本実験より温度差を必要としない熱―電力変換素子を等温となるように加熱し 起電力を測定するための装置を作製し、測定に使用した。図 3.3にその模式図を 示し、図 3.4に外観の写真を示す。図 3.3に示すように温度管理のために試料の下 に二つのヒーターを設置し、それぞれを別のコントローラによって同じ温度にな るように調整している。この装置では厚さ1.5 mm、幅5 mm、長さ約10 mmの試 料が測定可能である。また試料の周辺はより断熱がとれるようにセラミックを加
(Ⅰ) (Ⅱ)
図 3.2 二層試料作製模式図
工したものを用い、試料を設置した後はその上に周辺と同じ材質であるセラミッ ク製の蓋をして試料の周辺を覆うようにした。これにより左右の温度差は約 0.1 ℃程度にとどまっている。本実験を含め後の実験では等温下による測定にこ の装置を用いた。
図 3.3 装置模式図
図 3.4 装置外観
3.2.3 試料作製
3.2.1で示したように、本実験では2種類のBa8AuxSi46-xクラスレート粉末を用い て試料を作製した。2種類の粉末はそれぞれn型、p型半導体の特性をもつ必要が あるため、それぞれの組成を以前の研究結果4を参考にn型半導体側を
Ba8Au4.5Si41.5、p型半導体側をBa8Au5.5Si40.5とした。粉末は高純度のBa(99%)、
Au(99.9%)、Si(99.999%)をそれぞれの組成にあわせて秤量し、アーク溶融法によ ってクラスレート化した後、粒度が約6 μmになるまで粉砕し作製した。
その後図 3.2に示すようにSPS用のグラファイト製の焼結型にp型半導体粉末、
n型半導体粉末の順に、ほぼ同量を混合しないように2層状に充填し、SPS法によ って焼結を行った。焼結は4 Paの真空雰囲気において行われ、50 MPaの機械的圧 力が加えられた状態で行った。さらに昇温は下記の図 3.5に示す条件で行い 800 ℃において5分間保持した後急冷した。
図 3.5 作製における温度図
作製された試料を図 3.6に示すように切り出した。さらに図 3.7に実際の断面の 写真を示す。今回作製された試料は図 3.7に示すようにn型/p型の境界面がはっき りとわかる状態となっていた。そこで本実験で使用する試料として界面からそれ ぞれ上下に5.5 mmづつ、全長が11 mmとなるように切り出した。また他の部位 よりn型半導体部のみ、p型半導体部のみの試料も切り出した。
図 3.6 試料切断図
図 3.7 試料断面図
作製された試料からn型半導体部およびp型半導体部をそれぞれ切り出し、粉砕 して粉末状にしたものにリガク製RINT-2100を用いてPXRDによる結晶構造解析 を行った。さらに Crystal Maker Software社製 Crystal Diffract 4.1.2を用いて、
クラスレート構造の理論的ピーク位置を算出し、測定結果と比較を行った。
また、図 3.7に示すn型半導体部からp型半導体にかけて切り出された試料に対 し、島津製作所製EPMA-1720を用いてWDXによる組成分析を行った。加速電圧 は15 kV、フィラメント電流は10 nAに設定し測定を行った。
さらに半導体特性を特定するためにn型半導体部およびp型半導体部を切り出し た試料に対し図 2.5で示されるように温度差を与え、そのゼーベック係数の温度 依存性を測定した。測定は試料の両端の温度差を20 ℃差に保ちつつ加熱し行っ た。そして上下端の起電力よりゼーベック係数を算出した。その際の温度は両端 の温度の平均とした。
そして等温での熱―電力変換を検証するために、図 3.7で示す試料に対し図 3.3 に示す模式図のように試料両端が等温となるように加熱を行い起電力測定を行っ た。
3.2.4 検証実験
これまでの研究から条件を満たす試料において等温となるように加熱した際に 確かな電圧値が示されている。しかしこの発電が温度差を必要としない熱―電力 変換効果によるものであり、かつ実用的に使用できるものであることを確かめる 必要がある。そこで本実験で作製された試料に対し、3種類の検証実験を行った。
いくつかの熱電材料では温度差によって確かな起電力を生じさせるものの、回 路の電源として使用した際に電流を取り出すことのできない材料が存在する。こ のような材料では電力を取り出すことができず、電源としての熱―電力変換素子 に使用することができない。そこでこの温度差を必要としない熱―電力変換効果 が実用できることを検証するために、本実験で作製された図 3.7で示す試料にお いてI-V測定を行った。またこの際の回路図を図 3.8に示す。この測定では電圧を 測定する回路とは別に可変電源をつなぐことで4端子電流電圧測定が可能となって いる。
また、等温環境下で確認された電圧が組成の傾斜したBa8AuxSi46-xクラスレート によるものであることを確認する必要があるため、本実験で作製された試料よ
り、n型半導体部およびp型半導体部の一部を切り出し、等温での熱―電力変換効 果を持つ材料の測定と同じように、材料中の温度を一定にしながら加熱し、起電 力を測定した。
さらに等温環境で測定された電圧がゼーベック効果によって発電されたもので はないことを確認するため、材料に意図的に温度差を与え、さらにその温度差方 向を変えて起電力の変化を測定した。その模式図を図 3.9に示す。本実験では試 料右側の温度(TR)を450 ℃とし、試料左側の温度(TL)を440 ℃から460 ℃へと変 化させて測定を行った。
図 3.8 I-V測定回路図