第 5 章 山岳トンネルの合理的な維持管理
5.4 特殊条件下における合理的な維持管理システムの提案
特殊条件下におけるトンネルの設計,施工,維持管理においては,これまで述べた維持 管理と長寿命化のシナリオをふまえて考えると,イニシャルコスト(建設費)だけでなく,
建設後の維持管理費用まで含めた全体のライフサイクルコストを検討する必要がある.
図-5.4.1にトンネルの計画・設計・施工・維持管理の流れを示す.
ここでは,トンネルの寿命を大きく建設期,運用期に分類して以下に述べる.
建設期においては,特殊な地形,地質条件下でのトンネルの安定を確保するための対策 工(補助工法)の選定にあたっては,十分とはいえない事前調査を補完する目的で切羽位 置における前方地山の評価を実施することにより,効果の期待できる対策を選定する必要 がある.また,設計の段階から,建設後の維持管理を考慮したトンネルの構造(支保パタ ーン)や対策工を検討(予防保全)しておくことが重要である.
また,トンネル変状との関連するデータ(地山状況,破砕帯位置,計測データ等)と初 期点検による建設時の健全度データの保存が重要となる.
運用期に関しては,これまで述べたとおり,トンネルの重要性に配慮して,長寿命化の シナリオを策定し,要求性能確保に向けた維持管理フローに基づき,日常点検,定期点検,
および異常時の臨時点検を進めていく.点検においては,将来のトンネルの劣化予測に必 要な指標(具体的な数値)を選定することが重要である.
また,初期点検を含め,定期点検のデータが 2点以上そろった時点で劣化予測を実施し,
その結果に基づき,長寿命化のシナリオの実現に向けた対策工を立案していく.
ここでも,建設期同様,補修履歴といったデータを保存していくことが重要となる.
さらに,トンネル変状が発生した場合には,詳細調査を実施して,その調査結果にもと づき,耐久性評価を含めた要求性能に対する健全度の評価を行うとともに,劣化予測に基 づく維持管理フローの修正を行っていく.
運用期においても,建設期同様,変状の有無,変状部分の変化,補修履歴といったデー タを保存していくことが重要となる.
以上のサイクルを繰り返すなかで,劣化予測と実際の劣化度の比較と劣化予測手法への フィードバックによりアセットマネジメント技術の確立を図っていくことが重要である.
図-5.4.1 トンネルの計画・設計・施工・維持管理の流れ7) 新設トンネルLCC
日常・定期・異常時
・臨時点検 調査・設計
新設・施工
日常の維持管理
変状調査
健全度評価
次のシナリオへ
要求性能(耐久性評価含む)
要求性能(耐久性評価含む)
補修・補強の施工
改築 更新 廃棄
建設期
運用期 寿命
(耐用年数)
補修・補強で対応可能か?
NO
YES NO
①予防保全的な設計
・特殊な地形,地質条件下での維持管理 を考慮した構造・対策工を設計時に考慮
②維持管理と劣化予測
・劣化予測に必要な指標の選定
・アセットマネジメント的な考え方 の導入
・長寿命化のシナリオの構築
・要求性能確保に向けた管理フロー の策定
・劣化度の評価技術の向上
③マネジメント技術の確立
・調査および評価技術の向上
・劣化予測と健全度の比較とフィー ドバック
・維持管理技術のスパイラルアップ
5.4.2 今後の維持管理に向けた取り組み
トンネル構造物においては,温度,気候条件,交通量などの関係で劣化が進行するとは 言い難い面がある.例えば,舗装では交通量が支配的であるし,橋梁床版の疲労なども同 様である.また,トンネル構造物では,様々な原因が複合されることにより,1本のトン ネル内であっても対象箇所によって異なる健全度低下を示す場合がある.特殊な地山条件 として,断層や斜面クリープなどの影響で構造的な外力を受ける箇所では,健全度低下速 度が速く,またバラツキも大きくなることが想定される.逆に,50年程度以上経過しても,
全く健全である箇所も存在する.
さらに,トンネル構造物では,点検頻度が極端に少ないという特殊性を考慮した上で,
トンネルにおける維持管理の最適化といった観点から考えれば,点検間隔でコントロール する手法が現実的である.ライフサイクルコスト算定において,点検間隔を制御パラメー タとして追加することにより,全体的にゆるやかな低下傾向であれば点検間隔を拡大する ことができ,逆であれば縮小するという結論を求めることができる.
維持管理の実務においては,部分的に進行の速い箇所があれば,点検間隔を幾分縮小す るか,対象箇所のみ点検間隔を縮小するといった部分管理の概念を導入することも可能で ある.さらには,構造的変状が著しい箇所についてはモニタリングを追加して集中管理を 実施することも選択肢として挙げられる.以上のように,トンネルの維持管理においては,
経済的・効率的な意思決定を実現することが維持管理上最も重要となる.
4.4 節で述べたとおり,破砕帯,湧水地山,および膨張性地山といった時間依存性を有 する特殊地山条件下におけるトンネルの変状予測において,各種の劣化予測手法の有効性 を確認できた.
今後,確実に増加することが想定されるトンネル構造物(社会資本ストック)を長寿命 化させるための合理的な維持管理を実現する上で,建設・維持・補修・更新を含めた,ア セットマネジメント的な概念の導入が求められており,今後の劣化予測手法の確立が望ま れている.
金融や不動産の分野では,「資産の運用」という意味で用いられている.
すなわち,個人や法人の資産運用に伴うリスクとリターンをコントロールすることによ り,安定した収益を確保しようとする手法である.
一方,建設業界でも,公共性の高い土木構造物を国民の財産と考え,安全性や利用者満 足を確保しながら,いかに長期的な費用を低減するか,無駄のない維持管理を行うとする 考え方をアセットマネジメントと称している.
また,国土交通省では,「道路のアセットマネジメント」を「道路管理において,橋梁,
トンネル,舗装等を道路資産として捉え,その損傷・劣化を将来にわたり把握することに より最も費用対効果の高い維持管理を行う概念」と定義し,それを実現するためのマネジ メントシステムの構築を進めている.
このような社会情勢の中で,特に変状確率の高い特殊条件下でのトンネルにおける合理 的な維持管理を行うにあたり,現状の変状状態に応じた適切な補修・補強対策を施すこと は言うまでもないが,有効な変状予測解析や劣化予測手法を用いることにより,対策工の 効果や対策後のトンネルの寿命予測等も可能となる.
トンネルを含めた土木構造物は,様々な機能を果たすべく計画,設計され,種々の構造 物が,多くの材料を用いて建設されている.その規模も大きく,施工条件も複雑である.
その中で,地下に構築されるトンネル構造物は,橋梁等の明かり構造物と比較すると,
地山条件をはじめ,多くの不確実な要因によって異なった挙動を示すとともに,要求性能 や必要機能といったものも多様である.
今後のトンネルの維持管理においては,トンネルの主たる構造物である覆工コンクリー トの劣化に関して,予測手法の良否を議論することも必要であるが,まずは,現状レベル での予測手法を用いて劣化予測を実施していくことが重要であり,図-5.4.2に示すように,
将来得られる点検データに対して,次期の点検時に,現時点での予測結果が合っていたの かどうかの検証を行うとともに,合わなければ何が要因で合わなかったかを分析・評価し て劣化モデルにフィードバックすることにより,劣化モデルの改良を図るとともに,維持 管理の継続的改善を行うことで,より精度の高い劣化予測が可能となることが期待される.
対策記録の保管 維持管理計画
調査結果の評価分析 対策工の実施 点検・調査
維持管理の 継続的改善
・劣化予測の実施
・対策工の検討
Do Action
Check Plan
維持管理方針
図-5.4.2 山岳トンネルにおける合理的な維持管理の進め方