第5章 加熱式サーマルプローブ法を用いた温度差を 必要としない熱―電力変換効果メカニズムの検証
5.3 実験結果
5.3.2 試料上端から下端にかけてのWDXによる組成分析結果
作製した試料の組成を測定するためWDXによる組成分析を行った。図 5.5に 図 5.3で示した試料を結晶成長方向に切断した断面図を示す。上端と下端は成長 方向と垂直になるように切断したため、全長は約17 mmとなった。
この断面上で上端から下端にかけて1 mmごとにWDXによる組成分析を行っ た。その結果を表 5.1に示す。これらはWDXより得られたモル分率から、クラス レートのカゴ状構造を形成するAuおよびSiが46個のサイトすべてを占有している と仮定し、組成比にしたものである。また図 5.6に各測定点におけるAu組成を示 す。これらの結果ではAu組成は上端では4.57を示しているが、結晶成長方向に 徐々にAu組成を上昇させ、下端では5.05となっている。このことからAu組成は 上端から下端にかけてAu組成が上昇していることが確認できた。これは2章の結 果と類似しており、結晶内で半導体特性の変化する試料が作製できたと考えられ る。
図 5.5 試料断面図
表 5.1 組成分析結果
図 5.6 各測定点におけるAu組成
5.3.3 加熱式サーマルプローブ法による局所的ゼーベック係数の 温度依存性の観察
作製された試料の局所的ゼーベック係数の温度依存性を観察するため、5.2.1で 示した加熱式サーマルプローブ法を用いて測定を行った。図 5.7に測定を行った 範囲を示す。測定範囲は縦14 mm、横5 mmであり、測定点間の距離は0.4 mm間 隔で行った。
上記の範囲において測定された結果を図 5.8に示す。この図では青色が負の 値、すなわちn型半導体であることを示しており、また赤色が正の値であるためp 型半導体であることを示している。測定結果では試料の上部が青色であるもの の、下部では色が赤色へと転じており、この結果から本実験において作製された 試料はAu組成の傾斜により、結晶内でn型半導体からp型半導体へと特性を変化さ せていることがわかった。また室温においてゼーベック係数はn型/p型界面付近に なるほど上昇していることがわかる。これはAu組成の上昇により界面付近におい てキャリア濃度が減少しているためであると考えられる。そしてn型/p型半導体界 面において急激にゼーベック係数の値が減少している部分はAu組成が真性半導体 となる部分であると考えられる。
加熱後の測定図ではほとんどの部位でゼーベック係数の値が上昇している。こ れはゼーベック係数の一般的な挙動であるが、一方でn型/p型半導体界面付近では ゼーベック係数の値が減少していることが確認でき、ゼーベック係数が0に近いエ リアが拡大していた。
図 5.7 サーマルプローブ法測定範囲
図 5.8上の赤線部のゼーベック係数を図 5.9に示す。この図からも上端、下端側 ではゼーベック係数の値が加熱によって上昇している一方で、n型/p型半導体界面 付近では一定の範囲でゼーベック係数の値が減少していることがわかった。
図 5.8 室温および加熱後のサーマルプローブ結果
図 5.9 図 5.8上の赤線部におけるゼーベック係数
5.3.4 等温下における熱起電力測定結果
本実験において作製された試料はWDXの結果からAu組成が結晶内で上昇して おり、またサーマルプローブ法の結果より結晶内においてn型半導体からp型半導 体へと特性が変化していることが確認されている。これらの結果から今回作製さ れた試料温度差を必要としない熱―電力変換効果の条件を満たしている材料であ ると考えられる。
そこで本実験で作製された試料から結晶成長方向に試料を切り出し試料温度が 均一となるように加熱し、その起電力を測定した。その結果を図 5.10に示す。こ の結果から500 ℃において均一温度において約1.9 mVの確かな起電力が観測さ れ、本実験で作製された試料は温度差を必要としない熱―電力変換効果を持つこ とが確認された。
図 5.10 等温下での加熱における熱起電力測定結果