第 3 章 特殊条件下における補助工法の設計と適用
3.4 特殊地山における補助工法の設計と適用
3.4.2 突発湧水地山におけるトンネルでの適用
(1) 概要
本トンネルでは特殊条件と言われるものの中で多量湧水を伴う未固結砂岩層における施工にお いて NATM の補助工法を駆使し,厳しい条件下での施工を行ったトンネルの施工事例(平山ト ンネル工事)に関してその設計と施工状況に関して以下に述べる.
(2) 適用トンネルの概要と特殊条件
本トンネルは,図-3.4.1に示すとおり,九州新幹線(鹿児島ルート)はJR九州鹿児島本線の 八代駅から分岐し,新水俣,出水(いずみ),川内(せんだい)を経て鹿児島に至る延長126.07km の新設路線であり,第3紫尾山トンネルは出水・川内間のほぼ中間に位置し,当区間の中では最 長となる延長約10kmの山岳トンネル工事であり,その内,北工区としては,始点側(出水側)
L=2,713mの区間の施工であった.
トンネルの工事概要はトンネル掘削が横坑L=50m,本坑L=2,713mをNATMで施工するも のであり,覆工,インバートも全線L=2,713m 施工した.なお,掘削方式は発破掘削を採用し た.
2) 地形・地質概要
第3紫尾山トンネルは紫尾山(標高1,067m)を最高地点とする標高500~600m級の地が連な る出水山地の西域を通過しており,地質的には,中央構造線の南側に位置し,図-3.4.2に示すよ うに四万十帯の中生代白亜紀の堆積岩を基盤とした砂岩・頁岩互層,および頁岩により構成され ていた.施工時の切羽状況では,全体的に岩片は堅硬であるものの,層理,節理の発達が著しく 亀裂中に大量の湧水を含んだ地山であった.とりわけ,今回報告する坑口より約1,500m付近に
おいては2t/minという大量湧水が発生しその対策には苦労を要した.
また,始点側坑口部に関しては,地形的に坑口位置が山裾の中腹に位置し,トンネル軸線が斜 面に斜交する斜面斜交型坑口となっており,近くには地すべり崩壊箇所が点在する状況であった.
さらに,追加地質調査結果からは,風化が進み,未固結な状態が観察されており,トンネル掘 削に伴う地すべりの発生が懸念されたため対策工(補助工法)の検討を実施した.
図-3.4.1 トンネル位置
3) トンネル施工に関連する特殊条件
本トンネルの掘削を行うにあたり,施工上支障となる特殊条件としては大量湧水を伴う未固結 砂岩層地山における対策(特殊地山条件)があげられるが,これらの特殊条件下での施工に関し ては,事前の調査結果や施工時の計測データ等の情報に基づき,施工時の現象の分析を行うとと もに,信頼性,施工性,経済性等の観点から適切な補助工法を選定すべく比較検討を実施した.
以下にこれらの施工時における対策工の設計ならびに施工状況に関して詳しく述べる.
(3) 大量湧水を伴う未固結砂岩層における施工
1) 大量湧水発生状況
トンネルの施工は横坑を用いて本坑へ掘り進んだが,地山状況が当初の想定より全体的に悪く 湧水も通常より多い状態であった.
地山劣化の著しい箇所では,図-3.4.3に示すように,内空変位が30~70mmを示し,部分的 に支保の変状を生じる状況であった.このような状況の中で,切羽の安定を確保する目的で,施 工においては地質確認を兼ねた先行水抜きボーリングを併用し前方地山を確認しながら,ロック ボルト増打ち,増し吹付けコンクリートや仮インバートといった補助工法を用いて掘削を進めて いた.
しかしながら,トンネルの掘削が坑口より約 1500m 進んだ時点において切羽上半左隅ふまえ より濁水を伴った2t/min(最大時8t/min)の突発湧水が発生し,約18m区間にわたり支保 が大きく変状し掘削の中断を余儀なくされた(写真-3.4.1).
図-3.4.3 変状部分計測結果(計測工 A)
-109.4mm
-369.3mm -92.6mm
切羽(上半、下半)
-400 -320 -240 -160 -80 0
6月17日 7月17日 8月16日 9月15日 10月15日 11月14日 12月14日 1月13日 2月12日 3月14日
変位(mm)
0 80 160 240 320 400
切羽位置(m)
天端 内空(上半)
内空(下半)
上半 下半
天 端
内 空 (上 半 )
内 空 (下 半 )
上半増ボルト
上半仮インバート
水抜きボーリング完了 ウレタン注入
追加水抜きボーリング完了
上半再仮インバート
下半先受注入 下半増ボルト
2) 湧水原因の解明
切羽記録と地質調査を兼ねた先行水抜きボーリングの結果から判断して,突発湧水および支保 変状の原因を列挙すると以下のとおりである.
①図-3.4.4に示すとおり,地質構造の分析よりトンネルと200m上方に位置する河川の間の砂 岩層に水みちが確認され,水質の分析から判断して湧水の供給源は上部河川と考えられた.
②トンネル周辺の地山が未固結で強度が低く(圧縮強度 qu=2.0Mpa(20kgf/cm2))掘削によ るゆるみの影響および作用水圧により現支保で支えきれなかった.
写真-3.4.1 突発湧水状況
図-3.4.4 地質構造の分析と水みち
3) 対策工の検討と施工 (a)大量湧水処理対策工
変状後の水抜きボーリング結果から,帯水層にはかなりの水が存在していることが想定され,
十分な水抜きを行わなければ,さらなる支保の変状を誘発しかねず,切羽状況によっては,大量 湧水とともに切羽崩落を引き起こす事態が懸念された.
したがって,十分な排水効果を図り,変状区間の縫返しのため水位を下半盤まで下げ作業性・
安全性を確保する目的で大口径ボーリング(φ500mm)併用の水抜導坑(2.0×2.0m)を計画し,
施工を行った.(図-3.4.5,写真-3.4.2)
この対策の結果,約5.0t/min程度の導水を行い,水抜ボーリングの水量および水圧を下げるこ とができた.
図-3.4.5 大量湧水対策工
写真-3.4.2 大量湧水対策工(大口径ボーリング)
(b)掘削時における対策工
湧水対策後,掘削を再開するにあたり,掘削区間の先行水抜ボーリングを併用するともに,水 圧が作用しても地山が安定するように,図-3.4.6に示す施工フローに従い,弱層部では補助工法 としてアーチの外周2mの範囲にシリカレジン(ウレタン注入)による地山改良を行いながら掘 削を進めた.また,帯水部分の掘削にあたっては,突発湧水による切羽崩壊にそなえ,5m 程度 のカバーロックを残した状態で鏡面の補強を行い,部分的には,変位収束の目的でロックボルト 増し打ち,仮インバート等の追加対策を行ったものの,大量を伴う未固結砂岩層を無事突破する 事ができた.
図-3.4.6 施工フロー図
(c)覆工の補強対策
NATMでは通常,覆工コンクリートには,力学的な機能を付加させず,変位収束後に施工す るため化粧巻としての取り扱いをすることが多い.
しかしながら,本トンネルの変状区間のように湧水が多く,地山強度が著しく低下した未固結 帯水地山における覆工については,地震の影響,水圧が作用,大きな土圧が作用する可能性が高 いため,力学的機能を持たせた覆工設計を行った.
補強方法は,鋼繊維補強コンクリート(SFRC)で計画し,混入率0.5%(40kg/m3)で施工を 行った.
(4) まとめ
特殊条件下(突発湧水,未固結地山)における施工について新工法の採用も含め適切な補助工 法の選定を行い,適用することで無事施工を完了できた.
NATMでは地山条件,施工条件に応じて様々な補助工法により対応が可能であるが,いかに効 果的な工法を選定できるかが施工を進める上で重要なポイントになると考える.
また,多量湧水地山では,トンネル完成後の復水により,トンネル覆工に変状が発生する可能 性がある.本トンネルのように維持管理を踏まえた覆工補強対策ということも重要となる.