3.5 作製された試料の組成傾斜化および等温下での熱―電力
これらの結果より今回作製された2層状Ba8AuxSi46-xクラスレート試料は両端が n型、p型半導体であることが確認されており、またAu組成は界面においてこれら の中間の値で傾斜していることが確認されている。これらの結果から想像される バンド構造を図 3.25に示す。
図 3.25では簡単にn型/p型半導体界面部を強調して表記している。各部位のゼ ーベック係数測定結果より両端はそれぞれバンドギャップの大きいn型、p型半導 体であり、また界面においてはAu組成がその中間で傾斜しているため緩やかなバ ンドの傾斜が生じていると考えられる。しかし本実験で作製された試料は多結晶 体であり、その結晶粒界ではエネルギー障壁が生じていると考えられるため2章で 示した単結晶試料とは異なりバンド構造の途中に障壁があると想定される。この ことから電子およびホールの拡散が阻害されることが懸念された。
しかし等温下での加熱によって起電力が生じているという結果から、図 3.26に 示すように、エネルギー障壁があるもののより安定な部位へと拡散しようとする 駆動力により障壁を越えて拡散することが可能であったと考えられる。これは PXRDによる結晶構造解析で示されたようにn型、p型半導体部がどちらも同じ結 晶構造を持つ材料であったことがエネルギー障壁を低くした可能性が考えられ る。
図 3.25 2層試料におけるバンド構造模式図
これらの要因からSPS法による2層試料作製は温度差を必要としない熱―電力変 換効果の条件を満たす試料の作製を可能とし、この効果をもつ素子の作製方法と して有効であることが示された。
また検証実験で得られた結果について考察する。
I-V測定の結果からBa8AuxSi46-xクラスレートによって作製された温度差を必要 としない熱―電力変換効果素子は起電力を生じさせるだけでなく、電流を恒常的 に流すことができる素子であると示された。したがってこの素子からは熱エネル ギーを与えた場合電気エネルギーとして取り出すことが可能であり、実用的に使 用できる効果であることが示された。
さらに、組成傾斜のないBa8AuxSi46-xクラスレートでは温度差を生じさせずに加 熱しても起電力が得られないことが確認された。このことから等温下で熱起電力 が生じるのはBa8AuxSi46-xクラスレートの特性ではないことが示されたほか、等温 下で起電力を生じさせるためには組成傾斜が必要であることが示された。
そして、温度差変動実験ではn型半導体部と温度差を必要としない熱―電力変換 効果素子に意図的に温度差を生じさせ、かつその温度差の方向を逆転させた。そ の結果n型半導体部はゼーベック効果によって起電力を生じさせたため電極の方向 が温度差の方向に依存し、温度差方向が逆転した時点で起電力の符号もまた逆転 した。しかし等温発電効果素子では温度差方向が逆転しても起電力の符号は逆転
図 3.26 2層試料における電子の拡散挙動