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多層試料作製による性能向上に関する考察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 89-93)

 本章前半に行ったAu組成差の異なる試料の起電力を比較した結果から組成傾斜 量が等温下での熱―電力変換効果の起電力に及ぼす影響について考察する。

 この実験では組成傾斜量に差を付けるため仕込み組成を変化させて試料を作製 したが、3章の試料と同様にSPS法による2層試料作製が可能であることが示され た。さらにPXRDによる結晶構造解析により各部位がType-Ⅰクラスレート構造で あることが示され、これらの結果からBa8AuxSi46-xクラスレートを用いたSPS法に よる2層試料作製ではAu濃度の変化が可能であることが示された。

 また界面付近で行われたWDXによる組成分析結果から組成差の小さい試料およ び組成差の大きい試料両方でn型、p型半導体部のAuの平均組成は仕込み組成に応 じた値となり、組成差の大小関係が想定通り作製されていることが確認できた。

またAu組成はどちらも界面付近で傾斜しており、3章の試料と同様の挙動となっ た。さらに各部位のゼーベック係数の符号より半導体特性の作り分けが想定通り に行えているを確認した。これらの結果から組成を変化させた試料においても等 温下での熱―電力変換効果の条件を満たすことができると考えられる。

 これらの結果をふまえ等温下での加熱における起電力測定を行った。また3章で 作製された試料は組成傾斜量が本実験で作製された試料の中間であったため比較 を行った。この結果組成傾斜量が異なる試料では生じる起電力量に差があること が確認された。またこの起電力量の大小関係は試料のn型半導体部の組成とp型半 導体部の組成の差に対応しており、傾斜量が大きいほど起電力量も増加した。

Ba8AuxSi46-xクラスレートにおいてAu組成の傾斜量はキャリア濃度に依存してお り、本実験で作製された試料のように異なるAu組成をもつ部位と接合した場合、

図 4.27のようにバンドギャップの傾きの大きさに影響すると考えられる。そのた め電子の励起する真性半導体部のエネルギーとの差が大きくなり、より多くの電 荷を保持できるため起電力が上昇したと考えられる。ここで最大の起電力は太陽 光発電のメカニズムから、電子やホールの拡散が発生しなくなる傾きが失われる エネルギーまでの差となると予想される。そのため温度差を必要としない熱―電 力変換効果では図 4.28に示す、電子が励起するエネルギーと試料の端のエネルギ ーとの差が得られる起電力の最大値になると考えられる。

 さらに起電力の試料の体積依存性を検証するために3章と同様に作製された試料 を9 mm、8 mm、7 mm、5 mmと切断しながら等温下での起電力測定を行っ た。この測定では試料長さが変化しても起電力の差は確認されたなかった。この

ことから起電力は体積には依存せず、起電力の変化はバンド構造の傾きの変化に よるものであることが確認された。またこれらの結果は我々が考案したメカニズ ムにも合致する結果であり、仮説との矛盾は発生しなかった。

図 4.27 Au組成とバンド構造の傾きの変化

 また本章後半に行った真性半導体部の導入による比抵抗の温度依存性の改善に ついて考察する。

 この実験から3層試料においても2層試料と同様のSPS法による試料作製が有効 であることが示された。またPXRDによる結晶構造解析の結果から作製された試 料の各部位はいずれもType-Ⅰクラスレート構造を有していることが確認された。

 またn型半導体からp型半導体部にかけて行ったWDXによる線分析結果から3層 試料内部においてもn型半導体部、真性半導体部およびp型半導体部では組成が一 定となるもののn型/真性半導体界面および真性/p型半導体界面両方でAuの固相拡 散によるAu濃度の傾斜が確認された。これにより3層での作製においてもAu組成 の傾斜が可能であることが確認された。

 さらに各部位を切り出し、それぞれのゼーベック係数を測定することで半導体 特性の特定を行った。この結果からn型半導体部は負の値を示し、p型半導体部は 正の値を示した。また真性半導体部は温度の上昇によってゼーベック係数の符号 を変化させている。これはn型半導体側へのAuの拡散や、p型半導体側からAuが 拡散したことで、真性半導体部に近い組成がn型、p型半導体それぞれに変化し真 性半導体部がn型、p型混在状態になったことが要因と考えられる。ゼーベック効 果において電極はn型、p型半導体でそれぞれ逆となるため、それぞれの起電力の 相殺が起こり、符号が変化したと考えられる。この結果から真性半導体部はわず かなAuの拡散によってn型、p型それぞれに変化するほど真性半導体組成に近いと 考えられる。これらの結果から温度差を必要としない熱―電力変換効果の条件を 満たしていると考えられるため、等温下で加熱し、起電力を測定したところ確か な起電力が得られた。これより3層での試料作製においても等温下での熱―電力変 換効果をもつことができることが確認された。

 そこで200 ℃から500 ℃にかけてI-V測定を行った。この結果から3層試料にお いても電圧とともに電流が得られることが示された。またこの電流―電圧特性の 傾きと試料寸法から比抵抗値を算出したところ、200 ℃から500 ℃にかけて比抵 抗値は減少する挙動を示した。これは図 4.29に示すようにバンドギャップが小さ く、より低い温度で真性領域へと達する真性半導体部を導入することで、真性半 導体部がキャリア生成層となり温度が上昇するほどキャリアが増加し、格子散乱 による抵抗値の増加よりもキャリア濃度の増加による比抵抗値の減少が優位とな る半導体的挙動となったと考えられる。これにより加熱による抵抗値の上昇を考

慮する必要がないため、真性半導体部を導入した3層試料はより高温部で特性が向 上する試料として使用することができると考えられる。

(Ⅰ)従来試料における電子励起

(Ⅱ)3層試料における電子励起

図 4.29 従来試料と3層試料における電子励起模式図

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