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第 3 節 「パックフラッシュ・コスティング」の再評価
1 現代企業が直面する組織論的課題
終章
適正な企業業績評価の実現可能性に向けて
第 1節
適正な企業業績評価のために、会計が果たすべき役割
次に、双方向性とは少し概念が異なるが、個人(ミクロ)と組織(マクロ)という 軸で、組織内の構造的課題を考察する「ミクロ・マクロ・ループ1)Jという概念を取
り上げる。その定義は、以下の通りである。
l 個々の組織構成員(ミクロ)と組織全体(マクロ)の聞に脈絡をつける、あるいは、
関係性を作り出すメカニズムで、ある。
2 ミクロとマクロの聞に流れる情報に焦点を当てている。
3 ミクロとマクロの聞に流れる情報には、全体の雰囲気、各構成員の判断、価値観と いった観念的なものだけでなく、各構成員の行動に関する情報も含まれる。 2)
これは何も、 TPSにおいてだけの課題ではない。部分と全体、とし1う課題は、全ての組 織において、常に存在する。「ネットワーク構成員はこのミクロ・マクロ・ルーフ。を持って いて、各自が主体的に行動する中にも、そこには全体の雰囲気とか共通意識とかいうマク ロ情報を常に察知しながら自らの行動を調整するというメカニズ、ムがあることが、ネット ワークに脈絡がつくための必要条件 J3)なのである。
しかし、これをTPSの導入と定着という観点から考える時、以下に挙げる2種類の「ミ クロ・マクロ・ループ」の意味がはっきりしてくるのである。すなわち、 TPS定着のため の組織における意識変革の必要性は、以下のように語られる。
「トヨタにおいても TPSの実行のためには大変な意識改革が必要であったが、剛ループロ 論で言えば、組織業績のループを回そうとするとき、すなわち、 TPSを実行しようとする とき、組織文化・風土と呼ばれる、すでに組織に浸透している、「ものの見方」や「仕事の やり方」といった思考様式・行動様式が影響するため、その悪影響を排除するため組織文 化を変え、風土を変革する必要があったということである。そして、そのような変革のた めに、工場から原価計算を追い出し、さらに、財務業績による工場業績の測定・評価を否 定・排除した。それが、会計フリー・アプローチで、あった。 4)J
これは、「組織文化・風土をマクロとするミクロ・マクロ・ノレープ Jによるものである が、もうひとつ、「組織業績をマクロとするミクロ・マクロ・ループ」も存在する。それは さらに、「活動の総体(活動それ自体)をマクロとする側面と財務的業績をマクロとする側 面の両面を持つ必要があるが、・・・財務業績をマクロとするミクロ・マクロ・ループρは 会計システムによって提供される5)Jという視点となる。 TPS定着のために、当該企業の 組織全体での、これも、別の意味で双方向性の動きに関わる課題であるといえる。
さらに、あらゆる方向性を持って、各要素が複雑にからんでくるモデ、ルとして、いわゆ る複雑系モデルがある。これは、ちょうど生命における細胞それ自体が、個々に自律的に 働きながら、かっ、全体に有機的に関連している状態を指すモデ、ルで、ある6)。これは、ち ょうど、各工程が自律的に働きつつ、かつ、工場全体、あるいは、企業全体の全体最適を 考える必要性、という点において、 TPSの基本的概念と非常に整合性が高いものである。
いずれも、単なる一方向では解決しない、現代の複雑な組織課題を解決するためのヒン トとなりうる概念であるが、これを、 TPSにおける、現場の生産管理や現場改善の実態に あてはめて考えた場合、以下のような解釈ができる。
TPSとは、有形の「もの」ではなく、さらには、特定の技術ですらない。本稿で、繰り 返し述べてきたように、それは、非常に広範囲にわたり、しかも、特定するのが難しいく らい適用範囲の広いある種の「概念」である。そして、それは、適用される場所に応じて、
その適応範囲を伸縮させ得る、という点に大きな特徴を見出すことができる。
TPSが、特定の製造現場に導入、適用される場合、それは、当該製造ラインにおける生 産効率をあげることに貢献する。次に、その前後工程にTPSが拡大されると、それらの工 程全体の同期化をはかることによって、より広範囲で高次の生産性をあげることが可能に なる。さらに、時間的、空間的に前後に拡大されて、 TPSが適用されていく過程は、ちょ うど、部分最適から全体最適への移行に重なる。最終的には、原初の材料調達から、最終 顧客にまでいたる、サプライチェーン全体にわたっての有機的連動が達成されるところま
で、 TPS概念は拡大されねばならないし、また、それを可能とする原理を内包している。
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一方で、最も細かい要素作業単位での作業分析、改善にはじまり、もう一方で、サプラ イチェーン全体への意識にまで、通じる全体最適の思考を維持することは、非常に矛盾した 課題に同時に直面することでもある。実際に、個々の改善場面においては、これが、大き な利害対立をおこすことにもなり得る。しかし、これらの矛盾聞の連携という課題は、単 にTPSの導入という局面にとどまらない、実は、経営学全体における重要課題のひとつで ある。
そして、実は、 TPS概念の大きな特徴が、この、対立する2つの課題を、どちらかを選 ぶのではなく、常に、同時に解決しようとする点にある。第1章で述べてきたように、限 られた少ない資金で、少しでも多くの結果を得ょうとした、TPS成立期以来の根本思想は、
まさに、この対立する矛盾をし、かに解決するか、とし1う原点からはじまったからであるの。
それは、定型的にもとらえられる、「手段としての技術(スキル)J と、それらを包括し て、かつ、根底を支えるための「ものの考え方」から成っている。こういった広い概念で ある TPSは、生産システムとしての基盤を持ちながら、時には、その中にとどまらない、
企業経営全体への影響を与えるシステムであるといえる。
それらを支えるのが、企業組織を形成するもとであるところの、「人材」に帰するのであ る。図表64は、第l編、第2編で分析してきた、現場力としての TPSの2側面と、それ が形成する当該企業の「深層の競争力」、そして、それらが表面的に、目に見える形になっ てあらわれるところの、「表面の競争力」の構造をあらわした概念図である。一番深いとこ ろで、これらを支えるのが、企業の「人材育成力Jであり、それがすなわち、組織文化形 成の力なのである。そして、この組織文化形成にあたって、会計の果たす役割が、次に述 べる「ブリッジ・プリンシパノレ」であるということになる。
競争相手(他企業・業界)
l
深層の競争力
│ 現場力 l
図表64 企業競争力の構築と発揮 資料出所:筆者作成