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内側からの分析

一原価計算@原価管理の視点からみた会計評価の試み一

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第 2 編

内側からの分析

一原価計算・原価管理の視点からみた会計評価の試み一

第 4 章

「リードタイム短縮 J の会計的評価 一時間軸概念の重要性‑

第 1 節 は じ め に

TPSの導入において、会計上の観点、特に、伝統的な全部標準原価計算の考え方が、時 として、 TPSの考え方の対立項として働き、結果として TPSの導入・定着を妨げることも あるとしづ指摘は、従来からなされてきている1。)

この問題には、大きく 2つの観点が考えられる。どちらも TPSの代表的な現場改善手法 と対立するものである。ひとつめは、「リードタイム短縮」の観点である。 TPSはその生産 能率を計るにあたり、時間(=リードタイム)を重視するが、会計上の評価方法、特に利 益計算においては、時間軸での成果が必ずしも評価・測定されない、としづ問題がある。

これに関しては、むしろ、キャッシュ・フローとの関連や、投下資本に対する回収率を示 す、資本利益率を重視すべきである。

2点目は、「在庫低減」がもたらす会計上の影響である。在庫=資産とし1う定義では、在 庫低減が必ずしも財務状況の好転をもたらすとは見られない点、また、期末にっくりだめ し、在庫を増やすことで製造原価の一部を在庫(=棚卸資産)にも配賦するような、意図 的な売上原価引き下げ=利益操作を誘導する可能性、などの弊害が指摘されている。

本章では、以上2つの問題点のうち、「リードタイム短縮の会計的評価Jについて取り上 げ、その課題を検討した上で、「リードタイム短縮」がもたらす利益について、従来の諸説 もふまえ、その意義付けを行うことを目的とする。その際に、財務諸表における時間軸概

念適用の必要性、重要性の観点を意識する。また、特に、 TPSというシステム導入時に、

認識しておくべき、会計概念・会計処理上の留意点は何かとしづ問題意識を常にもって検 討をすすめる。なお、もう一方の課題である「在庫低減」については、次章で検討する。

ここで、リードタイムをはじめとする、製造現場における時間概念について、整理して おしなお、この概念は、実際には、企業ごと、現場ごとに異なった定義が存在するもの であり、一律のものではないことを、まず、指摘しておきたい。ここで定義するのは、あ

くまでも本稿で使用する場合の、概念定義である。

リードタイムとは、広義には、顧客の発注から納品までの全ての期間を指す。企業全体 の競争力を考える場合、本来は、このトータノレリードタイムで考えるべきである。しかし、

通常、製造現場でいわれる場合には、リードタイム=製造リードタイムを意味する。これ は、材料を投入してから、その工程あるいは工場から出荷するまでの時間のことであり、

狭義のリードタイムの定義であると考えることができる。本稿では、製造現場から生み出 された基本概念としてのTPSの本質を考察しているため、後者である、狭義のリードタイ ムを意図している。

また、 TPSの別の原則である「売れるものだけを製造する」が成立する場合には、製造 リードタイムは、限りなく、製造・販売リードタイムに近いものになるとみなすことが可 能である。本稿では、原則として、その前提にたっている。

リードタイムには、実際には、様々な時聞が含まれている。 トヨタにおけるリードタイ ムの定義の一例として、以下のようなものがある。

A:該当製品の生産指示情報の滞留時間

B:該当製品の材料仕掛から完成にいたるまでの時間(加工時間+停滞時間)

C:該当製品の完成品の最初のl個(台)ができてから、後工程が引き取る数の完成品が出 来あがるまでの時間(運搬回数×該当製品の生産タクト)

とすると、生産のリードタイム=A+BC で表わされる2)。 125 

これらの時間は、大きく、正味加工時間およびそれに伴う準備時間、付随時間と、それ 以外の、加工以外の時間、すなわち、停滞、運搬などの、いわゆる「ムダな時間」に分け ることができる。

TPSでは、この、製品に付加価値を付けない「ムダな時間」を、いかに取り除くかを工 夫するのである。その結果、材料が購入され、工程に投入されてから、製品として完成す るまで(さらに、それが出荷され、販売されるまで)の時間=リードタイム3)が短くなる。

もちろん、ムダな時間だけではなく、正味作業時間である加工時間もまた、改善努力によ り短縮が目指される。 TPSにおいて、「リ}ドタイム短縮Jは、非常に重要な改善目標であ り、また、改善指標とされるのである。

「リードタイム短縮」とは、「ムダな時間」あるいは「加工時間」の、いずれを短くして も、結果として短縮されるものではあるが、通常、 TPSの改善でいわれるリードタイム 短縮」は、対象となる時間の違いによって、大きく 2種類に分けられることに留意したい。

ひとつは、ムダな時間としての、停滞時間や運搬時間をなくす、あるいは短くすること を主眼とするものである。在庫として滞留している時聞がなくなればリードタイムは短く なるが、それは同時に「在庫低減」も実現する4)。ただし、そのために生産ロットを小さ くした場合、停滞時間は確かに減るが、逆に、運搬回数が増えるために運搬時間はむしろ 長くなる、という二項対立の関係が問題となる。この場合には、結果のバランスまで考慮 してロットサイズを決定する必要がある。また、ロットサイズが小さくなると、段取り回 数が増えるため、段取り時間の短縮が課題となってくるのである。また、そもそも運搬時 間を短くするような、レイアウト変更、工程変更も有効である。

もうひとつのリードタイム短縮」は、加工時間として「正味作業時間」に分類されて いる時間の中で、さらにムダな時間を見つけ、それをなくす、あるいは短くするものであ る。いわゆる「作業改善Jによる、サイクノレタイム短縮がこれにあたる。

通常、「リードタイム短縮Jによる効果の評価としづ場合には、前者を意図することが多 い。棚卸資産回転率向上の視点につながるのも、このケースである。しかし、実際の現場

改善では、作業そのものの見直しも、重要な課題として行われている。したがって、その 短縮効果の正しい評価もまた必要となる。そして、これは、操業度の問題に直結する。

リードタイム以外の時間概念についても定義しておく。まず、上述した、サイクルタイ ムについては、これも、 トヨタにおける定義の一例を挙げると、

サイクルタイムとは、作業者一人が、受け持ち工程を決められた作業順序で作業して一巡 するのに要する時聞をいう5)

ここで、サイクノレタイムとは、そもそも、その作業がサイクリック(繰返作業)である ことを前提とする。また、その流れは、作業者の動きを基本としている。したがって、サ イクルタイムとは、実際に「つくるのにかかる時間」ではあるが、必ずしも、そのために 使用する機械の加工時間と等しいものではない、ということに留意すべきである。

なお、会計上の操業度によく使われる、機械加工時間は、当該機械が実際に加工のため に稼働した時間のことである。もし、機械が加工している問、作業者がその前にずっとつ いて監視しており、しかも、それ以外の作業が全くない、とし1う条件であれば、サイクル タイムは機械加工時間に等しくなるが、実際の工程では、それはあり得ない。機械を止め て、作業者が付随作業を行うのが通常であり、また、機械と人の動きを組み合わせて、同 時に複数の機械を1人の作業者がみてし1く、いわゆる「多台持ち」が行われることも多い。

ここでは、サイクルタイムは、「実際にかかる時間」であるという部分のみを確認しておく。

サイクルタイムについては、上記の定義の他、製品1個当たりができるまでの時聞を指 す場合もある6)。この場合、作業者が一巡する聞に、製品1個がちょうどできあがれば、

その聞に矛盾は生じない。しかし、製造現場では、様々な人と機械の動きを組み合わせて こその工夫がなされているのであるから、この場合でも、人のサイクルタイムと製品サイ クノレタイムは、むしろ一致しないことが多い。いずれにせよ、計画時間ではなく、「実際に かかる(つくるのに、あるいは、その作業をするのに必要な)時間」という点には変わり

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がないことを指摘したい。

次に、タクトタイムについて、 トヨタの定義の一例でみると、

タクトタイムとは、部品1個又は、 1台分をどれだけの時間で、生産すべきかという時間 値をいう。タクトタイムは次の式から求める。

タクトタイム= (日当り稼働時間(定時)) /  (日当り必要数) 稼働時間は就業の定時間、可動率は 100%として算出する7)。

つまり、タクトタイムは、ひとつの製品を、現在の需要状況のもとで「どれだけの時間 でつくらなければならないか」という指標である。これは生産能力ではなく、あくまでも、

需要を元に発生する時間単位であり、外部要因によって変動するものである。

もうひとつ重要なのは、実際の現場で、タクトタイムが重要視される、その効用である。

複数の工程で、部品がつくられ、それらを組み立てて製品をつくるような場合では、タク トタイムは、各々の工程における「っくりの時間の指標」としての意味が大きい。つまり、

タクトタイムを、ひとつの工程に完結するものと考えるのではなく、全ての工程をつなぐ ために必要な指標として認識するのである。

各工程が同時に、できる限り速くつくるのではなく、あくまでも、全行程が必要に応じ て、ジャスト・イン・タイムでつくることを目指すというのがTPSの基本的考え方である。

これを「同期化」としづ。 TPSにおいて、非常に重視される点である。つまり、いわゆる

「っくりすぎのムダ」には、単なる量的なっくりすぎの他に、必要より早いタイミングで つくる、というムダも含まれるのである。これもまた、「在庫増大」につながる問題のある っくり方であることを、改めて指摘しておく。

なお、上記サイクルタイムとタクトタイムの定義は、あくまでも、 トヨタにおける一例 をもとにしたものである。たとえば、九州の半導体メーカーA社では、上記タクトタイム とほぼ同様の定義で、サイクルタイムという言葉を用いている8)。むしろ、タクトタイム

ドキュメント内 T P S   (トヨタ生産システム)と会計評価 (ページ 125-133)